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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

”吸血病”余話  体育館の片隅で ~息子の血を吸った少年の父親と~

2014年01月27日(Mon) 06:34:37

野見山渉(わたる)が体育の授業のさいちゅうに、
吸血鬼化した同級生の力武に初めて咬まれていたとき。
そのようすを物かげから見守る、ふたつの人影があった。
ひとりは血を吸うものの父、もうひとりは血を吸われるものの母だった。

おー。あいつもなかなか、やるじゃない。
同級生たちを組み敷いて、つぎつぎと首すじを咬んでいく息子の姿に、
父親は涼しげな目線をそそいで、息子の奮闘ぶりをたたえていた。
あっ。さいごがお宅の、息子さんか・・・
傍らの女が気にするようなことを、男はあっけらかんと口にする。
思ったことは何でもずけずけと口にするが、悪気はない。
どうやらそういうタイプの男のようだった。

渉の母親の野見山彩夜(さよ)は、そんなふたりの少年たちのようすを、表情を消して見つめつづける。
どうやら観念したらしい息子が自分から体育館の床に寝そべり、目を瞑るのを見て。
ちょっとだけなにかを言いたそうに口を開きかけて、
けれども傍らの男の視線を感じると、いちど開きかけた口を、また噤(つぐ)んでゆく。
目のまえの息子は、身体じゅうのあちこちを咬まれて、生き血を吸い取られていった。
ほかの男子たちと同じように、抵抗のそぶりひとつみせないで。
立て膝をして、すり足をして。そんな動作さえもが、緩慢になっていって。
時おりけだるげに芋虫のように寝返りを打ちながら、
体操服の襟首に赤黒いほとびを散らし、赤いラインの入ったハイソックスにも同じ色のシミを拡げてゆく。
三人居合わせた男子のうち、首すじを咬まれたのも、ハイソックスにシミを拡げたのも、息子がさいごだった。

どうやらあいつ、息子さんの血がいちばんお気に召したようだね。
独りごととも話しかけているともつかない態度で息子の”活躍”を褒めちぎっていた傍らの男は、
初めて正面切って、彩夜に話しかけてきた。
どうやらそのよう・・・ですねぇ。
彩夜は仕方無げに、ほほ笑んでいた。
全くあの子ったら、初手からあんなに大人しく餌食にされちゃって・・・
親の血を引き継いだ息子が、その血を惜しげもなく吸い取らせていってしまうのを、
悔しいともあっけなさ過ぎるとも、なんとも名状のしがたい想いで見守りながら。
自家の血を親子ながら吸い取られてしまうことへの悲哀や切なさと、
その血が相手の親子を愉しませていることへのある種の不思議な誇らしさとを、
彼女は同時に感じていた。

蔓延する”吸血病”に、街ぜんたいが支配される。
行き着く先が明らかになったことが、彼女を諦めへと導いていた。
ほぼ同時に、夫がだれかに咬まれ、会社のOLや同僚の妻を相手に吸血に耽っていることも、彼女の背中を押していた。

うふふ。たまんなくなってきた。
男はちょっぴりだけ、痴愚な顔つきになっている。
女はすぐにそれとさっして、よそ行きのロングスカートのすそを、軽くたくし上げてやった。
彩夜の足許を染めるのは、脛の透けるように生地の薄い、黒のストッキング。
ふだんは肌色しか身に着けない彼女は、男と逢うときだけは、相手の好みに合わせていた。

ふだんから身なりをきちんとすることを心がけていた彼女は、あの日もスーツ姿でPTAの会合に出向いていた。
昨日までは工務店を経営している気さくな同級生の父親が、顔色を蒼ざめさせて変貌していたのを見て。
いっしょに会合場所を訪れた、香坂朋恵の母親とふたり、顔を見合わせて。
男はちゅうちょなく、現れた女ふたりを餌食にしていった。
ふたりの首すじを咬んで、意思を支配してしまうと。
男は尻もちをついた女たちの足許に這いつくばって、ストッキングを穿いたふくらはぎをいやらしく舐めはじめた。
穿いていた肌色のストッキングをブチブチと噛み破かれながら血を吸われて、
彩夜はそのときようやく、血を吸われた女は相手の吸血鬼に征服されるという噂を、思い出していた。

観念し切った顔をして吸血された香坂の母親がぐったりとなると。
自分の血は香坂夫人以上に時間をかけて啜られるのを、彩夜は感じた。
その日ふたりの婦人は貞操を喪ったが、
自分のほうがたしかに、回数が多かった。
彩夜はしっかりと、男の寵愛を実感した。
夫以外は初めてだったはずの身体が躊躇ない反応をすることと、
起きあがった自分が香坂夫人ともども、落ち着き払って身づくろいをしてしまったことに戸惑いつつも。
彩夜は男に向かって、つぎの会合の予定は明日でもかまわないと、よどみなく口にしていた。
もの分かりのよい彩夜の態度に目を見張った香坂夫人もまた、
同じ時でも、二人だけでお逢いしてもいいですと、口にしていた。

息子のクラスの体育の授業は、すでに体育館から校庭に移動していた。
けれども吸血に耽る四人の男子はそのまま体育館に居残っていた。
教師はそれを、注意しなかった。
息子が同級生の少年に生き血を吸い取られてゆくのを目の当たりにしながら、
彩夜は息子の血を吸っている少年の父親に、黒のストッキングの脚を咬まれていった。

ずぶ・・・
ふくらはぎを冒す尖った犬歯が、微妙な痛痒さを伝えてくる。
薄地のナイロン生地がぱりぱりと裂けて、足許を締めつける緩やかな締めつけがほぐれていって、
ひざ小僧が露出するほどに裂け目が拡がるのが、なぜか小気味よく思えてならなかった。
礼儀と常識だらけの日常から解放されるような・・・一種不思議な感覚だった。
女は気前よく、もう片方の脚も差し伸べて、
ご丁寧にもロングスカートをたくし上げて、ストッキングを破らせてゆく。
墨色に染まった女の脚が、男の慾情をくすぐるのも承知のうえで、女は黒をまとってきた。
少年が息子の血を吸い終えるまでのあいだ、彩夜は立ちすくんだまま、少年の父親への供血をつづけた。

少年たちが立ち去ると、ふたりは体育館のなかに入っていって、
彼らが愉しみに耽っていたあたりに、足を踏み入れた。
吸血の現場を隠ぺいするために少年たちが行ったモップがけは、かなり雑なものだった。
彩夜はさっきまで息子がいたあたりにしゃがみ込むと、わずかに残った血のしずくに見入っていた。
息子のものらしい血のしずくは、まだ乾ききっておらず、ひっそりとした輝きをたたえている。
女は指先でそれを掬い、唇へともっていった。
かすかなほろ苦さが、母親の鼻腔を衝いた。
あたりに散っていた息子の血をすべてそのようにして舐め取ってしまえたのは・・・
彼女のなかにも吸血衝動が目ざめてきたからなのだろうか?

彼女がそうしているあいだ、男は体育館の倉庫から、マットを一枚引きずってきた。
なにをしたいのか、よくわかった。
つぎの授業があるのかないのかすら、訊かなかった。
そういうことは日常的に行われていたので、
教師たちは見て見ぬふりをしていたし、生徒たちも教師の指導に大人しく従っていた。
息子が血を吸い取られたその場所で、母親は息子の血を吸った少年の父親に、ブラウスを剥ぎ取られていった。
いけませんわ。主人に悪いわ。
彩夜は口で男を制しながらも、その場で姿勢を崩し、男が自分の素肌を吸いやすい姿勢を取り、唇を重ね合わせてゆく。
自分のセリフが単に、罪滅ぼしや情婦をそそるためのものに過ぎないことを、すでに十分に理解していた。
ロングスカートの奥に荒々しく肉薄してきた逞しい腰が、女の局部を冒したとき。
虐げられる歓びが、女の身体の芯を突き抜けた。
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