淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
女装の織姫。
2012年06月18日(Mon) 06:58:15
喉が、からからに渇いていた。
あれ以来―――人の生き血にありついていなかったから。
いけないことと、知りながら。
俺は奈子のアドレスに、メールしていた。
奈子は、女装子。
マイナーなもの同士、お互いを理解できる数少ないパートナー。
奈子が指定したのは、夕暮れ刻の公園だった。
ちょうどその夜が同窓会という奥さんの、送り迎えをする用があると言っていた。
ふだんは女装、できないの。妻がいるから。
でもこの晩だけは、なんとかなりそう。
まるで女装の織姫ね・・・
承諾のメールの文面からは、フフフ・・・と笑う奈子の声色まで、聞こえてくるようだった。
薄暗がりで、ふつうの者なら足許の覚束ないはずの空間で。
俺は自由自在に、背の高い草をかき分けて、奈子の姿を求めている。
都会のど真ん中にあるというのに、
それほど遅い時間というわけではないというのに、
この公園は人けがほとんどなく、道を行き交う車のヘッドライト以外では、遠くに見えるコンビニがの灯がほぼ唯一の光源だった。
それでいて・・・ひっきりなしに行き交う車の立てる喧騒に。
俺はすこしだけ、辟易していた。
奈子もいまごろは、世間に隠れた仮の姿になっているころ。
きっとここから間近いどこかで、おなじ車のエンジン音を、びくびくしながら耳にしているのだろう。
その日は曇りだった。
教わった東屋の屋根の下。
佇む心細げな人影が、俺の渇きに火をつけた。
奈子・・・?
背後からだしぬけにかけた声に、彼女はぎくりとしてこちらを振り向くと、
ホッとしたように頬をゆるめて、気持ちに余裕ができると礼儀正しいあいさつまで、返してくれた。
ゴメンね。制服着てこれなかった。
そういって謝る奈子は、カジュアルな服装だった。
白地の長袖のTシャツには、黒でポップな感じの絵があしらわれ、腰周りはグレーのデニムのミニスカート。
ボーイッシュなスタイルが、ばっちりと決まっていた。
タイツしか持ってないけど、貴方の好みに合わせてなるべく薄いやつ履いてきてあげたんだよ。^^
これから襲われて血を吸われる女の子…というノリではない。
むしろ吸血鬼の襲撃を、いっしょになって愉しんであげる…そんな雰囲気に、冷え切っていた胸の奥にじわりと湿ったものが湧き上がる。
じゃあ…始めるぜ?
う…うん。
足許に屈み込んで唇を近寄せると、さすがに奈子は怯えたように、茶色の革靴の脚をすくめていた。
ぬるり…
しなやかなナイロン生地のうえ。
這わせた唇のあとを、唾液が濡らしていった。
こんなにしみ込ませても、よかったのか?
一瞬そんな想いがよぎったものの、差し伸べられる脚のしっくりとした舌触りに魅せられて、もうそんなことは考えられなくなっていた。
ぬるり…ぬるり…
ヒルのように這わされる唇を、奈子はくすぐったがって、
「やだ…もぅ…」
ひめやかな非難の囁きが、頭上に切れ切れに、降ってくる。
上質の革靴にくるまれた足首は、薄手のタイツに透けていて。
さながら良家のお嬢さんが夕方の散歩に家を出てきた…あたかもそんな風情だった。
これ破ったら、困るんだろう?
あっ、気がついた?
急いで家を出てきたらしい奈子は、服の用意もそぞろだったらしい。
帰りはズボンに穿き替えるとしても、しつような俺のいたぶりを受けたタイツは、
きっとつま先にまで、裂け目をにじませてしまうだろう。
でも…いいよ。タイツ破るの、愉しいんでしょう?
奈子の好意は嬉しかったが、奥さんに真相を暴露される可能性は、あえて作りたくはなかった。
―――今夜は、太ももをじかに吸いたいな。
えっ…
奈子の声色が、昂ぶりに震えていた。
おそるおそるずり降ろしたタイツから、あらわにされた太ももは。
純女のそれと見まごうほどに、白かった。
俺は四つん這いの姿勢のまま、奈子の後ろに回り込んで。
ひざ裏のすこし上のあたり、肉の豊かなところをめがけて咬みついた。
あっ…
引きつった声をのみ込んで、喉を鳴らして血を飲み耽る俺の兇暴さを、奈子は立ちすくんだまま耐えていた。
ごくごく…ちゅうちゅう…
きゅうっ。きゅうっ…
わざとのように、聞こえよがしな音を立てて。
ピチピチとした活力を秘めた奈子の血は、俺の喉のその奥の、心までをも潤していった。
数日後のことだった。
駅で待ってる。
メールが着信したのは、真夜中ちかくのことだった。
すぐ来て。あなたなら、来れるよね?
矢継ぎ早にもう一通のメールが来たのと同時に、俺はパソコンの電源を落としていた。
その駅は、夕闇にうずくまる住宅街の谷間に埋もれるようにして。
塗りつぶされたような夜の闇を、こうこうとした照明で切り裂いていた。
公共の場であるべきこの空間は、すべてを羞ずかしいほどあからさまに、露出させている。
こんな明るいところに身をさらすのか…?
電車がくるまでのあいだは、ほとんど人の行き来がないの。
だから、見られる心配はないわ…
スッと寄り添った俺に振り向きもせず、奈子はよどみなく呟いている。
紺のベストに、白のミニスカート。
均整のとれた脚を彩るのは、黒のオーバーニー。
マットな生地にかすかに帯びた、妖しくもなまめかしいナイロンの輝きは。
初めて逢ったとき気前よく破らせてくれたのと、同じものらしい。
靴は数日前水辺の公園で逢ったときと同じ、茶色の革靴だった。
吸血される愉しみに、はまっちゃったようだね。お嬢さん。
俺が冷やかすと、奈子はそれを真に受けて。
そうなの。さっきから血を吸われたくって…あたしウズウズしているの。
やはりよどみなく、謡うように応えてきた。
じゃあ、いただくぜ。
足許に屈み込む俺に、
靴下、咬み破ってもいいよ。きょうは妻を迎えに行かなくてもいい日だから。
愉しげな許容の言葉が、頭上に降った。
均整のとれた肉づきをした脚に、ツタのように腕をからめながら。
這わせていった唇を、真新しいナイロン生地のしなやかな感触が、浸していった。
公園での逢瀬のあと、奈子のなかでなにかが変わった。
女装の身を臆面もなくさらして、献血に耽る善意の女装子―――
俺と彼女は、いったいどこへと行き着くのだろう…
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- 2012-06-20 Wed 08:47:27
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