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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

成人映画館の女装子

2012年09月09日(Sun) 00:44:11

手入れの行き届いていない空調が無造作に吐き出す埃っぽい冷気に、奈子は眉をしかめた。
ここは、古びた成人映画館のエントランス。
いま奈子は、決死の想い?で、このいかがわしい空間に入り込んだばかりだった。

昔は十数軒もあったといわれる、「成人映画館」と呼ばれるいかがわしい建物は、
この街ではもう、ここ一軒を残すだけとなっていた。
まるで保護色をもった爬虫類のように、ごく目だたなくって。
古びて狭苦しいアーケード街に、なんの違和感も伴わず、それはしっくりと埋もれていた。
わずかに表通りに面した看板が、この建物のもつ不健全な役割を、いやというほど暴露していた。
あっけらかんとするほどケバケバしい、女の裸体を描いた看板たちは、
映写されるフィルムまでもが変色しているのでは?と疑わせるほどに寂れた色合いを放っていて。
健全な青少年の育成に有害と疑われるべき内容そのものまでもが、色あせてみえるほどだった。

夜の七時ころ。
恥ずかしいほどあからさまな照明に照らされたアーケード街を。
上はチェック柄のブラウス、腰にはデニムのスカートを穿いた奈子は、
スカートの広がったすそから忍び込む外気の空々しさに軽い昂奮を覚えながら、
慣れないヒールの音を、響かせていた。
奈子は、女装子。
化粧をしない顔を、マスクとメガネとで覆い隠していた。

映画館の入り口は、まるでラブホのエントランスのように。
人目を忍んで入るものをかばうように、ついたてがしつらえられていた。
まっすぐな視線を遮るついたての向こう側がどうなっているのか、
奈子の側からもわからない。
その状況が一瞬、奈子を逡巡させたけれど。
まるで誘蛾灯に引き寄せられる夜の蝶のように。
彼女は飛び込むようにして、映画館の扉を押し開いていた。

無神経にがんがんたかれた空調の冷気が、ブラウスに包まれた奈子の両肩に食い入ってくる。
受付の女性は、太った中年のおばさんだった。
おばさんは奈子の姿を認めると、それがほんとうに女なのかどうかにも、いっさい関心を払わずに、
ただぞんざいに、代金を要求した。
千円札二枚と引き換えに手渡されたおつりは、5円。
ご縁がありますように・・・というごろ合わせにしては、
おばさんの態度はそっけなさ過ぎたけれど。
二階から漏れてくる切れ切れに悩ましい声から、顔をそむけるようにして。
奈子は映写室へと入っていった。
入りぎわ。
いかにもやる気のなさそうな映写係の無表情な横顔が、ふと視界をよぎっていった。

なかは、ほぼ真っ暗の状態だった。
心優しい闇は、女の服に包まれた奈子の姿を、それは優しく抱き取っていった。
秘密をまとう身にとって、もっとも心安らぐものだった。

映画の内容なんか、憶えていない。
女装をして成人映画館に入る。
そんなことを、禁忌を侵す歓びにうち震えながら。
奈子は身体じゅうで、体感していた。
車のリクライニングシートを再利用した、独特な座席に縛りつけられたようにして。
まるで金縛りにあったように、奈子は座りつづけていた。

闇に眼が慣れてきたころ。
ひとりの男が、ス・・・ッとすり寄ってきた。
なにかを囁いたようだが、奈子には聞き取れない。
ここには女装だけをしに来るものも少なくないので、あらかじめ本人の意向を確認したかったらしい。
奈子は震える低い声で、こういったつもりだった。
「触るだけなら、いいですよ。でも強引なことは、怖いからしないでね」
舌足らずになった口許から漏れた声を、はたして男はどこまで理解してくれただろうか?

絡みついてくる腕が、下品で露骨な手つきで、奈子の二の腕を、脇腹を、太ももを、なでまわしていく。
相手の顔は、ほとんど見えなかった。
けれども、男の手は、唇は・・・奈子のことを明らかに、女として認めていた。
あたしを女として、扱ってくれている・・・
初めての体験に、奈子は言葉を喪うほど、昂ぶりを感じていた。

わずかな光が、男の風貌を通過した。
若いけれども、神経のあまりこまやかそうではない風貌にみえた。
強引に奪われそうになったキスを、手で遮ると。
遊び慣れているらしい男は、リミットを超えたのを恥じるようにして、引き下がっていった。
それとほとんど、同時だった。
あきらかに年輩とわかる男が、ゼイゼイとかすかにせき込みながら、反対側の座席に座ったのは。

老人の手つきは、明らかにさっきの若いサラリーマン風の男のそれとは、異質なものだった。
ブラウスを通してなぞるように加えられてくる掌のまさぐりは、
さっきの若い男の半分ほどの強さも感じなかったけれど。
腕に伝わる感触はじんわりと皮膚の奥までしみ込んでいって。
奈子は半ばウットリとなって、節くれだった掌の愛撫を、受け入れ始めていった。

じわり・・・じわり・・・
老い朽ちてカサカサになったツタのように絡みついてくる猿臂が、ブラウスを通して肉薄してくる。
サリサリという、衣服が衣擦れる音を耳にしながら。
奈子はほとんど溺れるようにして、行為に耽っていった。
老人が身体を密着させてきて、長い猿臂で奈子を抱きすくめたときも。
奈子はすすんで、老人の抱擁に身をゆだねていった。

ククク・・・
老人は、くぐもった声で嗤った。
いただくよ・・・そう聞こえたようだった。
奈子は無意識に、うなずいていた。
老人の唇が奈子の首すじを這い、そして力を込めて吸いつけられた。

かりり。

え・・・?
怪訝そうに顔をしかめた奈子は、つぎの瞬間、恐怖に頬を引きつらせていた。
すでにそのときには、遅かった。
毒蜘蛛が、巣に引っかかった獲物を掴まえるようにして。
老人は奈子の両腕を巧みに封じながら、飢えた牙をうなじのつけ根に埋め込んでいったのだ。

ちゅう・・・っ。

ハッとなった時には、老人は奈子の血で、喉を鳴らしていた。

まだ若さをふんだんに宿した、働き盛りの血潮が。
ヒルのようにしつように吸いついたしわだらけの唇に含まれて、老人の体内に移動していく。
恐怖と驚きは、一瞬のあいだのことだった。
傷口のうえを這い、もの欲しげに蠢く唇を。
まるで騎士の接吻を受ける王女様のように、奈子はおっとりと、受け止めていた。
生暖かい血がブラウスに滴ったけれど、もうそんなことさえ、意に介さなくなっている。

奈子の血、美味しい・・・?
じぶんでもびっくりするほど、落ち着き払った声だった。
脈打つ血潮に秘めた淫らさが、そうさせているのかもしれない。
もっと吸って。奈子のエッチな血。もっと愉しんで・・・っ。
齢のわりにがっちりと力強い猿臂に抱きすくめられたまま。
奈子は本物の女子高生よりもしおらしく、ひたすら献血行為に応じていた。

長い道のりを車で来たことも。
映画館を出たらふたたびその車に乗って、遠い我が家に帰らなければならないことも。
明日までに家に戻れなければ、長期の出張から戻ってくる妻に対して言い訳がきかなくなることも。
すべてが奈子の意識から、飛んでいた。

奈子の血、美味しい・・・?
もっと、吸って。
奈子のエッチな血を、もっと愉しんで・・・
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