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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

どっちでも、いいよ。 2

2013年04月06日(Sat) 12:22:28

新婚旅行から戻った俺たちには、息もつかせない間隔で、戻るべき日常が迫ってきた。
旅先から新居に戻ると、荷物の整理をするだけでその日は終わって、
俺たちはそれでも愛し合う時間だけは、しっかりと確保した。
翌朝、ナオミははやばやと起き出して、出勤する俺のために朝ご飯を用意してくれた。
血は一滴もないのに、いつもどおりに身体が動くのが不思議だった。
「結婚すると、行動まで落ち着いてくるものかね」
日頃あまり好意的ではない上司の揶揄に、しぜんに頷いてしまうほど、
あれほどみなぎっていた気負いは抜けて、冷やかなくらい物静かに、業務に対応している俺がいた。
ふざけたことばかり言っていると、血を吸うぞ。
俺は心のなかで、上司に毒づいていた。

家に戻ると、ナオミはなんとなく、すっきりとした顔をしていた。
シャワー浴びたあとだからだよ。
いつもの和やかな笑いを交えてそんな言い訳をしていたけれど、
あいつが来ていたのは、明白だった。
すでにナオミの血を吸い尽くしてしまったあいつが求めるものは、ひとつしかなかった。
夕飯がすむと、ナオミは息荒く俺に迫ってきて、俺を押し倒さんばかりにして、布団のうえにもつれ込んだ。
「忘れさせて。」
たったひと言にすべてを籠めて、ナオミは俺の首を抱いて、目を瞑った。


「殺すか、増やすかだ」
あいつはそんなことを、嘯いていた。
まずさいしょに、あいつらにもてなさなければいけなかった。
そのために、周囲のだれかを家に招ぶか、訪ねていく必要があった。
でも、だれを・・・?
「増やすんだよね?」
ナオミは確認するようにそういって、俺が頷くのをみとめると、
「やっぱり親からじゃない?」
口にすることを避けていた考えを、ストレートにつきつけてきた。
「やっぱりそうだよね」
俺も肯かざるを得なかった。
「どっちが、先・・・?」
俺は、返事に詰まった。
「どっちでも、いいよ。ケンジのいいほうを択んで」
どこかで聞いたことのある科白だった。
そのときと同じ可愛いほほ笑みも、そこにあった。
「あたしたちと、いっしょになるだけじゃない」
これから起きることに、むしろナオミのほうが、前向きだった。


男が妻のほうを、女が夫のほうを襲う。
それが彼らの―――いや、俺たち夫婦を含む―――ディナーの愉しみかただった。
「あたしたちの分も、いるよね?そのあたりも考えて」
ナオミの誘導は、巧みだった。
そう。俺たちも、自分自身にあてがう血のことを考えなくちゃいけなかった。
「どっちかの親は、あたしたちでやろうよ」
ナオミは、おそろしいことを口にした。

あいつは、ナオミの母親の血を吸いたがるだろうか。
それとも、相手を択ばず食いつくつもりだろうか。
思い切って、訊いてみることにした。
次の日、俺は会社を休んで、あいつが来るのを待った。

「昼間でも動けるんだね」
「空港でわしが焼け死んだかね?」
吸血鬼は、表情も変えずにいった。
「奥さんは?」
「あいつは雑食なんだ。お前らに頼らずに,片っ端から漁っている」
「すごいね」
「ああ、女はすごいぞ」
暗にナオミのことを言われたような気がした。
ちょうど、お茶が入った。
「これが日本茶というものか」
お茶の色が緑色をしているのが、ヨーロッパ育ちの彼には、何としても不思議だったらしい。
「サンドラもいまごろ、手に入れたばかりの老夫婦に、同じ色の茶を点ててもらっているんだろう」
この夫婦は、重要なとき以外顔を合わせないらしい。
ふだんはめったに、連絡もないのだという。

サンドラはしょっちゅう出かけて行って、食の細い身を養うために、時間をかけて相手を啜りつづける。男も女もかまわず、見境なく襲う。
エルコレは、そんなに頻繁にひとを襲わないが、いざというときにはたちどころに、吸い尽くしてしまう。ただし、めったなことでは男の血は口にしない。
どちらが流儀として、おだやかなのだろう?
エルコレの人の選び方には美学があるようだった。
食欲だけをあらわにする妻とちがって、あきらかにえり好みをしていたから。
移住を考えていた彼らにとって、俺たちとのことはやはり重要なことだったに違いない。
珍しく、夫婦連れ立って、俺たちの寝室に入り込んだのだから。

俺たち夫婦を狙ったときも、じつは空港からから尾(つ)けてきたのだ、と彼は明かした。
外国からの旅行者を物色するために、何日も空港に通い詰めて、
これはと見定められたのが、俺たちの運の尽きだった。

「殺すのは出来る限り、遠慮してくれないか」
おそるおそるそう切り出すと、
「ここはあんたの国だから、あんたの考えを尊重しよう」
「居心地が悪くなったら、故郷に帰るかい?」
ほのかな期待は、「その気はない」のひと言にかき消されていた。

さりげなく、俺のななめ後ろに、ナオミが座った。
話を切り出すのを、さりげなく促されたような気がした。
「両親のことなんだけど・・・」

結論は、すぐについた。
ほとんど、あうんの呼吸だった。
「さいしょに、俺の実家を案内したいんだけど」
自分でも不思議なくらいすらすらと、口にする直前まで考えていなかったことを、俺は自分から口にしていた。
両親の血を吸ってほしい、と。
「いいだろう。それが順序だな」
俺の意見に、彼は即座に賛成した。
未経験の俺たちに、襲った相手を独力で吸血鬼にすることはできなかった。
どちらの親から血を分けてもらうにしても、彼らの同席が必要だとわかった。
「お前たちは、自分の親の血を吸いたいかね」
彼の問いに、俺は即座にいった。
「俺は吸いたくない」
「あたしは吸いたい」
後ろからあがった声に、俺はびっくりしてふり返った。
―――女はすごいぞ。
彼の囁きが、耳の奥によみがえった。

「やっぱり自分の親だから。人まかせにしたくないの。でもケンジはケンジだから。その気持ちは大事にして」
ナオミは俺のことを、さりげなくフォローしてくれた。

まず、俺の実家に彼らを連れていき、親たちと逢わせる。
それから、ナオミの両親のところに、俺たちが行く。もちろん彼らも連れて。
つぎの週末、家に帰るから、と、俺は実家に電話をかけていた。
電話に出たお袋は、外国で知り合った人を連れていくから、という俺の言いぐさに格別不審感を持ったようすもなく、
「親子水入らずのほうがよかったんだけどねえ。さきさまの都合がそうなら、仕方ないよね」
と、ありきたりの返事をくれただけだった。
いま受話器の向こうでお袋の唇を動かしている血液も、吸い尽くされる―――そんな想像にどきりとしながらも、俺はふつうにやり取りをして、受話器を置いた。
「すごいじゃない」
ナオミは俺の手際をほめると、「ご苦労さま会やるから」と、いった。
「どういうこと?」
問い返す俺に、
「今夜招(よ)んであるから」とだけ、ナオミはいった。

夜遅くなってから、おずおずと訪いを入れてきたのは、披露宴にも来てくれたナオミの親友たちだった。
ふたりとも、きちっとした正装だった。
「週末の練習、しようよ」
ナオミは、イタズラっぽく笑っていた。

ひとりは、披露宴で見覚えのある紺のスーツに、肌色のストッキング。
ゆるやかにウェーブした長い髪が、肩まで伸びている。
もうひとりは、スカートのすそにフリルのついた真っ白なスーツに、黒のストッキング。
こちらは対照的に思い切りショート・カットで、首すじには赤い斑点がふたつ、あらわになっていた。
「バンドエイド取ったんだね」
ナオミは親しげに、ショート・カットのほうに声をかけた。
「うん、隠すこともないから」
度胸のいいらしい彼女は、男っぽい声色でそう応えた。

あたしはユリエの相手をするわ。ケンジには貴美子をあげるから。
あなた、披露宴のあいだじゅう、貴美子のことずうっと視ていたでしょ?
身に覚えのないことだったけれど、ナオミの招待客のなかで、貴美子の美貌がずば抜けていたのは事実だった。
血を吸うにはやはり、美人に限る。
俺が仕事に出ているあいだ、ナオミは新居に友人たちを招んで、せっせと吸血行為に励んでいたらしい。
「ケンジにご馳走しようと思って。だって、仕事ちゅうじゃ、相手探せないでしょ?」
事務所を出たら、喉がカラカラに渇いていた。
そんな日常を、ナオミはどうやって察したのだろう?

早くもナオミに組み敷かれて、「ひい~っ!」とうめきをあげたユリエは、黒のストッキングの両脚をおっ広げて顔をゆがめていたが、むしろおふざけモードだった。
同伴した親友の首すじに、やはり親友のはずのナオミががぶりと食いつくのを見た貴美子は、ちょっと怯えたように肩をすくめ、俺の顔色を窺った。
眉をしかめたその表情が、俺の渇きに火をつけた。
じゅうたんの上に組み敷いた濃紺のジャケットに、金のボタンが輝いていた。

「ね?吸い尽くすのってやっぱり、大変でしょう?」
ふたりが傷口にバンドエイドを貼って帰ってゆくと、ナオミはいった。
「貴美子やユリエも、さいごはあのひとたちにお願いするつもり」
ちょっと目を伏せてそういうと、「ケンジもがんばってね」と、笑いかけた。
いつもの無邪気な笑いだった。
なにをがんばるというのだろう?爽やかに放たれた言葉の意味を噛みしめて、俺は慄然とした。
差し出されたティッシュに、俺はわれに返った。
「寝る前に、拭こ」
「ああ、そうだね・・・」
吸い取った血潮が、頬に散っていた。ティッシュは意外なくらい、なん枚も要りようだった。
最近俺よりも、ナオミのほうがしっかりしているような気がする。
そう思った時、不意にナオミがしなだれかかってきた。
久々に体内に廻った若々しい血が、俺たちの営みを激しいものにしていた。


週末、俺たちは、外国からの客人を連れて、タクシーで実家に乗りつけていた。
「まあ、まあ、いらっしゃい」
お袋は珍しく、和服姿だった。
なにもそこまで、気を使わなくたっていいのに。
「だって、はるばる外国からいらしたんだもの。日本らしいところを見せてあげなくちゃ」
「お義母さま、おきれいだわ。あたしも着付けを習おうかな」
ナオミもうまいこと、調子を合わせていく。
正念場を目のまえに、ことの重大さを自覚して却って薄ぼんやりとしてしまった俺のまえで、ありきたりのやり取りがつづけられていく。

一時間ほど経ったころだろうか。
トイレに立った父が戻ってくるところを見計らって、サンドラが立ちあがった。
明らかに、顔つきが変わっていた。
トイレの順番を待っていたのではないと、容易に分かった。
ああ・・・
声を出そうとしたが、声にならない。
サンドラが開けっ放しにしたドアの向こうから、「わっ」という声がした。
怪訝そうに立ちあがって廊下に出るお袋のあとを、エルコレが追った。
「お、お父さんっ・・・!?」
震えた声は、一瞬で凍りついた。
「ひいっ!」
すくみ上った声が、さいごだった。
「あたしたちのときと、いっしょだね」
ナオミが俺の脇腹をつついて、無邪気に笑った。
「見に行かないの?」
「その勇気はない」
「でも、お手伝いしないと」
「それには及ばないようだ・・・」
廊下の気配が、目で見通しているように、敏感に伝わってくる。
彼らがそれぞれの獲物を担いで、いま俺たちがいる居間の隣の六畳間に入り込むのがわかった。
「視よ」
ナオミが促した。俺は黙っていた。
「あたしは視たい」
さらにナオミが催促した。俺は仕方なく、居間と六畳間とを仕切っているふすまをあけた。

「すごい」
さすがのナオミも、絶句していた。
親父は蒼白になって、すでに意識がもうろうとしていた。
サンドラは俺のときとおなじように、親父に馬乗りになって、首すじにぴったりと唇を吸いつけていた。
お袋はそのすぐ傍らで、「助けて…助けて…」と小声で呻きながら、やはり首すじを咥えられていた。
うなじをクチュクチュとあからさまにいたぶられて、お袋は「ひー」と唸って、静かになった。
吸っていた首すじから牙を引き抜くと、エルコレは手の甲でお袋の血を拭った。
それから、俺のほうに軽くウィンクを投げると、もういちどお袋にのしかかっていった。
なにをする気なのかは、すぐにわかった。

「キモノ・・・キモノ・・・」
エルコレは、初めて出くわしたお袋の和服を、扱いかねていた。
帯をほどこうとしているのだが、手つきももどかしく、どこをどうしたらいいのかわからないようだった。
「あたし、手伝う」
ナオミは決然として席を起つと、お袋の傍らに寄り添って抱き起こし、背中に手をまわして、帯を解いていった。
「着付けはできなくても、脱がせることはできるわ」
あとでナオミは、そうもいったものだった。
サンドラが親父のうえに馬乗りになり、エルコレがもろ肌脱ぎになったお袋を凌辱していくありさまを、
俺は棒立ちになって、見守るばかりだった。


「玄関先で失礼するわね」
すべてを視られてしまったことへの照れ隠しなのか、それからのお袋は始終、へらへらと笑いつづけていた。
いつも無口な親父は、無口なままの親父に戻っただけなので、なにをどう感じているのかよくわからなかった。
ひとしきり行為がおわると、ふた組の夫婦は俺たちのいる居間に戻ってきて、
お袋の淹れた日本茶を飲んで散会となった。
訪問客をにこやかに送り出す親父は首のつけ根を腫らしていて、
お袋は着くずれした和服の襟足に、紅い飛沫を撥ねかしていた。
にこやかな表情とは裏腹のようすだったが、だれもが不思議に感じなかった。

無口な親父は、最後にエルコレに声をかけた。
「また来てくださいね。できれば今夜・・・家内をよろしくお願いします」
自分が昏倒してしまったすぐ隣でなにが起きていたのかを、ちゃんと弁えていた。

その晩、エルコレとサンドラはふたたび俺の実家を訪れた。
実家からかかってきた電話は、お袋からだった。
「うちも、あなたたちと同じになったから。仲良くやろうね」
「あんなことで、よかったのかな」
思わず漏らした俺に、
「なに言っているの。いいと思ったから父さんと母さんにも勧めたんでしょう?」
お袋の言いぐさには、一言もなかった。
はたで電話のやり取りを聞いていた親父が、席を起った気配がすると、お袋が声をひそめていった。
「あした、お父さん珍しく出かけるんだって。だから、エルコレさんとお約束しちゃった。彼氏を取っちゃってゴメン!って、ナオミさんに伝えといてね」
―――女はすごいぞ。
どこかからそんな声がしてくるのを、また感じた。


そのつぎの週は、ナオミの実家の番だった。
新婚旅行後の挨拶をかねての訪問だった。
こちらも、外国からの客人を、なんの疑いもなく、受け入れていた。
「しっかりやろうね」
ナオミは日に日に、たくましくなってゆく。
俺のときには足がすくんでしまったのに。やはり女は、肝が据わっているのだろうか。

こんどは、まず自分たちが最初に咬まなければならなかった。
次に襲うのは赤の他人だから、失敗できないからだった。
いちどナオミの親友相手に経験済みだったとはいえ、あのときには最初から、納得づくだったから。
不意打ちをしなければならない今回は、さすがにナオミも緊張しているようだった。
血の供給先を複数確保しているナオミは膚の色つやを取り戻していたが、今朝はやはり蒼白になっていた。

話の途中で、ものを取りに行った父親を、ナオミは追いかけて、隣の部屋で掴まえていた。
「あっ・・・」
義父はひと声、声をあげたが。
「ああ、なんでもない。なんでもないから・・・」
と、穏やかな声に戻っていた。
なんでもないわけはなかった。
やはり気遣って隣の部屋を覗いた義母を、サンドラに促された俺は追いかけていた。
黒のワンピースの二の腕は、意外なくらい華奢だった。
ナオミの身体つきは母親に似たのだと、今さら気づいていた。
あてがった唇の下、か細いうなじに帯びた暖かな体温に、俺は心が和む気がした。
叫び声をあげたはずだ・・・と、あとで義母はいっていたが、俺の記憶には残っていない。
身じろぎをくり返す身体を夢中になって抱きすくめて、力まかせにかぶりついていた。

のしかかる体重を、ずん、と感じた。
血の気を喪った義母が、ひざを折って姿勢を崩し、全身をあずけてきたからだ。
ナオミが寄ってきて、義母を畳のうえに寝かせるのを、手伝ってくれた。
「気分が乗ったら・・・いいよ」
ナオミはなぞをかけるように囁くと、俺からサッと離れて、父親のほうへと身を寄せた。
視てはならないものを、視てしまった。
今度こそ・・・相手は人間だったから。
実の父親の上にまたがったナオミは、か細い太ももをまる見えにさせながら、
馬乗りになって腰を振りつづけた。
サンドラが俺に対してしたときと同じように、男の股間をしごく手つきまで、手慣れていた。
じわっ、と、どす黒い衝動が、俺の理性を逆なでした。
ひっ。
われにかえった義母が、俺と目を合わせた。
怯えきった目をしていた。
俺はだまって、女の唇を奪った。
女は、畳に仰向けになったまま俺に抱きすくめられていると気がつくと、身を揉んで抗おうとした。
俺は力づくで、女の首を彼女の夫と娘のほうに振り向けた。
「あんなふうにするんだ」
いつしか、命令口調になっていた。
女は諦めたように俯いて・・・自分から、脚を拡げていった。
ナオミが父親を相手にスリップのすそを体液に浸しているすぐ傍らで、
俺は義母を組み敷いて、ワンピースの裏側に、白く濁ったほとびを吐き散らかしていた。

「玄関先で失礼させてもらうよ」
お義父さんは、どこまでもおだやかな声色をしていた。
「そうね、そうさせていただくわ」
お義母さんが俺を視る目は、どこか媚態を含んでいた。
その華奢な身体から吸い取った血が、俺の身も心も満たしていた。
俺自身気づかなかったことだけれど。
ナオミの血を独り占めにされてしまったことを、俺はかなり悔いていたのだった。
最愛の妻の血を吸う機会を喪った俺に、お義母さんは娘のつぐないをさせていただきます、といった。
サンドラのような扇情的なあしらいこそしなかったけれど、
その実浮気歴もあるらしいお義母さんは、どこまでも相手に尽くす振る舞いを通してくれた。
「いいよ」と俺に囁いた娘とも、もしかしたらそれとなく話をつけていたのかもしれない。
けれども、俺がお義母さんの血を口にするのは、これが最初で最後だろう。
俺の両親だって、その日のうちに、二人ながら血のない身体にされてしまったのだから・・・

エルコレとサンドラは、残るといっていた。
このあとすぐに、ふたりの血を吸い尽くしてしまうのだろう。
「ふたりとも、父や母の血が気に入ったみたい」
ナオミの口調は、誇らしささえ漂わせていた。
「お義父さまとお義母さまが、その日のうちに血を全部失くされたんだから・・・うちだって同じにしなくちゃ申し訳が立たないわ」
そういうナオミに、
「いなくていいの?」
俺が訊いても、ゆっくりとかぶりを振った。
「あとは、独り占めさせてあげようよ」
ははは・・・
若い夫婦のやり取りに、だれからともなく、笑い声があがった。
理性を塗り替えられてしまった者だけが、この場に居合わせていた。
「ケンジさんも、初美のことをよろしくお願いしますね」
なにもかも弁えているらしいお義父さんは、これからの関係を暗に認めると告げてくれた。
自分のすぐ傍らで、淫らに堕とされてしまった妻。
それを昂ぶりのうちに受け容れてしまった夫。
そんな経験を共有するもの同士の共感が・・・あったのかもしれない。

「では、御機嫌よう・・・」
俺たち夫婦は低調に腰を折って、血を獲る男女と血を与える夫婦とを、視界の向こうへと押しやった。
コツコツとハイヒールの音を響かせながら、ナオミが俺に話しかけた。
「あなたの上司さんから、きのう電話が掛かって来たわ。食事をどうかって。あのひと、あたしに気があるみたい」
「えっ」
「このさい・・・してしまいましょう。披露宴に来て下さった奥さんと娘さん、きれいだったじゃない」
―――女はすごいぞ。
何度か耳にした幻聴が、いく度目か、俺の鼓膜を染めていた。



あとがき
ちょっと熱度が薄れましたでしょうか?
不健全な背徳感をもー少し、表に出したいところでした。^^;
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どっちでも、いいよ。

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