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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

特定の彼氏を持たない場合。

2015年02月02日(Mon) 07:53:07

この街に赴任するときには、夫人同伴が鉄則だった。
社の創立者の出身地であるこの街は、吸血鬼の巣食う街――
そうと知りながら会社のオーナーは、適格者と認めた社員をこの街の事務所に赴任させて。
赴任させられたものはすぐに、己の妻や娘や母親を。
渇いた者たちに提供する歓びを、植えつけられてゆく。

特定の人を作るつもりなんか、ありません。
妻が初めて生き血を吸われた夜。
引き裂かれたブラウスを抱えて、あらわになった胸を隠しながら。
自分の血を吸った吸血鬼に、妻ははっきりとそういった。
長い睫と大きく見開いた瞳とが、まるでいつもとは別人のように輝いていた。
しんけんな訴えと受け取ったのだろう。
男は素直にうなずき、もういちどだけ妻の首すじを吸って、
力の抜けた肢体がわたしの傍らに、くたりとくずおれるのを見届けると、
俯きがちに黙りこくって、去っていった。

それからは。
毎晩違うものが、妻を訪ねてきた。
あらかじめ予告があるらしく、そういうときには妻は、よそ行きの服で着飾って相手を迎えた。
処女の生き血は貴重視されていたから、それ以上の災厄はたいがい免れるというのだが。
相手の女が、セックスを経験した身体であれば。
ことのついでにと、必ずと言っていいほど犯してゆくという。
わたしが在宅していてもいなくても、結果は同じことだった。
折悪しく家に居合わせたときには、さきにわたしが手本を仰せつかる。
咬まれた首すじに浮いた疼きに、薄ぼんやりとなった理性を浸しながら。
生き血を吸い取られたあとの妻が、服を剥ぎ取られてゆき、第二の恥辱にまみれてゆくのを
ふすま越しに浅ましく昂ぶりながら、かいま見るのがつねだった。

法事の手伝いと称して、呼び出されることもしばしばだった。
黒一色の喪服に身を包んだ妻は、後ろで結わえた長い黒髪をゆらゆらさせながら、
ひっそりと出かけてゆく。
いちどになん人の男の相手をさせられるのか。
同僚たちには、行かない方がいい、と、とめられたが。
あるとき好奇心をこらえきれず、お寺の裏庭からいちぶしじゅうを見届けてしまっていた。
朝から夕方までで、六人―――
頭数よりも。一人あたりのセックスの密度が、半端じゃなかった。
わたしは家に帰ると何食わぬ顔で妻を出迎えて――息荒く激しく、押し倒していた。

やっぱり相性というものが、あるんでしょうな。
きょうの来客は、さいしょの夜の吸血鬼。
わたしよりひと回り年上の彼は、気がついてみたら、妻としばしば逢う仲になっていた。

あるていど刻が経つとね。
女の側にも、選ぶ権利ができるんですよ。
そうするとね。やっぱり「して」いて、居心地の良い相手を択ぶものなんですな。
どこがどうってわけじゃないんですけど・・・って、奥さん言っていたっけ。
でも法事の時にはたいがい、気がついたら二人きりになっていたし。
お宅に伺う男の数も、前よりか減ったでしょ?
いまだとわし以外だと、お隣のご主人と、長老のはげ親父どのと、あとはダンナさんの弟さんかな?
ぎくり、としたのは。身内の人間の名前を、彼がこともなげに口にしたから。
妻と弟の関係は、夫のわたしも認める仲だった。

奥さんの彼氏は、複数いたほうがいいですよ。
何かと心強いもんですからね。
それと、いい話をひとつだけ。
こんどね、弟さん婚約者のひとを紹介してくれるって言っているんですよ。
ダンナさんもいっしょに、どうですか・・・?

背すじにぞくりと、ふたたび悪寒を走らせたわたしは・・・それでもわれ知らず、頷いてしまっていた。
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