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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

弱い子、強い子。

2013年03月12日(Tue) 08:16:05

「放してください。怖いんです。厭なんです。血を吸われるのなんて・・・
 あたし、そんなに強い子じゃないんです。お願いだから、見逃して・・・」
半べそをかいた少女は、セーラー服の身を揉みながら、それでもどうすることもできなくなって、
吸血鬼の腕に身体を巻かれていった。
いよいよ首すじに唇を這わされたときには、
「ウ、ウーンッ!」
とうなって、白目を剥いて気絶していた。

莫迦な女だ。
俺のまえで気を失うということは。
好きなだけ生き血を吸い取ってくださいといっているのと、おなじことなんだぞ。

男はそう呟きながら、少女をあおむけに寝かせると。
もういちどおもむろに、首すじに唇を吸いつけていった。
くちゅっ。
ひそやかな音ににんまりと笑みを泛べると。
チュウチュウ・・・キュウキュウ・・・
いやらしい音をたてながら、処女の生き血を吸い取っていった。
襟首に血が一滴も撥ねないくらい、吸い取った生き血は一滴残らず、のどを潤し、胃袋におさめていった。

強くなんて、なくたっていい。
弱いあんたに、甘えたかったのかもしれないな。

口許を拭った男は、うつむいたまま。湿った声色でそう呟くと。
少女の髪を丁寧に撫でつけ、華奢な身体を抱き上げていた。
そのまま少女の家に向かうと、玄関の脇に彼女の身体をそっと置き、ベルを鳴らして急ぎ足で立ち去った。
母親らしい女の驚く声と、家人を呼ぶ叫び声とを背中でききながら。


なん年経ったことだろう。
昔ながらのセーラー服の襟を翻すようにして逃げ去ろうとした獲物を、男はあっという間に追いつめていた。
林檎のように赤らんだ頬は、寒風のせいばかりではなかった。
無念そうに歯噛みしながら男を見つめるまなざしを、遠い昔に見たような気がした。
「待って!」
声の主は少女ではなく、もっと齢を帯びた女の声だった。
獲物を覆い隠すように立ちふさがったその女は、少女とうり二つの顔をしていた。

なん年ぶりの邂逅だろう?
互いが互いを、はっきりと思い出していた。
かつて、「あたし弱いですから」といって難を免れようとしていた少女は、
あのころと変わらない色白の頬を、ハッキリとした輪郭に縁取っていて。
眼差しにはかつてなかった強い意志を秘めていた。
「あたしが身代わりになりますから。この子は見逃してくださいね」
さいごの言葉だけは、あのときとおなじだった。

母親の背中で、セーラー服姿がきつくかぶりを振っている。
「いいの、母さん。あたし平気だから。強い子だから」
え・・・?
訝る母親を押しのけるようにして。
「みんな聞いてるわ。だれかの血を吸わないと、死んじゃうんでしょう?
 だから弱そうな子を、狙っているんでしょう?
 でもあたし、平気だから。強い子だから」
気遣わしげな母親の視線と、いつになくためらいを漂わせる男の腕とに囲まれて。
少女は母親をかえりみて、クスッとわらう。
「やっぱり心細いな。母さん、手だけ握ってくれる?」
男は、襟首さえ汚さないくらい丹念に、少女の首すじに唇を這わせて、
吸い取った血は一滴余さず、胃袋におさめていった。

「帰るわよ」
素っ気ない声色の母親に、
「はーい」
と少女は、いつも以上に素直に応えて。
去り際に男に、囁いていた。
「経験のある女のひとは、これだけじゃすまないんですって?
 母さんにそんなこと、させるわけにいかないんだから」
痕のくっきりと浮いたうなじを、長い黒髪でサッと隠すと、
少女は後も振り返らずに、立ち去っていった。

「弱い子だから」
「強い子だから」
うり二つの少女はけっきょく、それぞれに好意を与えてくれた。
男は照れたような苦笑いを一瞬泛べると、その苦笑いすら忘れたいように口元を引き締めて、
コートの襟を立てて、家路を急ぐ母娘に背を向ける。
木枯らしはまだ寒々として、路を吹き抜けていった。
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