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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

初めて黒のストッキングを穿いて、学校の授業に出る。

2014年03月27日(Thu) 05:38:50

ぼくが学校に行くとき、母さんはひどく顔色がわるかった。
ほつれたままの髪の毛が、面やつれした頬に垂れているのが、いかにも気分がすぐれないようにみえた。
さいごにおじさんに逢ったのは、おとといの夜のはずだった。
ふつか経っても快復し切らないほどに大量の血を、母さんはあのひとに吸い取らせてあげたというわけだ。
そんなにおじさんと仲良くなっちゃったの?ぼくの胸の奥をチカリと突き刺したのは、たぶん嫉妬という感情なのだろう。
口にするのが恥ずかしくなるその想いを、ぼくは即座に追い払った。
そんなことを思い浮かべるのは第一男らしくないし、おじさんにも母さんにもすまないような気がした。

母さんは早起きして作った弁当をぼくに手渡すと、帰りは遅いの?と訊いた。
どうかな・・・とぼくがなま返事をすると、母さんは視線をチラと俯けた。
半ズボンの太ももに、視線を感じた。
夕べおじさんに咬まれた痕が、まだ乾ききっていない血のりをあやしている。
こんな咬み痕を人目にさらしながら学校に通えるような子に、ぼくはなってしまっていた。
「いいわねえ・・・まだ余裕があるんだね」
母さんは、ぽつりと呟いた。
同じ吸血鬼に血を吸われるもの同士の共感と羨望とが、ありありと滲んだ声色だった。
その声色に思わずゾクリときたのを押し隠すため、ぼくは受け取った弁当箱を鞄のなかに押し込んだ。

俯いた視界に、紺のハイソックスを履いた脚がよぎった。
「靴下、足りなくなってきた」
ぼくがふと口にすると、母さんは財布から千円札を二枚引き抜いて、ぼくに渡した。
「学校の購買で買ってお出で」
それからちょっとためらうそぶりをみせると、ふたたび財布に手を戻して、千円札をもう二枚引き抜いた。自分の財布なのに、人目を盗むような、後ろめたそうな手つきだった。
「ついでにこれで、母さんのぶんも」
母さんが、ぼくとお揃いのハイソックスを・・・?
いぶかしそうに見返すぼくの視線をまともにはね返すような目をして、
「帰りにスーパーで買ってきて。肌色でも黒でも、あなたの好きなやつでいいから」
切り口上な早口になったあと、「母さん、具合がわるいから」と、言い訳がましくつけ加えた。

ふすまのすき間から覗いてしまったあの光景の記憶が、ありありとよみがえる。
うつ伏せになったまま気を失った母さんのふくらはぎに唇を吸いつけた小父さんが、母さんの穿いているねずみ色のストッキングをブチブチと咬み破りながら生き血を吸い摂っていった、ぞくぞくとするほど忌まわしいあの光景を。
ふとまともに視線を合わせてしまい、ふたりともあわてて視線を逸らせていた。
「わかった」
ぼくはつとめて感情を消して乾いた声をつくってそう応えると、手渡された千円札をろくに確かめもしないでポケットにねじ込んだ。


学校では、いたってふつうな日常がくりかえされていた。
ホームルームを告げる学級委員の空疎な声。退屈な授業。社会の先生のつまらない駄洒落。なにかにつけて冷やかされる、クラス公認の彼氏と彼女・・・
その合い間にも、ぼくはいままで気にも留めていなかったクラスメートたちの足許を始終視線にとらえつづけていた。
男子の半ズボンに紺のハイソックス。
女子のプリーツスカートの下にすき透る黒のストッキング。
男子のハイソックスは、真新しいのも履き古しもあった。
おろしたばかりらしいハイソックスに流れるリブをツヤツヤさせているのを目にしては、同性ながらもうっとりと盗み見てしまったし、
たるんでずり落としたまま気づかないでいるやつの足許を盗み見ては、なにかだらしなく手を抜いているようにみえて焦れったくなった。
女子の足許はそれ以上に、ぼくの視界を悩ませた。
面と向かえば、くだらない冗談を気軽に飛ばし合う同士だった。
それなのに、あいつらはどうして、あんなにイヤラシイものでふくらはぎを平気で染めていられるのだろう?
万年学級委員の尾形も、ハキハキしたスポーツ少女の橋田も、こうやって知らず知らずのうちに、大人の女という妖しい生きものになってゆくというのだろうか?
アイロンのきいたプリーツスカートの下で淑やかでなまめかしい彩りを秘めている、彼女たちの黒ストッキングと。
ブチブチと咬み破られて、妖しい裂け目を拡げていった、母さんのねずみ色のストッキングと。
どちらもほんとうに、等質のものなのだろうか?


昼の休み時間に、購買で吊るしで売られている学校指定のハイソックスに手を伸ばしていると、だれかに後ろから、お尻をどん!と叩かれた。
振り向くと、同じクラスの岡間カツヒコだった。
かれもぼくと前後して、先生の呼び出しを受け首すじやふくらはぎに噛み痕をつけられていた。
岡間はぼくの隣で買い物をさがすふりをしながら、そっと囁いた。
「咬まれましておめでとう」
冷やかすようなおどけた調子だったが、本音では吸血を許したぼくの選択を歓迎しているのが伝わってきた。
「何足買うのかな?」
岡間はぼくをためすように訊いた。
「ん・・・四足」
ぼくは正直に答えた。
2千円のお金で、一足500円だから、4足。
母さんがくれた額どおりだった。
「今週のぶんかな」
火、水、木、金・・・と、岡間はこれ見よがしに指折り数えてみせる。
通学用の紺のハイソックスを毎日咬み破らせて、生き血を吸われる。
そんなことを習慣にしてしまって、はたして身体がもつのだろうか?
けれどもそうした当然の危惧も、吸血されることが愉しい日課となるという想像のもたらすどす黒い歓びに、他愛なくかきけされてしまう。
「そうだね。それくらい、身体がもてばいいけど」
「きみならもつさ。じょうずにやりそうだもの。ボクのとこなんか、いまはとりあえず両親とボクだけだから、ローテーション大変」
岡間はわざと大げさに、首すじを抑えてみせた。
うちだって、いっしょだよ・・・そう応えかけたとき。
「お金、まだ持ってるよね」
岡間は、ぼくの財布の中身を目ざとく見すかした。
まるで「かつあげ」をする不良少年のような目つきだった。
「これは母さんのぶん」
ぼくがそういうと、
「きみの病気は、母さんからの遺伝だもんね」
岡間は憎らしいほどすらすらと相づちを打った。
受けた誤解をいちいち打ち消す努力をあきらめて、「好きに言うさ」とだけ応えると、彼はそれを肯定と受け取ったらしい。
「はい、これお祝い」
と、自分用に買ったはずのハイソックスを一足、むぞうさに押しつけた。
「その代わり、毎日咬ませてきみのカレシ殿を悦ばせてあげること」
「冗談キツイよ」
ぼくは思わず白い歯をみせて笑った。
岡間もけらけらと、笑っていた。屈託のない笑いだった。
まだ咬まれていない姉貴のぶんにしようかな、と言いながら買い求めていた黒のスクールストッキングまで譲ってくれたのには、ちょっと面喰らった。
姉貴はまだなんだけど、彼氏を仲間に引き入れてからのがいいや、と、恐るべき計画をさりげなく口にすると、
「午後はそれ穿いて授業出ろよ。じゃあな」と言い捨てて、足早に立ち去っていった。


五時間目の授業を、岡間は欠席した。
ぼくはそうなるのを、なんとなく予感していた。
昼休みの別れ際、彼が足を向けたのは保健室の方角だったから。
最近の保健室は、保健室とは名ばかりで、男女の生徒と吸血鬼たちの、逢引き部屋と化していた。
ときには淑やかな笑顔が評判の養護教諭の佐久間先生が、白のストッキングの脚を咬ませてくれると、彼らの間ではちょっとした評判になっているらしい。

彼が置き土産みたいにぼくに押しつけた一方的な約束を、ぼくは律儀に守っていた。
人のいない男子トイレの個室でおそるおそる脚に通した女子用のストッキングは、なよなよとしたたよりない感触でぼくの足許をぬらりとくるんでいた。
女子になってしまったような気恥ずかしさに、すこし顔がほてっていたけれど。
だれもぼくのほうなど、振り向きもしなかった。

クラスには、そっくり女子の制服を着て登校してくる男子もいた。
そういう男子は、先生の特別指導を受けていて、地毛を肩まで伸ばしたりウィッグを着けたりして、なるべく女子に似せた姿をしていた。
副担任の高嶋先生から、初歩的なメイクのし方の手ほどきを受けた子もいた。
クラス全体がそんなふうになってしまっているものだから、半ズボンの下に女子学生用のストッキングをまとったくらいでは、だれもいちいち目を向けたりはしないのだ。

トイレの個室から身を乗り出すように表に出、薄々のストッキングごしに脛をさらした外気のそらぞらしさに昂りを覚えながら教室に一歩足を踏み入れたとき、宝田君といきなり目が合った。
薄黒く染まったぼくの足許に目を留めると、彼だけはさすがに目をちょっと丸くして、それからにやりと笑いかけてきた。
彼とは、初めて血を吸われたときに、同じ体験を過ごした間柄だった。
初めて二人ながら吸血鬼に接遇体験をして紺のハイソックスを咬み破られたときのような屈辱感や後ろめたさのようなものは、お互いのなかにはもうなかった。
訳も分からずに、ハイソックスのふくらはぎを咬ませてしまった一回め。
高嶋先生に背中をどやしつけられながら逢引き部屋に入っていって、宝田君と並べた肩を弾ませながら咬み破らせていった、二回め。
どちらのときも、なんとなく、おなじ靴下を履いて学校生活をともにしているクラスメートたちを裏切ってしまうような後ろめたさを感じたのだけれど。
そうした後ろめたさは、二足めくらいまでは、たしかに心のなかに存在していた。
けれども、三度めに思い切ってふたりで示し合わせて吸血鬼たちに逢いに行ったとき、揃って脚を並べて三足めを咬み剥がせてやってしまうともう、そうした想いは跡形もなくなっていた。
そう、小気味良いほどに、跡形もなく。

初めて女子の黒ストッキングを履いて教室に入ったときに目が合った宝田君に、ぼくはニッと笑い返すと、彼の目の前を、黒のスクールストッキングの脚を見せびらかすようにして横切って、なにごともないようすをとりつくろって自分の席に腰をおろした。



こめんと
ほんとはね。先週の週末に、このくだりから描いたんですヨ。^^
どうやら話のつじつまをつけられたような。そうでもないような。^^;
あとがつづくかどうかは、未定ですww
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