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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

舗装道路

2011年07月19日(Tue) 06:33:59

山あいの木立のなかを、舗装道路が一本、微妙なカーブを描きながら走っている。
曲がりくねったアスファルトを踏みしめて、ゆっくりと歩いてきた少年は。
紺のセーターに、薄茶の半ズボン。
半ズボンの下には、しなやかな黒のタイツがひどくみずみずしい輝きを帯びていた。
良家の子弟だということは、まだやんちゃ盛りの名残りが消えない年頃なのに、
行儀よく着こなした白の開襟シャツでそれと察することができた。

少年は人をさがすような目つきで周囲を見渡すと。
―――叔父さん、どこ・・・?
声変わりしかかった声が、雲ひとつない虚空に吸い込まれていった。
がさり。
木立のなかの草地を踏み分ける足音に、少年はビクッとふり返った。
まだ怖いのかい?
からかうような叔父の口調に、反発するように。
べつに・・・怖くなんかないさ。もうすっかり、慣れちゃったから。
不平そうにプッとほほを膨らませながら。
これから叔父が彼にしようとしていることを、ことさら露悪的に口にした。
ボクの血を飲むんだろ?

いつも悪いな。
白皙の頬を上品に輝かせながら少年ににじり寄ってくる男は、
白髪交じりの見かけほどには齢をとっていないようだった。
けれども頬はげっそりと痩せこけていて、口許もカサカサに渇いている。
ずいぶんガマンしたみたいだね。
こんどは少年が、叔父を揶揄する番だった。

両肩を抱きすくめ、首すじにチュッと唇を吸いつける。
圧しつけられた口許に、バラ色の飛沫がかすかに散った。
ワイシャツ、汚すなよ。
少年は落ち着き払って、叔父のやり口を遠回しに非難する。
ふふ・・・
襟首ひとつ汚さずに、少年の血を吸い取ると。
わざとのようにべろを這わせて、つけたばかりの傷口にぬめらせた。
止血の手当てかい?気が利くんだね。
少年は親しみを込めた冷笑を叔父に投げながら、あたりを窺った。
手ごろなベンチが見当たらなかったので、ためらいもなく舗装道路の隅に寝転がっていた。

タイツをイタズラするなんて・・・いい趣味じゃないよね?
しなやかなタイツにくるまれた、男の子にしては格好のよい脚を、惜しげもなくさらしながら。
暑さを帯び始めた陽射しを受けて、タイツのなかで息づく若い皮膚が、じっとりと汗を帯び始めている。
うふっ。きょうのタイツ。いつもよりいい舌触りがするね。
妙なほめられ方だったけれども、少年はまんざらでもないらしい。
ママがこのあいだ、都会の実家に帰ったとき、デパートで買ってきてくれたやつなんだ。
わざわざ叔父さんのために、履いてきてやったんだぜ?
子供っぽい自慢をしながら少年は、恩着せがましく自分のタイツを自慢した。
くまなく唇を這わされたふくらはぎの周り、少年の脚にぴったりと密着したタイツには。
いやらしいよだれがたっぷりと、しみ込まされている。



初めて叔父の正体を知ったのは、去年の秋のことだった。
あの子、変わってるよね?男のくせにタイツなんか履いちゃってさ・・・
そんなかげ口は、ことさら本人のまえで口にされなくても。
それとなくしっかりと、耳の奥まで届けられる。
悪意の含まれたうわさの声に、かすかな胸の痛みを覚えることはあったとしても。
タイツに魅せられた少年は、じぶんの日常を変えようとはしなかった。
もう、いい加減になさったら?
朝の支度を整える母親はため息をつきながらも、
デニムの半ズボンの上、黒のタイツをきちんと折りたたんで重ねてやっていた。

夕暮れの弱々しい陽射しのなか、学校帰りの道を急いでいるときに。
足早に立ち去って行く年上の女学生を目にした彼は。
彼女が首すじを微かに抑えているのを、目にしていた。
この村に吸血鬼が出没する ということも。
その吸血鬼の存在を、村のものたちは意図的に外界から隠蔽し共存しようとしていることも。
彼はなんとなく、知っている。
いまの女学生が吸血鬼に遭ったのも。
平和裏に血を分けてやって、ぶじ解放されたということも。
すぐに察しをつけていた。
立ち去る少女の腰の周りに揺れる、濃紺のプリーツスカートの下。
黒のストッキングが派手に破けていて。
露出した白い脛だけが、ひどくあざやかに脳裏に灼きついた。

ふり返ると、そこにいたのは叔父だった。
説明されなくても、察しがついた。
吸い取ったばかりのバラ色のしずくを、口許にまだチラチラと光らせていたから。
ええっ!?叔父さんまさかっ・・・?
少年らしい驚きを口にして、腰を抜かさんばかりにして飛びのこうとした少年に、獣の猿臂が伸びる。
不幸なことに少年が背にしたのは、微かな上り坂の斜面だった。
ひざから力が抜けて、その場に尻もちをついた少年の足許に、飢えた唇が近寄せられて来る。
ちゅっ・・・
黒タイツごしに這わされた唇は、妖しいほどに柔らかく、散った唾液がひどくなま温かかった。
あっ・・・あっ・・・ダメだッ!ダメだったらっ。
少年の制止も耳に入らないように、叔父は容赦なく唇を吸いつけてくる。
いけない。このまま吸わせちゃったら・・・
血を吸われて、ボクまで吸血鬼にされちゃうっ。
少年の怯えを、消し去るように。
叔父は少年の肩をやおら抱きすくめて、耳もとで囁いた。
吸血鬼になんか、ならせないよ。ちょっと喉が渇いているだけだから、血をおくれ―――
まるで呪文のように鼓膜から脳裏に届いた囁きに、少年は抵抗する力を喪った。

初めて噛まれた首すじが、まだジンジンと疼いている。
縫い針で刺されたほどの微痛に少年はかすかにうめき、かるい眩暈に耐えていると。
はい、おしまい。
拍子抜けするほどあっけなく、初めての吸血は終えられていた。
エ・・・これだけでいいの?
まだ吸われ足りないかい?
揶揄する叔父に、まだだいじょうぶだって、と応えると。
じゃあ、遠慮せずにもう少し。^^
叔父はわざと見せつけるように舌舐めずりをすると、
赤黒く濡れた舌を、黒タイツの足許にふるいつけていった。

やら・・・しぃ・・・なぁ・・・ダメ・・・ダメだって・・・
声を惑わせながらも少年は、叔父の痴態を許しはじめていた。
少年が好んだタイツを、叔父もまた気に入ってくれている。
そんなわずかばかりの共感が、ひとと打ち解けることのすくない少年を、もの分かりよくしていた。
すぐに噛みついて血を吸い取ってしまえば、用は足りるはずなのに。
タイツのうえから牙を埋め込むまえに、叔父はなんども唇を押しあててきて。
しなやかなナイロンの舌触りを、じわりじわりと愉しんでゆく。
きみのタイツ、しっかりした舐め心地がするんだね。
ほめ言葉のつもりだろうか?臆面もなくそんなことを口にする叔父に。
そ・・・そお?
少年はちょっとためらいながらも、彼が吸いやすいように、脚の向きを少しずつ変えていく。
噛んでもいいよ。血を飲みなよ。
少年がそういって、吸血を許したとき。
すでに少年のタイツは気持ち悪いほど、よだれをたっぷりとしみ込まされていた。



それから数カ月。
いまのような関係が、つづいていた。
叔父はそれとなく、日時と場所を指定してきて。
少年はいつものように、タイツやハイソックスを半ズボンの下に装って、
新しいやつ、わざわざ履いてきたんだよ とか、
気に入りのやつなんだ とか、
恩着せがましく叔父にそういいながら、
なおも足許に唇を近寄せて、恥知らずな愉しみに耽りはじめる叔父に、
タイツ破いたりしないでよっ とか、
あっ、ダメッ、痛いじゃないかっ とか、
わざと非難を口にしながら、血を吸い取らせてやっている。

タイツを履くものと。
装われたタイツを凌辱するものとが。
かろうじて見出した、共感の接点。
少年はきょうも半ズボンの下、真新しいタイツを脚に通して。
劣情に満ちた唇が加えてくる着衣に対する凌辱を、密かに愉しみはじめている。
時おり場違いに耳障りなエンジン音をとどろかせて、傍らの舗装道路を通り抜ける車たちは、
いったん速度を緩めてふたりのようすを窺うようだったが、
どの車もふたりがだれなのかを確かめると、ふたたびスピードをあげて自分のペースに戻ってゆく。
吸血鬼のための献血に耽るものを目にした通行人が、足早に立ち去るように。



お帰り。
ママはいつになく、顔色がわるかった。
その日もタイツの脚を、愉しまれたあと、家に戻って。
学校道具を勉強部屋に放り投げて、リビングに降りていくと。
具合が悪くて半日寝ていたという母が、けだるげに身体を動かしながら、夕餉の支度に入っていた。
また、血を吸われてきたの?
ああ、抵抗したんだけどね・・・ダメだった。
見え透いた嘘を口にする息子の足許は、タイツが派手な裂け目を滲ませている。
―――そう。
ママはいつも、花柄のエプロンをしている。
誕生日に彼が贈った、淡いブルーにヒマワリの花が咲いたエプロン。
そのはしばしに散った赤黒く凝固しかかった飛沫が、少年の網膜を狂おしく染めた。
えっ・・・?

あのひと、村から出ていったわ。
育ち盛りの間はしばらく、吸血を控えないといけないんだって。
あなたのために、さよならするんだって。そう言っていたわ。
さっきまで、ふたりして愉しんでいたんでしょう?
なにも言わずに、木立の向こうに消えていったでしょう?
いつもと立ち去る方角が、違っていなかった?
母親の示唆したことがすべて正しいのを、少年はだまって頷いて応えていた。

血を吸うあてもないのに、村を出た―――?
少年の心配を打ち消すように、ママはゆっくりとかぶりを振った。
母さんの実家に、しばらく世話になるって。
トモミ伯母さんや香織姉ちゃんの血が目あてなんだってさ。
少女のようにイタズラっぽくほほ笑むママ。
そういえば一族ぐるみで、彼のことを保護しているんだっけ。
年ごろになってみるみる美しくなった従姉に、あの叔父が絡みついてゆく光景が、
想像のなかでひどくまがまがしく、少年は淡い嫉妬を感じた。

染みてるでしょ?
手を取って握らされた、ワンピースのすそが。
乾きかけた粘液の微かな湿りを、まだ帯びていた。
叔父さんね。ずうっと、ママのことが好きだったの。
それで、きょうになって、パパが出かけた後にうちにやって来て。
想いを遂げていったのよ。
パパも薄々、知っているわ。でも口に出しては、いけないわ。
あなたがタイツを履いて学校に行くの、ママがどうして咎めなかったか知ってる?
パパもその昔、吸血鬼と仲良しだったのよ。
でもあなたに、パパの真似ができるかしら・・・?
あなた、香織姉ちゃんと結婚する?それとも、同級生のだれかを択ぶ?
どちらにしても。パパがそうしたみたいに、スマートに。
自分の彼女のこと、あのひとに紹介できるかな?
羞じらいを隠そうとして横を向いた息子を見る母親の目は、どこまでも優しいまなざしを絶やさなかった。


あとがき
こちらに触発されて、描いてみました。

http://www.flickr.com/photos/30788655@N08/5203593817/in/set-72157624559419441/
メインは↑この絵。
上り坂の斜面を後ずさりする、タイツ姿の少年くんです。


http://www.flickr.com/photos/30788655@N08/5204193154/in/set-72157624559419441/

自分の血を吸いに来る吸血鬼の叔父さんを待ちうける少年くんの後ろ姿 というイメージです。
セピア色の画像から、過去の追憶というプロットを考えました。

http://www.flickr.com/photos/30788655@N08/5204192380/in/set-72157624559419441/

舗装道路のうえ、気持ち良さそうに腹ばいになる少年。
半ズボンの下のタイツが、キュートです。^^


http://www.flickr.com/photos/30788655@N08/5035796015/in/set-72157624559419441

作中にうまく盛り込めなかったのですが。
初めて襲われた少年くんは、ふたたび彼の血を欲しがって自宅にあらわれた叔父さんのまえ、こんなスタイルで出迎えて、和解をして。
ためらいながらも、黒タイツの脚を差し出していったのかも。^^

以上は前作で多大な刺激を頂戴した「着たいものを着るよ」http://manndokusai.blog77.fc2.com/の管理人・stibleさまが掲載されているFlickrの画像でした。
stibleさまに、心からの感謝をお捧げいたします。
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