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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

洋館の誘惑

2013年03月04日(Mon) 06:51:43

都会の郊外にあるその洋館の奥深くにある寝室は、ルイ王朝風の豪奢な造りだった。
学生時代にヨーロッパ旅行をして以来、税所江津子がこんな室内を目にするのは、たぶんはじめてのことだった。
その彼女はいま、ベッドのうえにいる。
訪れたときのスーツ姿のまま襲われた彼女は、ブラウスやスカートをまだ身に着けたまま、犯されているのだった。
すぐ傍らにある古風な椅子の背もたれには、江津子の着てきた黒のジャケットが、きちんと掛けられている。
綺麗な洋館に伺う。
そう誘われた彼女は目いっぱいおめかしをして、此処に来たのだ。
新品のガーター・ストッキングは彼女の脛を淫靡な輝きで包んでいたが、
ストッキングのうえからするりと抜かれたショーツはベッドの傍らに落ちていて、深紅の絨毯のうえにショッキングピンクの彩りを添えていた。

初めての痛みに打ち震えながら涙を浮かべた江津子は、歯を食いしばってかぶりを振っていた・・・はずだった。
「痛い」
江津子がそういうと、
「じきに慣れる」
そんな応えがかえってきた。
たしかにそうだった。
二度三度・・・とくり返すうち、痛いだけだったはずの衝撃は、じょじょにきわどい疼きのようなものを濃くしていって、さいごに苦痛が快感にすり替えられていった。
「相性がいいようだ」
いい気な言いぐさに女は、
「そうね・・・」
仕方なくそう、応えていた。
相手の男は、日本人ではない。
銀色の髪の下の広い額、そして彫りの深い目鼻立ちがそう語っていた。
かといって純粋なアーリア人種でないことは、逞しい筋肉を蔽う褐色の肌が示していた。
齢のころは、三十くらいだろうか。いや、もっと上だろうか?案外江津子の父と、同年齢くらいかもしれない。
逞しさとしなやかさによろわれた老練な手管が、彼の年齢をわからなくさせている。

しだいに意気投合し始めた江津子はしかし、(これでいいはずはない)と、思っていた。
結婚するまでは肌を許さない・・・いまどきではないかもしれない保守的な感覚がそうさせていたこともあったのだが、
それ以上の理由として、もうひとつのっぴきならない事情が、隣室でくり広げられていたから。
廊下をへだてた真向かいの部屋。
この部屋とまったくおなじ造りらしい其処には、木藤喜美恵がべつの男とふたりきりでいた。
喜美恵は江津子の兄の婚約者で、挙式を来週に控えているのだった。
誘いをかけてきたのは、喜美恵のほうからだった。
―――お兄様と婚約している身なのに、これでは不倫ではないか。
―――許せない。あたしをこういう立場に追い込んで、自分の不倫を通そうなんて。
そんな想いが江津子の胸の奥に、澱のような不純物となってむくむくと湧き上がっていた。

「兄嫁のことを考えているな」
男はすべて、見通しているようだった。
「不純だわ」
「ははは。いいじゃないか。あんたはあんたで、愉しめば良い」
「そんな・・・そんな・・・」
露骨な言いぐさに腹を立てて、江津子は暴れた。
けれども彼女の四肢は、展翅板に拡げられたチョウのように自由を失っていた。
力いっぱいの抵抗は、わずかな身じろぎに抑え込まれて、シーツの皺を深くしただけだった。

男の唇が、江津子の首すじを這った。
唇の下には、一対の咬み痕が疼いていた。
なにも知らない江津子をこの部屋に招き入れた男は、彼女をベッドの傍らに立たせて背後から忍び寄り、さいしょに首すじを咬んでいた。
尖った二本の犬歯に皮膚を冒された江津子は、激しい眩暈を覚えて、そのままベッドに倒れ伏したのだった。
ちゅう・・・っ。
江津子の血を吸い上げる音が、静かな昂ぶりのこもった室内に洩れた。
ひいっ・・・
体内をめぐる血潮が傷口を抜ける感覚のおぞましさに、江津子は声を洩らして縮みあがった。
「じきに慣れる」
男はさっきとおなじ言葉をくり返した。
「そんな・・・」
江津子は悶えたが、男は放さなかった。
ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・ちゅうっ・・・
静かになった女の身体に覆いかぶさった黒い影は、女の二の腕をしつようなくらい撫でていた。

ブラウスに散ったなま温かい飛沫が、サテンの生地にじょじょにしみ込んでいって、その下に着けたブラジャーを濡らし、さらにその下に秘めた乳房を浸す。
着衣のうえからのまさぐりは、すでに十分に、その豊かなふくらみに熱を与えていた。
江津子は無念そうにキュッと目を瞑り、それからゆっくりと、ガーターストッキングを穿いたままの脚を、披いていった。
「お嬢さん、なかなかタフだね」
男はクスッと笑い、女は「ばか」といって、顔をそむけた。
なん度めかの吶喊が、江津子の局部を冒した。


部屋を出たときちょうど、向かいの部屋のドアも開いた。
江津子の真向かいには、来週から兄嫁になるはずの女が、蒼い顔をして佇んでいた。
振り乱された長い黒髪。
血色を喪いやつれを帯びた頬。
肩ひもが片方二の腕に落ちた、ふしだらに着崩されたブルーのワンピース。
青みがかったグレーという珍しい色のストッキングはむざんに引き剥かれて、ひざのあたりまで破れ落ちていた。
江津子は自分自身を鏡で見ているような気分がした。
「ブラウスに血が撥ねているわ」
義姉になる女の指摘に、
「真っ赤なブラウスだから目だたない」
江津子は意地を張るように、ぶっきら棒にこたえた。

え・・・?
わが目を疑う思いだった。
江津子の傍らにいた男が、義姉を抱きかかえるようにして、隣の部屋に入った。
喜美恵の隣にいた男は、入れ替わるようにして、江津子を抱えてもとの部屋に後戻りさせた。
両方のドアが、ほぼ同時に閉じられた。
向こうの部屋のドアが閉まる寸前、ベッドに投げ入れられた義姉の陶然とした表情が白い顔に浮かぶのが見えた。
「愉しみましょう、マドモアゼル」
洋風の顔をした男が口にすると、ちっとも気障に聞こえなかった。
そのうえ男は、真顔だった。
さっきの男よりやや老けているものの、うり二つの顔だち。
一見して兄弟とわかる関係だった。
有無を言わせず追い詰められたベッドのきわで、江津子はあくまで拒絶のことばを口にし続けたけれど。
抵抗する意思を失った身体はそのままシーツに沈められていって、二人めの男を体験させられていた。


白百合のような。
そう表現したくなるほど、広間にひかえていた二人の婦人は、色が白かった。
アーリア系の肌の白さに、江津子は目のくらむ想いがした。
ふたりは薄紫とピンクの、色違いのロングドレスに身を包み、
アップにした金髪の下にむき出しになった首すじには、今夜の女の賓客ふたりとおなじ、赤黒い咬み痕を滲ませていた。
「姉妹なんです、妾たち」
年かっこうから見て姉らしい、薄紫のドレスの女がそういった。
「あたしたち、どうなるんですか?」
性急すぎる問いに、ピンクのドレスの女がこたえた。
「くり返し、いらしていただくことになるでしょう」
「そんな・・・」
江津子は身を揉んだ。
ちょうど真上の部屋では、喜美恵が男ふたりを相手に、宴のつづきを演じていた。
「どうすれば抜けられるの?」
「さあ・・・それがわかっていれば、妾たちも抜け出していることでしょう」
江津子の目のまえが真っ暗になったのは、貧血による眩暈ばかりではなかった。


「ここでお別れしましょうね。ひとりで帰れる?」
兄嫁らしい気遣いは、この洋館の玄関をくぐる直前と変わりなかった。
江津子は24歳。
喜美恵は27歳。
一本気な江津子を、喜美恵は洗練された優雅さと計算し尽くされた話術とで、かんたんに籠絡していた。
「じゃあね。お兄さんによろしく」
まったく悪びれずに別れのあいさつを口にする喜美恵を遮るように、
「わたしが送る」
さいしょに江津子の相手をした弟のほうが、冷然とした語調でいった。
「夜は危ないからな」
あなたほど危ない男はいないのに。
自分より頭ひとつ背丈のすぐれた男を、江津子は上目づかいでにらんだ。
江津子自身は気がついていなかったが、まるで恋人を見あげるまなざしになっていた。



「いつまでお寝み?」
透きとおったきれいな声が愉しげに響いて、目覚めたばかりの江津子を弄りものにした。
はっとして起き上がったのは、自室のベッドだった。
あれは悪夢だったのか?
断りもなく部屋に入り込んできた喜美恵を咎めることも忘れて、江津子は頭を抱えた。
目もくらむような貧血に、夕べの出来事が事実なのだと思い知らされた。
喜美恵はゆったりとほほ笑んで、上品な紫のスーツがよく似合うすらりとした肢体をくつろげている。
「もう夕方よ。初めてだったから、しかたないでしょうけれど」
喜美恵のおとがいのすぐ下には、ふたつ綺麗に並んだ痕が滲んでいる。
白い皮膚の底だけがむざんに抉られて、赤黒い痣になっていた。
そのコントラストは、醜さよりもむしろ、もっと蠱惑的なものがただよっていて、江津子はついうっとりと、見とれてしまった。
「あなたにだけ、いいこと教えてあげる」
喜美恵は愉しげな微笑を絶やさずに、ウフフ・・・と白い歯をみせて肩をすくめた。

いちど帰宅した喜美恵は、肩先に血のにじんだ青のワンピースを脱ぎ捨てると、
ベッドにつくこともなくシャワーを浴び、紫のスーツに着替え、
かねて約束していた婚約者の輝夫とその両親との待ち合わせ場所に急いでいた。
朝の10時。
待ち合わせ場所は、あの洋館のすぐ前だった。

「晩御飯ですよ」
母の声が、階段の下からした。
いつになく、疲れたような声だった。
江津子は喜美恵の脇をすり抜けるようにして、部屋を出た。
喜美恵は相変わらず含み笑いを絶やさずに、江津子のあとにつづいた。

「きょうは皆さん、早く寝ましょう」
母はまだ、和服姿だった。
いつもお茶会やお招ばれのときに見慣れた、濃い紫の和服だった。
蘇芳色の帯も、きちんと締めたままだった。
けれどもどこかに、違和感があった。
和服の時にはいつもきりりと結い上げているはずの黒髪が、妙に乱れていた。
ほつれた後れ毛がいくばくか、頭の輪郭からはみ出している。
面やつれもひどく、頬がこけているように見えた。
なによりも、和服の感じが変だった。
着くずれした襟元が微妙に曲がっていて、見慣れない赤い斑点が付着していた。
なによりもその首すじにふたつ綺麗に並んだ痕に―――江津子は危うく声をあげそうになった。
黙々と箸を動かす父や兄の首すじにも、おなじものがついていた。
ふたつの傷口の間隔は、母のそれに比べてひと周り狭かった。
「吸血鬼なの。あのひとたちも」
身を寄せ合うように怯えた顔をしていた薄紫とピンクのドレス姿が、記憶の彼方でかすんでいた。


週明けの出勤のあわただしさは、江津子の気分を入れ替えてくれた。
けれどもどうしても、みんなのまえに出るのに気後れがあった。
父も兄も、送り出す母も、だれひとり気にかけていないようだったけれど。
だれもが首すじに帯びている、あのふたつの痕―――
問いただされたら、なんと応えればいいのだろう?
始業まえトイレでいっしょになった同期の江藤沙希に、「ちょっとちょっと」と、江津子は手招きをしていた。
「ここ、変じゃない?」
自分の首すじを指さして、思い切って、訊いてみた。
「え・・・?」
沙希からは、薄ぼんやりとした反応しか、かえってこなかった。
「なんともなってないけど」
え・・・?
鏡を見直す江津子の目には、咬まれた痕がありありと滲んで見えるのだった。


白のタキシードも凛々しい兄。
そのあとを楚々とつき随う、青のカクテルドレス。
俯きがちな面差しにかすかな羞じらいさえ浮かべて、喜美恵は初々しい花嫁を完璧なまでに演じていた。
江津子は終始、落ち着かなかった。
彼女を含む家族全員がまだ首すじに滲ませているはずの咬み痕は、だれの目にも触れないらしい。
それは一週間の勤務を経て、じゅうぶん自覚はしていたけれど。
鏡を見るたびに目に入るくっきりとした痕は、あの狂おしい一夜の記憶と結びついて、江津子をひどく苦しめた。

そのうえ、きょうの会場の新婦側の席には、あの兄弟がひっそりと腰かけていた。
ふたりはそれぞれ、あの姉妹を傍らに随えていた。
どういう関係なのかいまだに判然としないけれど、はた目には二組の夫婦にみえた。
彼らは部屋の片隅で気配を消すようにひっそりとしていたが、会場のすべてを見渡していた。
そうして、足音も立てずに狙いを定めた夫婦の傍らに佇むと、夫の側にお酒を注ぎ、
連れ立った女のほうが、夫人の側にお酒を注いだ。
ほんの数秒歓談したかと思うと、女は夫のほうを、男は夫人のほうを伴って広間を出、しばらくのあいだ戻ってこなかった。
用を足しに席を立ったとき、ふと気になって辺りを伺うと、宴席のちょうど隣室に小部屋があるのに気がついた。
ちょっとのあいだためらったけれど、好奇心が理性にまさっていた。
見てはならない光景に、江津子は息を呑んで、そして見とれてしまっていた。
金髪の女は、ソファに横たえた夫君の首すじに、吸い取った血を滴らせて、
褐色の男は、絨毯に組み敷いた夫人のスカートの奥に、ひたすら吶喊を試みていた。


披露宴の会場を後にすると、江津子は両親と別れ、まっすぐ洋館を目ざした。
出迎えたのは、金髪の婦人の姉のほうだった。
あの晩とおなじ、薄紫のドレスを着ていた。
披露宴の会場では、どんな服装だったのか・・・どうしても思い出せなかった。
たぶん、こんな時代がかったドレスなどでは、なかったはずなのに。
女は「やっぱりいらしたのね」という表情をありありと泛べながら、江津子をなかに招じ入れた。
「きょうはおひとりなのですね」
「はい」
「二人同時に、相手をする羽目になりかねませんのよ」
からかうような女の口調に、江津子はことさら感情を消して、
「はい」
と応えていた。
女に招き入れられた寝室で、待ち時間はほとんどなかった。
うり二つの兄弟が肩を並べて、江津子のまえに立ちはだかった。

はぁ。はぁ。はぁ・・・
江津子の髪は黒々として、豊かだった。
汗を含んだその髪が、ひどく重たくユサユサと揺れるのを感じた。
ひとりは首すじに、ひとりはふくらはぎに唇を吸いつけていた。
あるいは二の腕に、あるいは手首に。
着衣のまま、かぶりついてきた。
披露宴会場で、あれほど多くの人を毒牙にかけていたのに。
このひとたちは、まだ渇いているというのか・・・
ブラウスの袖が裂け、二の腕がむき出しになっていた。
力を込められた筋肉がキュッとしなやかに浮き立ち、すぐに弛んだ。
咬まれるたび、抵抗は徐々に和らいでいった。
着衣越しに密着させられてくる逞しい胸についドキドキと胸を高鳴らせ、背中に腕を巻いてしまっていた。
ガーターストッキングごしにすり合わされてくるごつごつとした太ももに欲情を覚えて、脚までからめ合わせてしまっていた。


血の抜けた身体が、ひどくけだるい。
意識を取り戻した江津子の傍らには、だれもいなかった。
頭が重たい。視界が霞んでいた。
帰らなければ―――
江津子はこのまえの晩とおなじように椅子の背もたれに掛けられたジャケットを手にすると、
裂けたブラウスを覆い隠すように袖を通した。
なぶり抜かれた足許には、ストッキングの裂け目が縦横に滲んでいた。
すでに外は暗くなっていた。
肌色のストッキングの裂け目は、夜目には見えないだろうか?
江津子はフフッと口許に笑みを泛べた。

ああ・・・ん・・・っ。
向かいの部屋の閉ざされたドア越しに、女のうめき声がした。
喜美恵が招ばれていたのか?江津子はどきりとした。
けれども悩ましいその声色は、喜美恵のものではなかった。
もっと年かさの女性のものだった。
はっとして、江津子はドアノブをまわしていた。ドアは音もなく開いた。
細目に開いたすき間の向こうには、さっきまでの江津子自身がいるようだった。
母の孝枝が、男ふたりの相手をしていたのだ。

披露宴では黒留袖だった母は、黒一色の洋装に着替えていた。
正装の礼服は、ルイ王朝の寝所のなか、黒光りしているようにみえた。
ひざ丈のスカートは腰までたくし上げられていて、黒のパンティストッキングは引き破られて、やはり引き裂かれた真っ赤なショーツを露出させていた。
漆黒のブラウスの裂け目からは、娘の江津子さえ目を背けたくなるほど、乳房が露出していて、
黒ずんだ乳首はふたりの男の唇にしつようにとらえられ、唾液を光らせていた。
母は悶え、喘ぎ、汗みずくになって・・・むしろ積極的に腰を上下させていた。
「どうして着替えてきた?きょうならではの装いではなかったのか?」
男の問いに母は臆面もなく答えていた。
「だってあなた、このあいだは和服だったから、こんどはお洋服がいいって、仰っていたじゃないの」
むっちりと肉のついたふくらはぎは、薄黒いナイロンに淫靡に染まっていた。
ひとりが母を犯しているあいだ、もうひとりは黒ストッキングの脛をねぶり抜いていた。
評判の賢妻のすがたは、もうそこにはなかった。
いつの間にか、部屋のなかに入り込んでいた江津子を、男のひとりがふり返った。
「視て・・・いたね?」
江津子はだまって、うなずいていた。
「愉しい・・・だろう?」
江津子はやはりだまって、うなずいていた。
「仲間に加わろうね」
江津子はもういちど頷くと、しっかりとした足取りで、ベッドに近寄った。
母娘はじゅうたんの上に並べられて、相手を取り替え合っていた。

ギシ・・・
ドアの向こうの廊下がかすかにきしむのを、江津子は耳にした。
あの姉妹のどちらかが来たのか?と思った。
気がつくと、だれかが江津子の手の甲を抑えていた。
体温の冷えかかった、母親の掌だった。
「視ちゃダメ」
母が囁いた。
「え・・・?」
「お父さん、家に帰ったわけじゃないのよ」
それ以上は母も、なにも応えずに。
のしかかってきて吶喊を試みる男にうごきを合わせて、スカートの裾を自分からたくし上げていた。


一年後。
江津子は、真っ赤なカクテルドレスに身を包んでいた。
兄のときとおなじ披露宴会場で。
いっしょに腕を組んでキャンドルサービスをする彼女の新郎は、あくまでにこやかだった。
彼女にしか見えない、幅の小さな咬み痕を、首すじに滲ませながら。
ふたりを拍手で迎える新婦の両親はやはり、おなじ痕を滲ませていた。
やはり拍手をし続ける新郎の両親も同じく、咬まれた痕を滲ませていた。

お義母様は、きれいな方。
ほかに兄夫婦と、高校生の妹がふたり。
妹さんは、仲良く分け合ってね。
彼のお母様と兄嫁は、どちらがどちらの相手をするの?
あたしのときみたいにまた、くじ引きで決めるのね?

先週、彼氏と新しい両親を洋館に招く前の晩。
江津子は白い歯をみせて、笑みを絶やさずに過ごした。

義父は一瞬顔をしかめ、すぐに穏健な微笑を取り戻して。
羞じらう妻が堕ちてゆくのを、薄紫のドレスに身を埋めながら横目で見守りつづけていた。
ほどかれてゆく黒留袖は、男が念願していたものだった。
深紅の絨毯に拡がる長い黒髪がとぐろを巻くのを、女の江津子までが見とれてしまっていた。

義兄は顔を真っ赤にして、これでは強姦だ、侮辱行為だ・・・と、口では罵りながら。
覆いかぶさってくるピンクのドレスを避けようもなく受け止めていた。
手だれの女吸血鬼の身体と引き換えに。
真っ赤なスーツを着込んだ夫人が、首を咬まれて大人しくなって。
ピンと張ったふくらはぎが、グレーのストッキングをぴっちりと密着させたまま、ゆっくり開かれてゆくのを、
固唾をのんで視つづけていた。
一児の母はきっと今夜、子種を授かって帰宅するのだろう。

ふたりの妹たちも、セーラー服の胸元を引き締める純白のタイを取り去られて。
それぞれべつべつの部屋で、犯されていった。
黒のストッキングに走った伝線をチリチリ拡げながら足摺りをくり返していた姉も。
真っ白なハイソックスを太ももを伝い落ちる血に浸してしまった妹も。
パートナーを取り替え合ったときにはもう、夢見心地になっていた。

供血の連鎖は、どこまで続くのか。
江津子はただ陶然となって、夫の家族が破滅してゆくのを見守っていた。
寝室の姿見に映る、ゆったりとした含み笑い。
そこに映っていたのはもしかすると、あの晩の兄嫁そのものだったのかもしれない。
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コメント

おかえりなさいませ
復帰第一作はなまめかしい女性たちの登場でしたね。
はじめての痛みを馴らされてゆく経過がやけになまなましく迫ってきました。

結婚式は両家を結ぶ場とはいえ・・・両家の血筋まで結ばなくてもねぇ ふふふ

すてきな物語堪能させていただきました。
by 祥子
URL
2013-03-04 月 13:53:11
編集
> 祥子さま
かんそう、ありがとうございます!
とても励みになります☆

当初はヒロインが処女喪失した隣室で兄嫁になるはずの女が娼婦然な振る舞いをしている・・・というくだりだけを考えていたのですが、描いているうちにだんだんエスカレートして、長大なものになってしまいました。
柏木にしては珍しく、二時間もかけて描きました。
^^;

>はじめての痛みを馴らされてゆく経過がやけになまなましく
ご婦人からこのように評されますと、かなり嬉しいです♪
女性の側からの感覚は、最終的にはどうしても、想像に頼らざるを得ないものですから。

>結婚式
両家の文化が等しくなりますと、よけいな軋轢もまたなくなりますようで。
^^
by 柏木
URL
2013-03-06 水 07:08:04
編集

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