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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

慰問団の人妻

2011年04月19日(Tue) 07:41:34

白一色の着衣に、ストッキングも白。
それが久美子たち慰問団に要求された服装だった。
慰問先は吸血鬼のいる村で、慰問の内容は血液の提供。
そんなおどろおどろしい内容の仕事を、久美子が希望したのは。
その村に出張で出かけた夫の初夫が、毒牙にかかりながらも幸い生きて戻ったことからだった。

集められた女性たちは、だれもが白一色の衣装。
陽の光に目映い彼女たちの姿を、家族たちはいちように、手を合わせる想いで見送っていた。
家族を同伴すると、その場で貞操まで要求されてしまう。
そんなまことしやかなうわさから、さいしょの訪問には同行しようとする家族はいなかったのだ。

薄暗く照明を落とした、広い病室に、一列に並んだベッド。
そのうえに、彼女たちはひとりひとり、腹ばいをさせられた。
ふくらはぎから吸血されるという説明に、だれかがひっそりと、ため息を漏らしていた。
ベッドの真上を横切るカーテンレールから垂れさがるカーテンは、
女たちの身許を明らかにさせないために、供血者の足許にうずくまるであろう彼らから、上半身の視界を遮っていた。

久美子が寝かされたのは、入口からみていちばん奥から三番目のベッドだった。
ふっかりとした布団のうえ。
居心地悪そうに身をすくめた久美子は、シーツを通して反響してくる心臓の鼓動に、かすかな慄(ふる)えをおぼえていた。
無言の行列が、病室の奥まで達して。
おそらく表情まで消しているのだろう。
訥々とした先導者の注意だけが、吸血鬼たちと女性たちの鼓膜を、通り過ぎていった。

吸血のために許された時間は、三十分。
制限時間になったら即座に、退去の号令がかかるので、厳守すること。
時間内であっても、供血者の生命に危険が生じる量を摂取することは、厳禁。
カーテンをはぐって、相手の身許をさぐることも、厳禁。
供血者は苦痛を感じた際には、枕元のブザーを押して係員を呼ぶことができる。その場合吸血行為は、無条件に中止される。
やけに窮屈ね。
血を吸われる側の久美子がひそかに同情を覚えるほど、注意の内容は微に入り細を穿っていた。

吸血鬼がそろそろと、足許にかがみこんでくる。
どんな相手なのだか、無表情に白いカーテンの向こう側は、いっさいの想像力を遮断している。
久美子は本能的に、脚をすくめて身構えた。
足首がつかまれ、薄手のストッキングがかすかによじれる。
ためらいながらの所作が急になったのは、そこからだった。
もうたまりかねた、というように、ふくらはぎに唇が吸いつけられたのだ。
夫の血を吸ったやつと、同じひとかも・・・
ありえなくはない直感に、久美子は慄えた。
ストッキングごし這わされる唇は、かさかさと干からびていた。
上下になぞるように、ゆっくりと。
かさかさの唇は、うるおいを求めてゆく。
いつ噛まれるか。いつ痛みが身体を痺れさせるのか。
そんなドキドキの、一瞬、二瞬。
けれども相手の男は、なかなか久美子の脚に噛みつこうとしなかった。
しばしのあいだ、しつようないたぶりが、ストッキングのうえから加えられたのだった。

あの。
不用意にあげた声に、久美子はしまったと思ったけれど。
自分でも不思議なくらい、よどみなくつづけていった。
お時間、限られていますのよ。そろそろ召しあがらなくても、だいじょうぶなのですか?
周りからはさかんに、ちゅうちゅう、キュウキュウと、生き血を吸いあげる不気味な音に満ちている。
女性の側からの問いかけは、自由とされていた。

男はなおも、無言だった。
かさかさだった唇は、いつか唾液を帯びて来て。
なよなよとした薄手のナイロンを、じっとりと濡らし始めていた。
久美子の穿いているストッキングがねじれてしまうほど、くまなくよだれをしみ込ませてから。
男はおもむろに、牙を突き立てる。
ふくらはぎのいちばん肉づきの佳い、柔らかそうなあたりに だった。
久美子は歯を食いしばり、枕にしがみつくようにして、初めての痛みに耐えた。
ちゅうっ・・・
耳の奥に残る、さいしょの吸血の音は。
長く彼女の記憶に残った。

ちゅうちゅう・・・
キュウキュウ・・・
ごくり。
周囲からあがる、耳ざわりだった吸血の音が。
すっかり久美子のなかで、違和感のないものになっている。
ぱりぱりと他愛なく裂けてしまった白のストッキングが、まだ足許に残っていて。
素足同然になるまで食い剥かれた脚は、淡いナイロンの緩やかな束縛のなかから抜け出して、
しなやかな素肌が、飢えた唇に、じかにあてがわれてしまっていた。
男はきょうのパートナーを、慕うようにして。
幾度も唇での愛撫をくり返したが、
ルールを守って、とうとう彼女の上半身には、いちども手をかけようとはしなかった。
おそらく、こういう場に慣れているのであろう。
せめてもの慰みにと、噛みつく前にたっぷりと、女の装いを辱めて愉しんだのにちがいない。
ほぼ的確な推測だったのに、久美子は男の行為を忌もうという気分になれなかった。
吸血鬼の毒に、冒されてしまったのだろうか。
そういえば村から戻った夫もまた、自分の血を吸ったものたちについて、いっさい非難がましいことを口にしなかった。
久美子が帰宅すると、夫は彼女を優しくねぎらい、冷えかけた身体をいたわるように、暖かいバスタオル、そして抱擁で包んでくれた。
久しぶりの夫婦らしいひと刻に久美子は陶酔し、じぶんの身体が日常を離れて女に戻ってゆくのを実感した。
次回の募集にも応じるつもりだと告げても、夫も彼女の言に異論を唱えようとはしなかった。

吸血鬼と人間とが平和裏に共存するために、つくられた関係。
人間はいくたりかの人身御供を提供し、吸血鬼どもは生命の保証と引き替えに、提供された供血者たちに群がってゆく。
見返りに与えられるのは、村に直行するマイクロバスと、迷惑料と称して支給される、少額のお金。
脚を吸われることから必然的に汚損されるストッキング代に、おつりがくるていどのものだった。
生き血を吸われることに対しては、なんらの対価も払われない。
金のために売るようで、あまり高額な対価はいただけない。
送り出す夫の側には、そう口にして。
自分の妻に身売りさせるようなことをいさぎよしとしないものが、多かった。
痛い思いをするだけの、そんな無償の行為に対してリピーターが多いのは、不思議といえば不思議だったが、
久美子自身がなんらの違和感なく、第二次の献血訪問に応じてしまっていた。

おなじかたですね?
こんどは病室の中央のベッドだったのに。
ストッキング越し這わされた唇のしつようさに、久美子はつい、声をあげてしまっていた。
ええ、どうやらそのようですね。
顔を見なくても、わかるのですか?
ええ、脚の格好とか、なんとなくの雰囲気でね。でも選り好みは本来、禁じられているんです。
若いひとにばかり、人気がいってしまうからですか。
そうとばかりは、いえませんね。
吸血鬼の言い草に、久美子はかすかな同意をおぼえた。

帰りのバスを待つあいだ。
供血者が希望すれば、自分の血を吸った相手と顔を合わせることができるのだが。
前回の帰り道。
自分の母親ほどのおばあちゃんが、自ら面会を求めていって。
母子ほども齢の離れている若い吸血鬼あいてに、ころころと笑いこけながら。
帰り道のために脚を通した肌色のストッキングを、噛み破らせてやっていた。
主人になんて、言い訳しようかしら?って、いいながら。
自分の生き血が、若い吸血鬼を魅了したことを、無邪気なまでに誇っていたのだ。
さすがに久美子にはまだ、そこまでする度胸はない。

痛くはないですか?
吸血鬼が声をひそめて、気遣う。
おなじようなやり取りが、隣でも、奥からも、囁かれているらしい。
つぶさに内容までは、聞き取れないまでも。
互いに気遣っているらしい雰囲気が、語調のはしばしから窺えた。
いいえ。
久美子は枕のうえ、かぶりを振る。
むしろ、キモチいいみたい。
くすっと笑うゆとりができたのは、相手の紳士的な声色のせいばかりではなかった。
足許からしみ込まされた毒液は、
噛まれることによる苦痛を、甘美なものへと変えていた。
遠慮なさってる?ストッキング、もっと破いてもよろしいんですよ。
久美子はわざと、つま先までピンと伸ばして、しなやかな履き心地のするナイロンストッキングを破くよう、相手にすすめていた。

つぎに来るときは、入口から三番目のベッドに寝ますね。
でも、お気づかいなく。もっと若いひともいらっしゃるみたいですから。
ほかのかたの血をお愉しみになりたいようでしたら、
どうぞご遠慮なく、べつのかたを選んでくださいね。
そういったはずなのに。
三度目の訪問で、久美子がふくらはぎに感じたのは。
やはりおなじ相手の唇だった。
月をまたがずに三度にもなる供血が効いているのか、男の唇はうるおいを帯びていて、柔らかだった。

ストッキングをイタズラされても、お叱りにならないのですね。
厭ならはじめから、応募などいたしませんわ。
どういうかたなのですか?
夫がこの地にお邪魔したのです。でも、生きて帰していただけたのです。
そうですか。まぁ、ここの住人はみだりに人をあやめませんからね。
男はよどみなく、久美子のやり取りに興じながら。
血を吸い取るやり口も、手を緩めようとはしなかった。
貪婪なまでにむさぼられた足許からは。
いままで以上にグッと薄い白のストッキングは、みるみるうちに剥ぎ堕とされている。
カーテン、開けて。
久美子はうめくように、囁いていた。

カーテンを開ける、ということは。自分の身許をあきらかにするということ。
村と都会の距離的な隔たりが、彼女の気持ちを軽くしたのだろうか。
どうやらそれだけではない。
吸血鬼が初手からみせた、親近感に。
いつか彼女も知らず知らず、応えはじめるようになっていた。
やっぱりお若いかたなのですね。
白髪をふさふさとさせた、老吸血鬼の面ざしには、想像したとおりのしみ通るような温和な笑みがあった。
思ったより齢を召しているような・・・
久美子は初対面のそんな感想を、ひそかに胸の奥へとしまい込んだ。
お齢を召していらっしゃるようにみえるのは・・・血の差し上げ方が足りないからだわ。
首筋からも、どうぞ。
久美子の口許からそんなことばが、ごくしぜんに洩れていた。
男が、いなやを言うはずはない。
くちゅっ。
なま温かいよだれがはぜた、白のブラウスの襟首に。
ぬくもりを帯びたバラ色のしずくが、つつっと撥ねた。

寄って行かれますか?
先導者が意味ありげな微笑を湛えながら、バス乗り場間近の古びた家屋を指差した。
なん人かの参加者が、すでに家屋のなかにいた。
人妻や、婚約者のいる女性も、そのなかにいたはずなのに。
パーテーションだけで区切られているという薄暗い大部屋から洩れて来る声は、
ただならぬ色香を、秘めている。
夫にわるいですから・・・
ほほ笑む久美子に、先導者も、老吸血鬼も、物足りないほど無理強いをしなかった。
代りにもう一足、履いてあげますね。黒はお嫌いかしら?
息を詰めて見守る男たちのまえ。
久美子は素足だった脚を、ピンと伸ばして。
なまめかしく、彩っていった。
次回もぜひ、いらしてください。
貴女がいらっしゃらないのであれば、私も参加を取りやめますから。
老吸血鬼の声色には、真実味がこもっていた。
ゆっくりと頷いた人妻は、妖しいまでに裂き散らされた黒のストッキングに彩られた足許を、まるで自分の脚ではないかのように、満足そうに見おろしていた。

なん回めかの供血ツアーに、見送りに来た夫の初夫が、めずらしく余所行きのなりをしている。
どうしたの?
見咎める妻にたいして、こともなげに。
いっしょについていくよ。お相手の吸血鬼氏にも、ごあいさつを言いたいからね。
え、だって・・・
言いさした久美子は、つぎのことばを飲み込んだ。
夫はなにもかも、知っているはず。わたし以上に・・・
血を吸われて戻ってきた夫はきっと、助命と引き替えに、都会妻のうら若い生き血を約束したのだろう。
売られた・・・という感覚は、もはや久美子にはなかった。
行きましょう。
吸血鬼に選ばれた女は、ゆとりをたたえた笑みを浮かべながら、夫の掌を握りしめる。
わたし・・・あなた以外の男性を、識ってしまうのよ。
妻の囁きに夫は、ゆっくりと頷いて。囁き返している。
いままでひとりを守ってくれたことに、感謝しているよ。―――わたしも彼も。
やはりあの老吸血鬼は、夫の生き血を餌食にした本人なのだ。
久美子は初めて、確信した。
夫婦で仲良く、しましょうね。あのかたと―――
賢明な妻は夫のプライドを矯めるように、行く先で強要される行為を、柔らかな言葉でくるんでいった。
妻と同行をした夫は、供血の相手に要求されるまま、妻の貞操をもねだり取られてしまう。
そんなルールを、彼が知らないはずはなかったのだから。

うぅん。・・ううん・・・
隣のベッドのうえ、ロープをぐるぐる巻きにされて転がされた初夫は、声を洩らして呻吟している。
なにしろすぐ横のベッドでは。
妻の久美子が男にねだられるまま、ブラウスの釦をはずし、おっぱいをあらわにしてしまっているのだから。
むしり取られたブラジャーは。
夫のほうへと、投げられて。
断たれたストラップが長々と、初夫の肩先に垂れていた。
はらませてしまうかもしれないよ。
男がイタズラっぽく、初夫をうかがうと。
夫婦はお互いを見やりながら、やや不揃いに声を合わせて。
どうぞ・・・
口々に、応じてゆく。
十年連れ添って子供がいないのは、わたしに原因があるのですから。
無精子症と診断された夫は、ほんとうは子供がほしかったらしい。
柔らかな襞の奥深く突き立った、淫らな肉の牙に、潔い処を踏みしだかれながら。
久美子は体内に注ぎこまれる粘液の熱さに、すべてを忘れて口走っていた。
もっと・・・もっとォ・・・
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