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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

連れてこられた少女

2013年01月03日(Thu) 11:39:07

「まだ、幼すぎやしないか?」
俺は思わず目をむいた。
相棒が連れてきた少女は、それほどまでにまだ、幼すぎる年恰好だったから。
いい家の子女なのか。ただたんに、だれかのお古を借りているだけなのか。
ぱりっとした濃紺のブレザーに、Vネックの襟首に紺色のラインの入った純白のセーター。
青と紺のチェック柄のプリーツスカートの裾から覗く細い肢は、真っ白の真新しいハイソックスがひざ小僧のすぐ下まで覆っていた。
もっともらしい姿をしてはいるものの、あきらかに吸血対象の年齢の最小限になるかならないかの、年端もいかない少女。
それでも俺の正体を言い含められて連れてこられたものか、口許からうっかり覗かせてしまった鋭利な牙を、怖がりもせずに見入っている。
「しょうがないですよ。だんな。」
相棒は言い訳がましく、もろ手をあげて肩をすくめて見せた。
「喉をからからにした吸血鬼殿にわが子の生き血を提供してくれようってほど気前の良い親御さんなんて、どこ探したってなかなか、おりはしないですからね」

事業の破たんや不景気で、身売りをするものさえ珍しくないご時世だった。
代々俺の家に仕える家系に生まれたこの相棒は、俺の性癖をもちろんのことよく心得ていて、
そうした困窮した家を見つけては、幾ばくかの金を払って俺の相手を買って出る女を見つけてきてくれるのだった。
どう言い含められたものか、送り込まれてきた女たちはとても従順で、もちろん多少の抵抗は試みるのだが、しょせんは金に縛られている身を大人しくゆだねるしかない立場の身の上だった。
それでも、ことさら処女の生き血にこだわればこういうことになると、俺もわかっていなかったわけではない。
ただ、年に一度は処女の生き血に牙を浸さなければ、生きていくことのできない身体だった。
「まるまると肥えたのを連れてきますワ」
相棒は安請け合いをして夜の巷へと繰り出していったが、折り返しに連れてこられた少女は見るからに痩せっぽちで、いくらも血を摂れそうになかったのだ。
「だいぶん、話が違うようだな」
俺はわざと見くだしたような態度をとったが、やつにはさっぱり、こたえなかったようだ。
「じゃ、お愉しみを始めてくだせぇ。朝までには帰してやる約束なんでね」
血が足りないと自分の女房や娘を襲われると、こちらの手のうちを知り尽くしている相棒は、今夜は久しぶりに自宅に戻るつもりらしかった。

「あたしじゃだめですか?」
え?
あまりにも低い位置から投げられた声に、俺は虚を突かれて、声の主を視線で求めた。
「あたしじゃ、いけないですか?」
想いのほか、せつじつな声色だった。
貧弱に伸びたひょろ長い手足を痛々しそうに眺める俺に応えるように、年端もいかない目鼻立ちが、まっすぐこちらを見つめていた。
「いや、そんなことはない」
虚を突かれたことを蔽い隠すように、俺は虚勢を張ろうとしたが、少女はそんな俺の思惑を知ってか知らずか、
「だいじょうぶですから。怖くありませんから。・・・痩せっぽちでもの足りなかったりしたら、ごめんなさい」
少女はそういって、立ったまま目を瞑る。
仰のけられたおとがいの下、白くて細い首すじがむしろ、痛々しく映った。

俺はふと身をかがめ、少女のまえに跪いていた。
こんなまねをするのは、なん年ぶりのことだろう?
まして、連れてこられた生贄を相手にこんなまねをするのは・・・
「今宵貴女を、レディとして迎えよう」
古めかしいやり方で手の甲に接吻をした俺に、ふわっと笑いかける気配を感じた。
見あげてみると少女は無邪気にほほ笑んで、白い歯を見せている。
「プリンセス、って呼んでくれなくちゃ、いやぁよ」
自分の遇され方を理解したことで、少女はやっと、自分らしさをすこしだけ、取り戻したらしい。
「はい、プリンセス」
俺の方がむしろ硬くなって返事を返すのが、我ながら可笑しかったが。
それでも俺は少女に向かって恭しく頭を垂れ、それから目にもとまらぬ素早さでか細い身体を抱きかかえ、お姫様抱っこをして、隣室のベッドへと放り込んでいた。

「ご覚悟は、よろしいな?」
ふたたび迫らせた顔に、少女は神妙な顔つきで肯くと、さぁ、どうぞ・・・と言わんばかりに目を瞑る。
おとがいの下迫らせた牙は、ほっそりとした首すじには気の毒なほど、太い。
けれどももう俺は本能のおもむくままに、昂ぶりの頂点に達した牙を、ずぶりずぶりと、少女の柔らかいうなじの肉に埋め込んでいった。
しなやかな皮膚の、もっちりとした噛み応え。
あふれ出る血潮の、生気に満ちた芳香。
十代の少女がその身体のうちに育んだ健康な血潮が、干からびた血管のすみずみにまでめぐっていく快感に、俺はなにもかも忘れて、酔い痴れた。

キュウッ、キュウッ、キュウッ・・・
ズズッ・・・じゅるじゅる・・・っ
汚らしく貪る音に臆することなく、少女は俺の吸血に応え、耐え抜いていった。
か細い身体に、渾身の気力をみなぎらせながら。

朝が迫っていた。
俺は少女を起たせ、少女はけだるそうに髪の毛を振りながら、けなげにも身を起こしてきた。
「平気かね?」
罪滅ぼしにしか過ぎないはずの気遣いに、少女はまっすぐとした視線で応えてきて、
「ウン、平気」
血の気の失せた頬に、意地っ張りなくらいの生気をみなぎらせてみせる。
解放する前に犠牲者の記憶を消すのは、俺の役目。勿論そんなことは、朝飯前のことだった。
この子は今夜のことも、俺のことも忘れてしまうのか―――
いつになく、名残惜しかった。
ふと、少女が瞑っていた目を開いた。
「あたし、小父さんのこと憶えているよ。だいじょうぶだよ。だれにも話さないから・・・」
催眠をかけようとして振りかざした手を、俺はなにかに強く制されるように、止めていた。

相棒に付き添われて去ってゆく小さな影が視界から消えるまで、俺は残り惜しげに見送っていた。
そんなことは、ここしばらくないことだった。
俺はあの子に、記憶を消す術を使えなかった。
もしかすると少女はそれでも、周囲のものに喋らされてしまって、この隠れ家にも、追っ手の手が伸びるかもしれない。
そのときはまた、そのときだ・・・
俺は自分の未熟さをほろ苦く呑み込みながら、ふと少女の言葉を反芻していた。
「だいじょうぶですから。怖くありませんから・・・」
あれはもしかすると、俺をなだめる声だったのか・・・
記憶に浮かび上がる少女の顔だちは、さいしょに接したときのか細い印象ではなく、まるで姉のように気丈な優しいほほ笑みに満ちていた。
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