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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

私の彼女のご主人がね・・・

2012年10月08日(Mon) 07:20:22

「私の彼女のご主人がね・・・」
この街に棲む吸血鬼氏は、さりげない口調で、ときどきとんでもないことを口にします。
さっきからずうっと、自分の恋人の話をし続けていた彼の口から、その恋人に夫がいる・・・と告げるのですから。
あまりにもごく当然そうに口にするので、うっかりするとそのまま聞き流してしまうほどです。
「ちょ、ちょっと待ってください!貴方の恋人はだれかの奥さんなんですか!?」
わたしがかりに、そう言ったとしましょう。
彼はむしろ不思議そうな顔をして、「ええ、それがなにか?」と訊き返してくるのです。
そう、吸血鬼と人間とが共存しているこの街では、人妻が生き血の提供相手になることも、ごくふつうにおこなわれているのです。

さいしょは親しい男友達に血をねだるのですが。
もとより一人で相手をしようにも、彼の食欲は旺盛なので、とうてい彼一人の血では足りません。
体調を崩すほど吸われてから初めて、彼は奥さんに”援軍“を依頼します。
「はじめからそうおっしゃってくれればいいのに・・・」
奥さんはそういいながら、むしろふたつ返事で、ご主人の頼みを引き受けます。
いつもより濃いめの化粧をして、よそ行きのこ洒落たワンピースなどを着込んで、出かけて行って。
親友の妻という配慮もあってか、もちろんさいしょのときはごく紳士的な応対です。
家では考えられないほど鄭重に応接された奥さんは、首すじにつけられた噛み痕をむしろ自慢げに、ご主人に見せびらかすくらいです。
ご主人はもとより、なにもかも察しているのですが。
またお招き受けたいわぁ・・・という奥さんのため、親友に連絡を取ってやるのでした。

かりに彼の悪友が奥さんといい仲になってしまったとしても、この街のひとたちのなかで寝取られた夫のことを悪く云うものはいません。
むしろそうすることは、却って賞賛の対象だったりするのですから。
奥さんが吸血鬼に血を吸われたり、情婦にされてしまうことはむしろ、この街では自慢話に属する事柄になっているのです。

都会から移り住んでくる夫婦ものでも、おなじことがいえます。
さいしょはよそよそしかった土地の人間が。
彼の奥さんが血を吸われるようになると、初めて打ち解けるようになって。
それが恋に発展して、夜誘い出された奥さんが朝帰りをするようになると、初めて家を行き来する間柄になって。
夕方になるとそわそわし始めた奥さんを、ご主人がさりげなく送り出すようになると、やっとその街の一員として、認められるようになるのです。

冒頭に登場したくだんの吸血鬼氏、ひとわたり自分の愛人の夫のことを、親しげに語ったあと、こう宣言したのです。
「きみの奥さんも近いうち、ボクの彼女の一人になるのだヨ。^^」


一週間後。
法事の手伝いに招ばれて礼服姿で出かけた妻は、噛み破られた黒のストッキングにひとすじ裂け目を滲ませて、べそを掻き掻き帰宅してきましたが。

翌日には。
ストッキング代、弁償してもらってくるわ!
憤然とそう口にして出かけて行った妻は、首すじにつけられた噛み痕をさりげなく髪で隠しながら、まんざらでもなさそうな顔つきで戻ってきて。

一か月後。
日曜の夕方になりますと、そのときとおなじ黒の礼服をいそいそと着込んで、おめかしをはじめまして。
穿き替えのストッキングを何足もハンドバックに詰めて、玄関で低くて重いエンジン音を轟かせている迎えの車に乗り込んでいきます。
たまの休みはご夫婦で過ごすのがいい・・・そういう吸血鬼氏の配慮で、彼は週末を我慢するのですが。
それに応えてわたしも、彼の運転する黒塗りの車を、玄関先でひっそりと見送るようになっていたのです。
正直なもので。
赴任以来はかばかしくなかった商談が進むようになったのは、ちょうど妻が初めて朝帰りをした日のことでした。
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