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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

村に関する報告文~「御紹介状」という古文書について~

2012年04月22日(Sun) 23:24:37

一、「御紹介状」と当村旧家本澤家

同村の古寺には、「御紹介状」と称する大量の書状が残されている。その一例を示すと、概ね次のようなものである。


当村御居住 しやるろ 殿

本澤氏当主三郎 謹んで記す

当家内儀たよ女儀 参拾弐歳
右の者相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候

某年某月某日(筆者により伏せ字)


ここにみる「本澤氏当主三郎」とは、本澤家の当主ではなく「本澤三郎」なる人物でもないことが明らかである。なぜなら某年当時の本澤家の当主は「三郎」という名前ではなく、同家にも「三郎」と呼ばれる人物は存在しないからである。
本澤家で当時「たよ女(たよめ)」という名前の婦人を娶っていたのは××という男子であり、彼は本澤家の三男であった。たよ女がこの年三十二歳だったことは、同村の戸籍謄本により明らかである。

この書状は、「しやるろ」なる人物に宛てて書かれているが、これが同村に居住した「シャルロー」と呼ばれる異国生まれの吸血鬼であることも明らかにされている。
すなわちこの書状は、本澤家の三男である××が、自らの妻たよ女を同村に居住する吸血鬼のもとに遣わして、吸血させるという内容のものなのである。
妻に対する吸血行為を「きけつ」という一見するかぎり意味不明瞭な言葉に置き換えていることから、書状の意図を秘する意図がみえることは、内容のまがまがしさからも十分納得がいく。
一方たよ女に関する生命の安全の保障も求められており、それがこの人妻から血液の提供を受けた吸血鬼によって忠実に遵守されたことが、以下の記録で確認される。

本澤家当主三郎内儀たよ女儀、目出度相媾事祝着至極と存候、向後五ヶ日に一度この儀を相遂ぐべきの由本夫より重ね重ね懇望あり
(ほんざわけとうしゅ さぶろうないぎ たよめ ぎ、 めでたく あいあうこと しゅうちゃくしごくと ぞんじ そうろう こうご ごかにちに いちど このぎを あい とぐべきのよし ほんぷより かさねがさね こんもう あり)

ここに「媾」とあるのは文字通り、性的関係を意味するのであろう。すなわちたよ女の本夫本澤××は、妻が血液の提供相手と情交することを寛大にも容認してしまっているのである。

吸血鬼とその血液提供者との間の性的関係が本夫によって容認され、そうすることが本夫にとって理想的対応であると見做されたのは、このように、じつに人間・吸血鬼両者が平和裡に共存するようになったごく初期から知られているのである。


たよ女とシャルローとの関係が成就された某年の直後、古寺の記録には次のような記録がある。

本澤家当主内儀 還暦法要成就の儀、弥栄(いやさか)
執行沙老

この「当主内儀」とあるのは、たよ女の本夫××の実母にあたる婦人であろう。
同村戸籍謄本によると、彼女はこの年数えで六十歳となっている。
ここに「法要」とは字義通りにとらえるべきではなく、もっと特殊な解釈を要するようである。同寺の記録で同じ時期に「法要」とある例は多数散見されるがたとえば次のようなものがある。

柳沼御一家相集い法要、御母堂ナラビニ令室きけつの衆に応接すること懇ろなり、令嬢また羞じらひつつも初めてきけつセラル、

「きけつ」が吸血行為を、「懇ろ」な「応接」が性的関係を結ぶことをさすのは、容易に察することができよう。この家は姑・嫁・娘が三人ながら複数の吸血鬼による吸血をうけ、ないしは情交を遂げたのである。


話題を戻すと××の母堂が体験した「法要」とは、吸血行為ないし貞操の喪失、おそらくはその双方だったものと想像される。
「執行沙老」とあるのは、シャルローの当て字であろう。彼女の相手が三男の嫁の情夫であることを示している。
すなわち、嫁と姑は、同じ吸血鬼の毒牙にかかったのである。

還暦にも達するこの本澤家当主の夫人ともあろうものがかような災厄を余儀なくされた理由は、何に求められるべきだろうか?それを推測するための有力な手掛かりは、やはり冒頭の「御紹介状」のなかに求めることができる。すなわち母堂が堕落を余儀なくされた日付より一週間後のものである。


本澤氏当主正嫡 謹んで記す
当家内儀テルノ儀 参拾九歳
身を慎むこと厳にして、当家に嫁してより未だ二夫にまみえず、
相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候
某年某月某日(筆者により伏せ字)

冒頭の「御紹介状」とほぼ同文である。
察するに、本澤家の母堂は自ら身を汚すことによって、長男の嫁にほんらいの義務を果たすよう促したのであろう。まことにこの「当主内儀」は、賢夫人の誉れ高い婦人であった。

その約一ヶ月後、別の機会におこなわれた「法要」における貞操喪失者のなかに「当家二郎内儀」の名前を見出だすことができる。
三男・長男につづいて次男の嫁までもが、乱交に近い状況のなかで吸血鬼との情交を結んだのである。

「当主正嫡内儀」や「当家二郎内儀」がこのような仕儀に至った背景は、別に求めることができる。
本澤家の男子五人のうちこの年までに成人したものは四人、妻帯するものは三人であった。
すなわちこれらのことが起こった翌年、四男の??が同村の医師沢内善吾郎長女なみ十七歳と婚姻しているのである。

「当家二郎内儀」の「御紹介状」には、以下のとおりである。


当家二郎内儀ヤエノ儀 参拾七歳
かねて懇望を蒙ること度々ながら、当家にては適当な女子を供するあたはず、徒らに日を重ねること無面目の至りこの度漸く一女を供するものなり
相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候
某年某月某日(筆者により伏せ字)


恐らく「当家二郎内儀」のヤエノは、近く婚姻するうらわかい花嫁の身代わりに、人身御供とされたもののようである。

この婦人の表記が「当主二郎内儀」ではなく「当家二郎内儀」とあるのは、この次男がまだ実家に居住していたものを意味するようである。
どのような事情から三男が兄より先に独立し、その嫁が真っ先に「きけつ」されたのか知るすべはないが、本澤家の婦人たちは異国生まれの単独の吸血鬼によって、三男の嫁→当主の嫁→長男の嫁→次男の嫁の順番に吸血され、相前後して貞操喪失に至ったことが一連の記録から判明する。


二、「きけつ」される婦人の夫たち

この種の書状が数多く存在することはかなり以前から知られていたが、なんらかの強迫ないし洗脳行為を伴うものであろうとされてきた。
しかし目覚ましい進展をみた最近の研究では、この見解はほぼ否定されていると言ってよい。
それは、侵される嫁たちの夫の応対によって裏付けられている。

ごく内々に閲覧することを許された当家の長男の日記によれば、姑の指嗾によって姑や義妹の情夫に献血する習慣を持たされた彼の嫁本澤テルノは、以後毎週最低二回は血液提供の勤めを果たしている。
(註:指嗾=しそう=そそのかすこと。)
こうした機会は多くの場合夜間に持たれ、子息らを寝かしつけた妻は「そそくさと手早く身繕いをし、通夜にでも赴くが如くヒッソリと(同日記)」自宅を後にし、そうした妻を夫もまた「無言で目を合わせずに(同)」送り出したのだった。
消極的態度ながら夫によって許容された吸血行為は深夜に及び、しばしば翌朝に至ることがあった。ある晩の日記には「当夜御奉仕の為妻テルノ出立、着替え持参」とあり、翌日の日記には「早暁妻帰宅」と、こともなげに記されている。
生命の保障をされている以上、ひとりの婦人から獲られる血液の量には、おのずから限度がある。それにも拘わらず応接が終夜に及びなおかつ彼女がそのたびに生還を果たしているということは、どうしたことだろう?場合によっては帰宅直後に姑に従って朝餉の用意やその他の家事を果たし、主婦としての多忙な日常を過ごしているのである。
夫によって「着替え持参」と手短かに書き込まれた一文は、まことに示唆に富んでいるといえよう。

本澤家の長男は、時期をほぼ同じくして妻を望まれた次男の相談を受けている。
「最愛の妻を売り渡す心地」に悩む弟を諭して、「最愛の者を分かち合うは遠来の客人に応えるに最良なる礼遇」であり「己が婦の吸血され痴情に惑ふを目の当たりにするは一見恥辱と思はるるも、さはがら妖しく酩酊するに似たる想ひあるを告白せざるべからず」と、妻を征服される妖しい歓びをさえ告白し、弟にその妻を吸血に委ねることを奨めている。
事実長男の夫人が貞操喪失に至ったのは、この相談に応じた二日後のことであった。
さらにその一週間後、「当家二郎内儀ヤエノ」が某所で行われた「法要」で吸血され、貞操を喪失している。


三、禁断の古文書群

上記の文書群は、もとより非公開のものとされている。
古寺に伝わる「御紹介状」は、旧家の夫たちが自分の妻を吸血させるため、親しい関係にある吸血鬼にあてて書いた書状。
各旧家に伝わる「日記」は、血を吸い取られ征服されていく妻たちの動向を記した、符牒交じりの秘記。
そのいずれもの閲覧を許されるには、おなじ体験を経なければならない。
読者の賢察にゆだねることとなるが、いま一通、ごく最近に書かれた「御紹介状」を披露して、この稿をとじたい。


当村御居住 本澤甚六 様
当家内儀喜美恵儀 参拾壱歳
身を慎むこと厳にして、当家に嫁してより未だ二夫にまみえず、
相差し遣はし候上は、きけつ致され候もくるしからず、只一身のみ無事帰されたく御願い申上候
某年某月某日(筆者により伏せ字)

註:此処に喜美恵とあるは、筆者の令夫人の名の如し。都会風の名前が同書簡内に交じりたること、恂に以て悦ばしきことと覚え候。
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