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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

仮装レース

2014年01月06日(Mon) 08:04:20

仮装レース。
それは運動会のとき、全校生徒のまえで行なわれる、意味深な行事だった。
出場者は男子のみ。
希望制で、年によって多かったり少なかったりした。
僕の年は決して多い方ではなかったけれど、それでも6人1レースのところ5レースまではあったから、いつもの数がどれくらいだか、おおよそ察しはつくだろう。
スタートラインに立つのは女子生徒の制服を身に着けた男子と、その10メートルほど後ろにべつの男性。
こちらはなにも、学校の生徒とは限らなかった。
なにしろこのレースは、街に棲みつく吸血鬼を慰労する趣旨のものだったから。
逃げるように全速力で走る男子を、後方からスタートした吸血鬼が追いかける。
距離は学校の行程半周ほどで、200メートルもあっただろうか。
たいがいのものが逃げ切れずに、後ろから抱きすくめられてしまう。
罰ゲームはその場で行なわれた。
首すじを吸われてへたり込む者。
息荒く大の字になって、好き放題に血を吸い取られてゆく者。
そしてだれもが例外なく、白や紺のハイソックスを咬み破られてしまうのだった。

翌日になると。いや、早い場合はその日のうちに。
負けた男子生徒は、自分が身に着けた制服の持ち主を連れて、勝者のところに伴っていく。
そこで勝者はいま一度、勝利の味をかみしめるのだ。
自分がキャッチ・アップした男子の彼女や妹の生き血で、牙を染めながら・・・

そんな結末がわかっていながら。
どういうわけかこのレースには出場希望者が絶えなかった。
なかにはわざとゆっくり走ったり、立ち止まって抱きすくめられてしまうものも、あとを絶たないのだった。
意外にも、負けず嫌いなはずのスポーツ選手のなかにも、そういう者がいた。
彼らは“男らしく”負けを認めて、いつも自分が咬ませているサッカーストッキングの代わりに彼女のハイソックスを気前よく咬ませてやると、自慢の彼女を紹介して寝取らせてやっているのだった。
ほかならぬ僕自身、そういうことをしてしまった。

その日、満場の歓声に囲まれながら。
僕はレースの途中で立ち止まると、後ろから追いついてきた男子に抱きすくめられ、首のつけ根にチクリとくる痛痒い衝撃をこらえていた。
身長が180センチ近くある僕が着れるような制服を持っているのは、学年にひとりしかいなかった。
それは、同級生の宙(そら)だった。
大柄で伸びやかな四肢とそれにふさわしいおおらかな性格の持ち主は、万年学級委員としても名前が通っていた。
僕に後ろから抱きついたやつは、同じクラスの蛭村というやつだった。
スポーツ万能で鳴らし、クラス対抗の試合では必ず主将を務める僕とは正反対に、いつも教室の隅っこで小さくなっている男。
ほんとうは頭の切れは悪くないのに、そんな態度だから人からも甘く見られて、診ているこっちが歯がゆくなるようなやつだった。
そんな彼と僕とが意外にウマが合うことを知っているものは、クラスでも限られた人間だけだった。

やっぱり立ち止まると思っていたよ。
同じ部活の副キャプテンをやっていた服部は、苦笑いをしていた。
やつも僕の前のレースで負けて、彼女の制服を着たまま、たっぷり吸血されたばかりのところだった。
相手は確か・・・彼の実の叔父さんだったと思う。
きょうかあしたには、彼女もまた、お嫁に行けない身体にされてしまうのだろうか?

いつまでたっても現れない蛭村を、僕の方から呼びにいかなければならなかった。
蛭村は放課後になると逃げるように教室を出、行方不明になっていたからだ。
やつの居場所は、すぐにわかった。図書室だった。
すでに宙(そら)も図書室に着いていて、俯いて小さくなっている蛭村の隣に座り、彼の顔を覗き込むようにしながら、何やら話しかけていた。
「富沢くーん。よかった、来てくれて」
宙は僕を見ると、ほっとしたような顔をした。
「蛭村のやつ、ほんとに煮え切らないんだから」
ただでさえ引っ込み思案な蛭村が、女子相手に満足な受け答えをできるようには思えなかったし、もっと深い理由もあった―――蛭村は、僕の彼女である宙に恋していたのだ。

「蛭村くんって、どんなことが好きなの?」
「蛭村くん、つきあっている彼女いないの?」
「いっしょに映画、観に行こうか?彼にナイショで」
歩く道々宙はしきりに蛭村に話しかけたけど、こっちがイライラするほどやつの返事はぱっとしなくて、たまに返事を返してもなにを言っているのかさっぱり要領を得ない有様だった。
「そうだ」
宙はいいことを想いついたらしい。
「蛭村くん、競争しよ」
え?蛭村は意外そうな顔をして、宙の顔を見あげる。
そう、ちびの蛭村は宙よりも10センチ近く背が低かったのだ。
「あそこの四つ角まで。ちょっと距離あるけど、走れるよね?よぅーい、ドン!」
有無を言わせぬ勢いだった。
ひと足早く宙が駆け出し、僕に背中をどやされた蛭村があとを追った。

宙は制服のグレーのスカートをひるがえし、全速力で逃げるように駈けてゆく。
もと陸上部だった彼女の脚は、男子でもなかなか追いつけない速さをもっている。
蛭村の身体に力が入ったのは、中盤からだった。
ムキになったように背すじを伸ばし、ものすごいストライドで宙との距離を詰めてゆく。
ゴール間際に蛭村は宙に追いつき、後ろから羽交い絞めに掴まえた―――ひるがえったスカートがすぼまって、紺のハイソックスを履いた伸びやかな脛が、めまぐるしい足取りを止めた。

はっ、はっ、はっ・・・
ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・
男女どちらもが、肩で息をしていた。
ゆっくり歩いた僕がふたりに追いついても、まだひざ小僧を抑えて、うずくまりそうになっていた。
「おめーの勝ちだ。早よ、血を吸え」
僕がぶあいそに蛭村をせっつくと、宙はさすがに苦笑いをしている。
「蛭村くん、いいよ。ほら、噛みなさいよ」
宙は蛭村をそそるように、ずり落ちかけた紺のハイソックスを、ひざ小僧のすぐ下までぴっちりと引き伸ばした。

昂ぶりに熱したかさかさの唇が、真新しい紺のハイソックスのうえに圧しつけられる。
彼女の脚の線に沿って微妙なカーブを描く縦縞のリブに、かすかな唾液が散った。
こうなるともう、やつの本領発揮である。
やつは閉じていた唇からおもむろに牙をむき出すと、ナイロン生地の上から彼女のふくらはぎに埋め込んだ。
ちゅうっ・・・
饒舌だった宙が、シンとなって黙りこくった。

ちゅう、ちゅう、ちゅう・・・
細目になった少女は、ちょっとのあいだうっとりとした視線をさ迷わせたけれど。
蛭村が唇を放すと、にっこり笑った。
「やったね」
たくまぬピースサインに、蛭村は照れたように笑った。
「悪りぃ」
僕に向かって義理堅く頭を下げるのを、平手て軽くぶっ叩くポーズをとると、
「あとは好きにやりな」
そういって、僕はふたりに背を向けた。

有効期限は、一週間。
そのあいだ、レースの勝利者は、敗者の彼女を自由にしていいことになっていた。
副キャプテンの服部は、彼女が彼女の実の叔父に奪(と)られやしないかと始終はらはらしていたし、事実四日目くらいに僕のところにやってきて、「とうとうモノにされちゃったみたい」と告げてきた。
話題の深刻さのわりに照れ笑いなんかしていたのは、いったいどういう風の吹き回しだろうか?
「あいつ、それでも一番好きなのは俺なんだって言ってくれたんだ」
なんて単純な奴!

おなじ日、海辺のベンチで、僕は宙と蛭村が肩を並べているのを遠目に見ていた。
三人連れだって散歩に脚を伸ばして、(やつは義理堅くも、宙とのデートのときでさえ、しばしば僕のことを誘うのだった)ちょっとのあいだふたりきりにしてやったのだ。
強い風に乗って、彼らのやり取りは筒抜けだった。
「蛭村くんは、どうして催眠術を使わないの?」
「うーん・・・」
相も変わらず、煮え切らないやつだ。
「だってそうしたほうが、女の子はきみに夢中になっちゃうわけだし、みんなその手で狙った女の子を落としちゃっているんだよ」
「それはそうなんだけど・・・」
「あたしが富沢の彼女だから、遠慮してるのかな」
「それももちろん、そうなんだけど」
「・・・ったく、煮え切らねーな、お前はっ!」
いつの間にか僕は、二人の間に割り込んでいた。

毎回この二人は、デート初日と変わらない駆けっこをしていた。そう、もちろん、全力疾走で。
宙は絶対逃げ切ろうと脚力を強め、蛭村は絶対逃すまいとさらにストライドを拡げる。
いつも教室でうずくまるようにして本ばかり読んでいる人間とは別人のように、そのときだけは機関車なみの活力を示すのだ。
しばらくもじもじしていた蛭村は、それ以上ぐずぐずしていると僕にぶんなぐられるとでも思ったのだろうか、きっぱりと口を切った。
「だって、催眠術なんか使っちゃ、宙が宙じゃなくなっちゃうだろ?」

「ふーん・・・」
宙は珍しく、感心したような視線で蛭村の横っ面を見た。
やばい。こいつ、蛭村なんかに惚れかかっている。
僕が一番危機を感じたのは、この瞬間だったかもしれない。
「宙はいつも分け隔てなくつきあってくれて、さぞかし厭に違いないのに、ハイソックスの脚を噛ませてくれるよね?オレ、だからきみのことが好きなんだ」
あー、言っちゃった。イッちゃったよ、あいつ・・・どーするんだろ・・・
僕は宙が自分の彼女であることも忘れて、ことのなりゆきに息を呑んだ。
「そうなんだ。ありがと」
宙は軽々と彼の言葉を受け止めると、言った。
「あたしも蛭村くんのこと、好きよ」

さいしょにね、彼がレースに出るんだって訊いた時、あいてが蛭村くんだというから、よしなっていったの。
だれも富沢が勝って思ってたけど、あたしは途中で立ち止まっちゃうと思っていた。
だってそうじゃないと、蛭村くんはいつまで経ってもあたしに告白できないし、そうしたらいつものウジウジ病から脱出できないじゃない?
富沢から聞いて知ってると思うけど、富沢とはね、将来結婚することになってるの。
だけどね、あたしでよかったら、たまに逢って襲われてあげる。
いやなやつに苛められたときとかでも、おいでよ。
彼氏のいる女の子を征服して、ちょっぴりいい気分になれるかも。
自慢になるよね?
彼氏はそんな連中束にかかってきてもビクともしない最強男だし、
彼女は魅力たっぷりのミス3年4組なんだから。

僕は見てしまった。ふたりのあいだの距離が急速に狭まって・・・唇と唇がふれあってしまうのを。
見てしまったけど、見ないふりを決め込んだ。
蛭村はまたさいげんなく遠慮するだろうし、宙は僕の態度に大笑いするに違いなかったから。

蛭村のウジウジ病は、卒業するまでにおおかた治っていた。
どうやら親友の彼女に憂さ晴らしをするのは、健全ではないストレス解消法だという当たり前のことに気がついたかららしかった。
相も変わらず彼女はできなかったけれど。
僕はたまに、蛭村が宙をデートに誘うのを、黙認してやっている。
純情なやつのことだから、とうぶん彼女はできなさそうだったから―――ちょっとのあいだ寝取らせてやってもいいんじゃないのか?
僕のなかでもうひとりの僕が、白い歯をみせて笑っている。
たまには負けてやれよな・・・と。


あとがき
ものすごくヘンテコな青春物語になっちゃいました。(^^ゞ
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これで三度め ですね。
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愚かな娘。

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