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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

おかえりなさい。

2013年12月27日(Fri) 07:56:48

この玄関のまえで自分の名前を告げるのは、なん年ぶりになるのだろう?
声に応じてすぐに玄関の扉は内側から開かれて―――姿を現した家のあるじは、見違えるほどの白髪頭になっていた。
「よぅ、ケンちゃん。よく来たな。あがれあがれ」
声の張りだけは、以前のままだったが。
苦み走っていたころの面影は、わずかに目鼻の造作に残っているだけで、もはや彼の人生は枯れようとしている。
こちらの顔色をみてすぐにそれと察したのか、けれども京太の声は柔らかな和みを変えなかった。
「ははは、トシ取っただろ?まあ、あがんなさい。オレの血じゃ、旨くないだろうけどな」
こちらに背を向けて居間へと誘う身のこなしには、案外な素早さがまだ残っていた。

「あらぁ~。お久しぶり」
妻の久枝は、自分の加齢のことなど、思いも及ばないらしい。
こちらもかつての切羽詰まった雰囲気は、微塵も残っていなかった。
あのころは・・・吸血鬼である愛人との密会に生命を賭けるほどの緊迫感を漂わせていた頬は、豊かで穏やかな色合いだけをたたえている。
「すっかりもう、ばーさんだろ?今さらひとの女房を食いものにはしないだろうな?」
おどけてみせる京太を、久枝が脇から小突いた。
かつての二人を知る記憶からは、こんなおどけ合うところなど、想像もつかなかった。

「京ちゃん、今年の夏くらいに病気したね」
噛み痕から洩れる血が止まったのを見届けて診立てを告げると、京太は感心したようにこちらを見返した。
「さすがによくわかるね。ああ、内蔵を悪くして入院してね」
「あとの養生が肝心だぜ。でもまだまだイケる」
「お。そうか!?」
成績の悪い生徒が見込みがあると告げられたときのように、京太は生き返ったような声をあげた。

だらりとした表情になって姿勢を崩した夫の傍らで、久枝はしきりと、黒く染めた髪の毛をいじりまわした。
毛先に撥ねた血のりが、気になるらしい。
まえもそんなだったな。初めて襲ったとき、この女は自分の失血よりも、亭主に対する後ろめたさよりも、新調したばかりのブラウスにつけられた紅いシミのほうを気にかけていた。
夫よりも八つ若い身体は、まだじゅうぶんに潤いを宿していて。
張りのある皮膚と豊かに熟れた血潮の芳香が、かつての陶酔をありありとよみがえらせてくれた。
「ふふふ。奥さんまだまだ若いね」
おどけた口調に本音を忍び込ませてやると、グイと身じろぎした女の身体が、色香をゆらりと漂わせた。
「アラ、そお?」
もっと・・・いいのよ・・・
耳もとに囁かれるひそひそ声は、夫の耳にも届いているはず。
京太はことさら、聞こえないふりをしていた。
ねずみ色のストッキングの上を這う唇に、ふくらはぎの筋肉がキュッとこわばった。
力のこもった足首をさらにギュウッと抑えつけながら。
女の足許を染めているなよなよとしたナイロン生地を、舌をふるっていたぶりつづけるうちに。
ああ・・・
女はため息を漏らして、失血をこらえかねたように姿勢を崩した。

ふたたび這わせた首すじから、チュチュチュッ・・・と音を立てて血潮を啜り取ると。
「いいのよ。好きにして」
女はいつの間にか、ショーツを脱ぎ捨てていた。
導き入れられた掌に、繁みの感触がちくちくとした。
「亭主の前でか?」
「いいじゃないの。いまさら」
女の声はまちがいなく、夫の耳に届いているはずだったが。
京太は知らん顔をして、耳かきをつかっている。
じゃあ、すこしだけお邪魔しようか・・・
夫婦の血を吸って逆立ってきた逸物が、にわかに鎌首をもたげ始めていた。

ずぶ・・・
入り口にあてがっただけで。
女はかすかに、身をのけ反らせた。
感度は昔のままらしい。
火柱のように熱した鎌首は、もはやこらえ切れなくなっている。
そのままずぶずぶと、股間の迷宮の奥底へと、突き進んでいった。
太ももを抱いたとき、白濁した粘液がじゅうたんに散っているのが目に入った。
じゅうたんには脱ぎ捨てられたねずみ色のストッキングが、ふやけたままとぐろを巻いていた。

目のまえで女の髪が、ユサユサと揺れている。
あのころはもっと長い髪をしていたが、色つやが昔のままに見えるのは、ありのままなのか、巧みに染められているにすぎないのか。
そんなことはどうでもいい。
目がかすむほどの色情に身を浸しながら、滾る劣情のほとびを、ひたすら女のなかに吐き出しつづけていた。

痛っ!
京太が突然、うめいた。
耳かきを使い損ねたらしい。
「あらあら」「おいおい」
ふたりはあわてて起きあがり、女は夫の脇に寄り添った。
二度三度まぐわいを重ねた男女は、まださめやらぬ熱情を振り払いかねていたし、
夫は夫で気まずそうに小さくなっている。
「大丈夫だよ。擦っただけ」
夫の耳の穴を覗き込んだ女は、古女房の顔に戻って、傷口に軟膏を塗った。

「小父さん!?」
頓狂な声が、リビングの入り口に響いた。
長男の勇作だった。
あのころはまだ、高校生だったが、すっかり大人になっていた。むしろあのころの彼の父親に、本人以上に似ているかもしれない。
「おぉい、美智子・・・」
勇作が呼んだのは、聞き慣れない名前だった。
「長男の嫁ですよ」
京太はちょっとだけ、他人行儀な言葉遣いをした。
「よく言い聞かせてあるから」
勇作はすぐに、幼馴染の声に戻っていた。

「いいのか・・・ね?」
こちらがためらいを覚えるほどの、急な展開だった。
勇作夫婦の部屋は、二階。
その部屋のなかの、夫婦のベッドのうえ。
美智子という名の勇作の嫁は、神妙な顔をしてあお向けに横たわっていた。
わざわざ着替えてくれたのは、黒地にピンクの花柄のワンピース。
俺の好みをそこまで憶えてくれたのか?と思うほどに色鮮やかな、黒のパンティストッキング。
「うちの嫁の務めだって、言い聞かせてありますから」
勇作はさっき噛まれたばかりの首すじを満足そうにさすりながら、若い妻に言った。
「そんなに痛くないから」
以前のようにすんなりと差し伸べられた首すじに咬みついた瞬間、久しぶりに加えられる衝撃に、男はちょっとだけ身をこわばらせたが、ことさらになんでもなさそうな態度をとりつづけていた。
じゃあ・・・遠慮なく・・・
嫁の緊張を早く解いてやろうという親心と、それ以上にこみ上げてくる若妻への好奇心とが、手足の動きを獣じみたものにした。

ァ・・・・・・!
女はその瞬間、かすかな悲鳴を口にしたが。
開きかけた唇は夫の手に覆われて、初めて体感する吸血に、身体を微かに波打たせつづけていた。
うら若い血潮がほんのりと、干からびかけていた血管を潤してゆく。
老夫婦の生き血とも、幼いころから親しんだ壮年の男の血とも異質ななまめかしさを帯びた血潮が、喉を伝って胃の腑に流れ落ちた。
「いかが、お味は?」
勇作の問いに、「けっこうだ」と手短に応えると。
「二人きりにしてもらえるかな」
いつもの怜悧な声色に、戻っていた。
いちど部屋の外に連れ出して、「いいのか?」と訊いたときとは、別人になっていた。
人妻は必ず犯すことにしていたから。
「ああ、ごゆっくり」
勇作はかるがるとそう応えて、若夫婦は一瞬だけ目線を交し合う。
微かに頷く夫に、微かに頷き返す妻。この夫婦には、それ以上の言葉は無用らしい。
心が通じ合っているのを見届けると、勇作の影が部屋から消えたのを見計らって、女のワンピースの裾を、ゆっくりとたくし上げていった。

若い女はさすがに、タフだった。
さいしょの挿入までは、まるで初夜の花嫁のようだった。
ほとんど身じろぎもせず、ひたすら歯をくいしばって耐えていた。
ところがいったん犯した逸物を引き抜くと、女のほうから「もう少しだけ」と、せがんできた。
もとより、否やはなかった。
それからなん度、夫婦のベッドをきしませたのだろう。
廊下から中の様子を窺っている夫の気配をありありと感じながら、勇作がいつもこの嫁の身体のうえで行なっているだろう所作を、そっくりそのまま、というよりも、夫以上にねちっこく、果たしていく。
ベッドを離れた時、若妻はすっかり主婦の口調に戻っていた。
「シーツ、洗濯しなきゃ」

階下におりると、次男坊の健介が、やはり見知らぬ若い女を連れてきていた。
こちらと目が合うと、健介は以前のように人懐こい笑みを返してきて。
「父さん、部屋借りるよ」
そういって、婚約者を促して席を起った。
「このひと、永村美奈子さん。春に結婚するんです」
美奈子と呼ばれた女性は、まだ幼な顔ののこる紅顔をいっそう赤らめながら、丁寧な会釈を送ってくる。
「言い含めてあるのか?」
美奈子のまえでわざと、健介に訊いた。
「義姉さんももう、お相伴にあずかったんだよね?」
「こちらはまだ、処女だろう?」
「あたりまえじゃん」
「じゃ、血を吸うだけだな」
初々しい所作とは別に、女はよほど肝が据わっているのか、こんな露骨な会話にも眉ひとつ顰めずに、無言であとにつき従ってくる。
両親の寝室の前まで来ると、健介は初めて、俺のことを未来の花嫁に紹介した。
「このひと、いつも話してる仲良しの小父さん。つきあい方は・・・わかっているよね?」

「ふつつかですが」
女は軽く頭を下げて、ためらいもなくベッドに身を横たえた。
健介はとうに、気を利かせて座をはずしている。
伸べられた足許を包む肌色のストッキングの光沢が、なんともなまめかしい。
かつて健介のお袋の足許から、この手のストッキングを何度も咬み剥いだのを、憶えていたんだな。
あのころまだ、健介は中学か、小学校の高学年だったはず。
俺は躊躇なく、女の足許ににじり寄って、薄手のナイロン生地越しに、唇をねっちりと、這わせていった。

生ぬるい唾液がしみ込んでくる気配に、女ははっとして、とっさに脚を引こうとした。
俺はその脚を、大根でも引っこ抜くみたいにむぞうさにグイと引いて、濃くなった唾液をいっそう念入りに、女の足許になすりつけた。
あしもとをくまなく唾液で汚してしまうと、ぱりぱりと音を立てて、ストッキングを噛み破ってゆく。
あ・・・
初対面の男の無作法なやり口を非難するように、女は眉をしかめ声をあげたが、俺は無視をして、ストッキングをみるかげもなく咬み剥いでしまった。
すまないね。
手短かに告げると、俺は女にのしかかって、首すじの一角に牙を埋めにかかった。
とっさに俺の肩を摑んだ掌に、力が込められて、わが身から引き離そうとした。
この女、処女のくせに・・・嗜虐心をあおるのが上手らしい。
俺は首すじにガッと食いつくと、
じゅるう~っ。
ひときわ露骨な音をたてて、女の生き血を喰らいはじめた。
あ、あ、あ・・・
女はぼう然となって。
俺は陶然となって。
ひたすら抱き合い、身体をさすり合いながら、夢幻の境地に堕ちていく。
祝言のまえの晩に、奪ってやる。
俺の囁きに女はかすかに、けれどもしっかりと、頷き返していた。

おかえりなさい。よく戻って来たね。

夜の宴席には、見慣れた四人の、少しずつ刻を重ねた顔。
そして新たに加わった若い女が、二人。
そのだれもが、歓迎の色を浮かべてくれている。
最愛の妻を犯しに来た男のことを、長年の朋友のように迎え入れてくれる夫たち。
夫に命じられるまま、唯々諾々と俺に共有されていきながら、じつはひそかな愉しみを見出している、したたかでしなやかな女たち。
ああ、俺はこの街に戻ってきた。
この家庭に、戻ってきた。



2013.12.27 7:18脱稿
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コメント

それぞれの人妻たちが血を吸われながら犯されてゆくという黒い背景の中にも、温かいアットホームさを感じる実に不思議なお話ですね。

描写としましては、美奈子を襲う場面が最も好みでした^^

新たに加わった2人の若い女の血にありつけることも勿論かもしれませんが、自分を受け入れてくれる場所・人々に会えたことからの純粋な安心感のようなものが最後の文から感じられました。

長い間彼らの元から離れていた吸血鬼氏。
その彼が久しくその地に戻ってくるまでの間、どのような毎日を過ごしていたのかを想像させられますね。
by 麻美
URL
2013-12-29 日 23:44:25
編集
>麻美さま
年末年始のお忙しい時期でのご訪問、ありがとうございます。

初老の妻のそれは、慣れきったもの同士の打ち解けた関係。
長男の嫁とのそれは、初めてなのにさいごには女のしたたかさも見せつける関係。
次男の婚約者とのそれは、終始ぎこちなく、そのぶん緊迫した空気を帯びた関係。

三者三様の関係ですね。
さいごのヒロインの濡れ場がもっともよかった・・というのは、そのあたりを読み取って頂けたものでしょうか。
それとも案外、挙式の直前に処女を奪うと予告した吸血鬼に、頷いてしまったあたりだったりして。^^

さいごの文章は、お話のなかでいちばん気に入った部分です。
目を留めて下さって、ありがとうございました。
by 柏木
URL
2014-01-03 金 13:29:57
編集

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