FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

深夜の公園 ~少年と吸血鬼~

2013年03月17日(Sun) 04:19:15

だいぶ暖かになったとはいえ、半ズボンにはまだ早い季節だった。
むき出しの太ももにひんやりと夜風が当たるのを、タカシは肩をすくめながら受け流した。
ひざ小僧のすぐ下にぴっちりと張りつめた長靴下のゴムが、ギュウッと握り締めるような密着感を伝えてくる。
太めの口ゴムに引き伸ばされた薄手のナイロンは、少年の脛をじんわりとほの白く浮かび上がらせていて、
しみ込んでくる冷気が、小気味よくしみ込んできた。
少年はその脚を、照明の消えた公園の敷地に踏み入れた。

「小父さん・・・いるかい・・・?」
そうっとかけた声は、人の聞き耳を避けるように控えめだった。
がさ・・・
声に応えるように、闇の向こうから草を掻きわける音がきこえた。
闇の彼方から人の輪郭がぼんやりと浮びあがり、それが少年の予期したとおりの姿になると。
タカシはホッとしたように、表情を和ませていた。
「今夜は無理かと思ったな」
からかうような声色は、本気で相手のことを咎めてはいなかった。
少年よりはだいぶ年上の、しわがれた声だった。
「ゴメンよ、遅くなっちゃって。パパもママも夜更かしをして、なかなか抜けられなかったんだ」
少年はちょっとだけ言い訳をすると、ことばをついだ。
「今夜は愉しみにしてたんだ・・・小父さんにボクの血を吸ってもらうのを」
黒衣に身を包んだその男は、吸血鬼だった。

きらりと輝く牙が、しずかな欲望をみなぎらせていた。
タカシは自分の皮膚を切り裂くはずのその鋭さに、うっとりと見入っている。
「今夜も脚から吸うんでしょ?靴下のうえから」
男が頷くと、少年は半ズボンの下のふくらはぎを自慢げに見せびらかした。
「父さんのやつ、だまって借りてきちゃった。小父さん薄いの好きなんだろう?」
「あとで叱られないかね?」
「だいじょうぶだよ。おんなじようなやつ何足もあるから、きっと気がつかないさ」
「それじゃあ、手早くやってしまおうか?」
男の声色はあくまでそっけなかったが、少年の太ももに当たる呼気は、すでに熱を帯びていた。

「発情してる・・・でしょ?」
「そんな大人がするような挨拶をするもんじゃない」
老吸血鬼は、少年の悪乗りをたしなめた。
公園の敷地の外から射し込む街灯の薄ぼんやりとした灯りに、濃紺の半ズボンの下から覗く太ももが白く浮かび上がった。
なよなよと薄い、ストッキング地のナイロンにくるまれた足首は、
カッチリとした革靴に縁どられて、少年の足許に妖しい艶めかしさを漂わせている。
男はタカシの足首を、痛いほどにギュッと捕まえた。
「あ・・・・・・っ」
初めて掴まえられたときと同じ、驚くような呟きが少年の唇から洩れるのを、男はほくそ笑みながら耳にして、
笑みに弛んだ唇を、薄手のハイソックスごしに這わせていった。

ぬるり。
ハイソックスごしに、なまの唇がなすりつけられるのを感じて、少年は浮足だった。
脛の周りの皮膚に、じわじわじわっと鳥肌が立ってくる。
潔癖な感情が、男の不埒なあしらいを拒んでいたが、
同時にその皮膚の下に脈打つ血潮は、淫らな脈動に昂ぶりはじめている。
男はすぐには咬みつかずに、薄手のナイロンの舌触りを愉しみながら、
少年の足許を彩るナイロン生地に、汚らしいよだれを、じくじくとしみ込ませていった。
「いやら・・・しい」
「そうかね?」
ひとごとのように嘯きながら、男はなおも舌を這わせて、蒼白く浮き上がる脛を透明に彩る薄手のナイロンに、凌辱を加えてゆく。
タカシは細い眉をナーヴァスにピリピリと逆立てて、喰いしばった白い歯を覗かせながら囁いていた。
「もっと・・・もっと辱めて・・・」

ひざ小僧から力が抜けて、すぐ傍らの切り株にタカシが尻もちをつくと、
くふふふふふっ。
男は濁った声で随喜の嗤いを泛べて。
透けるハイソックスのふくらはぎに、ひときわつよく、唇を吸いつけた。

ちゅう・・・っ。

はじける血潮が革靴を濡らすのを、少年は感じた。
同時に眩暈が、襲ってきた。
ワクワクするような鈍い痛みに、淫らな疼き。そして心地よい喪失感が少年を酔わせた。
どす黒い眩暈が、壁に吹きつけられた塗料のように視界に散った。
少年は尻もちをついたまま、きぅきぅと忍びやかな音をたてて足許から洩れつづける吸血の音を、
もうどうすることもできなくなっていた。

「どれだけ破いたら気が済むの?」
タカシが呆れるほどに、男は薄い靴下の足許に執着した。
どちらの脚にも、いく筋となく裂け目が走っていて。
その裂け目が増えるたび、拡がるたびに、少年のくすぐったそうな笑い声があがった。
「貧血になってきた・・・」
そう訴える少年の呟きに耳も貸さずに、男は彼の頭を抑えつける。
しなやかな首すじが、女の子の肌のような白さをもっていた。

ククク。
男の含み笑いに、
「いやらしいなあ」
タカシがため息をつくと。
ずぶり・・・
足許を辱めつづけていた唇が、こんどはうなじに這わされてきて、
尖った異物が少年の皮膚をいく度も冒した。
視界に明滅するはじけるような眩暈にうっとりとしながら、
タカシはされるがままに、男の行為を受け入れていた。
肩を抱き寄せる節くれだった掌が、自分から吸い取った血液でじょじょに体温を取り戻すのに歓びをおぼえながら・・・

別れぎわ。
男はからかうような口調に戻っていた。
「こんどは母さんのストッキング穿いておいで」
「また・・・おバカなことを」
少年も、いつもの無邪気な明るい表情を取り戻していた。
どちらもさっきまでの昂ぶりを相手に伝えまいと、しらふの自分を取り戻していた。
「肌色のパンストを穿くときには、脛の毛を剃っておくのだぞ」
男の言いぐさに、少年も本気で応えていた。
「ダメダメ。今じゃボクのほうが、ママよりも背丈があるんだから。サイズが合わないよ」
ははは・・・
どちらからともなく洩らした哄笑が、闇夜に低く流れた。

家に戻ると、家人が寝静まったあとの静けさがただよっていることに、タカシは安堵の吐息を洩らした。
門灯はこうこうと点いていたが、むろんそれはだれかが起きていることを告げるものではない。
素足に革靴で、彼は玄関のドアをそうっと開け、なかに入った。
彼の部屋は二階だった。
足音を忍ばせて階段の踊り場を目指すと、意外にもリビングに灯りが点いている。
寝そびれただれかがソファでひとときをすごすときの、オレンジ色のほのかな灯り―――
灯りの下にいたのは、さっきタカシが思う存分噛み破らせてしまった靴下の持ち主だった。
「寝てなかったの?」
「もう寝るさ」
父親は読みさしの本を傍らにおくと、のろのろとソファから起ちあがった。
起ちあがりざま、息子のほうへとなにかをポンと放っていた。
薄くて軽いその物体は、ひらひらと流れながら息子の手首に巻きついた。
女もののストッキングだと、すぐにわかった。
「なにこれ」
「母さんのだ。黙っておけよ」
「え・・・?」
「太もも丈のやつなら、サイズが小さめでもちゃんと穿けるだろう?」
「えっ?・・・えっ?」
タカシは目を白黒させたが、
父親はもうなにもいわずに、夫婦の寝室へと向かっている。

忍び足は、父親に気づかれた後も変わらなかった。
勉強部屋に戻り灯りをつけると、手渡されたストッキングを丁寧にほぐすようにして左右に分けた。
目のまえにぶら下がった薄手のナイロン生地が、淡い光沢を放っている。
きみの母さんは娼婦なのだよ・・・と、告げるように。
母親の秘密を盗み見てしまったような、妙な落ち着かなさを感じた。
衣装の下に秘められた、舞台裏を覗いてしまったような。
ひらり。
紙片が一枚、たたみに落ちた。
拾い上げると、そこには父親の筆跡があった。
「着用の際にはすね毛の処理を怠らないこと」
どこかでそんな言いぐさを聞いたような気がした。
タカシはクスッと笑うと、母親のストッキングを父のメモと一緒に紙袋にしまい込むと、
その紙袋を通学鞄のなかに手早く押し込んでいた。
明日も・・・貧血の夜が訪れることになるらしい。
前の記事
深夜の公園 ~少年と吸血鬼と母さんと~
次の記事
嵐の去ったあと。

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/2931-c1898f4d