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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

なにかが、変わる。

2012年06月30日(Sat) 16:29:34

なにかが、変わっていた。
折原がそれに気づいたのは、村に移り住んで半月ほど経ってからのことだった。
都会の喧騒を逃れるようにして、田舎暮らしを選んだことを、
妻の貴枝も、息子の勇貴も、娘の舞までもが、よろこんでいたけれど。
ふと気がつくと、なにかが変わっていた。

いったいなにが・・・?
しばらくのこと、気づかなかったが。
だれもが食事というものを、摂らなくなったのだ。
そのくせ団欒の刻となると、二人ずつ組みになって部屋を抜け出して、
しばらくするとまた、戻ってきて。
何食わぬ顔をして、途切れたりはずんだりの家族の会話に加わるのだった。

あるとき、妻と息子が出て行ったとき。
トイレに行くふりをして、尾(つ)けてみた。
ふすまのすき間から覗いた、息子の勉強部屋のなか。
声をあげそうになった。
母親は息子のため、ブラウスのタイをほどいて、うなじを吸わせ、
息子は母親のため、ひざ丈の長靴下をゆるめて、ふくらはぎを吸わせていた。
互いに互いの頬ぺたを拭ったあとのハンカチは・・・赤黒い血に浸されていた。

・・・!
声をあげそうになった口許をふさいだのは。
いつの間にか背後に忍び寄っていた娘。
パパったら、邪魔しちゃダメじゃない。せっかくママと兄さんが愉しんでいるのに。
舞にも・・・愉しませてね。
瞬間、首すじに這った娘の唇からにじみ出た尖った異物が、うなじの皮膚に食い込んできた。

呆然となってすごした、翌日いっぱい。
彼は勤めにも出ず、独り夫婦の寝室で死人のように横たわっていた。
それほどまでに・・・娘はしつように、彼の身体から血を摂ったのだった。
パパ優しいね。喉の渇いた舞に、いっぱい吸わせてくれた♪
リビングから洩れてきた娘の声色は、いつもと同じように、無邪気だった。

夕刻近く、玄関先でがたがたと物音がした。
だれかが、訪ねてきたようだった。
妻は迎え入れた人を、リビングに案内をして。
ええ・・・主人おりますけど、かまいませんわ。
そんなことを、言っているようだった。

恐る恐る・・・足を忍ばせて。
もの音ひとつしなくなったリビングを盗み見ると。
妻はじゅうたんのうえ、大の字に仰向けになっていて。
腰までたくし上げられたスカートから、黒のストッキングになまめかしく染まった太ももが、にょっきりと覗いていて。
その太ももの、いちばん肉づきのいいところに、訪問客の男が、こちらに背を向けて唇を這わせていた。
ただたんに、吸っているのではなくて・・・咬みついているのだと、すぐにわかった。
ちゅうちゅう・・・きゅうきゅう・・・
人をこばかにしたような、あからさまな音を立てて。
妻の生き血が、吸い取られてゆく。
それなのになぜか、折原は金縛りにあったように、脚に根が生えたようになっていて。
そのくせ、いちぶしじゅうから目を離せなくなっていた。

見たわね、あなた。
客人が帰ってしまった後,妻は静かにそういったけれど。
言い訳ひとつしない折原を、それ以上追及もせず、
自分が夫のまえで身体を許してしまったことに対しての、謝罪も説明もしなかった。
だって、ふつうのことですもの。
妻の声色は、いつものようにおっとりとしていた。

この村を出よう。このままじゃ家族全員が、吸血鬼になってしまう。
折原は家族にそう訴えたけれど。
だれもが耳を貸そうとしなかった。
え?父さん、それふつうのことじゃない。
息子は友だちとも血液の交換をしているし、若い女の血を欲しがる知り合いの小父さんのため、母親や妹を連れて行くこともあるんだと、ちょっぴり誇らしげに語るのだった。

なにかが、変わっていた。
いったいなにが、変わったのだろう?
そういえば周囲に,都会で住んだころの顔なじみが、増えたようだ。
あまり正確な記憶はないが・・・家族ぐるみで招(よ)んだんだと思う。
そのうちのひとり、母方の叔母は、もういい齢なのだけれど。
折原は首を伸ばして、叔母の首すじを吸っていた。
叔父の目のまえであったけれど、叔父は叔父で、折原の妻とのやり取りに夢中になっている。
このごろ好んで穿くようになったガーターストッキングの太ももを、お尻まであらわにして。
妻は畳のうえ、すでに喘ぎはじめていた。
な?どうってことないだろ?叔母さん。
折原の言いぐさに、「あっ、やっとわかった」叔母は両の掌を合わせて、得心がいったように朗らかに笑った。
なにがわかったのか、そのへんは判然としないけれど。
夫が甥の嫁を相手に励みはじめるのを横目にしながら、
黒のパンストの奥の奥までまさぐり入れられてくる甥の手を、もうこばみかねているのだった。

きのうまでは、血を吸われるのを嫌がっていた叔母は、
身体をくねらせて、腕を突っ張って、迫ってくる甥の身体を隔てようとしていたのに。
早くもひざをくずして、夫の傍らで―――近親どうしの性交まで、遂げようとしている。
唇になじんだ叔母の生き血は、どこまでもなまめかしくって。
どうして吸血をあんなに忌んでいたのか、いまとなってはもう、思い出せない。

明日訪問するのは、初めて妻の血を口にしたという、近所の年配男。
やもめ暮らしの長いその男の家の表札には、戸主の名前に寄り添うように、貴枝という名が書き加えられた。
家内の血は、美味かったかね?
そんなおぞましい問いさえも、こともなげに口にできるようになると。
打ち解けないことで有名だったその朴訥な男が、別人のように目じりに人懐こいしわを寄せて。
ああ、やっぱり生き血は若けぇ女のもんに限るな・・・
口許を撫でる手つきが卑猥だと、折原までもがつりこまれて笑ってしまうのだった。

都会のひとたちは、どうして人の生き血を愉しみ合わないのかしらね。とても不思議だわ。
そんなふうにうそぶく妻に。
初対面でもすぐに仲良くなれるのにね。
そんなふうに娘も応じて。
こんど小父さんに、お見合い相手を襲わせてあげるんだ。
そんなふうに息子までもが、自分の母親や妹、そして自分自身の血を吸った男に、恩恵を与えようともくろんでいる。
そして、いまは折原までもが―――
都会の友人たちをしきりに、夫婦同伴で呼び出すようになっていた。

村の暮らしとユニークなならわしに、なじんでみませんか・・・?


あとがき
このお話は、舞方さまのところで見かけたこちらのお話に想を得てつくってみました。
レイ・ブラッドベリ「金色の目」
http://masatomaikata.blog55.fc2.com/blog-entry-2743.html
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