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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

悪友の恋人

2013年12月26日(Thu) 07:31:59

勝田は俺の同期だった。
どことなく冷やかな雰囲気を持っていて、人とは一線を画すタイプだったが、
それでいて人当たりは悪くなく、周囲にも気を遣うほうだったので、
敵にまわる者は少なかったし、目だたないながらも仕事はできるほうだった。
四十を過ぎて、いまだ独身。
その理由を社内で知っているのは、たぶん俺だけだろう―――
ヤツは吸血鬼だった。

ヤツに言わせると、吸血鬼には先天的なやつと後天的なやつがいるそうだが、
勝田の場合は後者だった。
子どもの頃、未亡人だった母親ともども血を吸われ、半吸血鬼になったのだという。
半吸血鬼。
それは、ふだんは人間として暮らしながら、時おりこみあげる吸血衝動だけは自力で何とかしなければならないという、彼によれば「けっこう難しい立場」だという。

どういうわけか俺にだけは、つぎに襲う相手や、いま定期的に血を提供してくれているもののことをヤツは教えてくれていた。
「きみとかち合わないようにするためさ」
ヤツはイタズラっぽく笑いながら、そういった。
俺がおなじ社内の順子と付き合っていることを素直に告白したのは、単に仲が良かったからというだけではなく、そういう理由もあったからだ。
「かち合ってくれるなよ」
俺がまじにそういうと、ヤツは笑いながら、「もちろんだ」と応えてくれた。
以来十数年―――
いちど寿退社をした順子は、いまは俺の口利きで、おなじ会社の別部署で、パートとして働いている。

ヤツが襲う相手は、たいがい独身女だった。
「やっぱり処女の血がいいのか?」
と訊く俺に、
「そういうわけでもないけどね」
ヤツの応えはいつも簡潔で、語調さえも内容と同じくらいサッパリとしている。
「人妻の場合は、亭主に知られないようにヤらないとならないからな」
処女の場合はみだりに犯さない、という彼は、逆に相手の女がセックス経験者の場合には、ちゅうちょなく犯すのだという。
「黙らるため?」
俺が訊くと、ヤツは言ったものだった。
「女とひとつベッドになったら、むしろそのほうがふつうなんじゃないかな」

どうしても相手が見つからないときには、俺のところに来た。
「ほかに頼みようがないから」
頭を掻き掻き頼み込みに来るヤツは、「もともとそんなにもてるわけじゃないからネ」と、つけ加える。
そんなことはあるものか。
気づかいのできる男は、必然的にもてるのだ。
ましてヤツの場合は、目だたないときている。
首すじだけではなく、女の穿いているストッキングやハイソックスを咬み破る趣味をもつこの男のために、
俺は仕方なく、所属しているクラブチーム指定のサッカーストッキングを一足、台無しにすることに同意する。
すね毛の生えた丸太ん棒のように太い脚に巻かれた、鮮やか過ぎる色のストッキングに、
ヤツはそれでも、欲情まじりのよだれをしみ込ませてきた。
「よっぽど好きなんだな」
あきれる俺に、
「そこだけは触れないで」
ヤツにしては珍しく、決まり悪げに口ごもっていた。
以来俺はヤツのために、新品のストッキングを一足よけいに、用意しておくことにしていた。

ヤツが襲う相手のことを俺に告げるときは、必ず写真をもってきて。
「今回の狙いは、この子」
って、その写真を差し出すのだった。
備忘用に取っておけ、というわけだ。
社内で浮いた噂の絶えない俺は、しばしばヤツとかち合った。
本命じゃないので、お互い気軽に考えることができた。
俺が過去につき合った女に、ヤツが手を出したこともあれば、
ヤツが昔血を吸っていた女が、俺といっしょにホテルに行くこともあった。
そんな場合も―――女を相手にヤツのことを話題にすることは、もちろんない。
ベッドのうえで秘密を共有する相手よりも、ヤツとの友情のほうが優先したからだ。
そういうわけで、俺は社内の女たちの裏事情をよく知っていたし、
ヤツのほうでも、狙いをつけるまえに、そうした情報を知りたがっていた。

「こんど狙いをつけたのは、この人」
「ああそう」
「知っているんだろ?」
「知らないわけでもないね」
「意地悪言わんと、教えてくれよ」
「しょうがねぇなあ・・・」
2人の会話はいつもこんなふうにして、始まるのだ。


「こんど狙いをつけたのは、この人」
いつものようにヤツが写真を一枚携えてきたとき、
俺はヤツの態度がいつになく神妙だなとおもった。
そのときにはあまり、ヤツの態度には気を留めないで、何気なくヤツの差し出す写真を見て、
さすがに驚かないわけにはいかなかった。
写真のモデルは、ほかならぬ妻の順子だったのだから。

「これがだれだかは、むろん知っているよね?」
「もちろんだ」
いつもらしく、もっといけしゃあしゃあと言ってみろよ。
思わず心の中で、罵っていた。
俺は狼狽とも怒りともつかない感情を、ちょっとのあいだどうすることもできなかった。
「亭主のまえに女房の写真を持ってきて、この女の血を吸いたいなんて、いつもそんなふうにしているの?」
思わず声色が、尖っていた。
「だからといって、隠しておくわけには、もっといかんだろう」
いかにも仕方がない、というヤツの顔つきに、ちょっとだけいつもの気分が戻ってきた。
「どうして順子なんだ?」
ヤツの応えは、虚を突かれるほどストレートだった。
・・・・・・惚れちまった。

順子の職場は俺の事務所からそれほど遠くない出張所で、
たまに姿を現すのは書類の束を持ち届けするときくらいだった。
家では服を構わない順子は、久しぶりに着るOLの制服に「若返ったみたい」とウキウキしていたが、
それは別な効果も持ってしまったらしい。
「昔の順子に惚れなかったのはどうしてだい?」
「初めて顔を見たときにはもう、あんたの彼女だったからな」
「いまではもっと、順子のことを知っているだろう」
「もちろんだ」
ヤツは下手をすると、夫婦のセックスの回数まで知っている。
うかうかと家にあげてしまっているけれど、
いちど招かれたことのある家には、いつ何時でも、ヤツは入り込むことができるから。
「ケツの毛の本数まで勘定できる女に、いまさら惚れるわけ?」
あきれた声をした俺に、ヤツは言いにくそうに応える。
「きみの奥さんだから、惚れたのかもしれない」

友だちの少なかった子どもの頃、仲良しの小父さんがいて、
母親の血を吸いたがる小父さんのために、家に入る手引きをしたことがあるという。
小父さんの腕の中でうっとりとなる母親を覗き見する日常から、どういうわけか離れがたくなって。
差し伸べられた首すじを撫でまわる唇を、ヤツ自身もうっとりと眺めつづけたという。
「お袋の血を美味いと言われるのが、どういうわけか誇らしくってね。
 おれはいつの間にか、お袋のことを小父さんと共有する歓びに目覚めていた」
男どうしがもっとも仲良くなるには、最愛の女性を共有することだ―――ヤツの言いぐさはひどく風変りだったが、俺はなんとなく腑に落ちたような気がして、頷いていた。
「子供たちにだけは、絶対ばれないようにやるなら、赦してやる」
ことさらムッとした感情を目線に込めてそういうと、
「もちろんだ」
いつものそっけない声色が、返ってきた。
狙いをつけた女のことを口にする吸血鬼の、怜悧な瞳がそこにあった。

きょう、順子さんに声をかけた。さいしょだったから、「久しぶり」って声をかけただけ。
きょう、順子さんをお昼に誘った。ついてきてくれたのは、単に俺がおごるって言ったから。 笑
きょう、順子さんを晩御飯に誘って断られた。下の息子さんの塾の迎えがあるんだってね。
きょう、順子さんの帰り道に出くわしたら、怯えた顔をしていた。ヘンな男にあとを尾(つ)けられたって。俺じゃないよ。 笑
きょう、順子さんを家の近くまで送っていった。無料のボディーガードなんだそうだ。

久しぶりに勝田さんにお目にかかったわ。
妻はさいしょの段階で、俺にそういったけれど。
俺がそんなに話題に乗らないとみると、惜しげもなく話を切り上げていた。
以降、ヘンな男に尾けられた話を含めて、妻は俺にはなんにも言わない。
言う必要のないレベルだからなのだろう。

きょう、順子さんとお昼休みに話し込んだ。彼女の事務所の食堂で。15分くらいだったかな。昔話ばかりだった。
きょう、順子さんは黒のストッキングを穿いていた。珍しいね、といったら、法事と掛持ちだと言っていた。忙しいんだね。

いつまでこんなのが、延々と続くのだろう。ヤツが妻の写真を持ってきてから、すでに半月が経っていた。
ヤツのふだんのペースなら、とっくにモノにして、スカートの奥を精液まみれにしているはずだ。
早いとこ、けりをつけちゃってくれよ。これじゃあ蛇の生殺しだ。
そんな気さえ、してくるのだった。
やつの訪問はいつも一過性だった。
亭主にばれそうになったりとか、女の体調が落ちてきたりとか、女が本気になりかけてきたとか、
いろんな理由から、三月も持てばじゅうぶん、長いほうだった。
それでもヤツのたよりは、延々と続いていった。
ある日携帯メールを開けてみて、俺は「おッ!」と声をあげていた。

きょう、順子さんを晩御飯に誘った。「あしたなら」って言ってくれた。一歩前進!

「どうしたのー?なあんだ携帯メール。。。」
ソファの背中から聞こえてくる妻の声にわれに返って、悪りぃ悪りぃと応えたけれど。
あしたの晩の会食なんて、俺にはひと言も言ってない。
それはやましいところがあるから?それともたんに、言い忘れているだけ?
あしたの俺は、新装オープンの準備で泊まりの仕事が入っていた。
「あしたってさあ・・・なんか予定入ってる?」
さりげなく訊いたはずの声が、本人だけにわかるくらいに語尾を震わせた。
「ええー?あなたの夜勤のこと?」
ちぐはぐな答えは、俺にはなんのヒントも与えてくれなかった。

さっき、順子さんとさよならをした。ホントに食事をしただけだからね。

ヤツのメール、やけに正直すぎていた。
ばかげている。ヤツらしくない。
狙った女と夜二人きりになって、キスも交わさないなんて。
しかし・・・俺はいったい、なにを期待していたんだろう?
そう。長年の友情から、つかの間の浮気には目をつぶり、さっさと終わらせてしまうため・・・

ほんとになんにもしなかったのか?

われながら、ずいぶんぶきっちょな返事だと思ったけれど。
おうむ返しにまた、メールが届く。

もちろんだ。ホテルにも寄っていないし、キスさえも。そういえばお酒も、ビンビール一本だったな。

ふたりして、たった一本のビンビールを分け合ったのか。
どうにもしけたデートだな。
ヤツと順子とが、お互いなにも言い出せないで、決まり悪そうにもじもじし合っているのをありありと想像してしまって、俺は却って噴き出していた。

いつもみたいに血を吸っちゃえば、あとはなんでもありだったんじゃないの?
案外と、相手にこと欠かないいいご身分のようだね。^^

さいごに顔文字をつけたのは、文面だけだと尖った感じになって、ヤツが困るだろうと思ったから。
送信してみて、妙なことに気づいていた。
先週も先々週も。ヤツは俺のクラブチームの試合を、見に来ていた。
そのあときまって、チーム指定のストッキングを真新しいのに履き替えるのは、お互い無言の協定になっている。
飢えているとき以外、男の血なんて、目もくれない筈だった。
その夜、返事はとうとう来なかった。

順子の日常が徐々にではあるが、侵蝕されてきたのは、それからのことだった。

きょう、順子さんとまた、晩御飯をいただくよ。
お子さんは塾帰りに夜食を買って帰るんだって。だからその曜日だけは、なんとなかるって。

―――俺は火曜日と木曜日は、意図的に残業することにした。

きょう、順子さんを家に送る途中で、俺の正体知ってる?って訊いた。
お前、話してなかったんだな。
きょとんとしていたので、初めて俺の正体を告げた。(行動で)
首すじの咬み痕は気にするな・・・って言っても、気になるよな。
今晩の満月と、きみの好意に心から感謝。

―――心から感謝などされても、うれしくもなんともないメール。
けれども俺の指は、本人の感情とは裏腹にひとりでにうごいていた。

順子の血、不味かっただろ?

返事はばかに速く、そして手短かだった。

ばか言え!

なんて返事をかえせばいいんだ?俺の手がまだ携帯の画面のうえで止まっているうちに、ふたたび着信音が鳴った。

時どき吸うから。吸いつづけるから。

え?どうしたんだ、あいつ。俺が戸惑っていると、さらに矢継ぎ早にもう一通。

さっきはすまない。貧血にならないように気をつける。彼女も忙しいみたいだから・・・

こんどは俺が、返事をしない番だった。

晩御飯を食べた後、家の近くまで送ってもらって、近くの公園で首すじを咬まれ血を吸われる。

そんなデートをなん度も重ねながら、順子は俺にはそんなこと、おくびにも出さなかった。
主婦というのはこんなふうにして、亭主に浮気を隠すものなのか。
血を吸われているというだけで、まだ妻としての過ちを犯したわけではない。
けれどもヤツと順子にとって、その行為はセックスに匹敵するものなのだと
ヤツから聞いているいままでのいちぶしじゅうと、何事もなかったという態度をおしとおす順子の態度からそれを感じた。
水曜と金曜の朝ごはんの支度をしているときに。
顔色を悪くしていることが、めっきり増えた。
まだ小学生の息子はなにも感じないらしかったが、すでに中学にあがっている娘の視線は、なにを感じ取っているか、知れたものではないと思った。

子供たちには絶対、ばれるなよ。

こんどは俺の方から、メールをした。
少したって、返事がきた。

あしたの晩、順子さんを俺の部屋に連れ込む。
穿いているストッキングの色が黒だったら、OKだと思って って、言ってくれた。

「ああ・・・」
携帯と向い合せに思わずあげた吐息に、なにもしらない同僚が思わず、ふり返っていた。

「あしたは残業入って、遅くなるから」
「深夜のシフトが入ったの。帰りは送ってくれる人がいるから、心配しないで」
順子はいつも、そういって。
デートの夜はまえもって、俺に伝えてくれた。
子どもの手前も、あるからだろう。
しかし家に帰ったとき、じゅうぶん時間があったはずなのに、順子は明日の夜の残業について、俺になにも告げなかった。
あくる朝いっしょに出勤したとき、俺は思わず自分の女房の足許を盗み見た。
ストッキングの色は、肌色だった。
ほっとしたような、少し失望したような。
失望なんて。
どうして感じる必要があるのだろう?
ヤツのため?
そんな義理はないはずだった。
たまの浮気などさっさとすませて、日常に戻りたいから・・・のはずだった。

いま順子さんと、いつもの店で逢ってる。
彼女のストッキングは、黒。

ヤツと逢う直前に真新しいストッキングに穿き替えるのは、
クラブチームの試合後に、俺もヤツのためにしていることだった。

どうしてひと言、言ってくれなかったのだろう?今夜は残業だからって。
それがきっと、順子なりの女の決意というやつなのだと、自分で自分に納得させてみる。
そういえば家から着て出た私服は、去年の結婚記念日に買ったよそ行きのスーツだった。
―――今夜俺の女房は、俺の稼いだ金で買った勝負服を着て、亭主にいわずに男と逢っている。
なにかどす黒いもおのが、ずきり!と、俺の心の奥を刺した。
お母さん遅いねえという娘には、急な残業が入ったみたいだよって、とっさに応えてしまっていた。

至福の一夜に感謝。

たった一行のメールに、俺はいつまでも、ため息をこらえていた。
メールはすぐに、もう一通届いた。

子どもたちのお母さんを奪ったりしないよ。
でも気の済むまで、今夜は放したくない。

俺の指はひとりでに、携帯をまさぐっている。

おめでとう。帰りは明け方でもOK。


順子が帰ってきたのは、明け方近くだった。
ドアを開け閉めする物音と、低いエンジン音が遠ざかっていくのが、ほぼ同時だった。
「ごめんなさい」
順子は唇を噛んで、俺に頭を垂れる。
「帰りの遅いときには、連絡をくれよな」
俺はわざと、とんちんかんな答えを、用意しておいた。

だんなになぐられるなら、なぐられておけ。
だんながしらばくれてくれるなら、あんたもしらばくれてあげなきゃいけないな。

別れ際のキスのあと、そう囁いたのだと教えてくれたのは、ヤツのほうだった。
「そうねえ・・・ごめんなさい。急だったから」
下手な芝居を打つ順子に、「子供たちにはお母さん残業だからと言ってあるから」と告げた時点で、きっと自分の浮気を怒らないと認識したのだろう。
「シャワー浴びる」
言い捨てて浴室に向かう順子の足許は、黒のストッキングが脛が露出するほどに、擦り剥けていた。
裂けたストッキングが、俺の衝動に火をつけていた。
「その前に・・・お仕置きだ」
俺は順子に囁いて、妻を夫婦の寝室に引きずり込んでいた。
久しぶりに触れた股間は、まだ潤いを帯びていた。
衣裳の裏側に隠された事実に、俺はいっそう昂ぶりを深めながら、
ことの発覚を体で感じた順子を組み敷いたまま、なん度もなん度もイキつづけていた。

勝田さんに、ありがとう、って、伝えて下さる?
ヤツの名前が妻の口から出るのは、退職以来久しぶりに会ったという、あのとき以来のことのはず。
けれども俺はなにも訊きかえさずに、伝える、とだけ答えていた。

順子からあんたに、ありがとう、だってさ。
俺がぶっきら棒にそういうと。
ヤツは眩しげに眼を細めて俺の見あげて、

オレからも、ありがとな。

いつものサバサバとした口調だった。
周囲にだれもいないのを見計らうと、俺はヤツをからかいたくなってきた。
「順子の身体、よかっただろう?」
「なんだ、朝から女房自慢か?」
ヤツの口調はいつもと、まったくかわりがない。
ほかの女をモノにするときも、いつもこんなふうにさっぱりとした口調で語るのだ。
時にはもの足りなくなるくらい、淡々としていた。
太ももをしつこく触ると、感じるみたいだな、きみの奥さん。
「ストッキング穿いたままのほうが効果大きいみたいだから、こんど試してみるんだな。」
・・・・・・まるで夫婦の秘密を覗き込まれたような気がして、俺はひどくドキドキしてしまっていた。
「お前にしちゃ、ずいぶん手こずったじゃないか」
「きみの奥さんは、貞操堅固だからね。落とすのに苦労したよ」
ヤツははじめて、にんまりと笑った。
会心の笑みだった。
まるでサッカーの試合でゴールを決めた相手選手が、「苦労させやがる」と苦笑いするような笑みだった。
「してやったり・・・ってか?」
俺は自分の悔しさも忘れて、新しい女をモノにしたと言って照れるヤツをからかう時の、いつもの調子を取り戻していた。
「ふつうは、三月くらいだよな?」
そのあいだなら、ガマンして貸してやる・・・そういってやろうと思った時。
裏腹な返事が、かえってきた。
「末永く・・・よろしく頼む」
おいおい、最敬礼までしてくれるなよっ。
俺はばかみたいに、あわてていた。

きみの奥さんだから、惚れたんだと思う。

ヤツの言いぐさがありありと、よみがえってきた。
そういうことだったのか。
俺のなかに息づきはじめたどす黒いものが、しきりとヤツの過去を反芻させてくる。

お袋が血を吸われたり犯されたりしていると、むしょうに照れくさくて、誇らしい気分になれるんだよな。
相手の吸血鬼にとっても、お袋が最高の女性なんだって伝わってくるから。

しばらく絶句したあと、俺は傍らの鞄に手をやって、なかから紙包みをひとつ、取り出していた。
「自分で持ち歩くつもりだったんだが」
ため息交じりに、鼻先につき出してやる。
「記念品。ゆうべの」
え?なに?
もの問いたげなヤツのまえで、中身を取り出してぶら提げてやった。
「きみのオンナが夕べ穿いていた、黒のストッキング。ほら、やるよ」
ぞんざいに投げられた順子のストッキングを、勝田は怒りもせずに受け取ると。
「つぎのやつは、必ず順子の脚から抜き取って、きみにあげるからね」
ふたりはハハハ・・・と、声をあげて笑った。
昼休みを終えて戻ってきた女子社員たちは、いちようにヘンな顔をして、オフィスででかい声をあげた俺たちをふり返っている。


あとがき
露骨な場面ほとんどなしの心裡描写におわりましたが、ソチラのほうさえもあまり徹底してなかったような・・・
(^^ゞ
淡々と描けたこと、それ以上にさいごまで描き切れたことがよかったかな。 笑
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