淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
応援。
2012年06月01日(Fri) 08:05:15
1. 下校途中で
お・・・っ、お願いっ。きょうは見逃して。あした試合なんですっ。
両手を合わせて懇願する、制服姿の女子生徒に。
吸血鬼は黙然と、立ち去ろうとした。
けれども彼の両脚は、根が生えたように動かなかった。
どうしても血が欲しい・・・
その本能が。
制服の裏から透けてみえる若くてピチピチとした女子生徒の肢体をまえに、
彼の動きをくぎ付けにしてしまったのだった。
ちょ、ちょっと待ってよ!
吸血鬼の背後から投げられた声は、目の前の女子生徒と同世代の女の子のものだった。
息せき切って駈けてきた彼女は、吸血鬼と同級生の間に割り込んできて。
両腕を目いっぱい拡げて、友だちを守ろうとした。
ダメよ、彼女は。あした大会なんだからっ。
体調崩したら、うちの学校負けちゃうじゃないっ。
女子生徒の懇願を容れて、本能を抑えて立ち去ろうとした彼だった。
同級生の叱声に、文句なく姿を翻そうとした。
ほら、今のうちに逃げなさいよっ。
う、うん・・・
素早く言葉を、交わし合って。
同級生の子を逃がした彼女は、なおも胸を張って、吸血鬼のまえに立ちはだかる。
待って。
背中を見せた吸血鬼に、少女は気丈にも、声をかけている。
どうしても、血が吸いたいの?
ああ・・・。
男の声色は、しんそこ渇き切っていた。
ガマン・・・してたの?
そう。
弱みを見せまいとして帽子を目深にかぶった男の顔を、上目づかいに覗き込んで。
少女はなおも、問いを続ける。
でもどうせ、だれかを襲うんでしょう?
それならあたしを、襲いなさいっ。
その子が彼女のチームメイトだったら、あたしたち困るから。
もうこらえ切れなくなった男は、彼女にしがみつくようにして。
身体を折って少女のまえにかがみ込むと。
ハイソックスを履いたままのふくらはぎに、かじりついていった。
真っ白な靴下が赤黒く染まるのを、少女は歯噛みしながらこらえている。
2.試合の日
炎天下だった。
実力が伯仲したもの同士の競り合いに会場全体は熱狂し、
熱狂した生徒たちのまえ、チアリーダーは汗を振り飛ばしてカラフルなポンポンを握っている。
そのなかに、夕べ同級生の選手を助けた少女を見出して。
吸血鬼は目深にかぶった帽子から、驚いた眼をのぞかせた。
しつような吸血に耐えた、丈夫な体。
あのときの失血の翳を、激しい動きをする少女の肢体は、かけらもとどめていなかった。
オレンジ色のユニフォームのチアリーダーたちが、おおぜいこちらに向かって歩いてくる。
「勝った!」「勝った!」
お揃いのユニフォーム姿をはずませて、嬉しげな声が飛び交うなか。
少女はちょっぴり蒼い顔をして、みんなのいちばん後ろからついていった。
「あら涼子、元気ないね?くたびれた?」
チームメイトのひとりが涼子に声をかけ、みんなは歩みをとめた。
血色のよいピンク色の脛が、白のナイロンハイソックスの透ける生地に、眩しく映えている。
「ううん、だいじょうぶ。でもきょうは先に帰るね」
「んー。きょうはご苦労さまっ。帰り道気をつけてね」
ストッキング地のハイソックスに彩られた脚たちは、そろって街へとつま先を向けた。
観てたの?
ひとり立ち止まった少女は、そのままの姿勢で、
人のいないはずの通りで呟いた。
傍らに漂っていた薄ぼんやりとした影が、みるみる人の姿になると。
よくわかったね。
昏(くら)い声色が、少女の鼓膜を浸した。
応援だとは、知らなかった。
知っていたら・・・血を吸うのをやめた?
ほかを当たったろうね。
やっぱりあたしが身代わりになって、よかった。
でもあんたも、応援だったんだろう?
そうよ。あたしの仕事、応援なんだもの。
身をもって友だちをかばった彼女は、疲れ切った顔をしながらも誇らしげだった。
顔、蒼いぜ?
うん、わかってる。
今夜はよく休めよ。
そうする・・・けど、今夜は血は要らないの?
ほかを当たるさ。
吸血鬼が目線を転じた先には、連れ立って歩くチアリーダーたちが、まだ視界にあった。
試合に勝ったお祝いに、あの子たちのハイソックスをなん足か、噛み破らせてもらうのさ。
フフフ・・・と、ことさらたちの悪い含み笑いを泛べてみせた。
この!浮気ものっ。
少女が投げた石は、虚空に消えた吸血鬼の影を、通り越していた。
3.衣替えの朝
おはよー!
きょうから、夏服だねっ。
陽を浴びたみんなの白い制服が、ことさらに眩しくみえたのは。
きょうが衣替えの日だったからにちがいない。
こちらに向かって手を振るクラスメイトたちのほうへ、涼子は全速力で駈けて行った。
結衣?きのうは勝ったね!おめでとっ。
ありがとっ。
ハイタッチをした少女は、涼子がおとといかばった同級生だった。
あっ、元気になったね!夕べ顔色わるかったから、みんな心配してたんだよっ。
声は元気にはずんでいるけれど。
結衣を除くだれもが、ちょっとずつ顔色がわるかった。
夕べみんなに、なにが起こったのか・・・それはあえて問わないことにしているけれど。
言わぬが花・・・と思っていた雰囲気は、だれのが叫び声で、あっさりくつがえされてしまった。
あっ!また来たっ。
指さす方角に、あの黒い影をみて。
少女たちは「キャー」と声をあげて、縮みあがる。
さて、きょうはだれを襲おうかな?
例によってたちの悪い含み笑いを泛べる吸血鬼に。
少女たちは口々に、非難をこめた。
えっ?えっ?みんなこれから、学校なんだよっ。
朝から血を吸うのは、よそうよ~。
夕べあれだけ、相手してあげたじゃない~。
真っ先に狙われたのは、結衣だった。
きみが一番、体調よさそうだね。きょうは試合ないだろう?
口許からあからさまに見せつけられた牙に、震えあがって。
迫られた少女は鞄を頭にあげて、みんなの周りをぐるぐると逃げ回って。
さいごにセーラー服の肩をつかまれて、首すじを噛まれちゃって。
撥ねた血で襟首の白いラインをよごしながら、泣き笑いをしている。
もうっ。新しい制服汚れちゃうじゃないっ。
くすくす。きゃあきゃあ。
血を吸われる少女を取り巻いて、はしゃいだ声の少女たちは、ひとりまたひとりと、捕まえられて。
真新しい夏服に、バラ色のしずくを散らしてゆく。
どうやら衣替えの日は、欠席する生徒が多くなるらしい。
あとがき
うーん、文章のキレが、いまいちですねぇ。
数日がかりで描いていた前作をあげてから二度寝したのですが、短時間にぐっすり眠りました。
寝起きは文章のキレがよくなるはずなんですがねぇ。。。
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- 2012-06-02 Sat 01:55:52
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