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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

補欠選手。

2014年03月10日(Mon) 07:36:07


1.

キツいのかあ・・・?
だれもいない放課後の教室の隅っこで、しずかにうずくまる力武を見て、
武本は気づかわしそうに、声をかけた。

ふたりはおなじ運動部の部員で、力武は主力選手でキャプテンだった。
苗字がよく似ているということもあって、ふたりは入部してからすぐに親しくなり、
試合でも力武はチームの中心で武本はしのアシスト役だった。
見かけは粗野で腕っぷしも強いのに、決して弱い者いじめはしない男―――それが周りからの力武の評価であり、同時にクラスのなかでもこわもてする存在。
けれども最近は、事情が変わりつつあった。
隣町から伝染してきたらしい「吸血病」が、街のすべてを塗り替えようとしていた。

今朝のことだった。
きのうまでふつうに登校してきたクラスメイトが、蒼い顔をして姿をみせた。
夕べだれかに血を吸われて、まるで別人のようにやつれた顔になっていた。
枯れ木のようになってぶっ倒れそうなクラスメイトに、力武はいつもの男気を発揮した。
「身体、キツいんだろ?よかったらオレの血を吸え」
朝練を終えたあとの力武は、ユニフォーム姿のまま首すじをくつろげたが、
クラスメイトは遠慮がちにかぶりを振った。
わけを訊いたとき、力武の顔つきが同情にゆがんだ。
うまく噛むことができないから・・・というのだ。
大事なユニフォームを汚してしまうだろう?
健気な言い草に、力武は気前良く、脚を差し伸べていた。
筋肉質でごつごつとしたふくらはぎは、いつもの派手な赤と黒のラインのストッキングに覆われている。
「気にすんな。破いてもいいんだからよ・・・」
ストッキングに真っ赤なシミを拡げながらしたたかに生き血を吸い取られた力武は、放課後の特訓までに十分に回復することはできなかった。
こちらの体調を気遣うクラスメイトに
「いいって、いいって。気にするんじゃねーよ!」
と肩をどやしつけて家路につかせた力武だったが、特訓の後半にはまじに苦しそうな顔をしていた。
見かねた武本が「オレの血を吸うか?」と言ったが、
「バカ、キャプテンがサブの血吸ってたら、チームが自滅するだろうが」
といって、取り合おうとしなかった。
夕方から、試合である。
けれども力武の顔色はわるく、表情にいつものみなぎる力は感じられない。

「わかった。補欠のやつ連れてくる」
武本は有無を言わせず、がらんとした教室に力武を置き去りにして飛び出していった。


2.

武本先輩に呼び出されたのは、放課後のことだった。
補欠のぼくには、当然試合に出る権利はない。
けれどもレギュラーの活躍はよく見ておけということで、夜の試合には出してもらえることになっていた。
部活が終わった後もユニフォームのままで時間をつぶしていたぼくのところに来た先輩は、いつになく重苦しい顔つきをしていた。
「悪りぃけど、ちょっと早めに抜けてくれ」
先輩はいつになく声をひそめて、そういった。
まだ半分くらい残っている同級生たちに、聞かれまいとしているような感じだった。
ただならぬ先輩の態度に、ぼくはキャプテンの具合がよほどよくないんだろうとおもった。
いつもは絶対に手を抜かないはずのキャプテンが、練習の途中でリタイアしたのだ。
ぼくたちは全員、そのことを気にしていた。
だいじょうぶかあ?きょうの試合・・・
先輩たちが先にあがってしまうと、ぼくたちは誰言うともなく、口々にそういった。

「お前、もうだれかに血を吸われちゃった?」
校舎の裏手で立ち止まった先輩は、いきなりぼくにそう切り出した。
「えっ、まだですけど・・・」
妹が担任の先生に噛まれて泣きながら下校してきたのが、おとといのこと。
抗議に出かけた母さんが、やっぱり蒼い顔をして帰ってきたのも、おとといだった。
夕べは勤め先から戻ってきた父さんが、ひどくけだるそうにしていたっけ。
だからぼくは、付け加えなければならなかった。「でも、時間の問題だと思いますけど」

「きょうの試合、見学だったよな」
「はい、そうですけど」
「そしたらさ、悪りぃ、本当に悪りぃけど・・・キャプテンが血を欲しがってるんだ」
えっ?
ぼくは自分の耳を疑った。
キャプテンまで、吸血病に侵されていたのか・・・
「べつにお前じゃなくてもいいんだけど、オレも試合出るからさ・・・」
なんという勝手な言い分・・・
でも、ぼくにはうなずくことしか、できなかった。

先輩たちの教室に入るのは、初めてだった。
ぼくのほかにもうひとり、秀原が連れてこられていた。
おなじ学年の補欠だった。
「武本、ナイス!」
秀原を連れてきた須々田先輩は白い歯をみせて、武本先輩とハイタッチをする。
「お前が一人確保できたっていうから、もういいかなって思ったんだけど」
「多いに越したこと、ないじゃん」
「そうだよね。これからも試合のあるときは、補欠を何人か確保しとかなくちゃいけないな」
ぼくたちの運命は、先輩たちの手で、すごく安直に決められてしまっていた。


3.
入部の動機は、オリエンテーションのときのデモで見た華麗なプレイだったけれど。
力武先輩にあこがれて、入部して、きつい練習に耐えてきたのだけれど。
血を吸われるためなんかに、入部したんじゃない。
そういいたい気持ちはむろんあるし、
特に自分の血を求められた、というわけじゃなくて、だれの血でもかまわなかった・・・というのがすこし、物足りなかった。
先輩たちからすれば、ぼくなど頭数のうちの一人に、過ぎなかったのだろう。

秀原は、いつものストッキングを履いていた。
紫のラインが2本入ったやつだった。
新しいのをおろしたばかりなのか、いつものよりも鮮やかに白い生地が、陽灼けした太ももと鮮やかなコントラストをなしていた。
ぼくは、赤と黒の三本ラインのストッキングを履いていた。
力武先輩がいつも履いているのと、おなじタイプのやつだった。
血を吸うときには、首すじを噛んだあとで、ストッキングを履いたままのふくらはぎにも噛みつくらしい。
先輩、気づいてくれるかな・・・って、ふと思った。


4.

連れてこられた補欠は、2人いた。
それぞれ武本と須々田に引き据えられるようにして現れた。
2人ともまだガキっぽい顔をしているな、と思った。

学年がひとつ下で、まだ身体のできてない連中だった。
試合にはまだまだ当分、出れそうにない。
どんなに身体のできてないやつでも、2年のおわりまでがんばれば、最低一度は公式戦に出してやることにしていたけれど、
彼らはたぶん、同学年のなかでも出場できるのはさいごのほうだろう。

「きょうは悪りぃな」
なんて声をかけたものか、すぐには思い浮かばなくて。
そんな間抜けなあいさつを、ついしてしまった。
パワーを得るためとはいえ、試合に出れない後輩の血を吸うなんて、気が咎めて仕方なかったけれど。
「みんなのためだから」と、武本も須々田も、譲らなかった。
ふたりの太ももにも、2つ3つ噛み痕がついている。
俺がつけたものだった。
「代わりに、きょうは絶対勝つからな」
「あ、はい!自分は大丈夫です」
須々田が連れてきた秀原という後輩は、「先輩たちの役に立てて、うれしいです」と、気丈にもそんな模範解答を口にした。
「じゃあ、ちっとだけ辛抱な」
俺が正面に立つと、秀原はさすがに困ったような顔をして、目をそむけた。



5.
目のまえで。
同級生の秀原が先輩たちに捕まえられて、力武先輩に血を吸い取られてゆく。
ふたりの先輩は、秀原が暴れないようにと左右に立って、両肩を抑えつけていた。
口では「先輩たちの役に立ててうれしい」なんて、言ったけれど。
秀原が怯えているのは、はたで見ていてもよくわかった。
気の小ささまる出しにして、立っている両足をガクガク震わせて、いよいよ噛まれるときにはギュッと目をつぶっていた。
短パンのすそから、たらーっと、黄色っぽい透明な液体が、したたり落ちてきた。
緊張のあまり、失禁したのだ。
「笑うなよ。かえぇそうだからな」
須々田先輩が、ぼくをにらむようにして、そういった。
笑うどころの騒ぎではなかった。
獣の躍動といわれたプレイを演じる憧れの先輩が、おなじユニフォームを着た後輩の首すじを噛んで血を吸っている。
そのつぎはぼくの番なのだ。
秀原の失態を笑うようなゆとりは、どこにもなかった。

ごくり、ごくり・・・と、あからさまな音をあげて血を飲まれた秀原は、だんだん顔色をわるくして、
黒板の隣の壁にもたれかかって、そのままずるずると、姿勢を崩していった。
先輩は秀原の片脚を抑えつけて、紫のラインが2本入ったストッキングのうえから、なおも唇を吸いつけてゆく。
吸い取ったばかりの真っ赤な血に濡れた唇が、真新しい白のナイロン生地のうえを、ヒルのように這った。


6.

補欠だろうが、即戦力にならなかろうが、さすがに14歳の男子の生き血はエネルギッシュだった。
喉の奥にはじける赤黒い血液は豊かな熱さで力武の身体の芯を浸してゆく。
真新しいストッキングも、なかなかよかった。
噛まれるまえ、秀原はとっさにずり落ちかけたストッキングをひざ下まで引き上げた。
血を吸われるためにわざわざ履き替えたわけではないのだろうけれど、真新しいストッキングを見せびらかすようにみえた。
力武は遠慮なく、秀原のもてなしを愉しんだ。
しなやかなナイロン生地の舐め心地の向こう側に、熱い血液を秘めた柔らかな皮膚を感じて、
疼いた糸切り歯をがりり・・・と、埋め込んでいた。

密着した身体と身体。
ユニフォームを通して、じかに感じる身じろぎに。
失血のために肩で息をしている後輩がいとおしくなって、思わず抱きしめてしまっていた。


7.

秀原が息を詰まらせて床に転がると、次はぼくの番だった。
「わかるな?」
ぼくをここに連れてきた武本先輩は、同情のまなざしでぼくを見、同時に力武先輩を促していた。
力武先輩は、秀原から吸い取った血で濡れた頬を、タオルでむぞうさに拭っていた。
「試合。どうしても観たいんですけど・・・」
魂が抜けたみたいに転がっている秀原の様子に狼狽して、ぼくは思わず口走っていた。
「でぇーじょうぶだよ。お前ら2人はオレたちが担いででも、つれてってやっから」
「じゃあ安心です」
ぼくは平静を取り繕ってそうこたえた。


8.

もうひとりの補欠は、血を吸われる間際に、どうしても試合を観たいと、自分を連れてきた武本に訴えた。
気絶するまで吸血されたくないという想いが見え隠れしているのはよくわかったけれど、
残念!きみの血を心ゆくまで吸わないと、きょうの試合には勝てないんだ。
おどおどとうろたえている2人めの補欠ににじり寄った俺は、すぐに自分の手で彼の両肩を抑えていた。
武本も須々田も、もう手を貸す必要はないと思ったのだろう。
こっちの様子をちらと窺うと、すぐに秀原の処置に取りかかっていた。
前もって保健室から借り出していたふたつの担架―――そのうちのひとつに、秀原を担ぎ入れにかかったのだ。

握りしめた二の腕が、とっさに力を込めて反発してくる。
孤立無援の反発―――俺はなんなく彼の抵抗をねじ伏せると、彼は抵抗しようとしたこと自体を恥じるようにして、体の力を抜いた。


9.

力武先輩が、息荒くぼくにのしかかってきたとき、
不覚にもちょっとだけ、抵抗してしまった。
先輩はぼくの両腕を痛いほど捕まえて、ぼくのことを壁に抑えつけた。
いけない。はむかうつもりなんか、なかったのに。
激しい後悔をおぼえて、ぼくはすぐに抵抗をやめた。
秀原の血に濡れたままの先輩の唇が、首すじに吸いつけられた。
唇についた血は、ぬるりと暖かかかった。


10.
この一年生、たしか武井っていったっけな。
名前を思い出すより先に手が伸びたのは、俺の記憶力がどうかしてしまったからなのか?
とにかくそれくらい、目立たない部員だった。
けれどもいまは、彼は俺のまえで、圧倒的な存在感を誇っている。
生き血を獲るための、エモノとして。
俺は見境なく、彼の首すじをがぶりとやっていた。
オレンジ色のユニフォームに、持ち主の血潮が飛び散るのも、かまわなかった。
パワーが欲しい。相手チームの連中のたくましい心臓の動きに克てるパワーが。
きみたちの身体は、それを秘めている・・・
口のなかいっぱいに、むせ返るほどあふれた14歳の血潮は、いとおしいほど美味で、
胸の焦げるほどの感動を、俺は味わっていた。
ホモでは決してなかったけれど、つい抱きしめて、髪を撫でていた。


11.

先輩の手が、ぼくの髪の毛を、幼な児でもあやすように撫でつけてゆく。
きっと、慣れているんだ・・・
髪を愛撫されるなど、とうに忘れかけた感覚だったけれど。
ぼくの血をちゅるちゅると、いいように吸いあげてゆく先輩に、まんまとせしめられてゆくのが、むしょうに嬉しくなっていた。
秀原も、こんな気分だったのかな?
あいつそういえば、意識を失う寸前に、薄ら笑いをしていたっけ。
ということは、ぼくもそろそろ・・・お陀仏?

いつの間にか床に寝そべってしまっていたぼくの足許に、先輩はそろそろと、にじり寄っていく。
「俺のとおなじやつ、履いてるんだな」
嬉しげな声色が、息遣いになって、ぼくの足許に吹きかけられた。
それは、しっかりしたナイロン生地を通して、ふくらはぎの皮膚まで浸すほどだった。


12.

お前にあこがれて入部したんだってさ。
武本がぞんざいにいう。
忘れかけていた罪悪感が、ふと心の奥を刺したけれど。
どんらんにふくれあがった支配欲は、もうどうすることもできなかった。

赤と黒のラインの走るストッキングを履いたふくらはぎに、俺はがりり・・・と、前歯を突き立てた。
やっぱり下級生はまだ、身体ができていない。
皮膚が柔らかすぎる―――ふとそんなことを思いながら、俺は2人めの補欠のふくらはぎを、侵していった。

自分とおそろいのストッキングが、目の前でみるみる、血浸しになってゆく。
初めて俺が咬まれた時も、こんな感じだったのか・・・?
噛んでいるのか、噛まれているのか、ほんのちょっとだけど、わからなくなっていた。



13.
試合は圧倒的な勝利だった。
力武キャプテンも、武本先輩も、須々田先輩も、それは素晴らしい動きをしていた。
あのあと2人の先輩は、それぞれ好みの後輩を呼び出して、血を吸っていた。
12人いるチームメイトのうち4人が、ストッキングに赤黒いものを撥ねかしていた。
体育館に入って整列した時に、他校の連中の目を惹いたはず。
なにか得体のしれないものを感じ取ったらしい彼らは、ビビッていて、終始先輩たちの肉薄に圧倒されていた。

横倒しにぶっ倒れたままの観戦だったけれど。
先輩たちの動きは、まばゆいほどに素晴らしかった。
なかでもキャプテンの動きは、うっとりするほど伸び伸びとしていた。
あのしなやかな動きを、ぼくから吸い取った血液が支えている―――ふと気づいたそんなことに、ぼくは限りない満足を覚えた。

よかったらこれからも、血を吸ってください。
ぼくの身体から吸い取った血で得たパワーで、伸び伸びとしたカッコいいプレイを、見せてください。
先輩が卒業するまで、恋人みたいに付き添って。
試合のたびに、生き血を飲んでもらう。
そんな想像に胸を震わせて、思わずのぼせあがっていた。
だれかが、「武井復活したな」って笑ったのに、ぼくは起き上がって笑顔で応えていた。
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