FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

献血当番。

2011年09月12日(Mon) 07:35:29

二階に向かう古い階段が、ぎしぎしときしむ音を。
登美子はいつもより気にしながら、夫のいる書斎部屋へと脚を向けた。
あなた・・・あなた・・・?
階段を半ばまで登ったところで、声をひそめて夫に声をかける。
それから声をいっそう忍ばせて、こういった。
これから紗恵と・・・献血に行って参りますね。
返事はなかった。
お父さん、いないの?
階下から娘の紗恵が、母親に声をかける。
踊り場の薄暗い空間に。
チェック柄のスカートの下、真っ白なハイソックスが眩しかった。
ええ、そうね・・・お出かけになっているのかしら。気がつかなかったわ。
母親はそういってまわれ右をすると、セットしたばかりの髪を撫でつけて、階下へと引き返していった。

頭のうえは、ひっそりとした曇り空だった。
人目をはばかる訪問には、うってつけの天候といえるだろう。
コツコツと靴音を響かせた二対の脚が。
曲がり角で立ち止まった。
お玄関じゃないの?
訝しそうに母親を見あげる娘。
こういうときにはね、お勝手口にまわるものなのよ。
白いカーディガンを羽織った娘のか細い身体を、まるで雛鳥をいたわる親鳥のように優しく抱くと。
彼女は娘を、狭い裏道へといざなった。
カーディガンを羽織った下に着ている赤と白のボーダー柄のTシャツは、娘のお気に入りだった。
Tシャツに覆われた胸もとも、発色の鮮やかなプリーツスカートに隠れたお尻も、すでに年ごろの娘らしいふくらみを帯びている。
グレーと赤を織り交ぜたチェック柄のプリーツスカートが、少女の歩みに合わせてユサユサと重たそうに揺れた。
こげ茶色のスーツの裾から覗く、薄茶色のストッキング、それに黒の革製のパンプスの脚。
それに半歩遅れて、白無地のハイソックスに革靴の脚が、素直な足取りで従(つ)いていく。

薄暗い壁の隅っこにしつらえられた勝手口は、古びてくすんだ塗装の木の扉で無愛想に閉ざされている。
いちど下見にでも訪れたのだろうか。
登美子は迷わず、扉の傍らのブザを鳴らした。
ブ、ブーッという、旧式のブザの耳ざわりな音が、室内に響くのがきこえた。
はい。
ぶっきら棒な、初老の女の声が、かえってきた。
あのう・・・四丁目の堀川です。だんな様への献血に伺いました。
おっとりとした声色に応えるように、こんどは押し殺したような男の声。
もっとほかに・・・いうことがあるだろう?
あたりは閑静な住宅地。人っ子一人住んでいないのでは?と思えるほどに、いやというほど閑(しず)かだった。
あ・・・はい・・・
登美子はちょっと戸惑ったように口ごもったが、娘に目配せをして促すと。
ひと息、息を吸い込んで。
よどみなく、インターホンに声を吹き込んだ。

わたくし・・・生き血を吸われたくって、ウズウズしておりましたの。
お気に召しますかどうか・・・茶色のストッキングを穿いてまいりました。
どうぞご遠慮なく咬み破っていただいて、わたくしの血を愉しんで下さいませ。

いい応えだ。
男の声はさらに、娘のほうを促している。

紗恵は恨めしそうに母親を見あげ、けれどもひと息ため息をつくと、インターホンに向かい合わせていた。
しょうがないな、というようにちょっと冷めた顔つきをして、すぐにそれをおさめると。

紗恵で~す。おじ様こんにちわ。
お待ちかねのショジョの生き血、愉しんでいただきたくって。
いつも学校に履いていくハイソックス、履いてきちゃいました♪
いっぱい血をしみ込ませて、イタズラしてくださいね。。

よろしい、と言わんばかりに。勝手口の扉が内側から開かれて。
こげ茶のスーツと鮮やかな発色のプリーツスカートの後ろ姿が、吸い込まれていった。

二時間後。
音量を最小にした携帯が、呟くような着信音を響かせた。
男はうるさそうに携帯を手にとって、
・・・ああ、わたしです。
疲れきったような横顔のすぐ下、首筋にはどす黒い痣がふたつ、滲んでいる。

奥さんと娘さんの生き血、ありがたく馳走になった。
声のはずみ具合までが、忌ま忌ましいほど若返っている。
おふたかたとも、だいぶお疲れのご様子だ。
歩いて帰すのは気の毒だから、きみ迎えに来てくれたまえ。・・・どうせ近くにいるのだろう?
車・・・ですからね。表につけていいのですか?
きみさえよければ。
フフッと嗤う声色に、男はむこうに聞こえるようちっと舌打ちをして。
ぜひ、そうさせてもらいましょう。
言うなり携帯を切っていた。
ハンドルを握ろうとするとふたたび、携帯の着信音。
うるさそうにもういちど、携帯を取り出すと。
こんどはメールだった。

貴兄のご令室・ご令嬢の生き血を、たっぷり愉しませていただく栄誉に浴したことを感謝する。
人目を忍ぶおふたりが、わざわざ勝手口にまわったのに。
ご近所に聞こえるような大きな声で、あのようなはしたないことを口にさせたこと、きみは憤慨するだろうか?
かいま見るようなはしたないことはしたくないと遠慮するきみに、なにか御礼をしたくてね。
あの、通りの悪いインターホンを使ったら。
曲がり角の向こうで息をひそめているきみにも、ご令室とご令嬢の言い草ははっきり訊き取ることができただろうね?
愉しんでいただけたようなら、なによりだ。

男は携帯を放り出し、すぐにまた引き寄せると。
忌ま忌ましそうな顔をしながらも、返信を打っていた。

有難う。ご配慮感謝する。
妻と娘の血は、幸い口に合ったようだね。
時々誘ってやってくれたまえ。
くれぐれも、だんなに気取られないように・・・

数分後。
邸の正面玄関につけられた黒塗りの乗用車に、登美子と紗恵は乗り込んでいった。
見送りは、ないに等しかった。
玄関のドアを開けた顔いろのわるい中年の家政婦が、ぶっきらぼうに音もなくドアを閉めただけだった。
送りだされた母子は、顔いろをすこしだけ蒼ざめさせてはいたものの。
いたってふつうのようすだった。
きちんとセットしてから出かけたはずの、登美子の髪型だけが。
きれいにほどかれて、お嬢さんのように肩に流れていたけれど。
スーツの下から覗くストッキングが咬み破られた痕をありありと残していて、
おまけに白っぽいねばねばとした粘液をねばりつけられているのを、
夫はわざと視線を外して、妻に気持ちを伝えるのだった。

お手を煩わせてしまって・・・
気遣わしげに頭を下げる妻に、
いいから早く乗りなさい。
夫は口早にそう告げた。
紗恵の足許が、ご近所に見えるじゃないか。
娘はイタズラっぽく笑い、血の撥ねたハイソックスの脚を、ちょっぴりすくめてみせた。


あとがき
勝手口って、ご存知ですか?
古いお宅のま裏にひっそりと、いまでも実物を見ることはできるでしょう。
ご用聞きがこちらがわに伺って、お買い物などを届けたりすることも、かつてはあったのでしょうか。
隠れんぼうにうってつけな裏通り。
けれどもたいがいは、締め切った木の扉で阻まれていて。
そのままぐずぐずしていると、鬼に見つけられてしまうことが多いようです。
前の記事
献血当番。2
次の記事
バイト。

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/2630-ffd62579