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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

面白そうだから・・・

2014年06月30日(Mon) 07:07:16

あのー、吸血鬼さんたち、ですか?

おずおずとではあったが、明るい声色だった。
周囲の魔性を塗り替えてしまうほど、あっけらかんとした。

振り向いたものは皆、魔性のものたち―――
それでもその少女は、憶する様子もなかった。
その態度に、吸血鬼たちのほうが、警戒の色をよぎらせるほどだった。

ツインテールに結んだ、長い長いおさげ髪。
白のブラウスに、紺色のリボン。
赤とグレーのチェック柄のスカートに、白のハイソックス。
スカートのすそから覗くのは、噛みごたえのよさげな、むっちりとした太もも。
おなじくらいたっぷりとしたふくらはぎは、ひざ小僧のすぐ下まで引っ張り上げた白のハイソックスにくるまれている。

少女はどこまでも、無邪気に笑う。

あたしの血、吸ってくださるかたって、いませんか?

え?
にわかに色めき立つ吸血鬼の一群を、少女はにこにこ笑いながら眺めている。

きみ、自分の言っている意味、わかってるの?

かしらだった男が、そういうと。
ほかのものたちもいちように、頷き合っている。

死んじゃったりしないってきいてるんだけど・・・そうなんですよね・・・?

少女はそこだけは、ちょっぴり心配なようで・・・さすがにちょっとだけ、語尾が震えていたけれど。

ああもちろん、そういう女の子大歓迎さ。

若い男の吸血鬼の応えに、ぱっと笑いをはじけさせる。

あー、よかった♪

きみ、変わってるんだねえ。

そうか知ら。

だって、自分から血を吸われたいなんて女の子・・・たまにはいるか。

少女とは親ほども違う年頃のおっさん吸血鬼は、自問自答しちゃっている。
自爆するなよなー・・・と、皆がどっと笑った。
人間と吸血鬼とが仲良く共存しているこの街で。
彼らも差し迫った飢えや渇きとは、無縁のようすだ。
さもなければ、少女が公園に入るやいなや、喉笛を喰い破られていただろうから。

でも、どうしてそんな気になった?

かしらが少女に話しかける。
少女は白のハイソックスの足許に注がれる視線を敏感に感じ取り、得意そうに見せびらかしながら。
それでもちょっとだけ、もじもじとした。

うーん、なんとなく・・・楽しそうだから。

うむー。
だれかが低くうなって、だれもがちょっとだけ、考え込んだようだった。
「なんとなく」で、処女を捨てる子は多いけれど。
それとおなじ「なんとなく」で、吸血鬼に首すじを咬ませようとする女の子だっている・・・ということだろうか。
ふだんは表向き、普通の人間として暮らしているものが、ほとんどだったから。
だれもがすでに咬まれてしまった自分の娘や妹のことなんかを、思い浮かべていたにちがいなかった。

じゃあ、決心は固そうだな。

かしらが確かめるように、少女の顔を覗き込むと。

ウン、決心固い・・・と思います。

少女は楽しそうに、白い歯をみせた。
しょうがねぇな・・・かしらはちらっとそう、つぶやいたみたいだった。

喉渇いている奴、いる?といって、たいがいは仲良しの人間いるんだよな。

かしらが仲間のうえに、目線を一巡させる。
そして言い忘れた・・・というように。

そのまえに、この子の知り合い、いる?

と、訊いた。
いちばん後ろのほうから、おずおずと手が挙がった。

あー、眉原さん、だったっけ?

相手が年上だったので、かしらは彼のことを「さん」付けで呼んだが、どうやら彼のランクはまだ、よほど低いようだった。
ほら、前出なよ・・・と仲間に尻をたたかれるようにして、渋々前へと引き出されてくる。
目のまえに引き出された男を視て、こんどは少女が両手で口許を抑えていた。

えー・・・タカシおじさん吸血鬼だったの?

タカシと呼ばれたその年配男は、どうやら少女とはかなり近しい間柄らしい。
頭を掻き掻き、「オレなり立てだから・・・ほかの人にはまだナイショ」と、助けを求めるように少女を視た。

うん、わかった。しー・・・だね?

少女はイタズラっぽく、可愛い唇に指を一本立ててみせる。
ピンと反り返ったふくらはぎに、街灯に照らし出された白のハイソックスが眩しい。

じゃああんた、この子の面倒みなよ。

エエんですか?わしなんかで・・・

お嬢さん、初めてなんだろ?そういうのは身内に頼むものなんだぜ?それとも相手が知り合いじゃ、嫌かい?

かしらの言い草に、少女は神妙に聞き入っていたが。
「嫌じゃない」ひと言そう呟くと、タカシのまえに大またで歩み寄って、きちんとお辞儀した。

お願いします。

ほかの吸血鬼どもは興ざめしたように、それぞれ思い思いに、仲良しの人間の待つ住宅街へと消えていった。
かしらはさいごまでそれを見届けていたけれど。
「おっさん、ラッキーだね。今夜はいいごちそうにありつけたじゃない。しっかりやんなよ」
と、こぶしで軽く、タカシの肩を叩いて、これもまた近くの大きな家を目ざして消えていった。
ぞんざいな口調は、きっと少しだけ、うらやましかったからだろう。
「仲良くなったら、その子をここに連れて来て、みんなにご披露するんだぜ」
そんなえぐいことを言って退場するかしらを、少女は手を振って見送っている。

ふたりきりになって向かい合ったふたりは、ちょっとだけ無言で、もじもじしていたけれど。
少女のほうから再び、男の手の届くところまで、大またに歩み寄ってきて。
もういちど、「お願いします」と、頭を下げた。
ツインテールのおさげ髪が、ユサッと揺れた。
タカシは少女の手を引っ張って、ベンチに座るよう促した。

腰かけたふたりは顔を見合わせると。
少女のまっすぐな視線に、男は後ろめたそうに視線をそらし、
そらした視線を向けた少女のブラウスの襟首に、唇を近寄せた。
胸もとを引き締めていた紺のリボンを素早くほどくと、少女はブラウスのボタンを二つ三つはずしている。

刹那―――
男の牙が少女の首すじに埋め込まれ、少女ははっとなって息を呑んだ。

くちゅ・・・くちゅ・・・ごくん。

生々しい音を立てながら自分の血を啜りはじめた男の、力づくの腕に巻かれながら。
少女は目を見開いて応じていたが。
やがて状況に慣れてしまうと、ふ・・・っと表情をゆるめて。
まるで姉が頑是ない弟をあやすようにして、男の背中を撫でつけてゆく。

ごく・・・ごく・・・ちゅううっ・・・

よほど飢えていたのか・・・ただいっしんに少女の血を飲み耽る吸血鬼に抱かれながら。
少女はさすがに顔を蒼ざめさせていたけれど。
牙を引き抜かれて。
その拍子にブラウスの襟首に散った血に、「汚した」って、口をとがらせて。
昂ぶりからか、息を荒くしている男に、「まだいいよ」と、促している。

足許にかがみ込んだ男が、左右の太ももを、かわりばんこに咬みついてきた。
少女は、チュウチュウと音を立てて血を吸いあげるのを、面白そうに聞き入っていて。
白のハイソックスのうえからなおも唇を吸いつけられて、
咬み破られたハイソックスに、バラ色のシミが生温かく滲ませると、さすがに「あー・・・」と声をあげた。
年頃の少女らしく、洋服を汚されることにだけは、敏感だった。

すまないね。すまないね・・・

男はそういいながらも、なおももう片方のふくらはぎに唇を吸いつけていって、
少女の履いている白のハイソックスに、ふたたび派手なシミを拡げてゆく。

あー・・・

少女はふたたび、とがめるような声をあげたけれど。
男は応えるかわり、牙をさらに深く、食い込ませていった。


「ほんとうに約束守るなんて・・・あんたも義理堅いんだな」
深夜の公園。
かしらはポケットに手を突っ込んだまま、タカシと連れの女たちに目をやった。
「お母さんまで、連れてきたのか」
「彼女一人じゃ、心配だっていうもので・・・」
男はおずおずとそう応えたけれど。
まえのように、ゆとりのない感じは、もう微塵もなかった。
予想以上の戦利品を仲間のところに持ち込めたことに、誇らしそうなようすだった。
かしらの背後には、仲間が数人いた。
だれもが、新入りの男の手柄を、悦んでいるようだった。
自分たちが分け前にありつける・・・そんな嬉しさはもとよりのことだったが。
仲間の成長ぶりを祝う気持ちのほうが、大きかったかもしれない。

あの夜、出かけていった娘の帰りを待ちわびていた母親は、
顔見知りのタカシに連れられて戻ってきた娘を引き取ると。
真っ赤なまだら模様を散らした娘のブラウスとハイソックス、それにタカシの口許を見ただけで、すべてを察した。

まあまあ・・・彼女はあきれたように娘を見、娘は悪戯がばれたときみたいに、舌を出して笑って応えた。
相手が知ってる人だったから、まだよかったわ。
母親の言い草は、世間的には見当違いだったかもしれないけれど。
遅れて出てきたガウン姿の父親までが、「着替えたら早く寝なさい」とだけ言い渡してすぐに引っ込んだのをみると、
この家ではふつうに受け入れられる見解のようだった。

娘と一緒に現れた母親は、白地に黒の柄の入ったワンピース姿。
肌色のストッキングに黒のパンプスの脚を一歩踏み出して、
「娘を1人で夜歩きさせるわけには、いきませんから」
気丈にもそういって、胸を張る。
「いいお母さんだね」
娘と男とに、等分にいいながら。
母親の値踏みを目でしていったのは、さすがに本性を思わせるものだった。

じゃあありがたく、お相伴にあずかるね。

向かい合わせのベンチのうえ、あお向けになった女ふたりに、
吸血鬼どもは順ぐりに、のしかかっていって。
あるものは、ネックレスに囲まれたうなじを。
あるものは、濃紺のリボンを巻いた襟首を。
あるものは、柄もののワンピースのわき腹を。
あるものは、ヒダスカートのすそをまさぐりながら、白のハイソックスのふくらはぎを。
あるものは、肌色のストッキングをブチブチと咬み裂きながら・・・
漂うほろ苦い芳香に、本性をむき出しにしながら、いずれ劣らぬ柔肌に牙を埋めてゆく。

気絶してしまった娘の隣。
ベンチをおりた母親は、ワンピースを着くずれさせて、きちんとセットしてきた栗色の髪を振り乱して、
大人の女性としての応対までも、遂げてゆく。

すまねえな。

お礼ですよ。

あの家に居ついたのか

ご主人が、理解のあるひとだったので・・・

そいつは、よかったなあ・・・

かしらはしんそこ嬉しげに、星空を見上げた。
女たちがきゃあきゃあと声を洩らしている地上とは裏腹に。
星達は静かに、青く冷たい輝きで、夜空を彩っていた。



あとがき
吸血鬼などとはなんのご縁もないような、白のハイソックスの少女が、「面白そうだから」というわけのわからない理由で、惜しげもなく生き血を吸わせてしまう・・・そんなプロットを描いてみたくて。
あとは娘を迎え入れた母親の、見当違いな安堵のし方なんかも、描いてみたくて。
ほとんどなにも練らずに、描いてみました。
やはり反応というものがありますと、創作意欲と言うのは燃え上がるようです。 笑
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