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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

女学校に登校

2013年04月08日(Mon) 07:52:36

「入学許可が、出たわよ」
学校から戻ると、出迎えた母は俺を家に入れ、自分は台所に戻りながら、ついでのようにそう言った。
えっ!?
やおら母のあとを追いかけるように台所に押し掛けると。
「まったく、どうしたのよ・・・」
母はからかうように、俺を見あげた。

俺の街ではここ数年、吸血鬼が増殖している。
いや・・・もちろんうわさだけだったときには、もちろんそんなウソみたいな話は、他人事に過ぎなかった。
けれども今や、危険は現実のものになりかけていた。
親父の知り合いが、夫婦して家に遊びに来た夜に。

その晩俺は、部活の合宿で家を空けていた。
それをいい機会に、ふた組の夫婦はお互いを受け入れあっていた。
親父と同年配の知り合いは、ついこのあいだ、職場の同僚の女性に、咬まれたばかりだった。
なん日かそんな逢瀬がつづいて、とうとう身体から一滴も血がなくなると、
彼はその夜のうちに、吸血鬼になった。
翌朝、出勤のまえの朝ご飯を作っている自分の妻に後ろから抱きついて、首すじを咬んでしまったのは、当然の成り行きだったという。
吸血鬼になった夫婦は、互いの欲求を満たすために、おなじ夫婦ものの相手を探すことにした。
真っ先に白羽の矢が立ったのは―――うちの両親だった。

「うちが真っ先だったんだってよ」
いったいお袋は、なにを自慢しているんだ?
俺は気が狂いそうになっていた。
まだ春だっていうのに、お袋は空色の半袖のブラウスを着ていた。
二の腕を咬まれたあとが、チラチラ見える。いや、見せようとしている。
必要以上にはだけた襟首からも。齢不相応に短かいピンクのスカートの合い間からも。
”彼”に咬まれたという痕は、ふたつ並んでくっきりとした紅い斑点になって、鮮やかに浮き出ていた。
「あなたはだいじょうぶ。子供に手を出さないって条件で、咬ませてあげてるから」
そうは言ったって・・・あんたらもじきに、吸血鬼になっちゃうんだろう・・・?
両親に構わず、俺は独自に動くことにした。俺じしんの欲求を満たすために。

えっ?淑恵ちゃんとおなじ学校に転入したい?
びっくりしたように声をあげたのは、中学のときの同級生の淑恵のお母さんだった。
ほかに、相談できる人がいないからさ。
ご両親は・・・なんて仰ってるの?
親たちはもう、あてにならないんだ。先週から入り込んできている吸血鬼の夫婦に夢中でさ・・・
なにをいいたいのか、そのていどの説明ですべてがわかってしまうのが、この街のおそろしさだった。
そうなの・・・ご両親はかまわないって、言ってくれているわけね?
淑恵がいま通っているのは、街なかの女学校だった。

淑恵の両親は、外国からきたというひとりの女吸血鬼に、夫婦交代で献血を始めていた。
いずれ・・・献血なんて生ぬるいことでは済まなくなると、夫婦とも自覚しているくせに・・・だった。
一人娘の淑恵が、女学校のなかで餌食にされてしまったと聞いた段階で、この夫婦にはそういう選択肢しかのこされていなかったのだろう。
淑恵の相手は、外人女の夫だった。
この街から新婚旅行に行ったカップルが、旅行先から連れ帰ったという吸血鬼の夫婦。
昼間この街を動かしているのは、市長さんや県会議員さんや、校長先生やお寺の住職かもしれないけれど。
夜を支配しているのは、間違いなくこの夫婦だった。
そして、市長さんも住職さんも、おかみさんもろとも、彼らの訪問を受けていた。
女学校の校長先生は、彼らが女学校に招いて、
全校集会で外国の話をスピーチしてもらったお礼に、若い生き血を求める彼らが生徒たちを物色するのを、認めてやっていた。
気に入った女生徒を目にすると、彼らは授業中でも構わずに教室に入り込み、
女生徒の手を引いて空き教室に引き込んで、
授業が終わったころにようやく、解放されたその女生徒は、ふらふらと教室に戻ってくる。
セーラー服の襟首に走る白のラインを、紅くまだらに染めながら・・・
来年は卒業を控えていた淑恵のクラスは、不幸にも、真っ先に毒牙にさらされた。
学校の帰り道、ぐうぜんすれ違った淑恵が、話しかけてきた。
「あたしも・・・咬まれちゃった・・・」
ひとに見せたことないんだよ・・・と、淑恵は羞ずかしそうにセーラー服の襟首を掻き寄せて、
ふたつ並んだ紅い咬み痕を、見せてくれた。
傷口はまだ新しく、非の打ちどころのないきめ細かい膚が、荒々しく抉られていた。
ずきん!
俺の胸の奥を、どす黒い衝動がさしたのは、そのときだった。
おだやかにすれ違ってゆくセーラー服の後ろ姿を見送りながら、
俺はずうっと、あの娘といっしょにいたいと思っていたのだと、今さら気づいていた。

女学校はもちろんのこと男子禁制でだった。
教師には男も少数ながらいたが、女の教師が圧倒的に女が多かった。
まして同年代の男などは、ひとりもいない。
閉鎖された女の園のなかで、独り生き血を吸いつづけられるようになった淑恵。
もしも淑恵といっしょに血を吸われたいのなら、方法はひとつしかない。
彼女の学校に転入して、いっしょのクラスに入れてもらう。
スカートなんか穿くのは、中学生のころお袋のよそ行きのスカートにイタズラしたのが唯一の経験だった。

淑恵の通っている女学校の制服は、セーラー服だった。
「ほら、淑恵さんが貸してくれるってさ」
母はウキウキとして、俺の部屋に入ってきて、
抱えてきた風呂敷包みを丁寧に開くと、夏用のセーラー服がひと組、姿をみせた。
濃紺の襟首に、白のラインが3本、鮮やかに走っていた。
これを俺が着るのか・・・?
いいようもない違和感がよぎり、
面白がる母親に乗せられて、
指先を震わせながら手に取って、
ホックをはずし、袖をたぐり寄せて、
頭からすっぽりと、かぶっていた。

胸元のホックを取るのを忘れ、頭を出せずにいると、
「やぁねぇ」と母はいい、ホックをはずしてくれた。
鼻先にツンとよぎったセーラー服の嗅ぎ慣れない生地の匂いに、頭がくらくらとした。

「スカートも履いてみなさい」
母はさいごまで、手をゆるめなかった。
畳のうえにまあるい輪のように拡がったプリーツスカートのまん中に片脚を踏み入れて、
スカートを引きあげながら、もう片方の脚も突っ込んだ。
「これも、淑恵ちゃんから」
母が手に取った淑恵からのプレゼントなるものは、母の小さな掌のなかにすっぽり収まるくらい小さい、黒い生地だった。
縮れたような脚の形が二本、畳のうえに拡げられている。
こんな縮こまったようなもののなかに、俺の脚が収まるんだろうか?
懸念はすぐに消えた。
手取り足取りで、母の手でひき上げられた黒のパンティストッキングは、
薄っすらと透けながら生地が伸びていった。
なよなよとした感触が、脛やひざ小僧を、居心地悪く蔽った。
女はこんなもの穿くの?俺がそういおうとしたとき、
「あらー、男の子でも似合うんだね。ユミちゃん似合うよ」
弓雄というのが俺の名前なのだが、いつもは「ユウちゃん」と呼ぶ俺のことを、女めかして「ユミちゃん」と呼んだ。
その瞬間、俺の心のなかで、なにかが入れ替わった。

黒革の鞄は、男子校のときと変わらなかったけれど。
「さいしょはこれかぶって学校行きなさい」母にかぶせられたかつらはやけに風通しが悪くて、暑苦しくて。
なんども脱ごうとして、思いとどまった。
そのうちに慣れてくると、風が吹くたびに頬を擦る長い髪の毛に、かえってドキドキと胸がはずむようになっていた。
まだカーテンを締め切っている商店のガラス戸には、自分の通学姿が嫌でも写っていた。
純白のセーラー服。白のラインの入った濃紺の襟首に、おなじ色のスカート。
そして足許は、脛が薄白く透ける、黒のストッキング。
足の甲を革紐がまたがる黒い靴は、どうしてもサイズが小さめのものしか手に入らず、「しばらくこれで我慢しなさい」と言い聞かされてしまっていた。

「おはよう」
聞き慣れた淑恵の声にふり返ると、淑恵はちょっとびっくりしたように俺を見あげて、
頭のてっぺんから黒のストッキングの革靴のつま先までじーっと眺めて、
逃げ出したいほど恥ずかしかったのに、立ちすくんだ足は、根が生えたみたいに動かなかった。
足許がガクガクと震えていたのは・・・緊張ばかりが理由じゃなかった。
彼女にこんな格好を視られている・・・点検されてるみたいに、入念に観察されている。
十重二十重に絡みつく淑恵のそんな目線が、俺に震え上がるような歓びを、植えつけていた。

ふたり連れだって入った教室には、女の匂いがむんむんとしていた。
見渡す限り、セーラー服、セーラー服、セーラー服・・・
ごめんね、ユミさん、夏ものしか予備がないのよ。
登校初日のまえの晩。俺は母に連れられて、初めてセーラー服で夜の通りを歩いた。
淑恵の母にお礼を言うために。
淑恵の母はは済まなさそうにそういったけれど。
夏服の子は、意外に多かった。

「おはよう」「おっはよ~♪」「おはようございます」
トーンの高い声、落ち着いた低い声、元気に弾んだ声。
淑恵の友人たちが口々に、その性格のまんまの朝のあいさつを投げてくる。
それは俺に対しても投げられたものだった。
女声の練習はまだまだ慣れていなかったから、俺は無言の会釈を返しただけだったけど。
ひとりじゃないという心証が、極度に緊張した俺自身を、落ち着かせ始めていた。
授業が始まるころ。
窓際に一人。
廊下側に一人。
俺の同類がいるのを、発見した。
ひとりは、顔見知りですらあった。
自分の妹が、おなじ教室にいたのだ。
きっと・・・兄妹ながら血を吸われることを承諾したんだろう。
「あんまり詮索しないでね」
隣に座った濃紺の冬服の淑恵が、声をひそめてそういった。


あとがき
シリキレトンボですね。^^;
はい、時間切れです。
後半・・・描けるんだろうか?とおもいつつ、あっぷしてみますね。^^
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「女子校に登校」(後篇ならずのおわびの記事です)
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