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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

チョコレート色のハイソックス

2013年11月28日(Thu) 08:08:04

その学校の生徒は全員、チョコレート色のハイソックスを履いている。
どの子もきちんとした子らしく、顔つきも挙措動作も、申し分なし。
肉太で健康そうな脚。すらりとして恰好の良い脚。勢いよくどんどん進む脚。
どれもが、お揃いの太リブのハイソを、キリッとひざ下まで引き伸ばして履いていて。
下校時間などはそのありさまが、壮観だったりするのだが。
そのなかでほとんどただひとり、いつも弛めに履いている子がいる。
身なりに気を使わないのか、彼女のハイソックスはいつもたるんでずり落ちていて、
どの子の足許でも脚の線に沿って綺麗なカーブを描いているはずの太リブが。
その子の場合だけは、ぐんにゃりとだらしなく、ねじ曲がっている。
いつもべっこう縁のメガネをかけていて。
白い皮膚に蔽われた目鼻だちは、どちらかというと理知的なのに。
黒い髪の毛はいつも、ちょんまげみたいに結われて、毛先が真上を向いていた。

どんな子なのか。この子の首すじを咬むと、どんな血の味がするのか。やけに気になった。
その子の帰り道を憶えてしまうと、俺は先回りをして。
人けのない公園に差しかかったとき、声をかけてみる。
あのさ・・・
俺の声に敏感に反応したその子は、一瞬警戒心を込めた鋭い視線を投げたけれど。
なにか・・・?
とぼとぼとした足取りをわざわざ留めて、耳を傾ける姿勢を取ってくれた。
血が欲しいんだけど。
え・・・?
聞き取りにくかったのか。意味を測りかねたのか。その両方だったのか。
俺は畳み掛けるようにもういちど、声を発する。
きみの生き血が欲しいんだけど。
彼女はちょっとだけ考えて、意外にもこちらを気遣う気振りをみせていた。
よほど喉が渇いているんですか?
そうなんだ。きょうじゅうにだれかの血を吸わないと、死んじゃいそうなんだ。
あー・・・
どうやら訳知りの子らしいと、すぐにわかった。
その子の応えは、びっくりするほど柔軟だった。
これから塾があるから、貧血にならないくらいだったら。

腰かけたベンチのうえ、彼女は首まわりの髪のほつれを払っていた。
初めてじゃないのかい?
初めてだよ。
彼女はじいっと、上目遣いに俺をにらむ。
いや・・・落ち着いているからさ。
あわてたほうがよかったの?
からかっている感じは、まるでない。
むしろまじめに訊きたがっているようだった。

そうだね。
ふつうの子だったら。
両手でこうやって、口をふさいでさ。
泣きそうな顔をして厭々をしながら、咬まれちゃうんだ。
大人しい子だったら。
死なないですよね?吸血鬼になったりしないですよね?って、なん度も念を押しながら。
ほとんど無抵抗に、咬まれちゃうんだ。
活発な子だと・・・そうだな、こないだの子のときには、公園じゅうかけっこする羽目になったっけ。
さいごの俺の言いぐさに、彼女は声をたてて笑っていた。

そうね。うちの学校の子はみんな、OKなのかも。
みんな入学するときに、あなたたちのことは教わるから。
それにあたしの場合、ママがまだあたしくらいのとき、相手してたっていうから。
彼女の口ぶりは、ひどく淡々としていた。
見かけ、軽そうに見えた?
自分の見かけだけは、それでも気になるらしい。
声色がちょっぴりだけ、不快そうだった。

そんなことはないけど・・・変わった子だなって思った。
そう。
彼女はははは・・・と、あっけらかんと笑った。
そんならいいや。
軽い子だと思われるのだけは、嫌だったらしい。
はい、どうぞ。あんまり時間ないから。
彼女は俺が首すじを咬むと思ったらしい。
ひどく首まわりのあたりを気にかけて、しきりに手をやっていた。

俺が彼女の足許にかがみ込むと、たるんでずり落ちたチョコレート色のハイソの脚をちょっと引いて。
脚に咬みつくの?
意外そうに、そういった。
ハイソックス、気になるんだ。
へえ。
彼女は目を見開いて、ふしぎそうな顔をする。
うちの学校のハイソックスに目が行くなんて、お目が高いね。
テキもなかなか、言うものだ。
「変わったやつだ」という代わり、「お目が高い」ときたもんだ。
変わった色だね、とか、使い古した雑巾みたい・・・なんて言われたこと、あるんだよ。
彼女はそんなことさえ、あははと笑いながら教えてくれた。
良い色だと思うけどね。俺はちょっとだけ、彼女のハイソックスの色をほめて。
ちゃんと引き伸ばして履いてみてくれる?
そう頼んでみたけれど。
このままでいいよ。
彼女はハイソックスの口ゴムに手をやろうとはしなかった。

しょうがない子だ。
俺はちょっとだけ舌打ちしながら、彼女の足許に唇を近寄せる。
ちょっとだけ引いた足首をつかまえて、抑えつけて。
つい夢中になってしまった。
圧しつけた唇の下。しなやかなハイソックスの舌触りだけが、妙に印象に残った。
あくまで冷静な彼女の態度に、ついからかいたくなっていた。
きみの学校のハイソックスは、すべすべしていて、いい舌触りがするんだよね。
彼女の気をひいてやろうと、そんなことまで口にしたけれど。
ははは。コアだね。変わってるんだね。
初めて俺のことを、変わっていると口にした。
コアだね、という言いぐさが、なんだかこの子らしかった。

咬み入れたふくらはぎの肉は思いのほかしっかりした咬みごたえがあって。
ぬるぬるとこぼれ落ちた血潮は、ひどく暖かだった。
俺はなぜか、目の奥に潤いを覚えながら、彼女がもたらしてくれる恩恵に、夢中に舌をふるいつけていた。
血の味で、その子の性格がなんとなくわかる。
この子は―――堅実な子だ。

血って、暖かいんだよね。
赤黒く濡れそぼったハイソックスのシミを、気味悪がるふうでもなく。
彼女は淡々と、そういった。
ハンカチを取り出そうとポケットに手をやったのに、そこに目当てのものはなかったらしい。
あわててバッグを開くと、成績表がはみ出て見えた。
見せて。
俺が何気なくいうと、いいよ、といって、彼女は俺に成績表を手渡して。
そんなことお構いなしに、ハンカチをさがそうとバッグの中身を漁り始める。
抜群の成績だった。
俺が目を見張っていると、
そんなこともお構いなしに、彼女はしきりに足許をごしごしと、ハンカチで拭いていた。
真新しいハンカチはたちまち、真っ赤になった。
ちょっと待ちな。
俺はもういちど彼女の足許にかがみ込んで、吸い残した血潮を吸い取ると。
傷口の周りを綺麗に舐めて、血を止めてやっていた。
ハンカチ、汚すまでもなかったね。
彼女は苦笑いをした。
両脚からハイソックスを、するすると引き下ろして脱がせてしまうと、俺はポケットにねじ込んだ。
記念にもらうよ。
そうね。
彼女は素足に革靴を履いて、ベンチのうえでぶらぶらとさせた。

彼氏がいるんだ。いちおう。親の決めた結婚相手だけど。
あなた、血に不自由してるの?
これからもあたしに、会いたいんでしょ?
それでもいいかどうかって、彼氏に訊いてみるからね。
彼女は意外な名前を、口にした。
狭い世界だった。
俺がずっとまえから、生き血を吸わせてもらっている少年の名前だった。


濃紺の半ズボンに、おなじ色のハイソックスの脚を伸べて。
彼は彼女のめのまえで、俺にハイソックスを咬み破らせてくれた。
ちゅーっと吸い出される血潮の音を、目を細めて聞き入ると。
気の抜けたような薄ぼんやりとした顔つきになって、身体をだらりとさせていた。
ぐんにゃりと伸びてしまった彼氏のまえで。
彼氏がやられちゃったら、しょうがないよねー。
彼女は笑いながら、チョコレート色のハイソックスのふくらはぎを、俺のほうへと差し伸べていた。
珍しく。
彼女のハイソックスは、ひざ小僧の下まで、ぴっちりと引き伸ばされていた。
うふふふ・・・ふふふ・・・
俺は俺で、彼氏のまえで、彼女のハイソックスを咬み破るのが、むしょうに愉しくって。
彼女は彼女で、彼氏のまえで自分のハイソックスをくしゃくしゃにされるのが、愉しいらしくって。
彼は彼で、俺たちが仲良さそうにして、襲ったり襲われたりしているのを視るのが、愉しいらしくって。
代わりばんこに伸べられてくる脚たちに、俺は親愛のキスを、なんども重ねていった。

ねえ、いいの?ほんとに、いいの?
このままだとあたし、このひとに、ゆうわくされちゃうよ。
そそるような目をして、彼女は彼にそういった。
彼は笑いながら受け答えしていたけれど。
何度めの逢瀬のときだろうか。
急に目許を引き締めると。俺に訊いた。
彼女を欲しい?
うん、欲しいね。
ボクから奪い取ってでも?
きみが不幸になるようだったら、それは気がすすまないね。
きみの大事なひとだから、よけいに彼女が大事なんだから。
いつもなら、いちど襲ったらそれまでの縁。そんな場合がほとんどだったのに。
彼女はなん度も俺に献血してくれたし、彼もそんな俺たちに、好意的に応じてくれていた。
ときにはデートの約束をキャンセルしてでも、俺への献血を優先してくれたりさえ、したものだった。
きみは、どっちがいいの?
あたしは、あなたがいいと感じるほうがいい。
彼女の応えは、直截だった。
あなたは、どっちがいいの?
見届けられるんなら、先にやらしてあげてもいいかな・・・って。
ウン、それがいい!
勢いよくそんなふうに応じた後。
彼女は珍しく、羞ずかしがった。
あなたに視られながら、ヤルってことだよね?
珍しく口にした下品な言葉に、自分で照れていた。
あなたもけっこう、コアだよね。
からかい口調に戻った彼女は、彼氏のことを優しくにらんでいた。

夕暮れ刻の、だれもいない公園の片隅で。
彼氏は血を抜かれた身体をぐんなりと横たえて。
紺色のハイソックスに開いた咬み痕をしきりと気にかけながら。
いちぶしふうを、見届けていた。
勇気があるね。
俺は彼のことをそう褒め称えながら。
ちょんまげを解いた彼女の頭をかかえ込んで、スカートの奥になん度もなん度も、情愛の証しを衝き入れていた。
彼女は制服のスカートを乱しながら。
ちいさな息をはずませながら、応じていって。
だいじょうぶ・・・だよね?
って、しきりと彼のことを、気にかけ続けていた。

少女から女になって起ちあがった彼女のお尻から、スカートに着いた草きれを払ってやると。
彼もゆるゆると起きあがって、俺を手伝うように、ジャケットに着いた枯れ草を払ってやっていた。
キリリと引き伸ばして履いていたチョコレート色のハイソックスは、いつもみたいにたるんでずり落ちかけていて。
太ももから伝い落ちてきた血潮を、赤黒く滲ませていた。
記念に、あげる。
彼女は自分からハイソックスを脱ぐと。
いつもは俺にくれるはずのハイソックスを、彼のほうへと圧しつけていた。
処女喪失の証しに濡れたハイソックスを、彼が大事そうに鞄の奥にしまい込むと。
コアだね・・・あたしたち三人とも。
声を合わせて笑った笑い声のなか。
彼女の笑い声だけがちょっぴり、濡れを帯びていた。
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