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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

縄に魅せられた男

2012年12月30日(Sun) 06:32:25

公園の街灯の、薄明りの下でのことだった。
目のまえを過ぎった唇が、出し抜けにグッ・・・と近づいてきて。
美沙夫の唇のうえに、おおいかぶさってきた。
それはうわぐすりのような唾液に薄っすらとコーティングされていて、
かすかに弾む息遣いを、無理やりに彼の唇の奥へと、もぐり込ませてきた。
相手は男―――
そんなまがまがしさを、忘れさせられた瞬間だった。

どうしたね?べつにたいしたことじゃないじゃないか。
白皙の頬に怜悧な嗤いを滲ませて。
男はあくまでも、淡々としていた。
そうしてもういちど、美沙夫の頬に唇を近寄せると。
耳たぶの真下からおとがいをなぞるようにして。
唾液のうわぐすりを薄っすらとあやした唇を這わせていって。
首のつけ根のあたりにまで、じんわりと迫らせる。
美沙夫の両肩は万力で固定されたようにがっちりと掴まれていて、
身動きひとつ、できなかった。

唇の両端のすき間から、尖った異物がにじみ出るようにあらわになって。
美沙夫の首すじの皮膚を、強引に引っ掻いた・・・と思うと、
唇の左右から突き出された―――明らかに牙と判別できるもの―――は、
ずぶりと皮膚を破り、突き抜けた。

はは・・・
白皙の男は、怜悧な嗤いを絶やしてない。
なにごとも起こらなかったような顔つきで、ハンカチで口許を拭った。
差し出された真っ白なハンカチは、吸い取ったばかりの美沙夫の血で、毒々しく輝いている。
ご馳走になった。意外に若いお味がする。
まるでワインの品評会のような口ぶりで男はそういうと、
きみはこれから、お宅に連れて行ってくれるんだよね?
いとも親しげに、美沙夫に声を投げた。
美沙夫が返事をしかねていると、ふたたび魔性の唇が迫ってきて、彼の耳たぶに毒液をそそぎ込む。
――――この唇が、こんどは奥さんの唇を奪う・・・
重ね合わされた唇に、美沙夫は陶然となって応じていった。
そのなめらかな唇が、あとものの三十分としないうちに、妻の生き血を吸い取ることになると知りながら。


こうこうと照らし出される街灯の下―――
一時間近くも待たされた美沙夫は、背後に人の気配を感じた。
感じたと思う間もなく、伸びてきた猿臂が美沙夫の両肩を捕らえ、抱きすくめてくる。
相手に、同性愛の趣味はない―――
そう確信している美沙夫だったが、二本の腕は熱っぽく彼に絡みつき、
絡新婦の巣が獲物を巻きつけるようにして、がんじがらめにしていった。
目のまえに差し出された、一葉の写真―――
美沙夫ははっとして、不覚にも昂ぶりを覚えてしまっていた。
それは彼の自宅を舞台にした、まがまがしくも妖しい世界が凝縮されていた。
荒縄をぐるぐる巻きにされた、妻の玉枝がそこにいた。

見慣れたよそ行きのワンピースに深々と食い込んだ縄目が、
三十代半ばの熟れた肢体を、むざんなほどに浮き彫りにしている。
振り乱された黒髪の、ツヤツヤとした輝き。
見慣れ尽くしたはずの目鼻立ちが恐怖と陶酔に歪んで、目にしたことのない色合いを滲ませていて。
着衣のそこかしこからチラチラと覗く、真っ白な肌。
きつく縛(いまし)められた足許をよぎる、ストッキングの光沢。

不覚にも、美沙夫は男に股間を握られていた。
恥ずかしいほどの怒張を察すると、男はそつなくスラックスの上から手をすべらせて。
ほど良い愛撫を敬意を込めて加えると。
愉しんでくれると思っていたよ。
薄っすらと浮かべた怜悧な嗤いには、かすかな親しみが込められていた。


ギュウッと縛られた女は、息も絶え絶えになるほどうろたえながら。
自宅の床のうえに転がされた姿勢のまま、その場から逃れようとするでもなく、悶えつづけていた。
洗練された都会ふうのデザインのワンピースを着たまま、
つい先日初めて屈辱を受けたときと寸分たがわず、きつい縄目を受けていて。
着衣を通して柔肌食い込んでくる縄目のきつさが、
女の身体にいままで体験したことのない快感を植えつけはじめている。
じわじわとしみ込んでくるえも言われない歓びに、
女は戸惑い、小娘みたいな羞恥を覚えながら。
迫ってくる唇をまえに、しきりにいやいやをし、顔を背けつづけている。
妾(わたし)はこんなことを悦んではいない。そんなはしたない女ではない。
いかにもそう言いたげに、必死に取り繕う拒絶の姿勢を。
男はやんわりと封じていきながら。
女の耳もとに、囁きつづけていた。

だいじょうぶです。ご安心ください。
貴女の生命まで奪おうというわけではない。
それに、このきつい縄目では、おみ脚を開くこともできますまい。
犯される気遣いさえ、ありはしないのですよ。

殺さない。犯さない。
男はそう断言しながらも、危険極まりない唇を、女の首すじに吸いつけようとする。
きゃっ。
玉枝はとっさに身体をすくめて、不自由な体で後じさりをしようとする。
男は強いて追おうとはせず、「ほほう・・・」と女を見おろして。
昨晩はどうやら、あまり愉しめなかったご様子ですな。
あくまでも言葉遣いだけは、丁寧だった。

女の身体に巻きついた縄は、かすかな身じろぎさえも封じ込んでいて。
身に着けたままの小奇麗なワンピースもろとも、犠牲者をきつく、縛めている。
夫の贈り物らしいよそ行きのワンピースは、不自然に曲がりくねられた華奢な肢体の周りを、洒落た花柄で彩っていた。
奥さまの献血に、感謝―――
男はそういうと、必死に身じろぎを試みようとする女体に身をのしかけていって。
首すじに吸いつけた唇は、怜悧な嗤いを絶やさないまま、牙をむき出しにする。
鋭利な牙はゆっくりと、うなじの豊かな肉づきのうえから突き立てられて。
力まかせに、グイ!と突き入れられた。
ワンピースの襟首に、赤黒い飛沫が散った。
あ、あ、あ、あ、あ・・・
玉枝はおののきながら、喉の奥からかすかな悲鳴を絞り出す。
女の苦しげな喘ぎを抱きすくめた身体で感じながら、男はなおも薄ら笑いを絶やさない。
身もだえする女をじらすように、わざとゆっくりと牙を皮膚の奥へと沈み込ませた。
象牙色をした牙は、淡い血潮をテラテラとあやしたびろうどのような皮膚の奥へと、ゆっくりと吸い込まれていって。
根元まで埋め込んだ瞬間、すべてを厚い唇が覆い隠していった。

ああああああ・・・っ

悲しくも切なげなうめき声が、いつまでも切れ切れに、障子の向こうの隣室まで、洩れつづけていた。


公園の街灯は、いつものように昏い輝きで、男ふたりの頭上に降り注いでいた。
綺麗なおみ脚には、縄をかけないことにしたのだよ。
さし示された写真のなか、大きく股を開いた妻は、
つい先週の親類の結婚式に着て行ったよそ行きのスーツ姿のまま、
自宅の畳のうえで、縄目の恥辱を受けていた。
さいしょのころの戸惑いや苦痛はその面差しからは消えて、
いまはこみあげてくる陶酔と歓びとをあらわにすまいと、必死に押し隠そうとする表情だけがそこにあった。

きょうはいつも以上に、昂ぶってくれるんだね?
それでこそ、こちらもし甲斐があるというものだよ。
苦心して撮ったんだ。遠慮なくたんのうしてくれたまえ。
悪魔の囁きに、美沙夫は知らず知らず、応じてしまっていたが、
応じてしまったことに対するうろたえや自覚すらも、その横顔にとどめられていない。
じかに視たいんだって?よくわかるよ。その気持ち。
でも玉枝は、なんと言うかな?お互い正直になり合えれば、ご夫婦の関係もよりいっそう濃くなるのだけれどね・・・
さりげなく呼び捨てにされた妻の名前にも、美沙夫はほとんど反応を示さなかった。
いいね?きみも奥さんの服を着て、縛られて横たわるんだ。
彼女に視られるのは恥辱だろうから・・・そうだね、隣の間との障子を、少ぅし細目に開けておこうか・・・


あ、あ、あ、あ、あ・・・
聴き慣れているはずの妻の声色は、妖しい翳りを帯びていて。
別人の女のそれと、聞き違うほどだった。
いやじっさい、別人になり果ててしまっているのかもしれない。
今朝も、あなたお帰りは何時?御飯はうちで召し上がる?日常にまみれたやり取りをしたはずの妻なのに。
今夜の妻の衣装は、初めて目にするものだった。
毒々しいほどに真っ赤なスーツに、黒のストッキング。
まるで高級クラブのホステスのようななりに、白い肌と清楚な黒髪とが、むざんなほどに似合っていた。
いつもより厚化粧をした妻は、派手派手しい衣装に取り巻かれて、つとめて別人になろうとしているようすだった。

美沙夫はというと、その妻がいつも着ているワンピース―――初めての縛られた折の、あの花柄のワンピースだった―――を着込まされて、暗いままの隣室に、荒縄をぐるぐる巻きにされて、転がされていた。
妻の服を着せてくれたのは、服の持ち主じしんだった。

あなた?男のくせに、女のひとの服を着たいの?
困った人ね。じゃあ妾(わたし)が、着せてあげる・・・
酔ったような口調の妻は、謡うようにそう言い放つと。
立ちすくむ夫の周りを、チョウのように舞いながら。

どお?スリップ着けると気分変わるでしょ?
とか、
妾(わたし)の秘蔵の、真っ赤なパンティよ。あなたこれ選ぶなんて、いやらしいわ・・・
とか、
すね毛を剃って正解ね。ストッキング似合うわよ、あなた・・・
とかいいながら、

胴回りをサラサラながれるスリップの生地ごしに夫の身体を撫でたり、
思わせぶりな手つきで腰に巻きつけたパンティのひもを、わざとギュウッときつく締めつけてみたり、
薄手のナイロンに覆われたふくらはぎを卑猥な手つきでじわりとなぞっては、妖しい感触を皮膚の奥へと滲ませていったり、

言葉と手つきで、夫の所業を責めつづけていった。

その行為が終わると女は、傍らで影のように佇みつづけていたじぶんの愛人をふり返ると。
献血のお時間よ。
まるで女主人が指図するような口ぶりで、そういうと。
女の衣装のうえから縄目を食いこまされて転がされた夫の目のまえで、
まるでこれ見よがしに、夫以外の男との接吻を、愉しんでいた。

縛られたまま、生き血を吸い取られる。
さいしょはそこまでにとどめられていた行為が、今夜初めて解禁される・・・

女の身体には、もう縄目はなかった。
その縄目は、いま彼女の夫が、まるで身代わりのように身体に食い込まされている。
自由の身になった女は、きゃあきゃあと小娘みたいなはしゃぎ声を立てながら、
狭い部屋のなか、弾む足取りで逃げ惑いって。
わざとのように、追い詰められて、立ちすくんで見せて。
あなた・・・あなたあっ。怖いっ!助けてえっ。
もはや彼女を救い出すすべを持たない夫に、わざとらしく援けを求めて。
かなわぬと見るや、たちまち魔性の猿臂に抱きすくめられて。
ああっ!!
押し殺した悲鳴とともに、ふすまに飛び散るバラ色の飛沫・・・

わざと半開きにされた障子の向こう。
熱演される惨劇のいちぶしじゅうを、目の当たりにさせられて。
けれども美沙夫は、えも言われない昂ぶりの虜になっていた。
妻が身に着けていた衣装越し。
じわじわと食い込んでくる縄目の締めつけが、彼の皮膚の奥深く、感じてはいけない愉悦をしみ込ませてくる。
この縄が。この縄が。妻の身体を縛めたのか・・・
こんなにしなやかなスリップを身に着けて。
こんなに軽やかなワンピースを、着くずれさせて。
こんなに妖しい締めつけをするストッキングに、欲情まみれの唾液をなすりつけられて。
そうして妻は、堕ちていったのか・・・
男の身でありながら、妻の衣装に身をゆだねてしまった彼は、
おなじ誘惑が自分の肉体を、もはや逃れようもなく支配の影を蔽いかぶせてくるのを、避けようがなかった。

しゅ、主人以外の男のひとは、初めてなのよ・・・
さいごのさいごの段階になって、さすがにうろたえた妻の声はかすかに震え、
その声色を、熱い接吻が、どす黒い劣情へと、瞬時にすり替えていった。
恥ずかしいほどあからさまな自宅の灯りの下。
真っ赤なスカートを着けたままの白い脚は、
その足許に、黒のストッキングを淫靡にたるませたまま、ゆっくりと開かれてゆく――――

あうっ・・・あうっ・・・あうっ・・・
娼婦と化した女は、厚い嫉妬に昂ぶる夫の視線もおかまいなく、
いやむしろ、あからさまにさらけ出すのを愉しむかのように、
わざとのように露骨に、腰を振り始めていた。
スカートを脱がされてむき出しにされた臀部の皓(しろ)さを、理性を狂わせた夫の網膜に灼きつけながら。
片方だけ脱がされた黒のストッキングが、畳のうえに蛇のようにくねりながら伸びていて。
部屋のすみに脱ぎ捨てられた黒のパンティが、淫靡な光沢をたたえていた。
夫婦の新たな関係を、祝福するかのように・・・
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