FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

新年の御挨拶まわり

2013年01月03日(Thu) 11:18:33

本家の宅を両親といっしょに辞去した初子は、母親を振り返ってこういった。
「お邸のおじ様のところにごあいさつに伺いたいの。・・・よろしいかしら?」
母親はちょっと困ったような顔をして父親を見、父親が素知らぬ顔をして前へ前へと歩みを進めていくのにつられるように当惑げに数歩あとにつき従ったものの、好い加減にはからえとの内意だろうと独り合点をして、言いつくろうように娘に応えた。
「もう晩い刻限ですから、あまり長居をしたら失礼ですよ。貴女も年ごろなのですから、行いには気をつけてね」
「ハイ、お母様」
旧家の習いで、母娘といえども礼儀を重んじる、折り目正しい家だった。
初子ははた目には他人行儀ともみえるほど丁寧な一礼を母親に、そして逃げるような足取りの速さで間遠になった父親にもおなじ一礼を投げ送って、独り道を変えた。

遠ざかってゆく娘の、セーラー服の襟のラインが闇にとけるころ、夫に追いついた初子の母は、ひっそりと呟いた。
「あの子も、大人になろうとしているのでしょうね・・・」
父親は妻のそんな囁きにも、応えを返さなかった。

行き着いた先は、街はずれの古びた邸だった。
新年の賑わいとは裏腹に、すでに灯りは消えて、その邸は闇に埋もれていた。
鬱蒼と茂る庭木が、葉を落とした太い幹を黒々と拡げて、建物への視界を遮っている。
黒のストッキングの脚を大股に開いて玄関に歩み寄った初子は、思い切りよくブザを鳴らした。
それは近代的な邸宅である初子の家が備えたインタホンなどという洗練されたものではなくて、雰囲気もなにもない「ブー」という殺風景で無感情な音を立てるだけの仕掛けだった。
人通りの絶えた闇夜に、ブザの音はいつも以上に響き、初子はその音に縮み上がるように、それまでの思い切った挙措を凍りつかせた。
「お入り」
かすかな声色が邸の奥から洩れるのを確かめると、初子はそう・・・っと古びた木製の門の扉を開け、なかへ脚を踏み入れた。
開かれた門からは玄関の灯りの頼りなげなくゆらぎが一瞬覗き、またすぐに閉ざされた門によって遮られた。

施錠されていない無人の玄関を、訪いも入れずに初子はあがり込んだ。
じつはこの邸は、「吸血鬼屋敷」と称されていて、街では知る人ぞ知る家であったのだが、
訪いを入れた少女は、すでになん度もこの邸に訪問を重ねているらしいようすだった。

築数十年を経たこの邸は、和洋折衷で、部屋のいくつかは和室になっていた。
射し込む月明かりだけをたよりに真っ暗な室内を迷うことなく初子がたどり着いたのは、
一階のもっとも奥まった広い和室だった。
床の間には古びた掛軸がかかげられ、和室の一隅にしつらえられた大きな香炉からは烟が揺らぎ、一種妖しげな淫靡な芳香を漂わせていた。
「こんばんは、おじ様」
初子はつとめて明るい声で、こちらに背を向けて掛軸に見入っている人影に、声をかけた。
人影は無応答だったが、初子はひざ下まで丈のある制服のプリーツスカートを器用にさばいて正座をすると、改まった口調になって、
「新年のごあいさつに、おうかがいしました」
母親から教わりたてらしい、ぎこちない手つきで三つ指をついて、深々と頭を垂れた。
「よう来たな」
老人は初めて少女に横顔を見せた。
干からびきったような細面。
深い皺を刻んだ皮膚の下、若いころはさぞやと思うほど秀でた目鼻立ちが、まるで苔に埋もれた王宮のように埋没していた。
老人は値踏みするような目つきで少女を見、少女はさっきまでの勢いはどこへやら、ひどくしおらしくなってしまって、顔を赫らめしばらく口ごもっていたけれど、
「ふつうのひとが齢を取るところ、おじ様は今夜、若返りたいんですものね・・・?」
なぞをかけるようなことを言った。
まるで暗誦してきたような、抑揚のない声色だった。
「よう言った」
老人は満面の笑みを泛べると、素早く初子の背後にまわり込んだ。
いったいどうやってこんなに素早く移動することができたのだろうかと疑うくらい、獣のようなすばしこさであった。
「きゃっ!」
いきなり抱きすくめられて、初子は思わず声をあげた。
白のラインが三本走るセーラー服の襟首に縁どられた白い首すじに、腥(なまぐさ)い吐息をかけながら、老人は節くれだった両の掌で、少女の両肩をまさぐりはじめる。
濃紺の長袖のうえからもの欲しげに食い込む指はかさかさに干からびていて、長く尖った爪がその切っ先を鈍く光らせていた。
「クフフ。そなたのうら若い生き血、ありがたくいただくぞ」
うなじに唇を近寄せてくる老人に、初子はけんめいな声で言った。
「学費を出していただいているお礼でこうするわけではないのですからね。
 おじ様の苦衷に同情して、心づくしとして差し上げるのですからね」
金銭づくでもなく、なにかと引き替えでもない。
これから受ける屈辱を、せめて無償の善行に引き替えたいという感情が、あらわになっていた。
老吸血鬼は、いとももの分かりよく、少女の願いを容れていた。
「わかっておる。今宵のそなたの恵みに、心から感謝する」
そういうとカサカサに乾いた唇の両端から鋭利な牙をむき出しにして、
黄ばんだ切っ先をズブズブと、少女のうなじに埋め込んでいった。
「ああああッ…」
少女は眉をキュッと吊りあげ、哀切な悲鳴を口許から忍ばせた。
とっさに硬くした上体を、吸血魔の猿臂が、がんじがらめに抱きかかえている。
うら若いうなじに吸いつけられた唇はヒルのように少女の皮膚のうえを這い、
かすかに飛び散ったバラ色の飛沫が、制服の襟首に走るラインにかすかに撥ねて、チラチラと輝いていた。

ちゅうっ・・・
しずかな、そしてむごい音が、セーラー服姿におおいかぶさった。
ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
ナマナマしくあからさまな吸血の音が重なるにつれて、初子の上体はじょじょに傾いていって、やがて吸血魔のあやすような両手に寝かしつけられるようにして、たたみの上に横たわった。
「クフフフフフッ」
吸血魔はにんまりとほくそ笑むと、こんどは黒のストッキングを履いた足許へと、かがみ込んでゆく。
薄手のナイロン生地に薄っすらと透けたピンク色のふくらはぎが、もの欲しげに這わされる唇の下、ジューシィに活き活きと輝いている。
初子はまだ、意識があるらしい。
ストッキングを破ろうとする「おじ様」にむかって、批難するような目線を投げたものの、
それ以上抗いをみせることもなく、観念したように目を瞑った。
不埒なまさぐりを重ねてくる手指に、黒のストッキングをみすみす、ふしだらによじれさせていった。
「愉しませてもらうぞ、娘ごよ」
薄れてゆく意識の縁でそんな声を聞いたような気もするが、さしもの初子も悩乱してしまったらしく、そこからの記憶は定かではない。

ふと目を開けると、頭上に室内の灯りがこうこうと点されていた。
初子は和室の真ん中に大の字になって、あお向けに横たわっていた。
逢瀬を遂げたあとの室内には、そこかしこに、深紅のしずくが散っている。
ついさっきまでわが身をめぐっていた血潮のあとを無感情に眺めると、さっきからずうっと足許にかがみ込んでいる「おじ様」の姿をみとめた。
「おじ様」
呟くようなちいさな声に、男は敏感に反応した。
「目が覚めたかね?」
「あー・・・」
起きあがろうとした初子はすぐに眩暈を覚え、またもとのとおりにあお向けになってしまった。
「無理をするでない」
振り返った男の口許には、初子の身体から吸い取った血潮が、バラ色にチラチラと輝いていた。
「ずいぶん吸ったのね」
批難を込めて顔をしかめる少女に、男は素直に「すまないね」といった。
けだるそうに立て膝をした初子は、さりげなく自分の足許に目をやった。
意外にも黒のストッキングはまだ破かれてはおらず、柔らかな灯りを受けてツヤツヤと照り返していた。
「目のまえで破ってみせようと思うてな」
「やぁだ・・・」
初子ははじめて、ふだんの闊達な声に戻っていた。
ごく親しい友だち以外には、おじ様にしか見せない顔つきだった。
「いやらしいわ」
すくめてみせた脚にはしかし、それまでにたっぷりいたぶられた証拠に、なすりつけられ「おじ様」の唾液が生温かく、くまなくしみ込まされていた。
「しょうがないおじ様ね。いいわ。特別に許してあげる」
厳めしい顔だちにかすかに照れくささを見せた「おじ様」に、初子はちょっとばかり優越感を取り戻すと、
そろそろと身じろぎをして、こんどはうつ伏せに身を横たえていった。
「嫌だけど、噛ませてあげる。おじ様大好きよ」
少女がむしろウキウキとした顔つきで目を瞑ると、おじ様は尖った牙をあからさまにむき出して、少女のふくらはぎに埋め込んでいった。
ぶちぶち・・・っ。
圧しつけられた分厚い唇の下。
薄手のナイロンがかすかな音をたてて、はじけ散った。
少女の足許を薄っすらと染めるナイロン生地のうえを走る伝線が、つつ・・・っとつま先まで走り、
欲情にまみれた唇をクチュクチュとしつッこくなすりつけられるたびに、裂け目はじょじょに、拡がっていった。
ストッキングをむぞうさにブリブリと破かれてゆくにつれて、足許にまとわりつくような緩やかな束縛がほぐれてゆくのを感じながら、初子はイタズラっぽい笑みを口許に滲ませて、うふふ・・・フフフ・・・と、くすぐったそうに笑いこけていた。
邸の玄関をくぐったときに感じていた切羽詰った義務感も、無垢な素肌に辱めを受けることに対する羞恥心も、もちろんまだ感じはしていたものの、潔癖に張りつめた緊張感をここまで妖しく解きほぐされてしまうと、むしろそれらは禁忌を破ることを愉しい刺激にすり替えてしまうためのスパイスとなって、初子はいままで感じたことのない妖しい悦びと昂ぶりに浸されてゆくのを感じていた。

破けたままのストッキングを履いた脚を夜風にさらして家路をたどる初子を、吸血魔が家のまえまで送っていったのは、言うまでもない。
なれなれしく肩に置かれる手のひらを時おり払いのけながらも、セーラー服の襟首にちょっぴり滲んだ赤黒いシミについて母親にどんな言い訳をしようかと、そればかりが念頭にあるだけだった。


web加工050605 025
前の記事
支配された西洋館
次の記事
魔性の少年

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/2924-9fea0ba9