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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

勝手な裁判員たち。

2014年06月27日(Fri) 08:02:09

町立の家庭裁判所があるなんて、きいたことがない。
ましてそのなかで、裁判員制度があるなんて、さらに初耳だ。
とにかくなによりも、うさんくさいのは・・・
裁判長がほかならぬ、妻を初めて犯したあの長老であることだった。
それがまた、滑稽なくらいにもったいぶった顔つきをして、いちばん上座に御成りになっている。

被告席には室田さんが、いつにもまして神妙な顔つきを、引っ込み思案にうつむけていて。
証人の席には、妻の素子。
そして訴えた覚えのないわたしが、なにを間違えてか原告席に座らされていた。

会場である公民館の座敷の入り口には、模造紙を貼り合わせた幕が、れいれいしく掲げられている。
いわく、
「早田夫人貞操侵奪・交際強要・家庭内公然猥褻事件審理会場」

なんという、おどろおどろしい審理内容であることか。
村長に命名された審理の名称といい、村の顔役の一人である住職の手になる墨黒々と記された字体といい、
おどろおどろし過ぎて、かえってそれ自体が冗談であるかのようにさえ、映るのだった。

―――それで、今回の訴えの主旨について、ご説明願います。
長老は威厳たっぷりにそっくり返って。いつになく仰々しい口調で開会を告げる。
つい、きのうのことだった。
我が家にお出ましになって、夫婦のベッドのうえ妻のスカートの裏地を精液まみれにした挙句。
股をおっ拡げて仰向けになったままの妻を背に、お尻をぽりぽり掻きながら、
情婦の脚から引き抜いた肌色のパンストをぶら提げて、意気揚々と引き揚げていったのは。

検事役は、この村では珍しく、四大出のエリート若旦那。
銀ブチ眼鏡を理知的に光らせて、そつなく応対する。
はい、本件は、被告人室田良平58歳が、近くに住む会社員早田雅夫さん43歳の妻素子さん38歳に対して性的暴行を加えたうえで自己の愛人となるよう強要し、あまつさえ夫である早田さんの面前で日常的に夫人の凌辱に及んでいるという案件です。
れいれいしい言葉を連ねながら、我が家の恥をあばき立てている彼も―――ああ、やはり四大卒で小学校教諭を勤めているインテリの奥さんを、村じゅうの男たちのおもちゃに提供している人物である。

―――被告人はその事実を、認めますか?
長老は下品に顎をしゃくる。
いや、威厳というか、貫録らしきものは、あるといえばあるのだが・・・
まったくもって、裁判官らしい知性のかけらもない。

室田氏は気の毒なくらいおどおどしながら、こういった。
―――はい、事実を全面的に認めます。
おいおい、それって、まるで、素子が娼婦あつかいされているのを認めているみたいじゃないか・・・
いまのわたしとしては、むしろそっちのほうを抗議したい気持ちになっていた。

では、証人の発言を求めます。
長老の声色は、あくまでももったいぶって訥々としている。
妻の素子が居ずまいを正して、背すじをしゃんと伸ばしていた。
彼女はこの裁判なるものを、すっかり真に受けているらしい。

証人は起訴事実を認めますか・・・台詞を棒読みにしているみたいな長老の問いに応える妻―――

がつがつしてるときも、あるんです。
服破かれちゃったりするんです。そういうときには。
でも室田さん稼ぎがいいらしくって。代わりを買ってくれるんです。
ただし、とっても下品な服なんです。
あの・・・マイクロミニっていうんですか?お尻が隠れるくらいしか丈のないミニスカートとか。
こないだなんか、ショッキングピンクのマイクロミニに黒のストッキングで、街の商店街をいっしょに歩かされたんですよ・・・

素子は伏し目がちになりながら。
控えめに紅を刷いた薄い唇から洩れる声色は、あくまで控えめでありながら。
それでもひどく露骨なことを、言い募る。
そう、言葉の内容とは裏腹な、淡々と口調で である。

検事気取りのインテリ若旦那が、肩をそびやかして共感の意をあらわした。
そりゃあ、共感するだろう。
我が家とまったく、同じ立場であることは。この場に居合わせるだれもが周知の事実なのだから。

そう、それはけしからんね。まさしく犯罪行為だ。
ご主人はさぞや、無念だったことだろうし・・・
奥さまにとっても、貞操を守り抜くことができずに汚されてしまったということは・・・生涯の屈辱であったろうとお察ししますよ。

ことさらに、人の傷口を抉るような言い回しをするのは・・・意図的なのか無意識なのか。

インテリ若旦那の言に重々しく頷いたのは、お隣のご主人。

まったくもって、けしからん。
夫のあるご婦人を汚すとは・・・
ご夫婦がそれでもむつまじくされていらっしゃるのは・・・
ご主人の雅量と奥方のご主人に対する敬愛の念が、そうさせるのでしょうな。

いやいや。
それはお宅の話でしょう?
そういいたくなるくらい。
お隣もまた、ほぼ毎晩のように・・・奥さんに夜這いをかける男どもが、列をなすほどの盛況ぶり。

その・・・ご主人のまえで犯されるときって、どんな気分になるんですか。

つけ加えられた質問に、生唾を飲み込む気配を感じたのは・・・きっと錯覚ではなかったはず。

ええ、そうですね・・・
素子は相変わらず、伏し目がち。けれども声色は、揺るぎがない。

小気味よくって。

え・・・?
インテリ若旦那と隣のご主人とが、にわかに聞き耳を立てた。
けれども妻は、むしろサバサバと、得意げに頷いている。

小気味よい?ほほう・・・
隣のご主人は、大仰に相槌を打つ。

それは、ご主人に対して・・・ですか?
インテリ若旦那も、興味津々というのが手に取るようにわかるほど。

そうですね・・・主人に対してもそうですが、なにか自分を解放しきっちゃっているみたいで・・・

ご主人のこと、軽蔑しているの?
だれかがもっとも忌むべき質問を、妻に投げた。

いいえ、そんなことありませんわ。主人には感謝してますし、愛してます。

称讃のどよめきが、声にならない声になって、万座に満ちる。

えーと、さいごに・・・ですが。
隣のご主人が、さらにつづけた。

原告であるご主人に質問します。
奥さまが交際を強要されているとの件に関してですが・・・その事実に間違いはありませんか?

虚を突かれるような、タイミングに、わたしは案に相違して、しどろもどろになっていた。
上ずった声色は、わたしの意思をどこまで反映していたのだろう。
いや、あるいはそれは、わたしの心の奥底に澱んでいた、真の願望だったのかもしれない。
わたしはよどみなく、こたえていた。

―――いえ、室田さんと家内との交際は、わたくしのほうから申し出て、お願いしているものなのです。

声にならない声がまた、万座に満ちた。

それでは、判決、判決。
まったく村の長老が「判決」なんて言ってみたところで、八百屋の親父が店先であげるかけ声と、大して変りはしないのだった。

被告人、室田良平。
右の者と早田夫人素子との交際は、適切な関係であることを認定する。
原告であるところの早田雅夫は、夫人素子と被告人との間の、現在の如く適切な交際を継続するのを、公認しなければならない。
原告は、被告人が原告の家を訪問し、原告の妻との性行為を欲するときには、必ずこれを許容しなければならない。

おごそかに告げられた判決文に、わたしは、よろこんで同意します、とだけ答えると。
万座から拍手が上がっていた。
長老も、検事のはずのエリート若旦那も、たんなる野次馬のお隣のご主人も。
素子までもが、拍手に加わっている。
室田さんは恐縮しきって、周囲のだれからと言わず、しきりにぺこぺこと頭を下げていたし、
途中で拍手をやめた素子は、情夫殿に悠々と片手を預け、手の甲にべったりとぶきっちょな接吻を受け止めている。

そうと決まれば、さあさあ・・・
長老はさっそくのように、皆を引き立てた。
奥方に愛人ができた旦那は、ひと晩まわりのもんに祝ってもらう権利があるのですぞ。
あらかじめ用意されているらしい宴席に向かうのに、わたしはひき立てられるようにして座を起たされる。
むろんそれは、訴訟ごとのあとの若いのしるしに、室田さんと素子とを、ふたりきりにするための方便だった。

お二人のお邪魔にならぬようにのう・・・若いもんは、うらやましいのお。
室田どん、素子さんと乳繰り合うのもエエが、たまにはわしにも貸してくだされよ。
長老が露骨なことを言って、目を細める。

座敷を出るときふと振り返ると、素子と目が合った。
「留守をよろしく」
「はい、かしこまりました」
きちんと挨拶を返す素子の背後には、室田さんがひっそりと控えていた。
わたしが会釈を投げると、室田さんは気の毒なくらい恐縮しきって、なん度もなん度も頭を下げてきた。

「早田さん、このあたりの男衆は、だれもあんたのこと笑ったりはせんはずだよ」
お隣のご主人が、うまい間合いを取って言い添えてくると。
「そうですねえ。おなじ憂き目をみない亭主は、このあたりじゃ本当に、まれですからねえ」
エリート若旦那もまた、さらに深掘りしたようなことを、言い添える。
「たいがいこれが、悦んでいるんだよなあ。ヘンな話・・・女房に男ができてるってのに」
ほかのだれかも、二人に応じて、自分の妻が「モテて」いることを自慢げにさらけ出す。

婚姻関係だけでは縛られない、男女の情がもつれ合う土地―――
だれもが相手を信じ切っているからこそ、差し出したり、交換したり、一方的にプレゼントしたり・・・そんなことが日常風景のようなさり気なさで、取り交わされている土地・・・
素子はきょう、土地の女になって。
わたしもたった今、土地の男衆に加えられてゆく―――
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