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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

魔少女

2013年05月25日(Sat) 07:17:38

ちいさな背中の半ばくらいまでもある、長い黒髪を。
左右にきっちりと、ツインテールに結い分けて。
びっくりするほど大人びたツヤを見せる黒髪とは裏腹に、稚なげな目鼻立ちは。
どちらかというと控えめで、目だたない。
いつも顔色が悪く、うつむきがちな少女———

そんな彼女のいるクラスが、わたしが新たに受け持つクラス。
「しっかり頼みますよ」
五十がらみの年配の、席が隣の教師は、表情の見えない目を、メガネの奥で光らせた。
都会から転任してきてすぐのわたしは、まだ周囲に慣れなくて、
そわそわとした気分で、教室に向かう。
そう、結婚してまだ一年半のわたしの妻も・・・いまごろは慣れない田舎の日常に、四苦八苦しているころだろう。

がらり。
教室のドアを開くと、古びた空間はそらぞらしいほどにがらんどうだった。
え・・・?
教室間違えたかな?
あわてて廊下にぶら下がっているプレートの、学級名を確かめようとすると。
「先生、ここよ」
がらんどうの教室のいちばん奥から、小さな声が投げられてきた。

きっちり結い分けたツインテールの黒髪に、広いおでこを理知的に光らせた少女。
けれども悲しげなその表情に華は感じられず、こちらまでもが物悲しい気分になってくる。
「えっ、きょうの出席者は、きみ一人なの?」
訊き返すわたしに、少女は「そう」と応えると。
「印南みずきさん、はい」
と、独り芝居のように、自分で出欠を取っていた。

「ほかの子たちは、どうしたの?」
わたしが訊くと、みずきと名乗る少女は言いにくそうに、こう言った。
「みんな、血を吸われちゃったの・・・」

そんな噂は、赴任前から聞いていた。
妻を伴うのをどうしようか?と、迷ったくらいだった。
「そんな話あるわけないじゃない」
一笑に付した妻は、わたしについてきてくれたけど。
ほんとうは・・・転任のきっかけになった不倫事件の当事者の相手が来ないかと、警戒していたらしかった。
「ご指摘の通りです。この街には吸血鬼が棲んでいます」
そう断言したのは・・・隣の席の、あのメガネの年配教師だった。
「ほかの人に訊いても、無駄ですよ。あなたがここの人間になるまで、はぐらかされるだけですからねえ」
ため息交じりな声色は、この学校の閉鎖性を憂えているように聞こえはしたけれど。
吸血鬼がいるという事実を受け容れるだけで、それ以上どうするつもりもないらしい彼の態度は不思議だったし、
だからなおさら、真顔で応えた彼の言いぐさも、そのまま信じる気にはなれなかったのだった。
「そんな話あるわけないでしょう」
体育の先生だって、血色のよい頬にあからさまな嘲笑を泛べて、そういっていた。

新たなクラスでわたしを迎えてくれたのは、顔色のわるい少女がただ一人———
その現実を直視することが、とっさにできなくて。
わたしは少女に、たずねていた。
「血を吸われちゃった・・・って、いったいだれに?みずきちゃんは平気なのかな?」
「うん、みずきは怖くない。だって、みんなの血を吸っちゃったのは、みずきなんだもん」
え・・・
少女もまた、真顔だった。

ごめんね。先生。
気がついた時には、目線の前にあるのは教室の天井だった。
床のうえにあお向けになったわたしは、自分の身に起きたことを、とっさに理解できないでいた。
みんなの血を吸ったのは、わたし・・・そこまで語ったみずきは、わたしのほうへとまっすぐに歩み寄ってきて・・・
信じられない腕力で、わたしのことをねじ伏せて、首すじを咬んだのだ。
首のつけ根に走る、ちくりとした疼痛を感じた直後———
ものすごい勢いで体内の血液が逆流するのを、わたしは感じた。
すべてが少女の唇に吸い寄せられて、傷口を通り抜けていった。
「ま、待ちなさい!待って・・・!」
制止は懇願に代わり、しまいには意味不明なうめき声にすり替えられていた。

ごくごく、ごっくん。ぐびり。

みずきの吸いかたは、獰猛だった。
万力のような強い力で抑えつけられた両肩は、床にぴったりと貼りついたようになって。
わたしはなすすべもなく、みずきの気まぐれが収まるのを、待ち焦がれるしかなかった。

「こんなふうにね、みんなの血を吸ったの」
「みんな・・・死んじゃったの・・・?」
ううん、と、みずきはかぶりを振った。
ツインテールの髪が、ユサユサッ・・・と重たく揺れた。
「だいじょうぶ。みんな順番こに吸ってるから。プリント届けてあげると、そのおうちのお母さんも、みずきの相手をしてくれるんだよ」
少女の声色はどこまでもあどけなく、そのゆえによけい、身の毛のよだつものが色濃くよぎる。
「わたしは、いつ放してもらえるの」
「放課後」
少女はイタズラっぽくクスリと笑い、吸い取ったばかりのわたしの血を、手の甲でむぞうさに拭った。

キィン・・・コォン・・・カァン・・・
遠くから、終課のチャイムが聞こえてきた。
もう・・・こんな時間になるのか・・・?
朝からずっと、この子に血を吸われつづけていたのか・・・?
ぼうっとなった頭からは、理性が消えかけていた。
ははは。
みずきが虚ろな声で、哂った。
「先生、ひどい顔しているよ。まるでミイラみたい。あとでおトイレに寄って、鏡見たら?」
そうして耳もとで、囁いた。
「先生の血は、ぜんぶあたしのもの。約束よ」

いつかどこかで、こんなふうに。
寝そべるわたしの上になって、耳元で囁いた女がいたのを思い出す。
「あなたはぜんぶ、あたしのもの」
その女はそういって、あとにスキャンダルと左遷の運命だけを残して、立ち去っていった。

「じゃあね。またあした。一時間くらい、残業していくといいよ。そしたら顔も、元に戻るから」
血に濡れたブラウスのまま、少女はスキップをして、教室から出ていった。

わたしはやっとのことで起きあがると、まるで二日酔いのあとみたいに重たい頭を振り振り、教室を出た。
途中で思い立って、トイレに立ち寄った。
ぎゃああ・・・
別人のようになった顔に、わたしは思わず大声をあげていた———

「いいお顔になりましたね」
夕陽の射し込む職員室は、ほとんどがらんどうになっていて。
けれども隣席の老教師はまだ、四角いメガネを光らせて、わたしのほうを振り向き、声をかけてくれた。
「いったい・・・い、いったい・・・」
知人の顔を見て、初めて恐怖の戦慄がわたしの身体を駆け抜けたのだ。
「ああ、だいじょうぶだいじょうぶ」
老教師はなだめるようにいうと、「ここのひとたちは、みんな経験してるから」と、こともなげに言ったものだった。


少女の襲撃はいつも突然で、発揮される食欲は貪婪きわまるものだった。
「先生!」
授業のさい中にみずきが挙手をすると、ほかの子たちは目配せし合って、教室から出ていく。
みずきはみんなが大人しく出ていくのを見送ると、
「う・ふ・ふ♪みんな協力してくれるんだ」
と、含み笑いを泛べながら、わたしのほうへと歩み寄る。
そうして立ちすくむわたしを見あげると、
「どうすんの?すわんないの?じゃあきょうは、脚からね」
といって、スラックスを引き上げると、脛にかぶりついてきた。
脚や脇腹を咬んだとしても、それはたんにわたしが苦痛の声をあげるのが面白くてしているだけだった。
さいごにはきまって、首すじに唇を這わせてくる。

ごくごくっ。ぐびっ。

あどけない顔つきとは裏腹に、少女は獣のように貪婪に、わたしの血をむさぼるのだった。
「先生、顔つきが変わったわ。奥さんにばれないように、きょうも残業していくんだね」
だれもいなくなった教室を出るとき、みずきはいつもスキップをして戸口に向かう。


ある朝出勤すると、隣席の老教師が、話しかけてきた。
いつものように、正面を向いたまま。こちらのことなど、視ようともせずに。
眼鏡の奥の瞳は、やはり表情を消していた。
「きょうは先生、授業はいいので、みずきちゃんをお宅へ連れ帰ってください」
え?
わたしが問い質すゆとりも与えずに、彼の態度は有無を言わせないものだった。
「あなたのクラスの担任は、臨時に私が拝命することになりました。みずきちゃんの教育には、専任者が必要なのでね」
校長も承諾している・・・老教師は引導を渡すように、わたしに言った。
「あちらでみずきちゃんの保護者のかたが、お待ちかねです。女の子ですから、お宅まで同伴されるそうですから」
老教師の眼鏡の奥は、さいごまで無表情だった。


妻はパートに出ていた。3時過ぎまで戻ってこない筈だった。
そのあいだに、すべてを済ませてしまうというのか?
みずきは白目の多い瞳を上向けて、わたしの顔を窺うようにしてフフフと笑う。
保護者を名乗る中年の男は、うっそりとした暗い雰囲気をもっていた。
顔色の悪さと帯びた雰囲気は、父娘そっくりだった。
四十がらみの冴えない感じの彼は口数も少なく、それでも恐縮しきったように、目で会釈をしてきた。
「おとうさん。恥ずかしがり屋なの」
みずきははっきりとそういうと、父親をかえりみ、「いつもしょうがないんだから」と、母親のような口調でいった。
この小心な男が、異常な性癖の持ち主である娘のことをどう思っているのか、皆目見当がつかなかった。
けれども、男の教師の自宅でふたりきりになるという娘の身を気遣ってついてくるというのだから、やはり人並みの愛情は持っているのだろう。
男の身なりは、ぱっとしなかった。むしろ、みすぼらしいといったほうが、ふさわしかった。
髪はぼさぼさで、よれよれのワイシャツは、失業者のように薄汚れていた。
さすがにそこまでは失礼だろうと思って立ち入れなかったが、
「きょうはお仕事休まれたのですか」
と、さりげなく訊くと、案の定、「ええ・・・まあ・・・」と、あいまいな返事ばかりが返ってくるのだった。


「はじめるね」
家に着いてわたしの書斎に落ち着くと、みずきは真顔になった。
こういう顔つきになると、すぐに襲ってくるのをわたしは知っていた。
わたしは自分から、たたみのうえにあお向けになると、目を瞑った。
「いい子ね」
みずきは母親みたいな口調でわたしをからかうと、こんどこそ真顔になって、顔を近寄せてきた。
ふうっ・・・稚ない息遣いが、首すじにあたった。

ぐびっ、ぐびっ、ごくっ・・・ごくりん。

少女の飲みっぷりは、いつもながら貪婪だった。
しっとりと結い分けたツインテールからも、悲しげで控えめな目半立ちからもかけ離れたようすだった。
まるで猛禽類が獲物をむさぼるように、みずきはわたしを掴まえ、抑えつけ、生き血をむしり取ってゆく。
いつしかわたしも、うわ言のように口走っていた。

すごいん・・・だな、みず・・・きちゃん・・・は・・・っ

はっ・・・はっ・・・と、息が荒くなるのを抑えきれない。
たぶん失血によるもののはずなのだが、その幾ばくかに昂ぶりのようなものが含まれていると、気づかないわけにはいかなかった。
そう、都会にいるときに、妻のうかがい知れないベッドのうえで、しばしば交し合ったあの息遣い———
それと同種のものが含まれていないと、だれがいえるだろうか?

ぐびっ、ぐびっ、ごく・・・ごく・・・ごく・・・

唇を離すと手の甲で口許を拭い、拭った口許をまた圧しつけてくる。
稚拙で力ずくな肉薄の裏側にあるのは、性の目ざめ・・・?
身体を重ね合わせることで初めて分かり合えるものを、齢のはなれた少女とかわし始めているという現実に、
不思議と後ろめたさを感じなかった。
「すべては教育のためですからね」
言い含めるようにそういったあの老教師の囁きが、今ごろになって力を帯びてくる。

小気味よいほどに鋭い牙の切れ味に、何度目か身をゆだねたとき―――
部屋の奥から、「キャ-ッ!」とひと声、悲鳴があがった。
聞き覚えのあるその悲鳴の主は、まぎれもなく妻のはず・・・
わたしがとっさにふり返ろうとするのを、みずきは強い力で押しとどめる。
「だ・め♪」
吸いつけられた唇に帯びた魔性の愉悦に、わたしも声をあげていた。
「それでいいわ」
女は血に濡れた唇を和ませて、にんまりと笑んだ。
「わかるでしょ?お父さんもあたしと、いっしょなの。わざわざ先生の家にお邪魔したのは、先生の奥さんをお父さんに紹介してもらうため・・・でももう、手間も省けたみたいだね」
どうやらほんとうに、そうらしかった。
ひぃひぃ叫びながら助けを求めつづける声は、じょじょに弱まりくぐもってきて、
「ああっ、ああっ。ああ・・・ん・・・っ」
不思議なうめき声へと、変化していった。
「お父さんね、血を吸う相手の女のひとに、いやらしいことしちゃうの。いやだよね?でも先生も、愉しんじゃっているんだよね?」
みずきは憐れむように、首すじにつけた傷口をゆるやかにねぶり続けてゆく。
「先生浮気して、こっち来たんだって?だったら奥さんにも、赦してあげようよ。愉しませてあげちゃおうよ」
齢のずっと離れた少女は、どちらが年上かわからないような態度で、わたしを支配してゆく。
隣室では夫より年上の男に支配されてゆく妻が、あきらかに凌辱を愉しみ始めている気配を感じながら・・・わたしは畳の上に、白く濁った熱情を、吐き散らかしてしまっていた。
みずきのからかうような笑い声に、苦笑で応えながら・・・
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