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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

予防接種

2013年04月17日(Wed) 08:02:20

あたりはもう真っ暗だというのに、俊作少年はまだ、昼間のように半ズボンのままだった。
白と水色のしましま模様のTシャツに、デニムの半ズボン。脛を蔽っているのは、ねずみ色のハイソックス。
俊作少年はあたりを気遣わしげに見回して、それから納屋の奥へと入っていった。
天窓から降り注ぐ月の光が、一陣の明るみをつくっていた。

小父さん、いる・・・?
ひそめた声に応じるように、納屋の隅からがさ・・・ッと、藁の上から人の起き上がる音がした。
俊作少年はびくっとして身をすくめたが、音の主が待ち人だとすぐにわかって、頬を弛めた。
待った?
すこしな。
よほど打ち解けあっているふたりらしい。
どちらからともなく影を寄り添わせていって、
いっぽうは傍らの椅子に腰かけて、ずり落ちかけたハイソックスをきっちりと引き伸ばして、
もういっぽうはその足許に屈み込んで、少年の脛にべろをなすりつけた。

うわっ、くすぐったいっ!
俊作少年は思わず肢を引っ込めたが、すぐに思い直して、
ねずみ色のハイソックスの脛を自慢するように見せびらかした。
  小父さん、まえから狙ってたでしょ?
  ボクがいつも学校に履いていくやつ。
  穴が開いたらやだからっておねだりしてみたら、
  母さんがおなじやつをなん足か買ってきてくれたんだ。
  きょうはハイソックスのまま噛んでもいいんだよ。
俊作少年の言いぐさに応えるように、なすりつけられる舌が、いっそうしつように這い回った。
  ウフフ。くすぐったい。そんなに、いいの?
男の子にしては白い頬に面白そうな含み笑いを泛べて、
しっかりとしたナイロン生地に沁み込んでくるよだれのなま温かさに、かかとを浮かせた。
  いつも、破るのガマンしてたよね?きょうは気の済むまで咬み破っちゃっていいからね。
俊作少年は謡うように、くり返していた。


家に帰ると、母親はまだ起きていた。
台所仕事が終わっていなかったのか、お皿のさいごの一枚を拭いているところだった。
  お帰り。遅かったね。
母さんの声はどことなく、引きつっていた。
たるんでよじれたハイソックスに赤黒いシミがあちこち撥ねているのを目に入れないようにしているのが、息子にもわかった。
  ただいまぁ。今夜はもう寝るね。
俊作少年はどこまでも無邪気な声で、風呂場に向かった。
まだなま温かく濡れているハイソックスを思い切りよく脱いで、洗濯機のなかに放り込む。
  捨てないでね。きれいに洗ったら、小父さんにあげる約束なんだから。
彼の声には、曇りがなかった。
洗濯機で洗っても、紅いシミはきっと、薄っすらとのこるだろう。
少年が納屋に来れない夜、小父さんはそれを見つめて、舌なめずりでもするのだろうか?


予防接種のような行列だった。
並んでいるのはほとんどが、30~40代の主婦だった。
だれもがこぎれいに、着飾っていた。
まるで息子や娘のお見合いにでも行くように。
彼女らの子たちは、窓から見えるあの古びた校舎で、授業を受けている最中のはずだった。
はい、田中さん。三番教室にどうぞ。
表情を消した教員のひとりが、一番先頭の主婦に声をかけた。
田中さんと呼ばれた主婦は、真っ白なブラウスに水色のフレアスカートをひらひらさせていた。
白のパンプスに縁どられた足首だけが覗いていた。
その足首は、どきりとするほど光沢のぎらつく肌色のストッキングに包まれていた。

田中さんが入っていった教室のすぐ隣の部屋から、入れ替わりのように出てきたミドリさんのお母さんは、ちょっと蒼白い顔をしていた。
モスグリーンのカーディガンの下には、ワインカラーのトックリセーター。
ごく目だたない濃紺のひざ丈スカートの下から覗く脛は、肌色のストッキングのうえに派手な裂け目を滲ませている。
そういえば髪型もどことなく乱れているし、カーディガンやセーターの胸元についたシミを、しきりに気にしていた。
アラ、俊作ママもいらしたの?
規子が顔をあげると、子供同士が仲の良い同年輩のママ友だちは、人懐こい笑顔を投げてきた。
笑顔とは裏腹に、うなじにふたつ綺麗に並んだ傷口に毒々しく輝く血潮をあやしたまま。

俊作の父親はこの村の出身だった。
母親は、都会育ちだった。
さいしょは父子だけの秘密が、母の知るところになり、迷った母は思い切って初めて、「予防接種の会」に顔を出したのだ。
夫も子供のころはよく、血をあげたんだ・・・そう聞かされて、すこし気持ちが楽になった。
「気絶しちゃ、ダメだよ。なにされてもかまわないってことになっちゃうから」
着飾った妻を送り出すとき、夫は念を押すようにそういった。
どこかで・・・気絶しても仕方がないか、と思っているふうに見えたのは、気のせいだろうか?

初めてなんでしょう?
お相手はもう、わかっているわ。わたし今逢ってきたから。
俊作くんの相手をしているあの方よ。
そうそう、ミドリもあの小父さまのお相手しているの。
二人して学校帰りに寄ることもあるみたい。お気づきにならなかった?
ひと息入れて、気分が変わったら、あなたお呼びがかかるわ。しっかりね。

ミドリちゃんのお母さんはそういって、手渡された脱脂綿で傷口を抑えながら、帰っていった。
破けたストッキングに、どろりとした粘液が這い降りてきて、ふくらはぎをなぞるように滴り落ちてゆくのを、彼女は見ないふりをした。


ねずみ色のストッキング、息子さんとおそろいね。
花柄のスカートによく合うわ。

ミドリちゃんのお母さんは女の目線になって、規子の服装をほめてくれた。
そしてひと言、つけ加えた。
  真っ白なブラウスは、ハデよ。
どういう意味だろう・・・?
小首をかしげる規子に、
  真っ赤にされちゃうもの。
ミドリちゃんのお母さんは、どきりとするようなことを言った。
  そう。白を指定されたのね。
  汚したくなかったら、思い切ってブラウス脱いじゃえば?
  だめとはいわれないはずよ。
ブラウスの下から透けるブラジャーの吊り紐をまじまじと見つめながら、ミドリちゃんのお母さんはよどみなくつづけた。
  でも、気絶しちゃ、ダメよ。なにされたっていいってことに、されちゃうんだから。
彼女は念を押すように、つけ加えた。
どこかで聞いたことのある言葉だった。


思ったよりも若々しい相手だと思った。
息子から聞いた小父さんは、白髪交じりの老紳士だった。
無遠慮に、というよりも、半ばぼう然としてじいっと顔を見つめる規子に気づくと、小父さんはいった。
  ああ、顔つきですね?夕べの俊作くんが、元気づけてくれたからですよ。
よどみない言葉づかいは、土地の人にはないものだった。
そういえば、ミドリちゃんのお母さんも、血を吸われた後は、よどみのない言葉づかいになる。
彼の言い癖が、うつるんだろうか?
近寄ってくる彼を無意識によけるように、壁ぎわまで追い詰められながら、規子はいった。
  あの・・・ブラウス脱ぎます。
小父さんは御随意に、というと、女がブラウスを脱ぐまでの間、腕組みをして視線をそらしてくれた。
けれどもそらされた視線が時おり戻ってきて、むき出しになった彼女の胸元や肩先を注意深く観察するのが、痛いほどわかった。
では。
おもむろに近寄ってくる男を避けることは、もうできなかった。
仰のけられたうなじの皮膚に食い込む尖った異物が、ちょっと痛痒かった。

息子もおなじことを、週になん度も経験しているのか・・・
お父さんも、子供のころはおなじ経験をしたというのか・・・
ぼうっとなった頭の隅で、けんめいになって家族の顔を思い出そうとした。
それくらい、さいしょの一撃は、衝撃だった。
眩暈も脚のふらつきも、首のつけ根に沁み込まされた痛痒さも。
決して不快なものではなかった。
  気絶するまで愉しんだら、いけないよ。身も心も奪われちゃうから。
どこかでだれかから、そんなことを言われたような・・・でもどうしても、思い出せない。
  ねずみ色のストッキング、よくお似合いですな。息子さんとお揃いですかな。
男は無遠慮に、脛に触れてくる。
ストッキングの薄い生地ごしに、尖った爪がすーっと撫でつけてくる。
どきどきしてしまった。その場に座り込んでしまった。
教室の板の間に。
  はは。貧血ですね?初めてでは、仕方ないですね。
あの・・・
規子は口を開いた。おずおずと。ひとつ、尋ねたいことがあったから。
  感想ですか?これは失礼。いいそびれてしまった。
男はつるりと、頭を撫でた。もの慣れた、如才ない感じだった。
  美味しいですよ。貴女の血。さすがは俊作くんのお母さんだ。いいお味です。
にんまりと笑んだ口許を、男はねずみ色のストッキングを穿いた脛にあてがおうとしてくる。
息子がいつも、ハイソックスに血のりを撥ねかせて帰ってくるのを、規子は知っていた。
おなじようにするというの?そんなことをしてしまうというの?
おろおろとしているうちに唇が迫り、薄地のナイロン生地にねっとりと這わされ、
ストッキングがよじれてしわになるほど、じりじりと吸われた。
唇の端から洩れてくる舌がにゅるにゅると圧しつけられてきて、なま温かいよだれがストッキングを濡らした。
ナイロン生地の舌触りを愉しんでいるのが、ありありとわかった。
ブチブチ・・・ッ
かすかな音を立ててストッキングが破けたとき、女は「あぁ・・・」と、ため息をした。
われながら女っぽい声色になっている―――

彼は規子から求められたと思い込んでいる血の味についての感想を、切れ切れに口にする。
  美味しい。ああ、美味しい。さすがは俊作くんのお母さんだ。おお、なんというお味・・・
でも彼女がさっき尋ねたかったことは、そんなことではなかった。
  どこまでお愉しみになるというんですか・・・?
それは決して発してはならない質問のような気がした。
組み伏せられてうなじを吸われ、吊り紐をひきちぎられたブラジャーからまる見えになったおっぱいをいじくられつづけながら恍惚となりはじめている自分にとっては。
花柄のスカートのすそは、いつのまにかひどく乱されていた。
どうしてきょうに限って、パンストではなくて、太もも丈のストッキングを穿いてきたのだろう?
どうしてきょうに限って、無地のではなくて、真っ赤なショーツなんかを穿いてきたのだろう?
答えはもう、わかりきっていた。
真っ赤なショーツは教室の隅っこに脱ぎ捨てられていた。
派手な伝線を拡げたストッキングを穿いたまま、規子の脚はくねくねと色っぽくくねり、
毛むくじゃらな逞しい男の脚に、蛇のようにからみついていた。
  あなた、ごめんなさい・・・
謝罪の呟きが、妻としてのさいごの理性だった。
  だれもがとおってきた道だからね。
謎めいた夫のほほ笑みのわけが、規子はなんとなく、わかったような気がした。
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血を吸いたい 吸わせたい
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「女子校に登校」(後篇ならずのおわびの記事です)

コメント

予防接種?
なんという言い訳(笑)。
はじめてのお母さんの耽溺ぶりがいっそ爽快でした。
わたくしも、溺れてしまうかも♪
by 祥子
URL
2013-04-17 水 17:06:30
編集
> 祥子さま
御返事遅れてしまって、ゴメンナサイ。

そういえば大昔、アノコトを「注射」なんて言っていたことがありましたっけ。
ちょっとお下品な世界でしたが。
(^^ゞ
予防接種、というところが、おくゆかしいですよね?(どこが・・・笑)

予防接種の春は、ときめきの春でもあったりするようです。
(^^)
by 柏木
URL
2013-04-20 土 04:38:11
編集

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