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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

相手校のキャプテン

2011年10月07日(Fri) 06:15:13

ねえ、仁藤恵子って知ってる?あなた中学いっしょだったよね?
近寄って来た浦川小百合は、挑戦的な口調で、過去の同級生の名前を口にした。
知ってるさ。隣の学校の、運動部のキャプテンだろう?
俺は気のない声で、そう応えた。
なにを言いたいのかは、よくわかっている。
優雅なウェーブのかかった黒髪に、色白の瓜実顔。
名前のイメージどおりの清純な顔をしながら、この女の考えていることは陰険だ。
俺の正体が吸血鬼だって知りながら、試合の相手校の主力選手の血を吸わせて、
自分の試合を勝ちに持っていこうとしているのだ。
じっさい、強豪だった二回戦の相手校は、選手二人を俺に襲われて、まさかの敗北を喫していた。
あいつの血を吸ってこいっていうんだな?
血を吸うのは、お好きでしょう?
謡うような響きをもった浦川の美声には、どこかひとを嘲る色が滲んでいた。

呼び出しに応じてくるとは、よもや思わなかった。
仁藤恵子は中学のころから俺の正体を知っていたし、さほど親しいわけではない。
まして明日は俺の学校のチームと試合というときに、
血を吸われてしまう危険を冒してまで逢いに来るとは、とうてい思われなかった。
姿を現した仁藤恵子は、練習を終えたあとのユニフォーム姿。
セーラー服のほうが、よかったかしら?
陽灼けした頬に微笑を滲ませながら、人なつこそうに俺のほうへと近づいてくる。
お前の血、吸ったことなかったよな・・・?
俺は不覚にも、さいしょから自分の意図を口にしていた。

おなじ班のときだったかな。
あたしが班長で、あなたが副班長。
あなたわざとふざけて、ハイソックスのうえから唇押しつけてきたじゃない。
どうしてあのとき、咬まなかったの?
むぞうさに結わえただけのおさげ髪の間で、化粧っ気のない顔が笑っていた。
だってお前あのとき、風邪ひいてただろ?
かばってくれたわけ?
風邪ひいてる女の血なんて、まずいからな。
仁藤はそれ以上、俺の言い逃れを追求しようとしなかった。
ガールフレンドなんだ。小百合ちゃん。
肌きれいだし、かわいいもんね。
こいつ、なにもかも察している―――
俺はなんだか、この女に負けたような気がした。

いいよ。吸っても。喉、渇いてるんだよね?
仁藤恵子は小首を傾げて、目を瞑った。
試合まえの運動部の選手の生き血って、どれだけたいせつか、わかってるよね・・・?
肩を抱きすくめてうなじに唇を近寄せたとき、
彼女のまつ毛がかすかに震えているのに、はじめて気がついた。
吸いすぎだよ~。
女が俺の腕の中で姿勢を崩し、そのまま芝生のうえに尻もちをつかせると。
スポーツ用ストッキングのふくらはぎに、唇を吸いつけていった。
淡いブルーの、真新しい生地。
はっとした俺は、思わず女の顔を見あげたが。
女はいいんだよ、というように、ためらいなく脚を差し向けてくる。
女は俺のために、ストッキングを履き替えて来てくれていた。

惨憺たる試合だった。
相手校のキャプテン、仁藤恵子は、泥まみれになりながら。
奮戦に奮戦を重ねて、うちの学校に辛勝する。
なんども窮地に立たされながら、いつもより鈍い動きしか発揮できない身体をふるいたたせて、
けんめいにボールを追っていた。
チームの仲間の信頼を、守りきるために。
ここまでやりとおす自信があったんだな。
いろんな意味で負けたことに、みじめさが心の奥にまで滲んできた。
試合後両校そろって一礼をして、選手たちがコートの外にちりぢりに散ったとき。
グラウンドの隅っこの壁に寄り掛かっていた俺のまえ、仁藤恵子が足取りも軽々と小走りに駆けてきた。
俺のまえを駆け抜けざまに、白い歯を見せて。
手加減してくれたんだよね?
鮮やかなブルーのストッキングを履いた脚が賭け去るのを、俺はぼう然と見送っていた。

こんどは絶対、あいつを倒して。
浦川小百合は、復讐心に燃えた目つきで、詰め寄るように俺に命じた。
準決勝に進んだ仁藤恵子を、どうしても負けに導きたいらしい。
うちが負けたのは、実力の差。でもあいつだけにはこれ以上、勝たせたくないの。
どうしてそこまで意固地になるんだ?
訊きかけた俺は、女の剣幕に圧倒されるように、口を閉じた。
ふたたび開いた口から洩れたのは、自分でも意外なことに、拒絶のことばだった。
悪りぃが、俺は手をひくぜ。
そう・・・
女は意外に、素直だった。
卑怯な手を使って、嫌われちゃったかな?
気の強いこの女にしては珍しく、ちょっぴりさびしそうにほほ笑んだだけだった。

負けちゃった。
試合後、コートの外に佇んでいた俺を目ざとく見つけると、
仁藤恵子は照れたような笑いを浮かべて、俺に近寄ってきた。
このあいだの試合のときよりも、はるかにいい動きをしていたのに。
こんどの敵は、一枚も二枚もうわてだった。
俺はいつしか、恵子ひとりを目で追っていた。
こんどはキミに、襲われなかったのにな。
試合の流れを決めた仲間のミスをひと言も責めない態度は、
自分のつごうで体調を崩したことをひた隠しにして果敢なプレイを演じた彼女らしかった。
こんどからお前の血を吸うのは、試合後にするよ。
俺の言い草を、ごくしぜんに受けとめて。
じゃ、ストッキング履き替えてくるね。
恵子は仲間たちと足取りを合わせて、駈け去っていった。
一陣のさわやかな風が、ふたりのあいだを通りすぎる。
いまはもう、秋―――
あまりながくはいられない陽の光の下、
忌むべきはずの太陽が、なぜかいつになく、すがすがしかった。


あとがき
スポーツの秋 ですね~。(^^)/
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