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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ゴリラ。

2011年08月16日(Tue) 07:40:14

大瀬京子は、クラスの押女子でいちばん背が高い。あだ名はゴリラ。
べつにゴリラみたいに毛むくじゃらなわけでもないし、色だって白い。
それでも女子にとってそうありがたくないあだ名をたてまつられたのは、たぶん性格によるものだろう。
男みたいにハキハキしていて、立ち居振る舞いがきびきびしている。
ガタイがでかいものだから、それがよけいに目だつのだ。

ひょんなことから共同研究の相棒にさせられて、
放課後図書館やお互いの家を行き来して、調べ物をするようになっていた。
たまには帰り道にはんばーがーを食べたり、公園で涼みながら雑談することはあるけれど。
こういうのを、「つきあっている」というのだろうか?
決して嫌われないという自信はあるけれど。
その自信がもろい土台のうえに築かれているのは、自分がよく承知している―――
だって俺の正体は、吸血鬼なのだから。

吸血鬼だからといって、むやみに人の血を吸うわけではない。
家に戻ればメイドのばあやや嫁(ゆ)かず後家の叔母さんが、好きなだけ血を吸わせてくれる。
時にはパパの連れてきた、身許不明な美女がお相手してくれることだってある。
そうやって、かろうじて人間と共存しているのだけれど。
俺たちの正体は知っているひとは知っているのだから、そこはよくわきまえないといけないことになっていた。
げんにクラスの女子のグループには、吸血鬼を毛嫌いする連中がいて、(当たり前だから非難する権利はない)
教室の隅に固まりながら、気味悪そうにこっちを見てはなにやらひそひそ話をしていたりするのだから。

大瀬と教室でふたりきりになったとき。
「夜田くんさぁ、こないだ図書館でとってきたコピーなんだけど・・・」
そういいながら振り向いてきたときに。
肩先までに切りそろえた黒髪が、わさっ、と、首すじにかかるのが。
ひどく、なまめかしかった―――
「大瀬・・・」
とっさに俺は、大瀬の身体を横抱きにして、グイッと引き寄せていた。
「どうしたの?」
さすがはゴリラ。動じることもなくふしぎそうな顔をして、俺のことを見つめている。
白い顔に輪郭のわりあいハッキリとした目鼻が、むしろ心配そうな色をよぎらせていた。

顔色が悪いんだ・・・自覚症状があった。
もう、こらえきれない・・・そう感じながら。
引き寄せた大瀬の首すじに、唇を押しあてる。
チュッ・・・
引き締まった噛みごたえのする首すじだった。
ほんとうにひっそりと、牙を沈ませて。
がっちりとした身体つきを両腕に感じながら、バラ色の血を抜き取ってゆく。
あいつの活力の源が、俺の喉に、胃の腑に満ちて、
やがて全身を、力いっぱい駆けめぐる―――

かすかにはぜる唾液に、大瀬はとっさに身をすくめたけれど。
―――弟が甘えてくるんだよ。でかい身体しているくせに。
豪快に笑う大瀬のことだから、きっとそういうことなんだと受け取ったらしい。
「痛いなぁ。もう・・・」
噛まれて血を吸われているのにも気づかずに、困ったように肩をすくめた。
あまりにも接近した鼻先に、ジャンパースカートの制服の匂いが、かすかに鼻を突く。
口許に洩れた血の、鉄臭い芳香がゆらめくように漂いはじめたのに、大瀬は気づいただろうか・・・?

衝動が去って、身体をはなすと。
大瀬は乱暴に鞄をとりあげて、「さっ、帰ろ。」
俺のほうをふり返りもせずに、教室から出て行った。
されたことの内容よりも。
虚をつかれて抱き寄せられたのが、どうにもばつが悪かったらしい。
大瀬の気性からして、きっとそうのはずだった。
腕には、大瀬のしっかりとした身体つきの感触が。
唇には、活力を秘めた健康な生き血の、活き活きとした味わいが。
どうにも切なくなるくらい、まだありありと残っている。

大瀬さん、首すじ見た?
だいじょうぶ~?腫れているよ・・・というか、噛まれたみたいな痕ついてるよ。
ほらほら、鏡・・・見える?

吸血鬼大嫌い同盟の女子たちが、大瀬を取り囲むようにして。
口々に気遣わしそうな科白を吐いて。
ふだん近寄りもしないし言葉を交わすこともない関係を踏み越えて、
おためごかしの裏にある毒を、大瀬の耳たぶにあててゆく。
本当に言いたいことは、ただひとつ―――

アイツ、吸血鬼ナンダヨ。付キ合ッタリシタラ、大変ナンダヨ。

目のまえにあてがわれた鏡をみて、大瀬はまじめな顔をして、なにか考えている。
俺ははらはらとして、そんな女子たちを見るともなく横目で見つづけている。

テツヤくん、きょうあたしのうちに来る・・・?
大瀬が珍しく、俺のことを名前で呼んだ。
首すじにはまだくっきりと赤黒い、ふたつの痕―――
親に見咎められなかったのか?でもまさかそんなことを訊く勇気は、さすがに持ち合わせていない。
ああ、いいよ。きのう進まなかったしな。
一日おいた共同研究。
そう、あのことがあったおとといから、大瀬が俺に声をかけてきたのは、いまが初めてだったのだ。
きのうは、あんなことのあったきのうのきょうだから。
俺も声をかけるのが決まり悪く、珍しくちょっと顔いろの冴えなかった大瀬も、こちらに来ようとしなかった。
おー、お前大瀬に名前で呼ばれる関係になったのか?
親友兼悪友の坂本が、学生服の肩をばしん!と、痛いほど叩いた。

ちょっと待っててね。
制服のままエプロンを締めて、台所に立って。
紅茶を一杯淹れてくれると、大瀬はそそくさと勉強部屋に入っていって。
リビングに戻ってきたときには、私服だった。
白地に淡いブルーのしましま模様の入ったラフなTシャツに、ジーンズのひざ丈スカート。
ひざ小僧の下までぴっちりと引き伸ばされた、白のライン入りハイソックス。
サバサバした性格の大瀬は、ふだんの服装もシンプルだった。
かわいい服持ってないんだ。似合わないもん。
珍しく女の子っぽいことを言いながら。
大瀬はソファの隣に腰かけた。
首すじにつけた痕が、こちらに見えるように。
いいよ―――
彼女はひっそりと呟くと。
肩までかかる黒髪を、思い切りよく掻き除けた。

すこし汗ばんだ胸もとが、かすかに上下している。
抱きすくめた腕に、淡い恐怖とためらいが伝わってきた。
あらたまってなにかを言おうとしたけれど。
早く。
大瀬にせかされて、俺は衝動のままに、首すじの痕を牙でずぶりとやっていた。
ちゅうっ―――
わざと聞えよがしに音を立てたら。
さすがにキャッ!と、ちいさく叫んで。
けれども叫んだことを恥じるように、体勢を立て直して。
お座敷で正座するときみたいに、行儀よく。
キチンとひざの上に両手を重ねていた。

調子に乗って、足許にかがみ込んでいって。
場所が彼女の家なのをさいわい、ハイソックスを愉しませてもらおうと。
赤のラインが二本よぎったすぐ下のあたり、
ハイソックスを履いたまま、ふくらはぎを吸っていた。
やらしい。それ、かなりやらしい。
いつもの男みたいな口ぶりのまま、大瀬は俺のやり口を非難したけれど。
・・・やめさせようとは、しなかった。
太めのリブの走る、しっかりとした生地の舌触りを感じながら。
むず痒くなってきた牙を、ずぶりと埋める。
発育のよいふくらはぎは、しっかりとした歯ごたえがした。
俺はもう、夢中になって。
赤いペルシャじゅうたんのうえ、大瀬の足首を抑えつけて。
真っ白なハイソックスに、赤黒い血を滲ませていった。

つぎの日からのことだった。
大瀬が紺のハイソックスを履いてくるようになったのは。
もの珍しげに足許を見おろす俺に。
教室でするときは、ハイソックス脱ぐからね。傷見られちゃうし。
それに、染みたときに白じゃ目だつでしょ?
ほら、授業授業・・・
先生が来たぞと促す大瀬は、いつものクラスメイトの顔に戻っていた。


あとがき
男まさりなクラスメイトを引き寄せて、ひそかに噛んで血を吸って、
仲間の女学生たちが首すじの痕に気づいて告げ口をする までは考えていたのですが・・・
なんのひねりもない女学生ものになっちゃいました。(^^ゞ
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8時に描いて、8時に拍手♪

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