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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

百貨店の女

2011年04月19日(Tue) 07:56:37

ばりっとした濃紺のスーツに、白い首周りには真っ赤なチョーカー。
つばのついた紺の帽子にも、赤い帯。
田舎の百貨店のユニフォームは、どこか垢抜けなくて、芝居がかっていた。
赤い頬っぺの受付嬢は、店頭のカウンタで声かけてきた黒マントの男の正体をすぐに察して。
支配人に呼ばれて持ち場を離れた事務所には、小股で駈けるようにして入ってきた。
ぴかぴかの緑のパンプスの音を、軽やかに響かせて。

お手柔らかにね。初めての子なんだから。
窓のほうを向いた支配人は、煙草の煙をくゆらせて。
肌色のストッキングを穿いた女の子の足許に、黒マントの客人がかがみ込むところから目線をはずす。
あっ、厭だ・・・
はずんだ女の子の声を、かいくぐるようにして。
ふくらはぎに這わされる唇が、ちゅうっ・・・と唾液をはぜる音。
きゃっ。
女の子は一瞬で、気絶していた。

手加減しろって、いったのにさ・・・
支配人は眉間に縦しわ寄せて、悪友を咎めた。
あくまでおだやかで、柔らかな口調を乱さずに。
血はやっぱり、田舎の子に限るよ。
ぬけぬけと抜かす吸血鬼をまえに、
ぜいたく者が・・・
吐き捨てるように、そっぽを向いた。
田舎の娘のストッキングは、たまらんな。もう少し、愉しませてもらうぜ。
男は支配人の言葉も待たず、ストッキングに裂け目を走らせた内ももとは反対側を、べろでなぞりはじめている。

だいじょうぶなのか?
うっそりとしたかんじの、その青年は。
百貨店のユニフォームを着替えたアケミの肩を抱こうとした。
えっ、どうってことないよ?
伸びてきた猿臂を素早くさりげなくよけながら、アケミはあっけらかんとのたまわった。
でも・・・痛いんだろ?
痺れる感じ・・・かな?
うっとりした・・・っていうのか?
う~ん・・・だったら、どうするぅ?
女は思わせぶりに、目線を夢見心地に流していった。
黒のタイツに履き替えた足取りに、緑のパンプスの響きが後追いしていく。
肩から提げたこげ茶のショルダーバックが、ゆらゆらと。
女の黒髪とおなじくらい思わせぶりに、揺れていた。

タケジは、高校のころからの同級生。
おなじ街に育った彼は、この街の翳の支配者のことを親から聞き知っていて。
時折りふらりと訪れる吸血鬼に、じぶんの恋人が生き血を飲み水代わりにされるのを、
仕方ないとは思っていた。
誘われた・・・って、きくたびに。
かすかな胸の疼きを、毒々しく感じることはあったけれど。

それでー。考えてくれた?・・・あたしのお嫁入りのこと。
うぅん。
タケジはちょっとのあいだ、口ごもる。
地元の高校生が就職先のことを口にするような言葉つきで、アケミが口にした「お嫁入り」とは。
数年後に予定された、ふたりの祝言のことでは、むろんない。
この秋にもと望まれている、きょうの客人との御縁結びにつながることだった。
街で育った娘のなかで、美人ばかりが選ばれて。
吸血鬼のお嫁にされる。
タケジの母も。アケミの叔母も。
おなじ吸血鬼の花嫁になっていた。
村の娘のだれもが例外なく迎える、吸血鬼。
たいがいが。
夜這いで済まされるのを。
選ばれた美人たちだけは、お嫁入りの形式を取る。
そんな風習に子供のころから慣れてきたタケジは、齢の離れた姉の“お嫁入り”のときですら、
お祭りに行くときみたいに、はしゃぎながら。
姉が吸血鬼とふたりきりでこもった家の離れの前庭で。
兄になるひとに、コマ遊びをせがんだものだった。

こんどはうちのタダヒコと、貴方がコマ遊びするんだね。
兄さんとコマ遊びをした話、アケミはだれからきいたのだろう?
兄嫁が初めて犯されたあの日のように。
こんどは立場が入れ替わりになって、
俺と彼女の弟とが、コマ遊びをするのだろうか。
そういえばあのとき、ヒロオ義兄さんは、得意だったはずののコマの手元を、狂わせっぱなしだったっけ。
俺、コマのやり方なんかもう、憶えちゃいないよ。
タケジはぷっとふくれて、そっぽを向いた。

いよいよその日。
まだ小学生のタダヒコにも、家のなかのただならぬ気配を感じ取ったらしい。
こいつまでコマをもつ手が、震えてやがる。
自分のコマがちっとも回らないで、すぐに地べたに意気地なく転がるのをよそに、
タダ坊のコマがすぐにへりを地面につけてしまうのが、ひどく気になっていた。
こういうときは、俺が負けなきゃいけないんだけどな・・・
とつぜん手からコマを取り落としたタケジを、タダヒコはふしんそうに見あげた。
タケジ兄さん、どうしたの?
障子の向こうから洩れたかすかな声を、稚ない義弟は聞き洩らしたらしかった。
吸血鬼に初めて女にされた許嫁は、そのつぎの日も紺の制服に身を包んで、百貨店の看板娘を演じていた。
赤いチョーカーの下、紅くつけられた痕跡を秘めながら。

十年後。
ひと昔を経ていっそう古みを増した障子のまえ。
青年になったタダヒコあいてに、タケジは数年ぶりに、コマ回しをやっている。
タダヒコのコマ遊びの相手、貴方お願いできるかな?
もうじき結婚十年になる妻のアケミは、あっけらかんとそういった。
あいつも未来の花嫁の初体験で、ジリジリしたいみたいなの。
たくまぬ言葉に、秘められた意味に。
タケジのほうが、どきりとしていた。
かつてツヤツヤと透きとおっていた血色のよい頬は、肌の滑らかさをいっそう輝かせて。
あのときとは別人みたいな、大人の色香を漂わせていることを。
本人はどれほど、気づいているのだろう?

しくじったはずみにすっ飛んだコマが、離れの縁側に跳ね返った。
アッ、いけねぇ・・・
タダヒコは頭を掻き掻き、コマを拾って。
拾いついでに障子ごしに耳を近寄せどきりと顔色をかえたのを。
大人になったタケジは、見ないふりをしていた。

新婦が白無垢のすそを紅く染めたすぐ隣室に。
古びた緑のパンプスが、ちょこんと置かれている。
パンプスのなかには、脱がされた肌色のストッキングが、ふやけたようになって押し込められている。
障子ごしにかすかに洩れる、うめき声の主は。
いまごろムチムチと熟れた生足を、ばたつかせているのだろうか?
とざされた障子のむこう。
気品を脱ぎ捨てた女がかつての情夫と睦んでいるのを、タケジはうっそりとした昂ぶりを込めた瞳で、見とおそうとした。
果てのないほど澄みとおった、蒼い空の下。
密室のなかで裸体をさらけ出す女たちに、夫や未来の花婿は昂ぶりをひた隠して、コマ遊びに興じている。
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