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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

懸命?賢明?

2011年11月07日(Mon) 07:12:18


夕暮れ刻の、薄闇のなか。
芝生のうえを駆け抜ける、一陣の風。
伸びはじめた芝生の葉先を大きく揺らした、大またのストライド。
通りすぎようとした人影は、ギクッとしたように、とつぜん立ち止まる。
人影の主は、短パンにハイソックスの少年。
せぃせぃと荒い息に肩をはずませながら、目の前に立ちはだかった黒い影を、びっくりしたように凝視している。
恐怖も忘れて、少年は叫んでいた。

どうしてそんなに、速く走れるの??

黒影の主は、おだやかなよく通る声。
まだ荒い息がおさまらない少年を見おろしながら、息遣いひとつ乱していない。

わしがこの世のものではないからさ。

そっか・・・やっぱり、そういうことなんだ。

少年は初めて、合点が行ったように頷くと。その場で尻もちをついていた。
肩をはずませている荒い息は、まだおさまらなかったけれど。
彼の声色ははずんでいなく、むしろ湿りを帯びた懇願になっている。

いまさらムシのいいお願いなんだけどさ・・・生命だけは取らないって、約束してくれる?
小父さん、血を吸うんだろ?

鬼ごっこは、ここまでかな?

よく通る声はちょっと冷やかすように、うなだれる少年に声を落とした。

小父さんが生き血を欲しがるのは、死にたくないからだろ?ボクだっていっしょなんだ。
終わるまで、大人しくしているからさ・・・

少年の訴えに、男は深々と頷いた。
彼はうずくまる少年の肩に手をかけると、おなじ目線の高さまで腰をかがめて、片方の手の、小指を突き出した。
指きりげんまんが、できるように。
少年はため息をついて、男の指きりに応じていた。

ありがとう。

洩らした声はそのまま、呻き声に塗り変わった。
影が影に重なって、二人ながらに倒れ伏す。
ふたつの影の接点は、影男の口許と少年の首すじだった。
しばらくのあいだ、少年は昂った息を鎮めようと、肩で呼吸をくり返していて、
立てひざをしたまま、噛まれていった―――

ちゅうっ。

唾液のはぜる生々しい音に、眉をひそめる整った目鼻立ちは、薄闇のなかでほとんど塗りつぶされていた。



ふたたび身を起こした少年は、さっきまでとはべつの昂りを帯びた息遣いに喘ぎながら、
口を大きく開けて、けんめいに呼吸をしようとしていた。
男は少年の背中や二の腕を撫でさすりながら、少年の息遣いを支えている。

ひどいや・・・ずいぶん吸ったよね?

非難のこもった詰問に、男は満足げに頷くと。
まだ飽き足らないというように、こんどは少年の足許に唇を這わせてゆく。
深緑に黄色のラインが一本入ったハイソックスが、しなやかな肉づきをした脛から、ずり落ちかかっていた。
男の唇がねっとりと、ハイソックスのうえからあてがわれると。

ああ、ダメ・・・

少年ははげしくかぶりを振って、拒もうとした。
ハイソックスごしに噛みつこうとした牙を、おさめると。
男は、わかったよ、と呟いて、けれどももういちど思いなおしたように、ちょっとだけ堪忍な、といって。
ふたたび唇を、ハイソックスのうえに這わせてゆく。
牙をおさめたままの、よだれを帯びた唇が。
少年の足許をなぞるように、にゅるにゅる、にゅるにゅると這いまわって。
ハイソックスはいたぶりにまかせて、くしゃくしゃになって、ずるずるとずり落ちていった。

わかったよ。好きにしろよ。

少年はいまいましそうに、呟くと。
ハイソックスをひざ下までぴっちりと引き伸ばして。
芝生のうえに、あお向けに寝ころんでいた。
影と影とが、ふたたび接点をもった。
男の唇と、少年のふくらはぎ。
唇はなん度も、しつように吸いつけられて。
吸いつけられた唇は、こんどは違う部位を求めて、あてがわれていった。



三日ほど経った夕暮れ刻。
おなじ芝生のうえを、ひとりランニングする短パン姿が、ふと足をとめた。
そのままゆっくり歩いて、大きな樹の根もとに近づくと、
所在なげに、よりかかった。

やっぱり来たね?約束どおり・・・

少年の見つめる虚空に、おもむろに人影が宿った。

わしが見えるようになったか?

ああ。歓迎はしたくないけどね。
それと、しょっちゅうつきまとうの、やめてくれない?

少年はもう、もの慣れた声色になっている。
言葉づかいはぞんざいだったが、友だちのように打ち解けた口調。
きょうの会合も、あの晩別れぎわに約束したとおりの刻限と場所だった。
ライン入りのハイソックスの足許に注がれる視線をじゅうぶんに感じながら、
少年はこれ見よがしに脚を組んでみせた。
きょうのハイソックスは、白地に青のラインが三本。

噛むんだろ?

わざと迷惑そうに、少年が言葉を投げると。

よく似合うね。

臆面もない声が、投げ返されてきた。

好きにしろよ。練習用のやつだから、なん足も持ってるんだ。

投げ出された脚に、男はそろそろと這うようににじり寄って、
ちゅう・・・っ、と唇を、吸いつける。
足許を包む厚手のナイロン生地の舌触りを、愉しむように。
ねっとり、ぐちゅぐちゅと、べろや唇を、意地汚く這いまわらせていった。

走る速さは尊敬ものだけど、やり口はひどいよね。

少年も、言葉に加減をしなかった。

親御さんにも、すまないね。

男が珍しく、神妙なことを口にすると。
少年は足許にかがみ込む男のまえ、なにかをぶら下げた。
さいしょに襲われたときの、緑色のハイソックスだった。

小父さんの言ったとおりだったよ。
知らん顔して、洗濯機に入れたら、母さんがだまって洗ってくれた。
みんな小父さんのこと、よく識っているんだね。

記念にやるよ・・・という、軽い侮蔑のこもった声に。
じゃあ、ご好意に甘えようか・・・と、男は差し出された靴下を受け取ると。
代わりにこれをやろうか?って。
少年の目のまえに、なにかをぶら下げた。
彼がもってきた贈り物よりも、ずっと丈が長く、薄々の生地だった。

まさか・・・?

そう。きのうきみの母さんが、訪ねてきた。


息子の相手がどんな男なのか、気になったのだろう。
きみと追いかけっこをして、俺が勝って。
どうしてそんなに速く走れるの?って、きみに訊かれたって話したら。
あの子、スポーツに夢中なのって、きかせてくれた。
血を全部吸わせてくれて、吸血鬼になっちまえば・・・俺と同じくらい速く走れるぜ?
俺は、そう言っただろう?
けれどもきみは、それは嫌だって、拒んだだろう?
あくまで人間のままで、勝負するって。
たまに血をあげるのはいいけれど、ボクはスポーツが命だから。
逢うのは週に一回にしてくれよな・・・って、きみがいったことも。
ぜんぶ、聞かせてあげた。

きみの母さんは、いい人だな。
それじゃあご満足できないでしょう?って、
きみがしてくれたように、脚を差し出してくれた。
首すじは見逃してくださいね。お父さんに悪いから・・・って。
その代わり、穿いていた肌色のストッキングを、こんなふうに愉しませてくれたというわけさ。

少年は黙って、その話を聞いていたけれど。

それは小父さんがもらっておけよ。
ボクがもらったって、置き場に困るから。

母親が男の手に残していった恥辱の証拠を、回収しようとはしなかった。
でも・・・。
少年は言いにくそうに、口を開いていった。

母さん時々、訪ねて来るって約束したんだろう?
いまみたいに、そうやって。見せてもらうのは、かまわないかな・・・
小父さん、ずるいね。
吸血鬼にしないって約束は守ってくれそうだけど。
ボクの血管のなかに、毒を混ぜただろう?
ああ・・・でもそのほうが、現実を楽に受けとめられるかもね。
母さんがボクの埋め合わせに、小父さんと逢うようになっても。
ボクの履いているハイソックスと代わりばんこに、母さんのストッキングを愉しむようになっても。
なんだか、受け容れられるような気がして来たからね。
父さんもどうせ、薄々気づいているんだろうね。
ということは・・・
ボクに彼女ができたりしたら、
小父さんに処女の生き血を吸わせるために、紹介しちゃうかもしれないということだよね?
そのときには・・・
若い女の子のハイソックスやストッキングを、たっぷり愉しませちゃうんだろうね・・・
ちょっと無念だけど、まあいいや。
もっとも・・・処女の子がお嫁に来てくれるかどうかは、わからないけどね。

少年はもういちど脚を差し伸べて。
ハイソックスの真っ白な生地が赤黒いシミを拡げてしまうまで、
男の唇に、若い血を吸い取らせていった。

さあ、きょうはもう終わり♪
あしたは母さんを、よろしくね。

なにごともなかったように駈け去ってゆく後ろ姿を、
男はいつまでも、目で追いかけてゆく。
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