淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
スポーツハイソの時代
2014年01月17日(Fri) 07:41:18
その頃の俺が部活のときによく履いていたのは、
紺のラインが三本走った、白地のハイソックス。
まん中のラインが上下のそれよりも太いタイプは、そのころの流行だった。
部活のサークルでは、ユニフォームはもちろんおそろいだったけれど。
ソックスまでは部費がまわらなくて、自前になっていた。
だからスポーツハイソの柄は、人によってまちまちだったのだ。
それがかえって・・・やつの目線を惹きつけてしまったのは。
俺たちにとっては不運だったのか、はたまた名誉だったのだろうか。
やつはチームのなかの一人に接近して、いともやすやすと籠絡していて。
キャプテンが堕ちてからは、話の進み具合が、いっそう早くなっていた。
やつは練習のあいだずうっと辛抱づよく、体育館の隅で待っていて。
練習が終わると俺たちは、「しょうがねぇな」って舌打ちし合いながら、やつの処に近寄っていって。
めいめい、スポーツハイソの脚を差し向けては、咬ませてやっていた。
さいしょに俺が、咬ませてしまうと。
三本のラインの周りに、赤黒く撥ねた血が、不規則なまだら模様になって散らばった。
ちょっぴり眩暈を感じていると。
「ボクのも、いいよ。ほらさ」
って。
おなじ柄のハイソックスを穿いたゼッケン5が、俺のゼッケン4の隣に並んできて。
臆面もなく吸いつけられてくる飢えた唇に、神経質そうに顔をしかめた。
競い合うように代わる代わる脚を差し伸べた俺たちが、早くもダウンしてしまうと。
「おぉい、山田。里丘っ!こっち来いよ。援軍に来てくれ~」
音をあげた声色に、やつらは「おれもかよー」って、ぶーたれながら、近寄ってきて。
しょうがねえなあ・・・って、口々に言いながら。
練習中にずり落ちかけたハイソックスを引き伸ばして、やつの相手を始めるのだった。
山田と里丘の履いているやつは、上下が黒でまん中が朱色の、ハデなラインが入っていて。
そのどちらもが、かぶりついてくる牙に、吸い取ったばかりの血を撥ねかされて。
「ったく、もう!」
口々に声をあげながらも、やつが存分に血を吸い取ってしまうまで、相手を続けるのだった。
「このおっさん、お前が履いているみたいなやつ、好みなんだな」
里丘がほろ苦い笑いを泛べて、あお向けにぶっ倒れた俺の顔を覗き込む。
やつはふたたび、俺の足許にうずくまってきて。
もう片方のハイソまでずり降ろしながら、よだれでぐしょぐしょにしてしまっていた。
「お前もこんど、履いて来いよ」って強がる俺に。
里丘は「おれのはおれので、お洒落なの」と、自慢とも言い逃れともつかないようなことを抜かして、びっこをひきながら体育館から駆け去っていく。
残り当番に択ばれたのは、俺と山田。
案外俺の紺色三本線のハイソとおなじくらい、山田の履いている朱色のラインのやつにもご執心らしかった。
ぴちゃぴちゃ、クチャクチャと、いやらしい音を立てながら。
16歳の血潮は体育館の床を濡らし、男の唇を浸してゆく―――
あれからなん年、経ったのか?
残り当番をしている俺を見かねた同級生の須見和子が、いっしょになって。
黄色と黒のラインのソックスを引っ張りあげて、俺の相棒をつとめてくれるようになって。
いつか俺たちは、つきあうようになって―――夫婦になっていた。
けっきょく、なんでもありかよお。
ハイソの柄なんか、どうでもよかったんじゃないか?
俺がそんなふうに愚痴るはめになったのは。
就職した和子がスーツを着てあらわれて、肌色のストッキングをブチブチと噛み破られるのを目にしたときだった。
やつはじつに旨そうに、和子のあしもとにかじりついていた。
そういえば。
未亡人していたお袋が、貧血を起こした俺の身代わりにって、黒のストッキングの脚を咬ませてやっていた時に。
やつは嬉しそうに、お袋の穿いていたストッキングを、みるかげもなく咬み破っていたっけ。
それからさらに、年が過ぎて。
やつはそれでも、俺たちの近くに棲んでいて。
息子たちの履いているサッカーストッキングにまで、物欲しげな目線を這わしている。
「小父さん、ハイソックスが好きみたいだからね」
上の子は悧巧そうな目をクリクリとさせて、そういった。
彼の選んだ私立校では、男子は濃紺の半ズボンに、おなじ色のハイソックス。
・・・・・・すでに手なずけられてしまったあとだった。
若い掛け声のエコーする、体育館。
そこには見ず知らずの若者たちが、俺たちとは違うイデタチで、汗を流している。
あのころ脚を並べていっしょに咬まれていった連中が、ふと懐かしくなっていた。
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