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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

未亡人の身の処しかた。

2014年01月25日(Sat) 06:56:58

左戸崎俊二がなくなったのは、59歳のときだった。
難病の末とはいえ、早すぎる死だった。
彼の死をもっとも悲しんだのはもちろん家族だったが、
おなじくらい悲しんだのは彼の子供たちをたぶらかしていた吸血鬼だった。

左戸崎の息子と娘はそれぞれ成人し、結婚して独立していたが、まだ少年少女のみぎりから、彼の毒牙にかかっていた。
左戸崎はふたりの子供を守ろうとけんめいだったが、彼らが自発的に血を与えるようになったのをみて、子供たちと吸血鬼の間に割って入ることをあきらめるようになった。
吸血鬼が息子や娘に対して自らの欲求を満たすためだけに近づくのではなく、心から打ち解けた関係になったのを知ったからだった。
「あくまで”和解”ですよ。”降伏”ではないですからね」
さいごに観念して自分の首すじを吸血鬼に咬ませるときまで、左戸崎はそう言い張りつづけていたし、
吸血鬼も決して、彼のプライドをないがしろにするような言動をとることはなかった。

やがて左戸崎の娘は吸血鬼を相手に処女を喪い、息子もまた結婚を控えた婚約者を紹介して、挙式前夜に花嫁の純潔をプレゼントした。
娘の夫となった男性も、娘と吸血鬼との交際を知った上でのプロポーズで、結婚後のふたりの交際を淡々と認めていた。
自分たちの最もたいせつなものを与えることで、結婚後も彼との関係をつづけ、深めることができたことに、ふた組の夫婦は満足を感じていた。

けれども左戸崎の妻だけは、やや例外に属していた。

「家内だけは、勘弁してください。お願いですから」

左戸崎はなんといわれても、自分の妻のひろ子だけは、咬ませまいとしたのだった。
ひろ子自身はもちろん、子供たちの血を吸っている男のことを不気味におもい、恐怖に感じ、いとわしい存在として避けていたが、夫と同様の理由から、やがてそういう嫌悪の情を感じなくなっていた。
夫までもが咬まれたときには、つぎは自分の番・・・と密かに覚悟さえ決めていたのだが、夫の懇願を吸血鬼は尊重して、彼女が40を過ぎるまで決して、彼女に近づくことはなかった。

転機は、数年後に訪れた。
ある日左戸崎の血を吸った吸血鬼は、彼の血の味に異変を訴え、病院での受診を強く勧めたのだった。
血を吸うことで相手の病気を予知する能力を持っていることがわかると、左戸崎はしぶしぶではあったが、吸血鬼に彼の妻の血を吸うことを認めたのだった。
彼がそこまで妻に対する吸血を渋ったのは、彼らが既婚の女性を襲うときには必ず、その女性を犯すとしっていたからだった。
「あんたがうちの家内に執心なのは、よくわかっています。けれどもどうかそれだけは、勘弁してもらいたい」
左戸崎は吸血鬼にそう訴えつづけ、吸血鬼は彼の願いを容れつづけていた。
じっさい彼がいちばん執心していたのは、左戸崎の娘でも、息子の新妻でもなく、ずっと年配のはずのひろ子だったのだが。

初めてひろ子のことを、吸血鬼にゆだねるとき。
左戸崎自身も同席して、妻が血を吸われるのを見守った。
そして、意中のひとを抱きとめた吸血鬼がつい夢中になって過度に吸いつづけそうになったり、妻自身がうっとりとなって血を吸わせつづけそうになると、「そこまで!そこまで!」と、強く制止をかけるのだった。
吸血鬼の妻を守り通すという、ほかのだれにもできないことを、彼はずっとつづけ通したし、
吸血鬼もまた、ひろ子の病気予知に必要な量の血だけで、満足していた。
「健康診断」の名目であっても、彼が最愛の妻の血を許してくれたことに、じゅうぶん満足していたのだった。


弔問客がすべて引き取って、家族だけになると。
吸血鬼は悲しみながらも左戸崎の娘をつかまえて奥の部屋に引きずり込んで、血を吸って抱きしめていった。
表情を消した娘は、一時間ほどして部屋から出てくると、自分の夫に謝罪するように頭を下げ、彼は淡々とそれに応えてゆく。
彼女は首すじの咬まれ痕を掌で抑えながら兄嫁に近づいて、彼女を目で促した。
兄の目のまえのことだった。
兄も無言で妻を促していた。
彼女もやはり謝罪するように夫に黙礼すると、洋装の喪服姿をおずおずと、ふすまの向こうへと沈めてゆく。
女ふたりがふたたび仏前に畏まったときには、それぞれの穿いていた墨色のストッキングには、派手な裂け目が入っていた。
薄墨色のナイロン生地にじわりと浮いた裂け目から露出した脛には、咬み痕が綺麗にふたつ、吸い残した血をチラチラとあやしている。
「お父さん、妬いているわよ」
ひろ子が目で笑うと、二組の夫婦は「ほんとうに」と、含み笑いで返してゆく。

翌日の弔いの席でいちばん号泣したのは、当の吸血鬼だった。
なにも知らない周囲のものたちは、故人と彼との親密さを推し量らないわけにはいかなかったし、彼の悲しみようにもらい泣きするものも少なくなかった。
病気を予知することはできても、死病から救うことまではできない―――けれどもそのことすらが、赦せない、受け入れられない、そんな想いが彼の胸の奥に去来していたのだった。

夫が骨になり、傍らに写真立てを置かれて。
息子夫婦や娘夫婦も立ち去って日常に戻ってゆくと。
ひろ子は毎日喪服を着て、夫のまえで手を合わせる静かな日常に入ることになった。
吸血鬼は隣室から、仏前に向かって頭を垂れていた。
左戸崎への遠慮から、ひろ子と同室することすら、遠慮していたのだった。
生前からのその習慣を、彼は律義に守り通していた。

「いらっしゃい」
ひろ子は男に、声を投げた。
え?とふしんそうに顔をあげる吸血鬼に、ひろ子は手招きをした。
ふたりのあいだに禁域のように横たわるふすまのレールを、彼はためらいながらまたいでゆく。

ひろ子は夫の写真に深々と頭を垂れると、吸血鬼と並んで黙礼をした。
それから彼を促して差し向かいになると、目を瞑っておとがいを仰のけた。
「どうぞ。主人から言いつかっておりますの。貴男への形見分けは、わたし自身―――ということを」

訪れた奇跡に男は驚き、驚喜し、歓喜した。
夫のまえではじめて欲情を込めてその妻を抱きすくめると、彼は激しくうなじを噛んだ。
ほとび出た血潮が喪服を濡らし、漆黒のブラウスやスカートに、撥ね痕を光らせた。
押し倒された未亡人は、自分の唇を唇でふさがれたのを感じ、喉もとに押し寄せる熱い呼気に圧倒された。
いいのかしら。ほんとうに、いいのかしら・・・?
そんな戸惑いも、一瞬のことだった。
荒々しくブラウスを剥ぎ取った掌が、彼女の乳房を揉みしだき、スカートのすそを割ってゆく。
清楚にみえた黒のストッキングは太もも丈で、そのうえを黒のショーツが引き降ろされていった。
ショーツに手をかけた彼のために、女は腰をすぼめて応じてゆき、自らの貞操を守っていたさいごの衣類が取り除かれるのを、目を閉じたまま感じ取っていた。
「これからは貴男のために、喪服を着るわね」
女が囁くと、男は黙って頷いて・・・年来の親友の妻に、心からの愛情を降り注いでいった。
猛り立った一物が股間にもぐり込んでくるのを自覚しながら、彼女は心のなかで呟いていた。
きょうからはわたくし、このひとのために生きるわ。あなた、ごめんなさい。そして、ありがとう・・・
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