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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

通学路を逸れた足どり。

2013年12月05日(Thu) 03:17:55

おはよう。
雪田真澄は不意に声をかけてきた同級生の氷室勝巳の顔色をみて、あっと声をあげそうになった。
鉛色の頬は、きのうまでの勝巳とは、まるで別人だった。
それがなにを意味しているかは、この年ごろの男女ならだれでも知っていることだった。
だれもが通り抜ける道。
この街に隠れ住むいくたりもの吸血鬼のひとりに、彼が毒牙にかけられたことを意味していた。

今さらながら・・・と、照れ臭そうに。
勝巳は口許に照れくさそうな笑みを泛べる。
その笑みすらが、鉛色の頬の下では、ちょっと冷笑を含んでいるようにさえみえた。

とうとう、血を吸われちゃったんだ。
えー・・・
絶句するなり黙りこくってしまったのは。
さすがに、おめでとう、とも言いかねたし、かと言って御愁傷さま・・・というのも、さらに気が引けたから。
・・・痛くなかったのかい?
愚問には違いないが、この際真澄がとっさに考えついた反応としては、もっとも常識的なあいさつだった。
・・・うーん、そうだね。痛かったって記憶は、ないかな。
勝巳はふたたび、笑みを洩らす。
いつにない、ミステリアスな笑みだ。
・・・怖くはなかったの?
・・・相手が叔父だったからね、それは平気だったよ。
顔色が変わるほど生き血を吸い取られてしまったというのに、勝巳の足取りはいつになく軽い。
いつも速足の真澄が置いていかれそうになるほどにテンポが速く、リズミカルでさえあった。
どうしてかな、この浮き立つような雰囲気は。
不審に思った真澄は、何気なく勝巳の足許に目をやった。
濃紺の半ズボンの下。
いつもの制服の一部として脚に通している同じ色のハイソックスはそこにはなくて、
母さんや姉さんが穿いているような、薄々のストッキングみたいな生地をした、黒のハイソックスが、脛を蒼白く染めていた。
ひどくなまめかしい色合いに、真澄はいけないものを視てしまったように、目をそむけた。
え?視てもいいんだよ。というか、よかったら視てくれる?だれかに見せびらかしたかったんだ。
当の勝巳は、平気な顔をしていた。
きょうはいっしょに登校するけど・・・途中でお別れするからね。
叔父さんに血を吸ってもらう約束してるんだ。
学校にはもう母さんから欠席の電話入れてあるから・・・


欠席の電話入れなくても、よかったの?
勝巳はさすがに心配そうに、真澄のほうをふり返る。
うーん、そうだね・・・家で心配するといけないから、ちょっとだけ気になってる。
そうだよね。やっぱり連絡しておいた方がいいよ。叔父の家から、うちに電話すればいいじゃん。
ふたりの足取りは通学路を逸れて、勝巳の叔父の家のほうへと向けられている。

うん・・・そう。きょうは勝巳くんと、いっしょだから。学校休むから・・・
母親に電話をかけている真澄の背後で、勝巳は五十年輩の叔父に抱きすくめられ、早くも首すじを吸われ始めている。
その傍らでもうひとり、同年輩の顔色のわるいのが、真澄の電話が終わるのを、今か今かと待ちあぐねていた。
男ふたりを相手に血を吸わせなければならなかったはずの勝巳は、いっしょに行きたいという真澄の申し出を、ひどくよろこんだ。
そして、ストッキング地の長靴下に目を留めつづけるクラスメイトに、さいしょは制服のハイソックスを噛ませてあげるのが基本だから・・・と、自分も昨日は制服の一部である長靴下を吸血鬼の欲望のまえにさらしたことを白状していた。

受話器をおいた真澄のかたわらに、待ってました、とばかりに、べつの吸血鬼がにじり寄ってきた。
あっという間もなかった。
紺のセーターの二の腕を掴まれるや否や、真澄は瞬時に押し倒されて。
あれよあれよという間に、身じろぎひとつできないほどきつく抑えつけられて、首すじに唇を吸いつけられていた。
ちゅう・・・っ。
生き血を吸い上げるひそやかな音が、森閑と静まり返った部屋のなか、なまなましく響いた。


ちゅうっ、ちゅうっ、ちゅうっ・・・
キュウッ、ごくり・・・ごくん・・・
互いに競い合うように。
ふたりの少年の足許から、血潮が抜き去られてゆく。
ひとりは、ストッキング地の長靴下に裂け目を走らせ、蒼白く透き通った脛を滲ませながら。
もうひとりは、制服の一部である濃紺のハイソックスのリブを、ぐねぐねと歪められるのを羞ずかしがりながら。
ふたりは時折互いに視線を交わし、お互いの首すじに一対ずつ点けられた咬み痕に赤黒い血のりが綺麗に輝くのを、認め合っている。
きょうはきみのほうが、おいしい獲物みたいだね。
勝巳はからかうように真澄を見、真澄は照れくさそうに笑いながら、自分の履いているハイソックスに幾度も穴をあけ続ける、父親よりも年上の相手をしきりに見返っている。
ふたりの吸血鬼は、時おり獲物を取り替えっこして、各々の足許にとりつくと。
ユニセックスな感じの漂う少年ふたりの足許を、いやらしく辱めつづけている。
けれども、飢えが収まるにつれ、彼らのあしらいは、気遣いに満ちた愛撫に変わり始めていた。
ボクも、鉛色の顔になっちゃうのかな。
しょうがないね。民田や溝沼のときだって、そうだったもの。
あしたはふたりして、鉛色の顔をして登校するのだ。
そう思うと、真澄はなぜか昂ぶりに震えてしまうのだった。


鉛色の顔をして帰宅してきた真澄を、母の静江はだまって迎え入れた。
登校していった息子から電話を受け取った彼女は、息子の身になにが起きようとしているのかを、正確に把握していた。
すぐに、いっしょだという勝巳の母に、電話をしていた。
ふたりは顔見知りで、いっしょにPTAの役員をやった間柄である。
―――それはそれは、まあ・・・まあ・・・うちの勝巳が息子さんをお誘いしたなんて・・・
―――いえいえ、そういうご事情でしたら、真澄の血が役に立ってなによりですわ。
まるで世間話でもするように、自分の息子たちが血を吸われているという異常な事態を語り終えると。
静江はふっと吐息をついて、すこしくたびれた自分の顔を鏡に映してみた。

ただいま。
敷居をまたいで通学鞄を重たそうにその場に置いた真澄は、顔色こそわるかったけれど、ひどく明るい表情をしていた。
だいじょうぶ?いっぱい吸われたみたいだね。
ウン、美味しい美味しいっていわれて、ついのぼせあがっちゃった。
お風呂に入って、少しおやすみなさい。
そうだね。そうする・・・
下校してきた息子とその母親の、ふつうの会話。
閉ざされた浴室の扉から洩れてくるシャワーの音に、静江はふたたび、ほっとしたような吐息をついた。


濃紺の半ズボンの下は、黒の薄々の長靴下だった。
昨日あれほどあこがれた勝巳とおなじ彩りが、自分の足許を蔽っているのを。
真澄は満足そうに見おろしている。
きょうはひとりきりだった。
ひとりきりで、勝巳の叔父の邸を訪ねていって。
にじり寄ってくる男ふたりの吸血鬼に、制服姿の我が身をさらしてゆく・・・
ひとりの唇が首すじを這い、
もうひとりの唇が薄い靴下を皺寄せる。
ひとりの牙がうなじのつけ根に吸い込まれ。
もうひとりの歯形が、しなやかなふくらはぎを侵してくる。
じわじわと吸い取られてゆく血液が帯びる熱気と活力が、顔色のわるい二人の吸血鬼を満足させるのを。
傷口のうえをヒルのようにうごめく唇のもたらす擦れるような微痛と、時おりあがる随喜の呻きとで、自覚しながら。
真澄はきのうの勝巳のように、ウフフ・・・とくすぐったそうに笑って肩をすくめる余裕を覚えていた。


きみの姉さんのことなんだけど。
ためらいながら話しかけてくるユキヒロ小父さんの顔色は、きのうの朝よりもたしかに、好くなっている。
姉貴が、どうしたの・・・?
改めて訊くまでもなかった。
自分の履いていたストッキング地のハイソックスは、くまなく唇を這わされてみるかげもなく破れ果てて、
いまは男の手の中でもてあそばれている。
姉さんが勤め帰りに穿いている、肌色のストッキング。こんなふうにしたいっていうんだね?
真澄は自分の口からそう言わせたかったという男の意図を察して、わざとのように男の願望を言葉にかえてやっていた。

どうしたのよ?ひとをこんなお家に連れてきて。
駅で45分も待ち続けたかいがあった。
改札を出てきた姉の美智子は、おかえり、と声をかけてきた弟に「ちょっとつきあってくれる?」と言われるままに訪ねてきた邸のなかの、招き入れられた部屋の狭苦しさと見慣れない調度の数々とに、あきらかに戸惑っていた。
もう少し、もうすこしだから・・・
真澄は自分の声がウキウキとはずんでいるのを、自覚した。
そんなに姉が生き血を吸われるのが愉しいのか?と自問しながらも。
姉を罠にはめるというイタズラに、かすかな罪悪感を覚えながらも、
その罪悪感すらもが自分の嗜虐心を逆なでするのを、どうすることもできずにいた。

あらわれたふたりの吸血鬼は、うろたえる姉に無言で迫ると、真澄の目のまえで組み敷いていった。
男の子たちのハイソックスをもてあそんだ唇たちが、姉の白い首すじを這い、肌色のストッキングをブチブチと音を立てて噛み破いていった・・・


もうっ。そうと知っているんなら、はじめからちゃんと言いなさいよね。
頬をふくらませてぶーたれる姉に、真澄は辟易しながらも、肩を並べて夜道を急いだ。
思いっきりハデに引き破かれた肌色のストッキングは、片方はひざ小僧がまる見えになるくらいに裂け目を拡げて、もう片方はひざ小僧の下までずり落ちていた。
ボクのハイソックスより、丈がさがっちゃったね。
生意気を言う弟の頬をつねりながらも羞じらう姉が、いつもより女っぽくみえた。
背後をぴったりと、男ふたりが影のようにつき随ってくる。
姉にも弟にも、ためらいはなかった。
男ふたりを相手に吸血に応じた姉は、自分の身体から血液が吸い取られるのを気丈にも耐え抜いたあと。
ふたたび身を起こしたときに、乱れた後れ毛を掻きやりながら、呟くように言ったのだった。
―――母さんの血も、吸ってもらお。


姉弟の母の静江は、きょうもくたびれた顔をして、鏡の中の自分の顔に見入っていた。
いつもより濃く刷いた化粧が、すこしだけ彼女の面影を若やいだものにしていたけれど。
目ぼしい服といえば、PTAのときに来て行くスーツしか見当たらなかったことを、今さらながら残念がっていた。
濃いグリーンのジャケットに、ひざ丈のタイトスカート。
タートルネックじゃない方が、よかったかしら?と今でも迷っている黒のセーターは、彼女の首まわりをいっそう白くきわだたせていた。
足許を引き締める肌色のストッキングは、いつものとは違って光沢を帯びていて、別人のようになまめかしく見える。
帰りがちょっと遅れるから・・・娘の電話を受けてから、急ごしらえにおめかしをして。
なにもなかったら、ばかみたい。
けれども自分の気遣いが決して無駄にならないことを、彼女はもうじき思い知ることになる。


あなたでしたのね・・・
遠い想い出が、ひとときによみがえっていた。
来てくれた息子さんの顔をみて、もしやと思っていたんです。
クラスメイトの叔父の悪友、という遠い縁故のはずのその男は、真澄のまえではじめて、照れた顔つきをみせていた。
なれ初めは、母がまだセーラー服の女学生だったころのことだった。
以来、胸元を締める真っ白なネクタイを何本、バラ色の飛沫に染めてきたことだろう?
彼に自分を紹介したのはほかでもない、当時の彼氏・・・いまは夫となっている美澄だった。
中学にあがる娘を都会に出したの、意味がありませんでしたね・・・
そんなことはない。いまどきはたちを過ぎて未経験なんて娘、この街では貴重だ。
男はいつか、敬語をかなぐり捨てていた。
瞬時にそういう関係を、取り戻してしまったから。
処女には手心を加えても、既婚の女性を相手にすると、必ず犯す・・・それが彼らのしきたりであり、礼儀だったから。

クラスメイトの叔父と、母自身の初恋の相手とが、代わる代わる母の濃い緑のスカートの奥になまなましい粘液を吐き散らしている隣の部屋で。
顔色をわるくした姉弟は、ジュースで乾杯している。
母さんの旧交復活に乾杯・・・かな?
姉はさばけた口調でそういうと。
あなた、本当はジュースじゃもの足りないんでしょ?
姉は穿き替えた肌色のストッキングの脚を、ピンクのスーツのすそからそう・・・っと見せびらかしてゆく。
悪いね。
真澄はそういった唇のうごきを止めると、そのまま姉の足許へと、かがみ込んでいった。

あなた、彼女ができたらあのひとに、紹介しちゃうんでしょう?
あたしの血は、力水かな?そうね。きっとそうだね・・・
虚ろな声を発する格好の良い唇は、いつか母さんみたいに、男のひとにもててみたいな・・・と、キケンな言葉さえ、口にし始めている。
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