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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

妻の浮気調査。

2014年06月25日(Wed) 08:10:40

出かけるよ。
米良課長が早田に声をかけたのは、妻が村の男たちの手に落ちてから、一週間ほど経ったころだった。
早田の上司である米良は、白髪交じりの首を振り振り、周囲に聞こえるように、「出張、出張!」とくり返した。
行く先も告げずに早田を連れて事務所を出た課長は、社用車の運転席に乗り込んで、みずからハンドルを握った。
車に乗ったふたりが出向いたのは、隣町の目抜き通り。
ところどころシャッターの降りた商店街の一隅は、すでに撤去された店の跡地が、駐車場になって広がっている。
その駐車場に、フロントガラスから通りが見えるような位置に停車すると。
すこし、ゆっくりしてこくや。
課長は運転席の背もたれを倒して、あーあと声をあげる。
それから早田に向かって、ちょっぴり抜き差しならないことをいった。

きょう出てきたのはね。きみの奥さんの浮気調査。


商店街の人通りは、まばらだった。
のんびりとした足取りの、地元の人たちに交じって。
いくたりか、都会ふうに着飾った女性が混じっていた。
彼女たちは例外なく、男といっしょだった。
連れの男たちは、着飾った女性とは不釣り合いに粗末ななりをしていて、
毛玉のついたセーターを着ていたり、野暮ったく日焼けのしたジャケットを着ていたり。
野良着のものや作業衣のものまでいた。

みんな、当社の社員のご夫人たちだよ。

課長はそう、言い放った。
駐車場の正面は、派手なピンク色の建物で、けばけばしいネオン管の看板には、「旅館 丸花」と描かれていた。
昼ひなかから、浮気に励むんだから。どちらもご熱心なことだよね。
上半身を抱き合うように絡みつけた男女がまたひと組、ホテルのドアの向こうへと姿を消してゆく。
女はそこそこの年輩だったが、髪を真っ黒に染めていて、
真っ赤なワンピースにむき出しの二の腕が白くなまめかしく映えていて、
すそから覗く足許は、濃いめの黒のストッキングが、てかてかとした光沢をよぎらせていた。

ほぅら、お見えになった。
課長が指さすかなたにたたずんでいるのは―――妻の素子だった。

きょうの相手は、あの五十男。
室田というその男は、早田の留守宅にしげしげと通い詰めているという。
仲良くなったご近所の衆が、口をそろえてそういうのだから、
室田と素子との親密さは、たいそうなものなのだろう。
腕を組んでぴったりと身を寄せ合っているふたりは、どうみても仲の良い不倫カップルだった。

ふと、素子が目をあげて―――早田と目が合った。
あ、と、いう表情に、室田もすぐにそれと察して・・・慇懃なあいさつを投げてくる。
早田はそれに対してさりげなく目で応えると、
ふたたび妻と目を合わせた。
チラと投げてくる妻の視線は、悪びれもせず、後ろめたそうでもなく・・・
たまたま出かけた先で夫と出会った妻の、ふつうの視線にすぎなかった。
早田が軽く手をあげると、素子も白い歯をみせて笑った。
一対の男女は早田からホテルの前で歩く向きを変えて、
早田に背を向けると、手を取り合うようにして、ホテルのドアを開けた。
ロビーの暗がりに踏み入れる素子の足許は、黒のストッキングに白い脛を滲ませている。

いいのか・・・?
米良課長の呟きに。
よろしうどうぞ・・・ってとこ、ですかね。
苦笑いを交えて、早田がこたえる。
うまくやっているようだね。
そうですね。
円満なようなら、なによりだ。課員の日常は、上司としても気になっていたんだよ。
「上司」というところに力点を置いて、米良課長はちょっとだけ黙りこくった。

じつはね、きょうの浮気調査の対象には、米良夫人も含まれていたのさ。
え?と訊きかえす早田に、米良は照れ臭そうにいった。
さっきホテルに入っていった、真っ赤なワンピースの女。あれ、うちの女房なんだよ。

おきれいなかたですね・・・と言いかけた言葉を、早田は呑み込んだ。
そのおきれいな妻を日常的に奪われている上司の心中を察したからだ。
なに、うちも特に、差し支えはないんだよ。
早田の心を読んだらしい米良は、肩をそびやかしてつけ加える。
うちの女房、モテるらしいぜ。ご近所jの衆から聞き込んだんだけど、男がもう、片手にあまるほどいるんだそうだ。
自分の妻のモテっぷりを語る米良は、ちょっぴり得意げにみえた。
早田は眩しそうに上司を見あげ、そして妻が情夫といっしょに消えていったホテルの入り口に、もういちど目をやった。
室田さん、素子をよろしくね。
いまごろはもう、スーツ姿を着くずれさせて首すじを吸われているであろう素子の姿を想像して、ズボンの中がこわばるのを感じながら、早田は「運転代わります」と、あくまで事務口調で上司に告げた。
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