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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

グラウンド

2013年08月16日(Fri) 07:24:34

鋭く高い声がはじけると、澄んで落ち着いた声がそれに応える。
飛び交う声といっしょに、右へ左へとグラウンドを縦横に駆けめぐる少年たち。
そんなありさまを吸血鬼は、隅っこにできた木陰の一隅から見守っていた。

これじゃあ、試合が終わるまでにはどろどろになっちまうな。

少年たちの足許は例外なく、色とりどりのハイソックスが、照りつける陽射しを跳ね返していた。
ガキ大将らしい太っちょの少年はグラウンドのまん中の小高く盛り上がったてっぺんに陣取っていて、
白の半ズボンにも、おなじ色のハイソックスにも、早くも泥を撥ねかしている。
間近に陣取る良い家のお坊ちゃんらしいは赤と紺のボーダー柄のTシャツに合せるように、しましま模様のハイソックス。
不ぞろいなところが、いかにも素人くさかった。
多少まともなフォームをつくっているのは、ガキ大将くらいのものだろう。

よし!俺も仲間に入れろ!

吸血鬼は声をあげて、呼びかけていた。

ええー?

少年たちはいっせいに声のした方を振り向いて、いちように怪訝そうな声をあげる。
大人が入ってくるの?片方が有利になるじゃん。
だれもがいちように、いかにもそう言いたげな顔つきだった。

なあ、いいだろ?

少年たちと同じ顔の高さになって話しかける吸血鬼の顔色をみると、
彼らはすぐになにかを納得したらしく、
「ああ、いいよ。じゃあ小父さんは、弱いほうのチームね」
ガキ大将の相手方のチームは、いかにもひ弱そうな少年たちの集まりだった。


いかにもその他大勢という感じだな。

ひと目で見抜いたとおり、こちらのチームの子たちはいちように、冴えない感じのやつらばかりだった。
ガキ大将のチームは、選り抜きらしい。
陽灼した五分刈りの額に汗を浮かせたガキ大将を中心に、どうやら彼のパトロン的存在らしいお坊ちゃん。
それに取り巻きの腕白坊主たち。だれもが動きがキビキビとしていた。
それに比べてこちらのほうは・・・


試合は吸血鬼チームの惨敗だった。
親切な小父さんは下手のゆるいボールばかり放ったし、微妙なところでは審判役までつとめていたけれど。
必要以上に加勢することは、しなかった。
ひとり大ヒットを飛ばした少年だけが、洟をこすりこすり自慢げに顔を輝かせていた。

試合が終わるとガキ大将がみんなを整列させて、ふたつのチームは左右に分かれて礼をした。
こんなことは、仲間うちでは初めてのことだった。
三々五々帰りかける仲間を制してから、ガキ大将はあけすけに言った。

小父さん、吸血鬼なんだろう?俺たちの血が目当てで、いっしょに遊んでくれたんだろう?

ははは・・・
虚を突かれて、吸血鬼は照れくさそうに頭を掻いてしまった。
いっしょにプレイをしているうちに、そんな不埒な気分を忘れかけていたからだろう。
少年に言われて初めて、渇きが喉の手前まで、せきあげてきた。

いやな奴は帰っていいぞ。俺が帰れっていうんだから、ほんとに帰れよな。
俺とユウタは残るから。
なにもかも心得ているらしいガキ大将は、白の靴下をひざ小僧のところまで、力ずくで引っ張りあげた。

上の学校にあがったら、ハイソックス履くやつなんかいないもんな。

だれよりも目をひくしましま模様のハイソックスを履いたお坊ちゃんが真っ先に帰ってしまうのを、吸血鬼が残り惜しげに見ていると。
あいつ、身体弱いんだ。かんべんしてやってよ。おなじやつなら俺も持ってるから、今度咬ませてやるからさ。
ガキ大将はどこまでも、もの分かりがはやかった。

代わる代わる差し出される首すじに、ずり落ちかけたハイソックスを引き伸ばしたふくらはぎ。
むっちりとした肉づきがこたえられなくなって、太ももにまでおまけに咬んでしまった子も、なん人かいた。
お目当てのハイソックスは、ほとんどが泥が撥ねていたけれど。
びりびりと噛み破いてしまうとだれもが恨めしそうな声をあげて、彼の嗜虐心を満たしてくれていた。


それからは、時おり試合に顔を見せるようになった。
試合のあとは交代で小父さんの面倒をみる「小父さん係り」の人選をするルールまで、チームのなかにできあがっていた。
みんなが上の学校にあがってチームが解散しても、下級生の子があとを引き継いでいった。
上の学校にあがった子たちのなん人かは、たまに小父さんのところに顔を出して、
なかには彼女を紹介したやつもいた。
ガキ大将はなかなか彼女を連れてこないな・・・と思ったが、
卒業間近に連れてきたのは、けっこうかわいい少女だった。
優しい心を秘めたいかつい顔がわざわいしたのか、女子にはかなり、怖がられていたらしい。
彼女の首すじに牙を埋めようとする小父さんに、かつてのガキ大将はいかつい顔をして、
「吸い過ぎるなよ。あと、絶対泣かすなよ。そんなことしたらぶんなぐるからな」
おっかなびっくりなくせにおっかない声で小父さんを威嚇する彼氏のことがおかしかったのか、
少女は終始おかしそうに、くすくす笑いつづけていた。


それからなん年、経ったのだろう。
呼び交わす声と声。
はじける叫び。どよめく喚声。
すべてがあのときと、似通っていた。

グラウンドのまん中に陣取っているのは、あのときの彼と寸分変わらない真っ黒に陽灼けした少年。
傍らにひかえる色白の少年は、父親よりもさらに上品で骨細な感じがした。
もしかしたらうちの息子、貴男の種なんじゃないですかね・・・。
卒業していち早くチームを離れたかつてのお坊ちゃんは、吸血鬼の隣で観戦しながら、そんなことを囁いてくる。
声色に邪気もなければ恨めしさもない。
乾いた声でイタズラっぽく笑うと、ふたたび息子のプレイに熱中していく。

そんなことはないさ。
吸血鬼は心のなかで応えている。
エリート路線まっしぐらの果てにノイローゼになりかかった彼がどうにか復帰できた真相を知るものは、ほとんどいない。
あのときでさえめったに吸血に応じてくれなかった、神経質な彼は。
旧交が再び芽生えた後は、しばしば「ストレス解消」とか「治療」とかいいながら彼のところへやって来た。
血を吸わせてもらえるようになった婚約者を置いて海外長期出張に出たときに。
けれども吸血鬼は、ナイトでいつづけていたのだった。
帰国した彼を出迎えたときには、「彼女とは週に三発はヤッていたからな」と、いやな含み笑いを投げてやったものだけれども。
いずれわかることだろう。
あの華奢な身体つき。甲高い声。繊細な物腰に、相手を思いやる温かい心情。
どれもがきみそのものなのだから。

あのときと同じように、少年たちはみな、長い靴下に足許を彩っている。
あのときほど不ぞろいではないのは、男の子がハイソックスを履かなくなったせいなのだろう。
自分たちがプレイしているのとはちがう種目のスポーツで目にするライン入りの靴下が、
目の前を目映く交叉してゆく。
負け試合だとやはり、足許がよけいに汚れるなあ。
親父とおなじ色の真っ白を択んだ五分刈りの少年は、秀でた眉をこちらに向けた。
悪いけど、汚れるぜ。さいごまで、試合は投げないつもりだからな。
プッとふくれた顔つきが、あのガキ大将とそっくりだった。


あとがき
どういうわけか、少年ものばかりつづいていますね・・・
(--;)
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