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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

武家女房破倫絵巻

2011年04月19日(Tue) 06:44:27

キリリと結った日本髪の下。
鶴のような気品を秘めた白いうなじを、意地強くそらした女は。
紅色もようもなまめかしい、武家の若妻の装束に身を包み、
帯にさした懐剣を、金襴の包もろともそっと引き抜いた。
悔しゅうございます。切のうございます。
羞じらう口許を、袂に隠し。
切なげに震わせる長い睫毛に、かすかな涙を秘めながら。
座り心地悪げに腰を落ち着けた褥のうえ。
女は帯を、解かれてゆく―――


庭先を視るでない。
斧寺悠之進は、父の訓えのままに、庭から目を逸らしつづけた。
庭先で犯されている母、琴の姿を視るまいとして。
半刻ほどまえ―――
父はまるで、昼餉の支度を命ずるように、淡々と。
母の琴を呼びたてた。
琴よ、琴。十造の相手をいたすがよい。
十造と呼ばれたのは。
当家に永年仕える、身分賤しい下人。
父の声に、応じるように。
へへっ!大奥様を、頂戴できますンで?
父とはさほど変わらぬ年配に見える、白髪交じりの小男は。
庭の片隅に、表向き神妙に控えながらも。
陽灼けした頬を、好色そうに赫(あか)らめた。
よい、許す。
着流しを端正に着こなした父は、そのままスッと座を起って。
息子の悠之進ひとりを居間に残して、立ち去ったのだ。
決して庭先に、目をやってはならぬ。父はいずちにおっても、そなたを視ておるぞ。
男の覚悟を強いる強い語気を、嗣子の耳の奥に吹き込んでいった。

紫の単(ひとえ)に身を包んだ母は。
畳のうえ正座する息子のまえに、懐剣をしずかに置くと。
しずしずと縁側へと歩みを進めて、つつましやかな白足袋を、沓脱ぎ石におろしていった。
雨上がりの庭先に、膝をついて。
着物のすそを、惜しげもなく濡らすと
庭先に控える十造のまえで、たったひと言、囁くように―――
ふつつかですが、おいつくしみあそばせ。
気丈な声色で、そう告げると。
きりりと結いあげた日本髪の下。
鶴のように気品高いうなじを、スッと伸ばしたまま。
武家の妻女たるものが決してゆだねてはならない淫慾の猿臂に、
われとわが身を、ゆだねていった。

落花狼藉―――
そう呼ぶべきであろうか。
十造はふだんの卑屈なまでの鄭重な物腰をかなぐり捨てて。
母を相手に、気を入れて。
汚してやろう。狂わせてやろう。
そう言わんばかりに、むやみやたらと、血からまかせに。
ぐりぐりと彫るほどに、腰を使っている。
母の身に着けた端正な着物のすそを、泥まみれになるほどに乱しながら。
着物の奥深くに秘めた白い肌を、惜しげもなく陽射しのなかに曝しながら。
縁側の上と庭先の隅の関係が、いっきょに隔たりを喪って。
どうだえ?えぇ?どうだえ?ええ心地じゃろ?え?え?
組み敷いた女に、返答を強いていた。
目もくらむような凌辱を受けながら。
端然として。顔色ひとつ変えない母を。
悠之進は不覚にも盗み見て、
袴のすそを、抑えながら。
羞ずべき昂ぶりを、必死にこらえていた。


妙どのをお連れして。御家老さまのもとに、あがります。
琴が父のまえ、頭を垂れたとき。
つややかな黒髪のなかのいくすじか、白いものが交るのを。
夫も息子も、いたわりを込めた目で、見取っている。
気をつけてゆくがよいぞ。
父がいつもの静かな声で座を起つ母を送り出すと。
ふすまの向こうから神妙に目線を落とす新妻の妙に、悠之進もまた、無言で頷いて見せた。
御家老に奪われた、初夜の床のうえ。
屈辱に耐え、噛みしめられた唇は。
いまは不義の褥のなか、嫣然とした笑みをたたえるという。

代々、御家老に捧げつづけた、女の操―――
それはいったい、いつからつづいているのかさえ、さだかではない。
少なくとも父は、母との初夜の床を、御家老に捧げ奉っていたし。
分家をなした叔父もまた、長年連れ添った妻女の操を、ためらいもなく奪わせたという。
その忌むべきしきたりを、初めて母に耳打ちされたのは。
御家老がとりもった妙との縁談が成立した夜のこと。

お気の毒とは、存じますが。
妙どのの操は、悠之進どのおひとりのものとはなりませぬ。

引き締まった頬を、いっそう引きつめて。
つとめて無表情に語る母の感情を逆立てまいとして。
初めて耳にすることどもを、悠之進はひと言洩らさず、聞き取っていった。

まずはそなたが、妙どのをお連れするのです。
御家老は悠之進どのおひとりを、帰らせようとなさいますが。
決して逆らうことなく、お随いなさいませ。
そのうえで。奥の間の庭先にまわって。
いちぶしじゅうを、見届けるのです。
何ごとが、起こりましょうとも。手出し妨げは、無用のこと。
こう申せば、御家老さまが妙どのになにをご所望なのか、御賢察になられましょうね?
かくいう母も、御家老さまに。
あの奥の間にあがるたびに、そのようにされてまいりました。
輿入れ前から、懸想されておりましたのですよ。
妙どのにはわたくしから、よく言い含めておきましょう。
気丈な妙どののこと、けなげにお勤めを果たされましょうほどに。
年端もいかぬころより、妙どののことは、妾もよく存じておりまする。
されど、いかに武家の女とはいえ、初めて喪う操に、涙することもあるのでしょう。
悠之進どのはけっして、深い穿鑿をなさいますな。
それは女にとって、もっとも酷なこと。
あくまでも武家の作法と御心得あれ。


庭先から洩れる、かすかな嗚咽―――
悠之進はみごとに、耐えきっていた。
長年顔を合わせつづけてきた下人の十造が、母を汚すところを目の当たりにすることで。
辱めに歓びを覚えるすべを体得したことを。
理性では忌みながらも。
感性では受け容れ始めてしまっていた。
袴が乱れておるぞ。
妙を家に帰して、帰宅すると。
父がさりげなく、目くばせをした。
鷲摑みにし続けたはかまには、昂ぶりのあとがありありと残されている。
袴を濡らしたようじゃな。早ぅ井戸で、洗ってくるがよい。
父もきっと、かつてそうしたのだろうと。
そしていまでも折々、そうし続けているのだろうと。
袴を洗う手に力を込めながら、悠之進は確信した。
人目を忍ぶようにして、御家老のお邸にあがる母を。
いままでも、それとは知らずに、しばしば目にしているのだから。


悠之進どの、これを―――
御家老と二人きりになった、御用部屋のなか。
禿げかかった髪をかろうじて髷に結った御家老は。
いつもの律儀そうな面ざしのまま。
改まった口調になって。
このたびはご婚儀のこと、お祝い申し上げる。
上座を起って、悠之進のまえに手を突いて。
慇懃鄭重な会釈を送ってきた。
だれにたいしても、迂遠なほどに寛容で。
物腰柔らかく、だれをも傷つけまいとする配慮を忘れぬこの善政の体現者は。
裏ではひとの妻女を汚すことで、かろうじて心の均衡を保っている―――
それを知るのは、己と父のみ。
御家老は懐から、丁寧に折りたたんだ白足袋を取出すと。
おし戴くようにして、悠之進に手渡した。
妙どののお忘れものじゃ。
そういえば。
初めて操を汚した妙どのは。
足袋を着けずに沓を穿いていた。
かたじけない、の―――
紅い目をしてしばたたかれた御家老の目には、実が込められている。
夕餉の席。
今朝の御家老の目は、紅う御座いました。
母が座をはずしたとき、父にそう告げると。
なに、女ひでりであられるのだろうよ。
父は悠然と、懐から書き付けを取出した。
「琴どの、明日辰の刻」
とだけ、かかれていた。
御役目柄見慣れた、御家老の蹟(て)であった。
そなたはなんと、お応えしたのじゃ。
父の問いに、ためらないながら。
折々お導きくださいますように そう申し上げました。
父は黙っていたが。
穏やかにたたえられた笑みは、息子の応対を是としているようだった。


妻を寝取られるなどということは、武士にあるまじきこと。
されどそこまで許すということは、最上の礼節にも通じるのだと。
悠之進は、すでに体得しきっている。
妙どのも、懸想をされたのですね。
桜見物で若夫婦を祝いたいという御家老の誘いに、妙を伴って出かけるとき。
悠之進は母に、白い歯をみせる。
御屋敷のお庭の桜。綺麗でしょうねぇ―――
母は遠いものを見遣るような目で、ほほ笑んだ。
妾が若い時分ですから、もう大昔のことですが。
お父上とごいっしょに、御家老さまに春を祝っていただいたのですよ。
桜と泥が、晴れ着のあちこちについて、あちらで召し物を着替えて戻ったものでした。
妙どのにもきっと、新しいお召し物を頂戴できますよ。
御家老さまは、それは長くて激しゅうございますものね。
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コメント

>拍手コメントを頂戴した匿名さま
御返事が遅れ、大変ご無礼いたしました。

弊ブログのほとんど全編に目を通して下さったとのこと、まずは篤く御礼申し上げます。
そのなかでもこのお話が最もおめがねにかなったとのお申し越し、
琴殿も妙殿も、さぞや晴れがましく感じていることかと存じます。

ご指摘の通り、当ブログにおいて和ものはほとんどございません。
お目に留まった「おりく」のほかには、初期作品である「千人の兵隊」くらいかと思います。
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-215.html

和ものは評判があまりよろしくなく、描く熱意をあまり持ち得ませんでしたが、すこし認識を改められた気分がいたします。
ご芳志にかなうものが描けるかどうかはわかりませんが、心がけてみたいと存じます。

過分のお言葉、ありがとうございました。
by 柏木
URL
2013-04-20 土 22:12:49
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