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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

老いらくの恋 続

2014年06月10日(Tue) 07:55:52

帰郷していく男は、お別れの名残りにと。
妻の着ているスーツをねだった。
娘さんに着てもらって、貴女を慕うことにしたいから。 と。
そう。
嫁と舅との関係は、孝行息子の黙認のもと、いまもつづけられていたのだった。

京香がお好みなら、きみに目を留めても不思議はないのかも・・・
ふとそう思って振り返る横顔は、娘とうり二つの輪郭をもっていた。

ふた月ほど経って。
男はふたたび、わたしたちの夫婦のまえに現れた。
スーツを返しに来た・・・という男に、
もう飽きちゃったんですか?と、屈託のない妻。
帰りには、夏物のスーツをお借りできますね?と、男。

妻はその日、わたしに外出をすすめて・・・
自分自身も、いそいそと出かける支度をはじめていた。
男の持ってきた、えび茶色のスーツの袖を通して。

尾行しているのも。されているのも。
互いに分かり合っている、ほどほどのへだたり。
自宅からはすこし離れた、目だたぬところにあるラブホテル。
ゲートをくぐるまえ、妻はふと、わたしのほうをふり返る。
感情を消したふたつの視線が、穏やかに交わり、そしてそらされてゆく・・・

男が妻の肩を抱いて、ホテルのロビーへと脚を向けた。
肩に置かれた掌が、ひどくなじんでみえたのは。
娘との情事にいく度も、このスーツが使われたから・・・それだけの理由に過ぎないのだろうか?

3時間後。
着替えをもって呼び出されたわたしのまえ。
妻は何事もなかったように、出かけていったときそのままのいでたちで、
彼に付き添われて、ホテルのロビーを背にしてきた。
ふたりは手をつないではいず、ほどほどのへだたりを持っていて。
それが夫に対する気遣いなのだということは、
二個の身体から通いあう、目に見えない紐のようなものが、それとわからせてくれていた。

真新し過ぎる妻のストッキング。
男は手に持っていた薄い布きれをわたしに手渡して。
「きょうの戦利品は、あなたのものですよ」
いつも妻の足許から抜き取ってせしめてゆくはずの、裂けたストッキングが。
不思議な柔らかさとぬくもりを、わたしの掌に、じんわりとしみ込ませてくるのだった。
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