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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

新興住宅街。

2013年10月22日(Tue) 04:52:22

「父さん、あそこに建てているお家には、どんな人たちが越してくるの?」
傍らの父親に訊く少女は、まだじゅうぶんに童顔を残していたが、
血色がもっともよいはずの年ごろに似ず、妙に顔色が悪かった。
「ああ、あそこにはな、都会からおおぜいお人が越して来なさるだよ」
少女と同じく麦わら帽子をかぶった彼女の父親は、純朴な言葉つきに内心の安堵を隠しきれないという風情だった。
「そうなんだ。おおぜいねえ・・・軒がいっぱい、並んでるよね。うちらのお家より、ずうっと恰好がいいねえ」
口許から覗く前歯の白さを光らせながら、少女はやや舌足らずな語調にあどけなさを滲ませた。
少女が羨ましがるように、すでに軒や壁までできかかっている家々はこのあたりではほとんど見かけない都会風なたたずまいをしている。
こんなお家に棲んでいるのは、このあたりでは村長さんや病院の院長さん、学校の校長先生くらいのものだろう。
少女の父親は、純朴な声色をかえずに、ちょっとだけおそろしいことを口にする。
「おおぜい越して来なさった都会のかたがたはの、わしらの身代わりに、吸血鬼様たちに血を吸われなさるだよ」
のどかな口調は、さっきまでの世間話のときとまったく、変わらなかった。
少女は波打つ黒髪を、秋めいてきた風の弄ぶままに吹きさらしながら、やはりちょっとだけおそろしいことを滲ませた。
「そうなんだ。そうしたらあたしも、しんどい思いしなくなるかねえ・・・」
少女はニッと笑って、可愛い口許から白い歯をむき出しにした。
顔色のわるい少女は、顔つきや声色のあどけなさに似ず、ひどく痩せこけている。
「でもおまえ、都会のかたがたに夢中になった良作さんや好夫どんにぜんぜん見向きもされずに、血ィ吸ってくれんようになっちゃ、さびしかろうが」
「そうだね。全然血を吸ってもらえないのは、ちょっとさびしい・・・」
少女はちょっと、切なさそうな顔になる。
「せめて毎晩じゃなくて、週に3日くらいのことだったら・・・もっと美味しい血を飲ませてあげられるんだけど」
少女はまるで、貧しい家の姉か母親が、弟や息子にいいものを食べさせたい・・・と願うような目をしていた。
相手の男どもは、だれもが自分の祖父か父親くらいの年配なのに。
「あたしと同じくらいの女の子も、いるのかな。早く仲良くなりたい」
「えぇ相談相手になれるじゃろ」
父親は娘を頼もしげに見返り、目を細めた。


「あー・・・」
黒い影法師のような男にいきなり首を噛まれた浮橋達也は、絶句したままその場にひざを突き、尻もちをついた。
かろうじて街灯はあるものの、たどる家路を照らす灯りは、都会に比べるとはるかにみすぼらしいものだったから。
彼はいったい自分の身になにが起きたのかを自覚するいとまもないうちに、生き血を吸い取られていった。
白のワイシャツが、持ち主の血潮で真っ赤に濡れてゆく・・・

「ただいま。帰ったよ」
疲れきった顔をした達也は、ぼう然となりながらも家のドアをノックした。
「はぁい、ただいま・・・」
ドアの向こうからスリッパの足音を近づけてくる聞き慣れた妻の声が、いつにもなく生気を帯びて耳に響く。
来るんじゃない、逃げるんだ・・・
欠片ほど残された理性は、そんな叫びをあげていたが。
すぐ傍らに佇んでいる、自分の血を吸い取った者への不可思議な共感が、それを圧倒しようとしていた。
自分が吸い取られてしまった血液を、まだふんだんに宿している女。
そう、おまえも自分の生き血で、いま友人になったばかりのこの男の渇きを、慰めてやらなくちゃな・・・

「あなた、あなたあッ・・・」
妻の静江が見慣れたワンピース姿を広いリビングの床にまろばせながら、まだ切れ切れに声を発している。
客間にあげた未知の年配男が、夫と同じ経緯でだしぬけに自分の首すじに噛みついてきたとき、静江は絶句するしかなかった。
「だいじょうぶ、ぼくもさっき、やられたところだ」
背広を脱いだ夫のワイシャツは、みごとなまでに真っ赤に濡れている。
ベーズリ柄の彼女のワンピースが同じように持ち主の血潮に浸るのを、じょじょに拡がるなま温かさで感じながら。
襲いかかってくる事実を否定したげに、静江はちいさくかぶりを振りつづける。
―――クリーニングに出さなきゃいけないわ。
迫る恐怖とは裏腹の、いかにも四十代の主婦らしい、そして場違いな想いに満たされながら、彼女は自分の血が男の喉を鳴らすのを聞いた。
ごくごく・・・ぐびり。
聞えよがしなあからさまな音が、現実感を忘れさせる。
夫は、静江が襲われているリビングの隅っこにひっくり返り、うつらうつらしていた。
帰宅するまではまだ気が張っていたものの、妻が思惑通りの応対を始めたことに安堵したのか、全身から力が抜けるのを覚え、スッと意識が遠くなったのだ。
「やっぱり女の血のほうが、おいしいのかしらねえ」
奇妙な優越感に満たされながら、理性を侵された静江は、のんびりとした面持ちで夫を見返った。
肌色のストッキングを穿いたままふくらはぎを吸われはじめていた彼女は、薄いナイロンの生地ごしにしみこまされてくるなま温かいよだれに戸惑いながらも、
彼が彼女の脚をくまなく舌で愉しむことができるように、時おり脚の向きを変えてやっている。
「少しぐらいいやらしいことされても、今さらあなた妬かないわよね・・・?」
念押しし口調の静江は、なにかを期待するようなウキウキとした目線を、夫に向かって投げる。
達也はそれを肯定するように、「仕方ないじゃないか・・・」といいながら、頷きかえしてきた。


「都会のひとのお家、増えたねえ」
少女の声色に滲むあどけなさは変わらなかったが、
ふっくらとした頬の白さはみずみずしさを湛えていて、この年代の少女ならではの透きとおった色香をよぎらせていた。
「そうじゃのお。おかげでわしらも、助かるのお」
「母ちゃんもすっかり、きれいになったね」
「若返ったじゃろ。毎晩のときはみるかげもない顔つきしとったが」
「父ちゃん最近、毎晩なんだって?」
娘はこましゃくれた口調で、きわどいことを口にする。
「若けぇ娘が、そンなこと言うもんでねえ」
父親はちょっとだけ厳しい顔をしたが、娘がくすぐったそうに肩をすくめると、それ以上の追及をやめた。
「週に2,3度のことだって」
嬉しげに弛んだ目じりのしわが、好色に滲んだ。
「じゃあほかの晩は、母ちゃんは小父さまとしてるの?」
「詳しいことは知らんことになっとる」
「ズルい、ズルい。なみ子も知りたいんだよお」
「なんだ、お前ぇいいことでもあったんか?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
おぼこ娘は自分に矛先が向くと、さすがに羞じらいの色を泛べた。
「お隣の初江ちゃん、夕べ都会の子を自分の小父さまに逢わせに行った」
よその子だけがいい想いをしている・・・そう言いたげに少女は、不平そうに頬をふくらませた。
「お前ぇも、”儀式”を済ませたらな。そういうこともさせられる。もうちぃと辛抱せい。嫁入りまえの身体は、大(で)ぇ事にするもんだ」
娘が「んもう!」とふくれながら父親の背中を甘えてどやすのを、父親はどこ吹く風でそう嘯きながら、娘の非難をかわしていく。


自分のうえにおおいかぶさって、首すじにつけた傷口をピチャピチャと舐めながら舌を鳴らす男の背中に、静江は黙って細い腕をすべらせた。
こうして抱き合ってやると、男はひどく心地よげな顔つきになって、女のうえにさらに長いことのしかかるのだった。
自分の着衣を血潮に浸す体験は、もう数限りなくし続けてきた。
求められるままに唇を重ね合わせると、男が吸い取った自分の血の芳香が鼻腔をついた。
決していやな匂いではなかった。
「妾(わたし)の血、美味しいかしら?」
「こっちのほうも旨いな」
男はキスの応酬で人妻を悩乱させる。
初めての晩と同じようにリビングの床に転がされている夫は、さっきから熱っぽい目をして、妻の饗応ぶりのいちぶしじゅうを見守っていた。
夫に見せつけるように静江はキスをもう一度ねだり、濃い口づけを思わせぶりに交わしつづけた。


都会育ちの静江は、もちろんこんな体験はこの村に来てからが初めてである。
さいしょの嵐が過ぎてから、村人たちが自分を迎える視線が、ひどく暖かなものになったのを感じた。
夫の上司や同僚の奥さんが村のだれに襲われたとか、血を吸われただけじゃなくて、浮気までしちゃっているとか、公民館での集いや娘の学校のPTAで囁かれる井戸端会議での話題には、こと欠かなくなっていた。
さいしょの晩に犯されてしまった静江は、うぶなおぼこ娘のように、夫が連れ帰ってきた相手にぞっこんになってしまったけれど。
いまはもう、いろんな男性に自分の血液を提供するのが日常になっている。
それでもさいしょの半年のあいだ単独の男に入れあげたのは、都会妻たちのなかで、静江が一番長かったという。
最初の男とはいまでも情婦としての関係を持ちつづけているし、夫は情事を期待する妻のためにわざと家を空けてくれる程度には、協力的でいてくれる。
今夜は情夫に無理強いされて、わざわざ家に居合わせているときに妻の情事を見せつけるというたちの悪い趣味に夫をつき合わせてしまっていたけれど。
「困りますな。ほんとうに、困るんですよ・・・」
婉曲な断り文句を気弱に呟きつづけながら、けっきょくのところ夫は情夫の手でロープで身体をぐるぐる巻きにされていき、そんな夫を妻は嬉しげに見守りつづけた。

甘々な交歓の続きは、たいがい痴話げんかになる。
静江の場合のライバルは、たまに都会から訪ねてくる姑―――夫の母親だった。
もうじき還暦に手が届くというのに彼女は気品に支えられた美貌を保っていたし、すこしでも若い血液を提供するために美容にも努めているようだった。
女傑でもあるらしい彼女は夫に話をつけて、この村に棲みついた息子夫婦を訪うときには、夫も同伴でやってくるのだった。
「お義母さまの血よりもおいしくないなんて、けっして仰らないでね」
「あのかたはたまにしか来ないから、歓迎しているだけじゃで」
男は田舎ことば丸出しで、静江の追及に応える。
「でもこのあいだなんか、大層美味しそうに召し上がっていたじゃないの」
「おまけに床上手だでの」
言わないでもいいことを言ったと後悔した時には、憤慨した彼女にさんざん言われたあとだった。
「それよか、珠希ちゃんの血をいつ吸わせてくれるだね?もうあの子も年頃じゃでのお」
「アラ、気になる・・・?」
娘のことになると、静江はやや態度を和らげた。自慢の一人娘だった。
「初穂はわしに摘ませると、夫婦して約束してくれとっとじゃろうが」
「エエもちろんそのつもりよ」
正面きってのキスを、静江は夫の見ているまえで受け止める。
「中学の入学祝いか・・・ねぇあなた」
静江は母親の顔に戻って、夫をかえりみた。
決定権はあなたにもあるのよ、と言いたげに。
「早ければ小学校の卒業式の謝恩会なんか、どう?」
「・・・・・・早いほうがいいだろう」
妻ばかりか娘まで。そんな内心の葛藤にどうせいりをつけたものか、達也の声色は父親らしく穏やかだった。
「また新しいワンピース、買ってね。ほらー、今夜もこんなに台無しにされちゃってえ・・・」
泣きそうな声色を作って夫に甘える妻に、達也もまんざらではなさそうだった。
「ああ、いくらでも買ってやるさ」
「ご主人、いつも済まないねえ」
「いや、どうぞお気になさらずに」
夫と情夫が穏やかに言葉を交わすのを、妻は誇らしげにふたりの顔を交互に見比べていた。
あのひとに濡らしてもらうブラウスや、破いてもらうストッキングを買うために仕事をがんばるから。
夫婦ふたりきりの晩、夫はたしかにそう言ってくれた。
マゾヒスティックな昂ぶりが、そのあと彼女の股間を割ったときの快感を、いまでも忘れることができない。
夫がしきりに、スラックスの股間に浮いたシミを隠そうとするのを、彼女はわざと見て見ぬふりをした。
そして、半裸に剥かれた身体をしならせて、彼女への情夫の情愛の証しである激しい吶喊がくり返されるのを、露骨な吐息をはずませながら、応えてゆく・・・


「こんどまた、都会のひとが越してくるんだって?」
娘は今年で最後になるセーラー服を残り惜しげに見回しながら、麦わら帽子をかぶりなおす。
「そうじゃの。浮橋次長さんの奥さんが身体をこわしなすったからの。その身代わりにの」
「代わりに」ではなくて、「身代わり」だと嘯く父親に、娘はクスッと笑った。
「その次長さんの奥さんをあそこいらの草むらに引きずり込んでいたのは、だーれだ?」
「生意気言うでねえ」
「だってー、あたしももう、おぼこ娘じゃないもの」
毎晩妻の処に忍んでくる吸血鬼は、もと幼馴染じみだった。
「都会妻や娘っこにばかりうつつを抜かしてねえで、うちの娘のめんどうも見てやってくれや」
父親が手を合わせんばかりに頼み込んで、娘の処女を奪ってもらう。
年ごろの娘を抱えた家ではよくある風景だった。
痛い、痛い・・・と泣きじゃくっていた娘が、明け方には泣き止んで、両親のところにおはようを言いに来たときにはひどく決まり悪げだったのを。
目のまえで娘が小生意気なことをぬかすたび、彼はいまでも思い出し笑いとともに二重写しに重ね合わせてやるのだった。
「次長の奥さん、戻ってこれるといいねえ」
「長持ちさせるにゃ、たまには休ませねえとな」
そういうことで浮橋さんとは、話をつけてあるんよ・・・そう言いたげな得意げなようすを、娘はわざと聞き流しにしていた。
「こんど来るお家には、女の子いないのかな」
「おるおる。兄(あん)ちゃんは16で妹は14。あの家に住むもんはうちが面倒見ることになっておるで、お前仲良くしたれや」
「うん、そうする」
少女は無邪気に笑った。


父親の不倫事件に、母は凶暴に毒づいていたけれど。
息子にとってはなんのかかわりもないことだった。
シンヤはそう思って、苛められっこで過ごした都会の学校に、せいせいとした気分で別れを告げる。
横暴だった父親は表ざたになった醜聞のあと地方転勤の宣告を受けて、すっかりしょげ返ってしまったらしい。
クビにならないよう、これでも配慮したつもりだよ・・・まえの上司にはそんなふうに引導を渡されたのだと、得々と語る母親から聞かされても、やはりシンヤは無感動だった。
「こんな片田舎・・・」
夫だけではなく赴任地にまで怒りをぶつけていた母親が、最近は妙に大人しい。
妹ばかりをえこひいきして、しきりにあちこちの家にお招ばれするときに着飾らせるところは、相変わらず驕慢を絵に描いたようなあのひとらしかったけど。
そもそも「片田舎」の奥様方と付き合い始めたこと自体が、ちょっと胡散臭かった。
きょうもふたりは、家をあけている。
つかの間の平和を、シンヤは全身で感じていた。
いまだけだ。いまだけなんだ・・・
彼が身にまとっているのは、妹が都会の中学に履いていっていたハイソックス。
学校の頭文字をあしらったハイソックスは、いまは通学用にも使えなくて、ふだん履きに格下げになっていた。
それをいいことに時おり妹の箪笥の抽斗から持ち出しては、脚に通して愉しんでいる。
男にしては華奢な脚には、ぐーんと伸びるハイソックスが、ひどく似合って映る。
女装趣味を不当なほど嫌悪する母親の目を盗んでの愉しみだった。
その密かな願望を、どこでどうやって嗅ぎ付けたのだろう?
部活の先輩であるその少女は、日焼けした健康そうな頬をツヤツヤと輝かせながら、彼に向かって囁いたのだ。
「あたしので良かったら、こんど貸してあげようか?紺色のやつがいいんだよね?それとも真っ白なのも好き・・・?」
そのときの前歯の白さを、なぜだか忘れられない。
少女の大人びた頬の輝きに魅せられたように、シンヤは黙って頷き、少女もまた、結ばれた黙契に応えるように、黙って頷きかえしてきた・・・


あとがき
珍しく、一時間半近くかかったな。。。
まあ、長いですからねえ。^^;
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