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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

斜めに降り注ぐ夕陽のなかで。

2013年06月30日(Sun) 21:18:18

斜めに降り注ぐ夕陽のなか。
紺ハイソの脚がしぜんと歩みを止めて、恐怖にこわばっていた。
セーラー服の肩先に流れる長めのウィッグが、さらさらと頬を撫でるのを感じながら。
あたしはただ立ちすくんだまま、向かい合わせになった校舎とあたしの間に立ちはだかった黒い影を、ただぼう然と見つめていた。


男はいかにも、場違いなかっこうをしていた。
そう、すくなくともあたしは、セーラー服という、いかにも学校にいるひとらしい服装をしていたのに。
その男は黒ずくめのスーツのうえから、真っ黒なマントをまとっていたのだ。
マントの裏地は、鮮やかな真紅。そして胸元のリボンタイも、おなじ色をしている。
まさに、映画なんかに出てくる、吸血鬼のかっこうそのものだった。
異形の装い・・・と言う意味では、あたしに彼を笑う資格はない。
だってあたし、女装子なのだから。

お立ち台


海辺の廃校跡は、かっこうの撮影場所だった。
だれも訪れる人のないその場所に佇むのは、草深くなりかけた校庭の向こうにそびえる、鉄筋コンクリートの校舎(だったもの)だけ。
そんなロケーションが気に入って、あたしは仕事帰りに時折、この場所を訪れるようになっていた。
いままで人影らしきものに出逢ったのは・・・そう、今回が初めてだった。

女装さん・・・だね?
そのものずばりな口調に、あたしはすんなりと頷いていた。
自分でもびっくりするくらい素直な態度で、そうしていた。
吸血鬼さん・・・ですね?
あたしは強いて、口許に笑みを浮かべようと努めた。
努力はほんのちょっとだけ報われて、男に投げた言葉の語尾が、すこしだけ和らいだものになっていた。

この服装じゃ、すぐにそうとわかるな。
男はちょっぴり苦笑しただけで―――恐ろしいことに自分の正体を否定しようとしなかった。
なり切っているつもりなのか?それとも本物なのか?あたしには判断がつかなかった。
男は言った。
女学生の血を吸いたくて訪ねてきたのだが、お門違いのようだったな。
此処が廃校だったとは知らなかった、と、男は言った。
ええ廃校なんです。
あたしは言った。
廃校だから、あたしみたいな偽女学生でも、いいのかな・・・って。

よくお似合いだよ。
偽ものなんかじゃない。

男は間髪入れずに、そういった。
本心からではないにしても、マナーはわきまえているみたい。
ちょっぴりだけど、男と心が交わるのを感じた。

暑くないですか?そのかっこうで。
一歩だけ、歩み寄ってみた。
そんなことはない。わしの身体は、冷え切っているのだから。
応えは、ちょっとだけ悲しそうな口調だった。
だから、女の子の血を狙うんですね。
男は頷きさえしなかった。

狙われた子のこと、かわいそうだなんて、思わないんですか?
勇気をふるってぶつけたあたしの問いに、ふつうの吸血鬼なら、いうだろう。
「あんたはステーキや焼き魚を食べるとき、豚や魚のことをいちいち気の毒だなんて思うかい?」って。
けれども彼の態度は、ちょっとちがっていた。
おなじ人間だからね。
それはすまないと思っている。親のことを考えることもあるよ。
だからたいがいは、ちょっと貧血になるていどだけいただいて、放してやるんだ―――その街には、その日限りでいられなくなるけれど。

じゃあ、女の子を襲うたびに居場所を変えて・・・?
ああ。
大へんね。
自然なやり取りに、気持ちはすっかり落ち着いていた。
女の子の血じゃないと、いけないんですか?
そんなことはない。
飢えたら見境がつかなくなる・・・?
おっと、手きびしいね。
男は苦笑いするばかりだった。
ごめんなさい。
素直に詫びるとあたしは、思い切って言った。
あたしの血では、いけませんか?

男だけど・・・って、卑下するあたしに。
あんたはちゃんとした女学生だ。
間髪入れず、彼はこたえた。
この学校の女子生徒として、貴女を遇したい。
男が口にした「あなた」という言葉。
きっと「貴女」と書くのだろうって、あたしはかってに想像した。

近寄ってきた男は意外に長身だった。
男としても背たけのあるはずのあたしが、見あげるほどに偉丈夫だった。
見あげるほど近くに寄って来たのに、不思議と恐怖は感じなかった。
制服、汚れちゃうかな。。
あたしがちょっとだけ、気にすると。
咬むのは脚にしよう。
男はそんな気遣いをしてくれた。
ベンチに腰かけるあたし。足許にかがみ込む彼。
つかまえられたスカートのすそをちょっとだけたくし上げると、
太ももに、唇の熱さが吸いついてきた。
ひっ。
さすがに、声をあげちゃった。本物の女の子みたいに。

あっ、あっ。あ・・・っ
上ずった声色の下。
チューッ、ってかすかな音をたてながら。
熱く吸いつけられた唇が、温みを帯びた血潮を、吸い上げていった。
クラクラした。
不思議に痛みは、感じなかった。
ただ、疼きに似た痛痒さが、身体じゅうをぐるぐるとまわりはじめていた。
そう、毒がまわるみたいに。
失血のせいなのか。昂ぶりのせいなのか。
あとで男は、そんなに吸っちゃいない、って、言っていたから。
たぶんあたしはあのとき、たしかに昂奮していたのだろう。
血を吸い取られることが、昂ぶりにつながることなのだと。あたしは初めて気がついた。

目をあげると、男の顔が間近にあった。
あたしから吸い取った血潮が、彼の唇に、夕陽を受けてチラチラと輝いていた。
美味しかった?
というあたしに、
美味しい。
男のこたえは、現在形だった。
あんたの身体に秘められたその美味しさを、もっと味わいたい。
顔にはそんなふうに、ありありと描いてあるようだった。
ほんとうは首すじ、咬みたいんでしょ?
許してくれるのか?
制服汚さないって約束してくれたら。
約束しよう。わたしは慣れている。
男の言いぐさを、あたしは信じることにした。

目を瞑ったあたしが感じたのは、うなじのつけ根にめり込んでくる尖った異物の感触―――
そいつは痛痒い疼きを皮膚の奥にしみ込ませてきて、あたしは紺のハイソックスを履いた脚を、いびつにくねらせていた。
くすぐったいのを、ガマンするみたいにして。
吸いつけられた唇の柔らかさ。なま温かさ。
男どうしとは思われない、ねっちりとした唇の愛撫。
男が本気を出していることが、強く抱きすくめられた腕から伝わってきた。
夕暮れのベンチのうえ。
あたしたちは女と男の恋人どうしみたいに、互いの背中に腕を回して、吸われるままに許しつづけていった。

貧血・・・?
気遣う声に、重たい眩暈を振り払うようにかぶりを振ると。
こんどは、ハイソックスの脚を、おねだりされた。
あたしが遠慮しているのをいいことに、そこまでつけ入るの?
そんな思いを込めて、ちょっぴりきつめに睨んであげたのに。
男はぬけぬけと、言ったものだった。
相手の服を汚すのが趣味なのだ。わかってくれるね・・・?
あのときあたしが頷いちゃったのは、なぜなんだろう?
セーラー服の襟首を汚さずに血を吸い取ってくれたお礼に、ハイソックスを咬み破ってもいいって応えていた。
そしてすぐに、言い直していた。
お願い。ハイソックスを咬み破って・・・

紳士的な仮面の下からむき出しにされた男の欲情は、打って変わって貪婪だった。
ハイソックス越しに咬み入れられた牙は、チュッとひと口だけあたしの血を吸い上げると、
刺し込まれた傷口から引き抜かれて、こんどは別の部位を狙ってくる。
なんどもなんども、咬ませてしまった。
それは、制服の一部を侮辱する行為なんかではなくて、間違いなく愛情表現なんだと、あたしは感じた。
だから、もっともっと、咬ませてあげたいと思っていた。
気がつくともう、彼が吸いやすいようにと、自分から脚をくねらせて、脚の向きや角度を変えてやっていた。
真新しいハイソックスの丈が脛の半ばまでしか丈のないのが、もどかしいくらいだった。
あたしは貧血に耐えながら、それでもぞんぶんにお相手をして、悦んでもらおうと懸命になっていた。

脱がしたり、しないんだね。
というあたしに、
女として遇したい・・・といったはずだ。
男はしずかに、応えた。

よかったら時々、ここで散歩を愉しむとよい。
お望みならば、ごいっしょしよう。
男の囁きに、あたしは黙ってうなずいて。
そしてすぐに、言葉を添えていた。
お願い。また逢って。あたしの血を、もっと愉しんで・・・


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