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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

被害届をあきらめた朝。

2013年04月03日(Wed) 07:25:40

われにかえったのは、外が明るくなったからではなかった。
けたたましくベルを鳴らす電話に出てみると、受話器から聞こえてきたのは上司の声。
―――体調不良なら、休暇を取得するように。
感情の消えた、ごく事務的な口調に、素直にお願いしますとうなずいていた。
夕べ退勤してきたときのままの格子縞の柄ワイシャツに、
赤黒いシミが点々とこびりついていた。

ふふふ・・・ラッキーだったね。
少女のように微笑む妻は、髪の毛を振り乱し、ブラウスをはだけている。
首すじにはわたしがつけられたのと同じ、赤黒い咬み痕。
貧血で目がくらみ、ちょっとのあいだうつ伏せてしまう。
だいじょうぶ~?
妻は歌うような声で、それでも心配そうにわたしの顔を覗き込む。
身体拭いてくるからね♪
いちど身を起こした彼女は、シャワーの音を心地よく響かせて。
ふたたび戻ってくると、わたしのワイシャツを脱がせ身体を寄り添わせてくる。
湯あがりの水気を含んだ肌が、しっとりとすり合わされてきた。
体温の恢復し切っていない身体―――
彼女は夕べわたしのまえで、思うさま生き血を吸い取られていった。

―――おカネも取られてないし、カードもあるわねえ。
のんびりとした口調に戻った彼女は、あのときの衝撃をどう感じているのだろう?
―――こんな土地で、カード使うやつなんかいやしないよ。
投げやりに応えたわたしは、彼らの目的が純粋にわたしたち夫婦の生き血と妻の身体だったと知った。

被害届、出すの?出さないの?
様子を見に来た大家の女は、ぶあいそに訊いてきた。
言いにくいなら・・・ほれ。
口は悪いが、心遣いはそれなりにあるらしい。
手渡されたメモ用紙に鉛筆。
わたしは戸惑いながら、書きかけた。

夫婦の血液。
妻の貞操。
夫の精神的損害。

ばっかねえ。
あっけらかんとした声が耳もとでして、声の主はわたしから鉛筆をとりあげると、すべてにばってんをつけた。
―――だいじょうぶですよ、大家さん。ぜんぶタダであげたものばかりですからね~。
妻の声はどこまでも、天真爛漫で。かえって大家のほうが、狼狽していた。
―――え?いいのかい?見返りいらないの?
―――だって、いちばんたいせつなものの見返りなんて、ありませんからー。
―――言われてみりゃ、そりゃそうね。
大家は納得したようだった。
―――だんなさん、大丈夫かえ?
それでも声をひそめて訊いてくると。
―――精神的損害なんて、ウ・ソ♪このひとけっこう、愉しんでましたよ。男のひとって、エッチですね。
聞こえる程度にひそめた小声で、いとも楽しげに返してゆく。

今朝は思い切って、焼き肉にしようよ。
あのひとたち、きっとまた来るわよ。
それまでに、栄養たっぷりつけておかなくちゃあね。

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