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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

・・・息子だ。

2011年07月15日(Fri) 16:02:13

しばらく顔を合わせていなかった兄が、息子を伴なってやってくるという。
めったに会わない人間のためにわざわざ日を空けて相手を待つのは、たまらなく苦痛だったのだが。
ほかならぬ兄であってみれば、むげに断ることもできなかった。
電話越しに聞こえる兄の声色や、その背後からなんとなく感じる一種重苦しい雰囲気は、
口実を作って婉曲に断るなどとうていできないものを感じさせたから。

遠い街に住む兄は、近くの街のホテルで一泊してからくるという。
朝いちででかけても、なおかつ中途で電車がなくなるほど遠いものなのか?
しかし兄は車でやってきた。
錠を開けた鉄扉をギイィ・・・と押し開いた兄は、濃紺の制服姿の子を促して、玄関へと向かう。
出迎えるのもおっくうだったので、鳴らされたインターホンにはただ「中へどうぞ」と答えただけ。
真っ黒なガウンをたいぎそうに羽織って起きあがったとき、
狭い自室の木の扉を、表からだれかがノックした。
いるかね?
久しぶりに耳にする、兄の声だった。

その子は整った目鼻立ちに感情を消して、白い壁にもたれかかっている。
父親に座りなさいとなんどか促されたのさえ、聞こえていないようだった。
息子さん・・・だよな?
さすがに戸惑いの声で囁くと。
・・・息子だ。
兄は気まずそうに、そう応えた。
たしかに。
甥という関係のその少年の顔をさいごにみたのは、もうなん年も前だった。
そのころはたしかにひとり息子だったから、同じくらいの年かっこうの子がもうひとりいるとは思われない。
けれども白壁にもたれかかるその子は、まぎれもなく少女だった。

純白のブラウスに、濃紺のリボン。おなじ色のセーター。
プリーツがきりりと整ったスカートの下、黒のストッキングに、白い脛がかすかに透けている。
この子はね、女の子になりたがっているんだ。
兄はわざとのように息子から視線を外して、こちらに目を向けた。

孝夫という、ちゃんとした男の子の名前があるんだけどね。
わたしも妻も、仕事から抜けられないでいるうちに。
広い部屋に自分の隠れ場所を作って、こんな趣味に耽っていたらしい。
兄はひとごとのように淡々と、語りはじめた。
息子の趣味を、母親はとうてい容認しなかった。
どうしても趣味を捨てないという息子に、彼女は出ていけと言った。
いっそ・・・あの弟さんにあずけちゃったら?
この家は娘に婿を取って継がせればいいでしょう と。
淡いピンクのルージュを刷いた形の良い薄い唇が、そんな冷酷な言葉を吐いたという。
彼女は義弟の正体を、よく心得ていた。

吸血鬼の遺伝子を伝える家系の血が、兄を人間に、弟を吸血鬼にした。
世間から隔離された弟は、家族や親せき、訳知りの知人たちの血で養われ、
やがて独り立ちをすると、一家とははなれた土地で暮らすようになった。
生まれ育った家を去る直前、当時新婚だった兄嫁を、血に飢えた弟はいちどだけ襲ったのだった。
厳しい家庭に育った兄嫁は、義弟の秘密を守ることは約束したものの、
二夫にまみえるつもりはないとつよく主張、そのために彼は、土地を去らなければならなかった。
あの怜悧な血潮の味をこよなく愛しはしたものの、義姉に対する未練はもうなかった。
兄夫婦のあいだにひとり息子が生まれたのは、それからしばらくしてのことだった。
いちどだけ顔を合わせた少年時代の甥は、義姉ゆずりの整った顔立ちに、兄の優しさを秘めた子だと彼には映ったけれど。
―――二度と来ないでくださいね。
義姉はあくまで冷たく、かれの帰郷の望みを断ったのだった。

秀麗な横顔に、どこか寂しさがある。
ひとの感情を読むことに長けた吸血鬼は、値踏みをするような目つきで女装の少年を見つめ、
たえず吸血の危険にさらされる息子の日常を想いやった父親は、そういう弟を複雑な想いで窺っている。
こっちへいらっしゃい。
小声で呼びかけると、少年は案外従順に、もたれかかった白壁から背中をはなし、こちれに足を運んできた。
楚々とした足取りさえもが、少女らしかった。
香菜子です。よろしく。
少年があえて口にしたのは、女の子としての自身の名前らしい。
よそよそしく澄んだ、ぶっきら棒な声は。
悪意からではなくて、人とのかかわりを苦手とする不器用な性格からくるものだった。
じゃ、兄さん。この子預かるから。
即座に気持ちを決めて兄をふり返ると、兄は「頼む」というように、頭を下げた。

物陰に弟だけを呼んで、
―――生命だけは、獲ってくれるな
こんこんとそう諭されたのは、無理もないだろう。
父親の車のエンジン音が遠ざかってゆくのをまるで無視して、制服姿の少年、いや少女は所在なげに、辺りを見回している。
がらんどうな白壁の部屋。
この部屋に、少年の身の回りのものが、あしたにもとどくことだろう。
わかっているね・・・?
自分の境遇を説明するのに多くの言葉を費やしたくなくて、ただひと言そういうと。
孝夫、いや香菜子は、じぶんのほうからこちらへと歩みを進めてくる。

自宅からは男の子のかっこうで送り出された”彼”は、
此処を訪れるためにホテルを出るときに、女の子の制服に着替えるといって譲らなかったという。
ボクは女の子として、暮らしたいから。
初対面から、制服着るんだから。
そういう彼の意を汲んで、もしかすると兄は、途中で宿を取ったのかもしれない。
叔父さん、血を吸うんだよね?パパから聞いたよ。
ボクはずっと、女の子でいるんだから。
それさえ許してくれれば、血をあげてもいいからね。
服が汚れたら・・・新しいのを買ってくれればいいから。
暗に。
持ち主の血を撥ねかせながら吸血する嗜好すらも、受け容れようといっているかのようだった。

ちゅっ・・・
か細い両肩を、ギュッと抱きすくめて。
うなじの辺りに、はじめて忍ばせた唇に。
さすがに”彼”はちょっとだけ、ためらいをみせたものの。
いちど、柔らかな皮膚に唇を這わせてしまうと、もうそれ以上抗いを見せようとはしなかった。
床におひざをついたらね。ストッキングを履いたまま脚を愉しませてもらうことになっている。
はじめて囁いた長いことばに、ぶきっちょに結ったおさげ髪が、素直に頷いた。

ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ・・・
喉をせわしくならしながら、少年の、いや香菜子の血をむさぼりつづける。
ちゅう、ちゅう、ちゅう、ちゅう・・・
傷口を踊るように舐める唇を、香菜子は決して嫌がろうとしない。
すすんで献血に応じるかのように、吸いつけようとする唇に、むしろ肌を近寄せてくる風情があった。
香菜子。香菜子。
うん、その名前で呼んで・・・
自分の存在を女として認められたことに安堵してか、
香菜子ははじめて、黒ストッキングの足許をふらつかせた。

う~ん・・・思い切り貧血だよ・・・
床に横たわる、濃紺の制服姿。
これからは毎日、吸血のされ方を教育してあげるからね。
叔父さん、いやらしくないかい?
そのときだけ、男ことばになった香菜子は。
約束だから・・・ストッキング愉しんじゃって。
くぐもった声で、お気に入りの衣装に凌辱を受け容れると表明した。

ちゅっ。
吸いつけた唇の下。
しなやかなナイロン生地の舌触りが、ひどく心地よい。
真新しいストッキングに、かすかに唾液がはるのを。
香菜子はちょっと嫌そうに、眉をしかめたけれど。
引き締まった肉づきのふくらはぎに、牙を埋められて。
ナイロン生地の表面に、ブチブチ・・・ッと走る伝線を、
それは面白そうに、見おろしている。
仲良く暮らせそうね。
懐かしい兄と義姉の血がおり混ざった、香菜子の血―――
酔い痴れるまま”彼女”を、堅く抱きすくめて。
血に濡れた唇をブラウスに圧しつけてやると。
香菜子はきゃあきゃあと脚ばたつかせて、はしゃぎはじめていった。


あとがき
このお話は、近頃お邪魔するようになったstibleさまのブログ「着たいものを着るよ」のひとつに想を得て描いたものです。
イメージになった記事は、こちらです。↓
http://manndokusai.blog77.fc2.com/blog-entry-843.html
「撮影するときにはとくになにも考えていない」とは、stibleさま本人のコメントですが。
とてもそうは思えないほどストーリー性のある組写真となっています。
ほかにも半ズボンに黒タイツの少年など、柏木としては琴線に触れる画像が満載です。
ぜひ訪問してみてくださいね。^^

>stibleさま
リンクの許可をいただきましたのに、お話の構想がまとまらず、つい日を費やしてしまいました。
どうぞこれからも、よろしくおつきあいくださいませ。
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コメント

おはようございます。
吸血鬼の血を受け継ぐ者は どうやって決められるのでしょう。

>あの怜悧な血潮の味をこよなく愛しはしたものの・・・

血の味は同じような年齢の女でも 人によってかなり違うのでしょうね。
先天的にも後天的にも様々な影響を受け血の味は決まるのでしょうか。

ちなみに桜草の血の味は・・・ペロペロ よくわかんないです(6 ̄  ̄)ポリポリ
by 桜草
URL
2011-07-16 土 07:38:24
編集
>桜草さま
>受け継ぐもの
ごく一部の人間が吸血鬼として択ばれる家系の話、時々思い出したように描いていますが。
どうも弟のほうが、多いような気がします。
(数えたわけじゃないけれど)
吸血の魔力を得て真っ先に迫るのは、母親。
そのあとは、兄嫁。(イケナイ構図ですね 笑)

叔父さんに襲われる甥や姪とかの場合でも、やっぱり次男以下だったりするみたい。
密かにあこがれていたお姉さんとうり二つの姪を襲ったりとか。^^

>血の味
人柄・健康状態・血液型・その日の気分などなどで、いろいろ変わるみたいですヨ。^^
・・・ほんとうか?(・・;)

>桜草の血の味
さてさて。
今夜はどんな色のストッキングを脚に通して、柏木のまえにお出かけか?^^
来るときはあらかじめ、教えてネ。^^
by 柏木
URL
2011-07-17 日 19:47:03
編集

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