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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

血を吸いたい 吸わせたい

2013年05月05日(Sun) 08:05:53

あっ!痛いっ!嫌だっ!だめ・・・っ。
夜のかえり道、初めて出逢った吸血鬼の小父さんを相手に、ぼくは戸惑いあわてていた。
けれども小父さんは、それは慣れたようすでぼくにすり寄ると、
ぼくの身体を頑丈な紐できっちり結わえるように、丸太ん棒みたいな逞しい腕でがっちりとつかまえて。
うなじを吸って、ほどよい痛みをしみ込ませ、ぼくの抵抗する意思を奪ってしまうと。
半ズボンの太ももに手をさ迷わせ、
通学のときいつも穿いている濃紺のハイソックスのうえからふくらはぎに吸いつけられた唇に、
しなやかな生地をよだれでじっとりと、濡らされていった。

貧血だよ。たまらないよ。小父さん、ひどいことするね。
ぼく、吸血鬼になんか、なりたくないんだからね・・・

こんな仕打ちをした小父さんを散々に非難しながら、
けれどもぼくは、約束してしまっている。

逢うのは今度だけだからね。いちどだけだからね・・・


毒が脳にまわって、ボクの理性を鈍らせるのには、二、三日とかからなかった。
そのあいだにぼくは、通学用の紺のハイソックスをなん足も小父さんに咬み破らせていたし、
女の血を欲しがる小父さんのために母さんを紹介してからは、
長靴下に穴をあけ、血で濡らして家路をたどるぼくのことを、母さんはもう咎めなくなっていた。

血を吸いたい。
そんな衝動にとり衝かれたのは、血を吸われるようになって、一か月もしたころだろうか?
小父さんがぼくや母さんだけではなくて、
クラスの男女をだれかれとなく襲って血を吸っていると知ったころ。
まだなにも知らない友だちよりも、
小父さんを家にまであがりこませている男女との付き合いのほうが、ずっと親しくなっていた。


やだよ・・・やだよ・・・
表向きぼくは、初めての頃と同じくらい、血を吸われることを嫌悪して、
靴下を破られるときなんか、すごく迷惑そうに激しくかぶりを振って、
身体の下肢に密着したしなやかなナイロン生地に意地汚くよだれをしみ込ませてくる小父さんのことを、それは口汚く、罵っていた。
けれども小父さんは、そんなことは頓着せずに、「気がすむまで言うんだね」って、平然としていて。
いつも決まった量だけの血をぼくの身体から吸い取って、
うっとりとしたぼくのことを、大人しくさせてしまうのだった。
だんだんと・・・血を吸われることの楽しみが、わかってきた。
そしてだんだんと、ぼく自身も、人の生き血を吸ってみたくなっていた。


血を吸われてしまうことが、華絵さんに対して済まないって思うようになったのは、いつのころからだっただろう?
ぴちぴちとした生気をたっぷり含んだ血液を口に含んでいくときに、
小父さんは時おり牙を引き抜いて、ぼくの顔を見あげると、ひどく眩しそうな顔をして目を細めていた。
そうなんだ。
ぼくの身体をめぐっているのは、若々しい魂―――
それは、華絵さんとこそ共有したいと願っていたもの。
家と家の習慣で、ぼくたちは早くから夫婦になるときまっていて。
お互いそれを意識し合っていて、クラスメイトのなかで盗み見るように、互いを眩しく見つめ合う関係だった。

華絵さんのこと、想っているな―--?
小父さんに図星を刺されたとき、ぼくはのしかかってくる彼の下、
吸い取ったばかりの血潮をわざと滴らされて、気に入りのTシャツをなま温かく濡らされてしまった時だった。
どうしてわかるの!?
思わず口をついて出たのは、非難の声。
けれども小父さんは、ぼくのことなんかすっかり手玉に取ってしまっていて、
髪の毛を心地よく撫でまわされながら、血のついた牙を隠そうともせずに、こともなげにいったのだった。
彼女、時々夜の教室に来ているよ。
友だちに誘われたんだ。

夜の教室に来る。
知っている。ぼくだって、なん度も招ばれて出かけて行ったから。
血を吸われる少年少女はそこで、教室の板張りの床に、自分の血を滴らせてから家路をたどるのだ。

えっ。
ぽかんと口を開けたぼくのことを、小父さんは、へへっ、と、ちょっと得意げに見回すと。
彼女の血、おいしいぜ。きみの血と、いい勝負だな。
そんなことをいうと、照れ隠しに顔を隠すようにして、牙をぼくの太ももに埋めてきた。

ああ・・・

嫉妬に焦がれてのけぞったのは、それが初めてという夜だった。

豊かな黒髪をおさげに結って肩まで垂らした、色白の丸顔は。
いつもぼくのためにばかり、ほほ笑んでいるのだと思い込んでいた。
けれども彼女の気持ちも、ぼくはすっかり、わかってしまっている。
そう。
血を吸われるのって、とてもうっとりする行為だから。
いちど慣れちゃうともう、抜けられなくなるはずなんだ。
彼女はきっと、軽い気持ちで、友だちの誘いに乗ったのだろう。
さいしょの夜。
どんな思いで、血を吸い取られていったのだろう?
ぼくのこと、少しは思い出してくれたかしら?
さいしょに咬まれた脚に履いていたのは、あの真っ白なハイソックス?
それとも始業式のときに履いてきた、あの大人びた薄黒のストッキング?
純白の生地に撥ねるバラ色のしずくやチリチリと伝線を拡げ素肌を露出させてゆく淡いナイロン生地のありさまが、
ぼくをあらぬ妄想に誘っていた。

きみにごめん、って言っていたぞ。
引導を渡すように、小父さんはぼくにそういった。
タカシくん、ごめん、ごめんなさいッ!
目をキュッと瞑って、両手を合わせて。
ひざ小僧の下まできっちり伸びた白のハイソックスのふくらはぎの輪郭を侵されていったという。
でもな、いまはもう、彼女すっかり慣れたから。
こともなげな言いぐさが、ぼくの脳裏を白々とさせた。

どちらの気分も、わかるんだ。
ぼくだって、血を吸いたいって思うときがあるくらいだから。
小父さんはきっと、喉がからからにかわいてどうしようもないときに、
華絵さんの自宅に電話を入れて、
すでに血を味わってしまったであろう彼女のお母さんに電話を代わってもらって。
いついつ、どこそこへ来て・・・って、無駄口ひとつたたかずに、命令をして。
彼が希望すれば、空色のブラウスにお気に入りの緑のチェック柄のスカートを履いて。
彼が望んだら、濃紺の制服を着て。
ふたりきりの約束の場所にあらわれる。
そうして、その晩ひと晩・・・
白のハイソックスに血のシミが撥ねたり、
墨色のストッキングに派手な裂け目を拡げられたりしながら、
きゃっきゃとはしゃぎながら、うら若い血を啜らせているんだ。
血の歓びに興じているとき、華絵さんはぼくのことを、思い出すのだろうか?
小父さんはそのとき、ぼくのことを、どう思っているのだろうか?

あー、でも・・・
吸いたいよね。吸われたいよね。わかるんだ、ぼく・・・

ほれ。
むぞうさに差し出されたチャンスに、ぼくはもうびっくりとしてしまって、
感情さえわすれたような、薄ぼんやりとした顔つきをして、
---華絵さんのまえに、立ちつくしていた。

きょうの相手は、だれ?
華絵さんは白目の多いよく輝く瞳をくりくりとさせて、
おさげに結った黒髪から見え隠れする首すじを、さりげなくあらわにしていった。

こいつ、あんたの血を吸いたいんだって。

いきなりぼくを、指し示されて。
それでも、あらかじめ言い含められていたのだろうか?っていうくらい、華絵さんのぼくに対する態度はしぜんだった。
あら。今夜はタカシくんなの?
寛大なほほ笑みが、満面にひろがった。
いいよー、これ、おうちで履き替えてきたの。タカシくんも破る趣味あるの?
重たい濃紺のプリーツスカートをちょっとたくしあげると、
黒のストッキングに包まれたひざ小僧が、なまめかしく映えていた。

公園のベンチで、背すじを伸ばして、きちんと腰かけるきみの足許に。
ぼくは小父さんがいつもそうするみたいな、もの欲しげなかっこうをして、屈み込んでいって。
きっときみは、目を瞑っている。
そんな想像をして、むしろそう願いながら。
やんわりとした薄手のナイロン生地が染める、きみの脛へと唇を添わせていく。
はじめて口にしたストッキングの感触は、ひどくたよりなげで、なよなよとしていて。
ぶちゅっ・・・とお行儀わるくなすりつけてしまった唇の下、か弱げにねじれていった。
ああっ、もうっ、ガマンできない・・・っ。
喉の奥から衝きあげてくる、渇き。
ぼくは、華絵さんのふくらはぎを、思い切り咬んでいた。

きゃあ・・・っ

夜空にこだまする、乙女の叫び。
それはぼくのために、あげられたもの。
ぼくはもう夢中になって、ごくごくとむさぼっていた。

翌日、登校してきた華絵さんの顔色は、ちょっぴり蒼ざめていた。
ぼくと目を合わせるなり、「ひどいわね」って笑って、さりげなく脚を差し伸べて見せびらかした。
昨日破いたままのストッキングが、ふしだらなよじれときわどい裂け目を滲ませたまま、彼女の脚に履かれていた。
きょう一日、このかっこうで過ごすの。おじさまの命令なのよ。

一週間が過ぎ、十日が過ぎ、ひと月が経った。
ぼくたちはいつも連れだって登下校をくり返して、
途中で立ち寄る公園で、いつも彼女は笑いながら、ストッキングを破らせ、ハイソックスに真っ赤なシミを拡げさせてくれた。
相手はもちろん、ぼくだけじゃない。
クラスメイトのマリちゃんも、華絵さんの血の熱烈なファンだった。
おじさんはいつも、ぼくにたいして優先権を主張して、ぼくは苦笑いしてそれを受け入れていた。

ぼくたちカップルは、吸血鬼たちのまたとない協力者。
家族を紹介し、パートナーの吸血を許し合う。
血を吸い取られてうっとりとなったぼくの傍らで。
華絵さんも羞じらいながら、だれかに抱きすくめられてゆく。
ちゅう・・・っ。
旨そうに彼女の血を啜る音がするだけで、ぼくはゾクゾクとした震えを感じてしまう。
彼女が愉しまれている。彼女の体内をめぐるたいせつな血潮が、だれかに悦ばれてしまっている。
嫉妬と情愛と同情とが織り交ざった、不思議な感情。

「血を吸いたい」という欲望がぼくから消えて、
もっぱら「血を吸わせてあげたい」という願いにすり替わっていったのは、それからのことだった。
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