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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

【三千回記念作品】 昏い白昼夢 ~母と娘の妖しい午後~

2013年12月08日(Sun) 09:14:01

黒い人影が、まるで白昼夢のように。
木枯らしの舞う街かどに、ひたひたとした歩みを刻んでゆく。
男が目ざすのは、かつての親友の家。
齢の離れたその男は、こちらがたいしたことをしてやったわけでもないのに、命を助けられた、としきりに恩に着て、
いつでも来てもらって構わない。
彼はそう言ってくれた。
けれども男は、つねに遠慮し続けていた。
気持ちは嬉しいが、わしがあんたの家に行くということは、どういうことなのか分かっているだろう?
分っているからこそ・・・ですよ。
男はゆっくりとかぶりを振って、彼の切望を振り切った。
けなげにそう応えた男の貌には、それでも家族を心から愛する者の色合いが、濃くにじみ出ていたから。

いまは・・・そんな悠長なことは言っていられない。
ひたすらに、渇いてしまっていた。男を援けるものは、この街にはまったく、居合わせなかった。
男の命を救うことのできるのは、人の身体に脈打つ血潮だけ―――それもきょうの、夜のとばりが降りるまえに相当の量を摂らなければ死に至るという、切羽詰まったものだったから。

なんども通りすぎた道だった。
なんどこの通りを、逡巡しては行き来して、そして通り過ぎていったことだろう?
親友の家族の血をねだるという行為は、それくらいに彼のなかでは禁忌だったのだ。
―――とくに同意も経験もないもののそれは・・・

彼の意思に反して、
彼の足はその家の門前に立ち止り、
彼の指はその家のインターホンを押していた。
表札には「神代 隆 澄江 麻美」と、そこに住むものの名前が記されてあった。

りぃん・ろぉん・・・

切羽詰まった身とはかけ離れたのどかな音が、遠くから聞こえてくるような気がした。

はぁい、どなた?

インターホン越しの女の声は伸びやかで、やはりのどかな響きをもっていた。
まだ晩ご飯の支度には早い、昼下がりというにはやや晩(おそ)い刻限だった。


玄関のポーチに姿をみせたのは、飾り気のないジーンズ姿の、四十半ばの主婦だった。
闊達な人柄のしっかり者だと聞いていた。
化粧気のない顔つきに、力のこもった瞳。活き活きとした表情。
玄関先まで歩みを進める足取りの、キビキビとした身のこなし。
それらは男の求めてやまない活力を秘めたものだった。

「主人の会社のかたですの?初めてお目にかかりますわね?いつも主人がお世話になっています」
神妙なお辞儀さえもが、キリッとしたものだった。
「お手紙を預かっております」
やや古びた紙に走り書きされた筆跡が間違いなく夫のものだと認めて、主婦はその文面に目を走らせた。
女の顔つきからさっきまでのリラックスした陽気さが消え、男を見る目が身構えるような妍のあるものに変わっていた。
「お話はたしかに、伺っておりますが・・・」
けれども主婦の顔には、まだかすかな逡巡が残されていた。
―――どうしても、今なのでしょうか・・・?
そう問いたげな、戸惑いの視線がそこにあった。
携帯の着信音がした。
「失礼」
女はエプロンのポケットにむぞうさに突っ込まれた携帯を取り出すと、すぐにそれを耳に当てて・・・とっさに、日常の態度に戻っていた。
「ああ、あなた?はい・・・はい・・・ええ・・・いらしてます。わかりました。じゃあそうするわね」
キビキビとした切り口上は、この女の身上らしい。男はその態度にさえ自分がいま欲している活力を見出す思いで、惚れ惚れと眺めまわしていた。
「主人から電話でした。あなたのことを、どうかよろしく・・・って。おあがりください。いくらなんでも、ここではなんですから・・・」
女は門におりた錠を開け、玄関のなかへ男を招き入れるために、少しためらいながら男に背中を向けた。

十分ほどもしただろうか?
よそ行きのスーツに着替えた女は、ふたたび男のまえに姿を見せた。
こんな格好で、よろしいですか?
そう言いたげな目色を読み取って、男は鷹揚に頷いた。
活発な主婦であるこの女が、こういうものを着ることは、めったにないようなのが、どことなくぎくしゃくとした着こなしに、見て取れた。
女は夫の意を汲んで、自分に馳走をしようとしている―――彼女の意図が伝わっただけで、彼にはじゅうぶんだった。

「ごあいさつが遅れました。神代澄江、と申します」
女は腰を下ろすと、畳に指をついて、神妙なお辞儀をした。
「わたしどもはこういうものですので、名前は秘することになっています。あえて名乗りませんが、かりに清雄・・・とでもお呼び下さい。私のことはとうに、お耳に入っていたようですね?」
「主人からうかがって、よく存じ上げております。本日は、どうぞお手柔らかにお願いいたします」
出された座布団のうえに無言で端座している男をまえに、澄江はちょっとのあいだ戸惑った。
このあとどうすればよいかまで、聞かされていなかったからである。
澄江はちょっとのあいだ、あたりをきょろきょろと見まわした。
雑に積み重ねられた座布団や、その場に脱ぎ捨てられた衣類。不必要に中身の伸びたボックスティッシュ。
お客を迎えるには、部屋はあまりにも雑然としているように、澄江は感じた。
ガラス窓からは、庭に佇む古びたラティスと、それから格子の嵌った隣家の窓が目に入った。
女は障子戸を締めて、外界からの視界を断った。
むやみと気遣いする必要は、なさそうだった。
男は女の動きに合わせるように、背後から影のように寄り添うと、スーツのジャケットの上から肩を掴まえていた。
あ・・・
女が声を呑むすきに、男は女の着ているジャケットを脱がしにかかった。
無抵抗な上半身から取り去られたジャケットは、部屋の隅に重なっている、脱ぎ捨てられた衣類の上に投げかけられた。
ブラウス一枚になった上体を寒そうに抱え込むと、澄江は言った。
「お手柔らかにお願いしますね」
いつもの澄江には似ず、気弱な声色になっていた。
男は応えるかわりに、女のうなじのつけ根に唇を吸いつけると、つよく吸った。
這わされたくちびるのすき間から覗いた鋭利な牙が、チカリと残忍に輝いた。


一時間後。
神代麻美は黒い鞄をぶら提げて、家路をたどっていた。
無表情な街かどの風景に、白のラインが鮮やかに三本走る黒のセーラー服姿は、しっくりととけ込んでいる。
黒のストッキングを履いた脚を投げ出すように、彼女はずんすんと歩みを進めてゆく。
いつものように大またの、活き活きとした足取りだった。
女の子にしては活発過ぎるその足取りは、小気味よくリズミカルで、薄墨色のナイロン生地に淡く染められたふくらはぎには活き活きとした生気がみなぎっている。

「ただいまー。帰ったよー。」

131207 01 なにも知らずに帰宅した娘。

開けっ放しの玄関から麻美はいつものように声を投げた。
しかしいつも返ってくるはずの元気な母の声は聞こえてこなかった。
出かけているのか?
しかし鍵も掛けずに買い物へ行くような人ではないはず…
そう思いつつ、麻美は何故か胸騒ぎを覚えていた。
とりあえず階上の自室へ行こうと、階段を上がりドアノブへ手を掛けたその時だった。

「おかえり…」

突然背後から消え入るようなかすれた声を掛けられて、麻美ははでに飛び上がった。

「ちょっともうー!いたのー!?びっくりさせないでよー!」

安堵しつつ向けた視線の先には表情も虚ろでひどく顔色の悪い母親がいた。
え?なに?風邪でもひい…
歩み寄りながら、そう言いかけたところで初めて、母の後ろに同じく顔色の悪い長身の男が立っていることに麻美は気が付いた。

父親ではない男が、平然とした顔で我が家の中にいる。
その異様ともいえる光景に混乱し、何一つ言葉も出せずにいる娘をよそに、母がひっそりと口を開く。

「この方にね、あなたを紹介したのよ。」
「えっ、どういうこと?」
「処女の生き血は、それはそれは格別なんですって…。あなた、まだ処女だよね?」
「どうしたのよっ、急にそんなこと・・・処女に決まってるじゃない!」
時ならぬ母親の言葉に、麻美はしどろもどろになりながらも、気強く応えた。
でも待って。処女の血って、どういうこと?
疑惑と共に浮かんだ自問の応えは、母親の口からかえってきた。
「だったら娘を是非…きっと気に入ってもらえますわ…って。」

処女?生き血…?え…?なにを言っているの……?
一体なにが起こっているのか、全く理解できない。
すでに闇に呑まれつつある部屋に音もなく佇む、見知らぬ男と狂った母。
底知れない恐怖と身の危険を感じ、やっと動こうとした時にはもう遅かった。

男は麻美の両肩を掴まえると、白い3本ラインの走る黒いセーラーカラーから覗く白い首筋に牙を突き立てていた。
あいさつ抜きの、唐突な行為だった。

「ぁぐっ!!」

チクリと突き刺す痛痒さが、妙に身体じゅうに響いて、麻美は眉をキュッとひそめた。
首のつけ根のあたりにもぐり込んだその尖った異物は、ぐいぐいと麻美の皮膚を圧迫して突き破り、なま温かい血潮がじわっ…とほとび出るのがわかった。
圧しつけられた唇が、湧いた血潮をチュウ…ッと吸い上げるのを感じて、麻美は飛び上がった。
けれどもしっかりと抱きすくめられた両腕に動きを阻まれて、彼女は立ちすくんだまま血を吸われた。
表情を消した母親は、義務の履行を確認するような感情を取り去った目で、娘が生き血を吸われるのを見守っている。

じゅるっ。じゅるっ。じゅるっ。
汚らしくも忌まわしい音だった。
音が続くとともに麻美の血はじわじわと身体から抜き取られていった。
自分の家であって自分の家ではないような気がした。
周囲にあるのは見慣れた廊下。柱に天井。すぐ目の前には、ドアを開け放ったままのあたしのお部屋・・・それなのに彼女は行動を束縛されて、母の介添えのもと、見知らぬ男に生き血を吸い取られてゆく。
麻美は立ちすくんだまま、全身から力が抜けていくのを感じた。
手から滑り落ちた黒革のカバンが、鈍い音をたてて床に転がった。
男が首筋から口を離すと、支えを失った麻美はその場に尻もちをついてしまった。


…どれほど経っただろうか?
男の口元は暗がりでも分かるぐらいにヌラヌラと麻美の血液で紅く染まっている。

この人、私の首筋に噛みついて血を吸ったんだ…
普通じゃない…まるで……吸血鬼…

息も絶え絶えに母へ視線を投げかけると、母親はうっとりとした表情でこちらを見つめている。
その首筋には、赤黒い二つの噛み傷があった。
噛み傷の周りには、赤黒い血のりがべっとりとこびりつき、そのいくらかは、ブラウスに赤い斑点を散らしている。
母さんがブラウスにスカートだなんて。
いつもとっくりセーターにジーンズの格好しか目にしない母親に妙な違和感を覚えたのは、起伏のなくなった表情と語調のせいばかりではなかった。
吸血鬼に血を吸われるために、わざわざおめかししたの?
けれども麻美に、そんな問いを母に投げている余裕はなかった。
男は、まだ血を吸い足りないらしかった。
尻もちを突いていったん彼女の視界から離れた血塗られた牙が、すぐ目の前に迫っていた。

嫌…いや…と首を横に振りながら、痺れた手足を必死に動かして後ずさる。
しかし男は、彼女のけんめいな努力をあざ笑うように―――いや、あとで語ったところでは、彼女の怯えを救おうとして微笑を投げただけだったのだが―――ゆったりとした動きで麻美に迫った。
通学用の黒のストッキングを履いたの麻美の足元に屈み込むと、夕闇を纏ったように薄黒に染まった脚へと、唇をゆっくりと近付けてゆく。


ひんやりとした床のうえ。
薄々のストッキングを通して、フローリングの床の硬さが、あさみの足の裏を冷やかに浸していた。
薄笑いを泛べた唇が、不埒な意図をただよわせて足許に近寄せられるのがわかっていながら、床に抑えつけられた足首を、どうすることもできなかった。

厭…いや…よして…
母さん、このひとを、やめさせて…

しきりとかぶりを振って懇願をくり返す麻美の努力もむなしく、男の唇はストッキングごしに唇を擦りつけてきた。

待って。

澄江が初めて、相棒の男に言葉を投げた。
けれども彼女が口にしたのは、麻美の期待とは裏腹のことだった。

「娘が怯えておりますわ。初対面なんですから、すこしは手加減なさってくださいな。それに…ストッキングを破っていただくまえには、わたくしのほうが先のはずですわ―――母親として、お手本を見せないと…」

母さんが、あんな薄笑いを泛べるなんて。
ましてスカートのすそをたくし上げて、太ももをちらつかせて男を誘うなんて。
うそー、あり得ないっ。

そんな麻美の心の叫びを知ってか知らずか、澄江はいつになくゆったりとほほ笑んで、つづけた。
「怖がらなくていいのよ、麻美。このかたは父さんの命の恩人なの。だからわたしたちが、ご恩返しをしなくちゃならないのよ。ほんとうはすぐにお礼をしたかったのだけど…それはあなたが年ごろになってからのほうがいいと思ったの。でもそろそろ危ないわ。悪い男の子に誘惑されて、間違いがあってからでは、遅いからね」
「安心なさい。この子はたしかに処女だった。佳い血の味をしている。さすがにあんたのお嬢さんだな」
澄江は憤然といった。
「処女に決まっているじゃないですか!うちの子はまじめなんですから!失礼しちゃうわ」
このへんはいつもの母だと、麻美は思った。けれども、、そのあとがいけなかった。
「娘の血がお口に合ったようで、よかったわ。せっかく吸っていただくんですから、やっぱりおいしいほうがいいに決まってますよね?」
えー、そんな。母さん、なに言ってるの?血を吸われちゃったんだよ、あたしたち・・・
けれども澄江の声色には、よどみがなかった。
「でもストッキングを破られるなんていやらしいこと、この子は慣れていないのですよ。わたくしがお手本を見せて、そのあとにしてください」
澄江は薄茶のフレアスカートから覗く自分の脚を、吸血鬼の目の前に、ゆっくりと差し伸べてゆく。
床を這いながらゆっくりと足許ににじり寄ってくる吸血鬼を前に、さすがの母も息を詰めて男の様子を見守った。
「ストッキングなんか…めったに穿かないんですよ」
噛まれる直前、澄江の口許から洩れた声は、すこしだけ震えていた。

男の唇が、母親の足許に臆面もなく、なすりつけられる。
ちゅう…っ。
唾液のはぜるいやらしい音が、母の耳にも娘の耳にも響いた。
いちど吸いつけられた唇は、すぐには牙を噛み入れようとはせずに、しばらくのあいだふくらはぎを撫でるようにして、這いまわった。
ぬらぬらとした唾液に濡れた唇が、脚の輪郭を撫でるように上下する。
そのたびに、きちんとまとわれた薄手のストッキングは、ふしだらに波立ってゆく。

母さん、ダメだよ。そんなことさせちゃっ。父さんになんて、言い訳するの?
男の吸血行為がどうやらいやらしい意図を帯びていることが、麻美にもわかった。
けれども母さんは、男の唇を足許に受けながらも、ふふん…と得意そうに笑みを泛べただけだった。
自分の穿いているストッキングの舌触りを愉しまれているというのに、男がそうやって彼女の装いを愉しんでいることが却って誇らしい…そんなふうに受け取っているようにさえみえた。
母さんは慣れない手つきでスカートのすそに手をやって、しきりにスカートをたくし上げては、男に太ももまで吸わせてしまっている。
そして、信じられないことさえ、つぶやくのだった。
「二足めだと、すこしは慣れるものですね。さっきはもう無我夢中だったから、知らないうちにびりびりに破かれちゃったものねえ…」

男の唇にひときわ力がこもり、母の履いている肌色のストッキングを、ぶちり!と破いた。
ぱりっ。ぱりぱり…っ。
薄手のストッキングはみるみる裂け目を拡げて、他愛なく破れ落ちてゆく。
母さんはそんな情景さえも、愉しそうな薄笑いをしながら見おろしているだけ。
両脚とも、かわるがわる、ストッキングをむしり取られてしまうと。
澄江はその場に、崩れ落ちた。
いつの間にか壁を背もたれにしていた彼女の身体は、そのまままっすぐに降下して、フローリングのうえに尻もちをついていた。
どうやらつぎは、麻美の番のようだった。


男は四つん這いの姿勢のまま、麻美のほうへと迫ってくる。
だめ…だめ…こっち来ないでっ。
麻美は必死になってかぶりを振った。

131207 02 足許に迫る唇。


高校にあがって初めて脚に通した黒のストッキング。
ぐーんと伸びる薄手のナイロン生地が自分の足許を大人の色に染めるのに目を見張ったのは、つい数ケ月まえのことだったはず。
以来オトナっぽい装いが気に入った麻美は、家のなかでもストッキングを履いていて、麻美はいつもよそ行きだねって、母さんによくからかわれたものだった。
それなのに…それなのに…
なまめかしく染まった彼女の脚は、いまは欲情に満ちた吸血鬼の忌むべき注目に、さらされてしまっているのだった。

こういう評価は…うれしく…ない…っ。
失血で身じろぎがやっとの麻美の脚を、吸血鬼はいともやすやすと掴まえると。
大根を引っこ抜くようにむぞうさに、彼女の脚を引きずった。
あ…!
あわてる麻美は、はだけたスカートに手を当てて、あらわになった太ももを男の視線から隠すのが精いっぱいだった。
男の唇が、ストッキングを履いたままのふくらはぎに吸いつけられた。

母さんと…おんなじように、されちゃうっ。

くちゅっ。

ふくらはぎに唇が吸いつくひそやかな音が、淫靡な湿りを帯びた。

きゃっ。

麻美はちいさく叫んだが、男はかまわずに、生温かく濡れた唇を、ふくらはぎからひざ小僧へと、せり上げてくる。
強引に這わされた唇の下、なよなよとした薄手のナイロンが波打ちながらよじれていった。
粘っこいよだれを、じわじわとしみ込まされながら。

「麻美、よかったわねえ。母さんと同じように、やられちゃうのよ。ほら」
母親はむしろ誇らしげに、自分の足許を見せびらかす。
母さんの脚にまとわれた肌色のパンストが、見るかげもなくチリチリに、剥ぎおとされていた。
夕闇のモノトーンのなかに淪(お)ちようとする風景のなか。
ふしだらに堕落させられた礼装のありさまが、あさみの網膜を狂おしく彩った。

あ、あ、あ…

いつの間にか。
黒のストッキングをくまなく、舐め尽くされていった。
いやだ、こんないやらしいことさせちゃ、いけない・・・
麻美はさいごに残された理性を振り絞って、その場を逃れようともがいた。
「どこへ行こうというのだ?」
男のくぐもった声が、麻美の動きを支配した。
え…。
そうだ。血を吸い取られて惚けてしまった母親を家に残して、いったいどこへ行けるというのだろう…?
「ここにいなさい」
男の命じるまま、あさみはおずおずと頷きかえしてゆく。
少女が抵抗の意思を放棄したと見て取ると、男は初めて同情の潤いを、目じりに光らせた。
「すまないね。ほんとうはここには来たくなかったのだ。来るべきじゃ、なかったのだ」
男の呟きに、母さんが同調した。
「このかたね、死んじゃうところだったんですって。きょうじゅうにだれかの血を吸わないと。ぎりぎりまで、ガマンなさっていたのよ。わたしたち、良いことをしているのよ。お役にたってよかったのよ」
自分に言い聞かせるような語調だった。

ぴちゃ…ぴちゃ…

熱っぽく圧しつけられ這わされる唇が、たっぷり含んだよだれを、なすりつけてくる。
さっきまで同じ制服を着、おそろいの黒ストッキングで足許を染めていたクラスメート達は、いまごろ家でなにをしているころだろう?
難しかった数学の授業のおさらい?晩御飯の支度のお手伝い?
それなのにあたしは、みんなと同じ制服を辱められて、堕ちていこうとしている…
奈々美にちより、それに初子。
みんな、みんなをあたしは、裏切ってしまおうとしている…
抵抗しないということさえもが、男の不埒なやり口に手を貸すことにつながるのだ。
処女らしい潔癖さが、彼女の罪悪感をより色濃いものにしてしまおうとしていた。

けれどもそんな想いとは裏腹に、息荒く制服姿を組み敷いて胸元のリボンをほどきにかかっている男の手を、もはやさえぎることはできなくなってしまっている。

あっ…あっ…また首すじを咬むの?血を吸い取られてしまうの?
けんめいにいやいやをする小首を抑えつけられて。
首のつけ根のあたりに、尖った異物が否応なく刺し込まれてくるのを、麻美はどうすることもできなかった。

ちゅう~っ。

圧し殺すようにつづく吸血の音が、昏く細く、そして深く…麻美の鼓膜を震わせた。

131207 03 生き血を吸い取られて、ぐったり・・・


暖かな血潮が男の唇を濡らし、喉の奥へと含み込まれてゆく…
いつか身体じゅうを支配し始めた無重力状態に身を漂わせながら、あさみは不覚にも、悩乱していた。
いけない…いけない…血を吸われちゃうなんて。
あしたは、苦手な英語の授業がある。宿題もやらなきゃいけないんだっけ。
それにそもそも、麻美の血は、飲み物なんかじゃないのよ。
まして、こんないやらしい吸われかたをするなんて。
いままで真面目に暮らしていたのは、なんのため…?
でも、このキモチよさはなんなの?
身体が溶けちゃいそう…こんな気分に浸ってる場合じゃ、ないはずなのに…
母さんも、このキモチよさを、あさみに教えてくれたがったの…?

旨めぇ。旨めぇ…お前の血は、じつにエエな…
さっきまで麻美の嫌悪の感情を尖らせていたはずの男の下卑た語調が、いやに違和感なく鼓膜に吸い込まれてゆく。

そうよ、あたしはこの小父さまに、血を吸ってもらいたかったんだわ。
だから母さんにお願いして、紹介していただいたの。
処女の生き血を、味わってもらいたくって。
母さんは進んでご自分の生き血を、この小父さまにプレゼントして。
あたしのことも、紹介してくれて。
ストッキングの破らせかたまで、お手本を見せてくれて…
女学生の制服を辱めたいという小父さまのお気持ち、とってもわかる。
おねがい!…もっと麻美を、辱めて。
襟首の白のラインも、真っ赤に濡らしちゃって…
麻美のすべてを、差し出すから…

いつの間にか寄り添ってきた母親が、麻美の制服の二の腕をあやすように撫でさするのに、頷きかえすと。
母親はころころと哂いながら、自分で自分の首すじを撫でた。
吸い取られた血のついた指先が、こんどは麻美の首すじを這った。
その指に自分の噛み痕を撫でられながら。
足許にかがみ込んだ男が、黒のストッキングの脚をさっきからいたぶり抜くのを、男が唇を当てやすいように、脚の角度を変えて、応じはじめていた。
しつように圧しつけられた唇に、一層力がこもって・・・牙がググッと、沈み込んでくる。
なよなよとしたストッキングが恥辱にたまりかねたように、パチパチと音を立ててはじけた。
ストッキングの裂け目が拡がって、足許に帯びたゆるやかな束縛感がじょじょにほぐれてゆくのを―――
あさみもまた、ヘラヘラと哂いながら、愉しみはじめている。
理性を崩したあさみは、どこまでも昏く、堕ちていった…


無償で、わたしたちの血を差し上げるとおっしゃるのね?
きみたちの血を金銭ずくで差し出すほうが、無礼というものだろう?
そうね。それはそうだわ。
生命は保証されてるし、しょうしょうの貧血で済む程度のことだから…よろしく頼むよ。
わかりました。任せてくださいね。麻美もだいじょうぶ。仲良くなれたみたいだから。
それはよかった。あの子のことも気がかりだったんだ。しっかり頼むね。

父さんと母さんの会話。
そういえば何年かまえ、父さんはだれかに命を救われたって言っていたっけ。でも恩返しをしようとしても、受け取ってくれないって。
それならば…あたしたちが恩返しをするのは当然だ。
だって、父さんがいなかったら、あたしたちだって生きて行けたかどうか、わからないんだから。

麻美は吐息を胸の奥に収めると、ひと息深呼吸をして、それからドアを開けた。
おはよう~。
よくできました。いつもの屈託のない朝のあいさつ。
夕べはよく眠れたー?
台所からは、いつもと同じ調子の澄江の雑駁な声。
うんー、くたびれちゃってたから、ぐっすり。
そう。お疲れさんねー。きょう学校いけそう?
そのつもりだけど、うーん、どうかな…っ?
ムリしないでいいのよ。英語のテスト?いいじゃない、そんなもの。あとで取り返せば済むんだから。
珍しく澄江は、物分かりがいい。
そうねー。じゃあ母さん、あたし具合悪いからって、先生に電話入れといてー。

父さんにはナイショよ。
あの晩吸血鬼が立ち去ったあと。
母さんは麻美の腕を掴まえて、しんけんな目つきでそういった。
あなたも見てたでしょう?母さんがあのひとに、なにをされたのか。
あんなことは、だんな様としか、してはいけないことなのよ。
なにも視なかったことにして頂戴。
あのひとたちは、処女の生き血がお好きだから。
処女の操には、むやみと手を出さないの。
でも結婚してセックスを覚えた女には、容赦しないの。
むしろ、そのまま構いつけない方が失礼だと思っていらして…ルールなんだと、こっちがわきまえるしか、ないみたい。
なん回もされたけど…父さんのことが忘れられなかった。
忘れた方が楽だよ…って、教えてもらったけど。そんなの、母さんらしくないものね。ははは。
でももう大丈夫よ。あなたもそのうちに、していただきなさい。
齢が違い過ぎるし、結婚することはできないだろうけど。
ひと晩ふた晩お嫁にしてもらうのは、悪いことじゃないからね。
母さん、応援してるから。


父さんはどこまで、知っているのだろう?
案外全てを察しながら、なにも知らないふりを、つづけるつもりなんだろうか?
夫婦の息の合ったやり取りを目にしていると、何だかそんな気がしてくる。
わかった。それくらい、だいじなひとだということなんだね。
麻美も協力するから…

麻美は黒革の鞄を手に取っていた。
中身は下校してから、替えられていなかったけれど。
鞄を手にして玄関に向かう娘を、母親はたしなめた。
「おやおや、休むんじゃなかったの?」
「学校は休むけど~。黒のストッキング足りなくなりそうだから、スーパーで買ってくる~」
よくできました。あっけらかんとした声色で。
ははは。
母さんの笑い声が後から追いかけてきて、玄関までついてきてくれる。
なにを言いたいのか、すぐに察したらしかった。
父親のいるお茶の間のほうからも、和やかな空気が伝わってくる。
破かれちゃうのは嫌だけど…お愉しみなんだから、破かせてあげなくちゃね。
小声で娘がそういうと。
ついでに母さんのも買って来て。
母さんは一万円札を、握らせてくれた。
そんなに?
そんなに…よ♪
ウン、わかった♪

靴を履いて起ちあがろうとしたときに。
「血がまだついてるよ」
母さんは優しく、首すじを拭ってくれた。

131207 04 小父さまに破ってもらうストッキング、買って来なくちゃ。02




あとがき
「妖艶なる吸血」は、今回をもちまして3000回目の記事掲載となります。
皆さまのお支えがあってのことと、この場を借りまして深く感謝いたします。
なお、今回のお話はモデルとして出演いただいた神代あさみさんとのコラボレーション作品です。
ヒロインの麻美が初めて咬まれるあたりが、彼女に描いてもらった部分です。わかるかな?^^

吸血、寝取られ、近親相姦、女装、同性愛・・・
その他もろもろのマガマガしさを織り交ぜながら、「妖艶なる吸血」はまだまだつづきそうです。
どうぞ今後とも、暖かく見守ってやってください。

というわけで、いつになく改まったあとがきでした。
(^^)
2013/12/8 09:14:01 脱稿
同日 22:00 あっぷ
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by -
2013-12-10 火 12:42:13
編集
>匿名希望さま。
心惹かれた画像からお話を紡ぎだすのは、柏木の最も好むところです。
テキストサイトとビジュアルとは相容れないこともありますが、こんなふうに幸運な邂逅を遂げることもあるようですね。

お心遣いのこもったコメントにどうレスを返したものか適切な言葉が見つからず、つい遅れてしまいました。
これからも折々、かんそうを頂戴できると嬉しいです。^^
by 柏木
URL
2013-12-12 木 21:47:29
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