淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
初めてきみを、咬んだのは・・・ 別題:優しい街
2014年09月16日(Tue) 07:13:12
初めてきみを、咬んだのは。
デニムのミニスカートからむき出しになった太ももが、あまりに眩しかったから。
素肌の咬みごたえときゃあきゃあ叫ぶきみの悲鳴とを、いまでも愉しく思い出す。
初めてきみを、咬んだのは。
スーツの襟首から覗く首すじが、あまりになまめかしかったから。
生き血を吸われることよりも、高価なスーツが汚れるのを気にかけたひと。
こだわり抜いて咬ませてもらった紺のストッキングも、ブランドものだった。
初めてきみを、咬んだのは。
招ばれた法事で、喪服の立ち姿がだれよりもひきたっていたから。
気がついたときには、もうきみを。本堂の片隅でねじ伏せてしまっていて。
黒のストッキングの足首に・・・ジュクジュクよだれを、しみ込ませてしまっていた。
ああ、でもきみたちがだれだったのかを。
思い出すことはもう、難しい。
それほどに・・・悪行を重ねてしまったから。
それほどに・・・身体の部位しか思い出が残らなかったから。
初めてきみを、咬んだのは。
学校帰りの紺のハイソックスに包まれたふくらはぎが、大人の生気に満ちていたから。
おうちに帰り着くまえに、あのハイソックスを咬み破ると・・・きみの彼氏に宣言していた。
吸血鬼さんだって、生きていたいんだよね。
自分の生命まで奪られるわけではないと納得したきみは、俺の身の上にまで同情してくれていた。
初めてきみを、咬んだのは。
彼女が咬まれることを恐れたきみが、おずおずといいにくそうに言い出したから。
男の血なんて、興味ないよね?ハイソックスならボクも履いているけれど・・・
差し伸べられた、ライン入りのハイソックスのふくらはぎ。
スポーツに鍛えた血潮は、思いのほかのど越しが心地よかった。
わるいね、きみ―――
俺のひと言に、マゾッ気のあるきみは、こくりと素直に、頷いていた。
初めて貴女を、咬んだのは。
咬まれた娘を迎え入れた、玄関先。
あなたがついていらっしゃりながら・・・そういって恨みがましく彼氏を睨み、
彼氏は玄関の隅っこで、小さくなって立ちすくむ
優しい彼氏を弁護したくて、俺はきみのことを、咬んでいった―――
深緑のべーズリー柄のスカートの下、肌色のパンストを、思い切りよく引き裂きながら。
毎日お食事、どうしているの・・・?
ブラウスを惜しげもなく赤いシミに彩ってしまったきみは、いつか主婦らしい気遣いをしてくれていた。
もういい加減、貧血でしょう?
気遣う俺は、穿き替えてくれた三足めのパンストをきみの脚から抜き取ってぶら提げながら。
気遣われているんだか、ねだられているんだか。
きみは蒼い顔をしながら、かぶりを振っていた。
娘にお手本、見せなくちゃ。あなた悪いひとじゃないんだもの。
襲った俺が、かえって庇われていた。
ブラウス、クリーニングに出さなきゃね。
またも主婦らしいことを口にしたきみに、俺がお使いに行ってやるからと、せいぜい憎まれ口をたたいていた。
初めて貴男を、咬んだのは。
貧血でぶっ倒れたまま、夫の早すぎる帰宅を迎えた妻を、もの静かに抱き起して。
あんたも生きるのに、大変なのだろうけれど。
やはり最愛のひとを、いきなりこんなふうにされたくはないものだね。
一回だけ、撲らせてくれ。
無抵抗に垂れた頭を、貴男はただ、撫でてくれただけだった。
妻も娘も、明日は朝早いのだよ。これ以上貧血にさせるわけにはいかないからね。
仲直りのしるしにと、貴男は箪笥の抽斗を自分で探って、紳士用のハイソックスに履き替えてくれた。
どうやらお好きなようだから――――
あのときわざわざ、パンストみたいに薄地のやつを択んでくれたのは・・・せめて少しでも、俺の趣味に合わせようとしたからに違いなかった。
奥さんの穿いているパンストが、しつように破かれているのを目にして、賢明にも察しをつけていた、寛大な人。
屈辱による苦痛の裏に、じつは快感が秘められていることを―――そのあと貴男は、初めて知った。
初めてきみを、咬んだのは。
お兄ちゃんや、お義姉さんになるひとのかたきだと、一方的に詰め寄られたときのこと。
じゃあきみもいちど、咬まれて御覧。
性懲りもなくぬけぬけという俺を、きみは挑戦的に睨みつけてきた。
じゃあいいわよ。あたし咬まれたって、夢中になんかならないから。
差し伸べられた白のハイソックスのふくらはぎは、思い切り咬むにはまだ、か細かった。
夢中になんか・・・ならないんだから・・・っ・・・
思わず姿勢を崩して、声をかすれさせたきみのことを。俺はしがみつくようにして抱き留めていて。
あんたの勝ちだ。きみは強い子なんだねえ。
じつは両親や兄たちを気遣って、自分の血も献血にまわそうとしたきみを―――俺はずっと抱き留めていた。
この街で、生きてゆく。
俺を分け隔てしない人たちが暮らす、この街で・・・
あとがき
わざわざ別題を附したのは単にどちらがいいか決められなかったからです。
(^^ゞ
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