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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

騙され損ねて。

2012年06月15日(Fri) 05:36:39

吸血鬼が罠にかけられそうになったとき。
お芝居なんかでは、おとり役の女性はこうつぶやくのだろう。
―――お気の毒ね。ばかな吸血鬼さん。
そうしてクールな横顔に、軽蔑の混じった笑みを、冷ややかによぎらすのだろう。

夕べの少女の対応は、そんな想像とはかけ離れたものだった。
学校帰りに襲って、若い生き血をたっぷりとめぐんでくれたその少女は。
週末の夜、その公園で待っている・・・と、囁いてくれた。
彼女以外に、血を獲られるあてがなくて。
恋人か妹に逢いに行くような気分だったのが・・・いっぺんに消し飛んだ。
唇を近寄せていったその女(ひと)の表情は、さいしょに求めたときよりも、切羽詰った顔をしていたから。

甘美な陶酔から抜け出すのには、ひと苦労だった。
それからどうやって、悪意に満ちた重囲から逃げ出せたのか、さすがの俺にも記憶がない。

ほとぼりが冷めたころ。
俺はもういちど、その少女の前に立つ。
部活で遅くなった学校帰りを、妨げるように。

「げっ!」
少女らしからぬ反応に、俺は冷やかにほくそ笑んでいた。
きっとこの女には、いまの俺は悪夢にしかみえないのだろう。
―――このあいだの礼をさせてもらう。
俺はそっけなくそう呟くと、少女の首っ玉を抑えつけ、ぐいとこちらに近寄せた。

ごめん・・なさい・・・生命・・・だけは・・・助けてっ・・・!

なにムシのいいことほざいているんだ?
ひとのことを罠にはめて、灰にしちまおうとしたくせに。
俺が少女の耳もとに「殺さない」と囁いたのは。
無用の抵抗を封じ込めるためだったはず。
がぶりと食いついた首すじからほとぶ血を。
真っ白な制服のブラウスに、遠慮なくふりかけてやった。

ちゅ、ちゅう~っ・・・
聞こえよがしな吸血の音。
これ見よがしな血しぶき。
少女はくたくたと力なく、傍らのベンチに尻もちをついて。
ただひたすらに、俺の栄養補給に、強制的につき合わされている。

ざま見ろ。
侮蔑の入り混じった目つきの持ち主は、ほかならぬ俺のほうだった。

俯いていた少女は、自分の発する言葉を、ひと言ひと言確認するようにゆっくりと、こういった。

もういちど、逢ってくれる・・・?

ゴメンだね。
命がけで逢いに来るほど、あんたは魅力的じゃない。

女としては・・・
相手がいくら吸血鬼でも、いちばん言ってもらいたくない言葉だっただろう。

望まれてもいないのに、無分別に迫った俺。
相性の有無さえ見抜けずに、自分勝手に相手を選ぼうとした俺。
少女はただ、とうぜんの保身を図っただけ。
そんなことは言われないでも、よぅくわかっている。

すべてに目を背けたくって、俺は少女に背を向けた。
二度と、振り返りはしなかった。

ここは俺の来るところじゃない。
出直そう・・・



あとがき
なんだかいつになく、そっぽを向いたお話になっちゃいました。
こういうお話を描くときって、自分がどういうときなのだろう・・・?
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