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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

味見。

2015年02月06日(Fri) 06:02:56

あなた~あ!

弾けるように明るい声が、わたしを呼んだ。
ふり返ると小高くなっている丘のうえから、妻が大きく手を振っていた。
あ、ちょっと・・・
わたしは同行していた上司を置いて、妻のほうへと小走りをしかけて、
妻の間近まで来ると、立ち止まってしまった。
彼女の背後には、見知った顔の四十男。
男は言った。
「すいませんね、奥さん借りてます」
丘のてっぺんから見おろせる向こう側には、男のものらしき車。
「ドライブしてたら奥さんがご主人のこと見つけましてね。どうしてもっていうもんだから」
ああ、そういうことですね・・・
ちょっと気勢をそがれてたじろぐと、それを見透かしたように妻が言う。
「ばっかねえ、まだ気にしてんのお?」
思いきりどやされた肩をすくめると、三人は三人ながら、声をたてて笑いこけていた。
こうもあからさまにやられてしまうと、暗い嫉妬などする余地もなかった。

セックスだけが夫婦のすべてだったら、とっくにあなたとなんか別れてるわ。

そんなふうに言われたのは、ついこの間だっただろうか。
この街に棲む吸血鬼たちはだいたいが好色で、人妻の血を吸った後は必ず一戦交えてゆく。
それをいちいちこだわっていては、この街では暮らせない。
そうと知りながら、行き詰った都会の生活に見切りをつけて、この街への赴任を願ったのではなかったか。
(じつをいうと、妻を抱かれてしまう・・・とまでわかったのは、赴任してからのことなのだが)

「今夜はお愉しみの法事ですよね?私も行きますから」
男はからりと笑うと、妻を促して車に乗り込んでいった。
さりげなく肩を抱かれたりお尻を触られたりしながら、ほかの男の車に乗り込んでゆく妻――
こんな情景を、新婚のころに果たして想像していただろうか?
その妻のお尻は、この街に来るまでは目にしたこともないほど丈の短いミニ・スカートを着けている。
きっと、きょうの男の趣味なのだろう。
「夜の法事は、ちゃんと行くわね。たっぷり血をあげないといけないから、この人とはセックスだけ♪」
あっけらかんとそう言い残して、妻は車上の人となる。
なんだかなあ。ちょっぴりだけど、やりきれない・・・

二人の車を見送って丘を降りると、父と同年輩の上司は律儀にわたしのことを待っていてくれた。
「奥さんかい?なかなかがんばるねえ」
いえ、いえ、お恥ずかしい限りで・・・
わたしがそう言おうとすると機先を制するようにして、
「いや、ご立派なもんですよ。都会からきてこの街の風習になじむのは、並大抵じゃないからねえ」
・・・といいながら、私も都会もんだけどな。
乾いた声で笑うこの上司も、なにかをサバサバと割り切ってるみたいだった。

この近くに私の家があるんだがね。ちょっと寄っていかないかい?取りに行きたいものがあるんだ。
上司に言われるままに、わたし達はちょっとだけ、寄り道をする。
勤務時間中なのに・・・とはいえ、夫の勤務時間中に情事に耽る妻だっている。

ただいまあ・・・
上司の声は、だれもいない玄関口にうつろに響いた。
いないのかな・・・上司は独り言をつぶやいて、それでもわたしのことを家にあげてくれた。
「あー、やっぱり真っ最中なんですね」
上司は頭に手をやり、情けなさそうにこちらを振り向いて。
洒脱な笑いで、すべてを誤魔化した。
いちばん奥が、夫婦の寝室になっているらしい。
その一隅からは、悩ましい声色――
わが弓岡家とおなじ光景が、この家でもくり広げられていた。

女房のやつ、あのトシで意外にモテるんだよ・・・というか、年寄りの吸血鬼さんからすると、うちの女房あたりでじゅうぶん若いと言ってくれるんだよね。
上司はそんなことをこともなげに口にしながら、手ずからお茶を淹れてくれた。
長い時間外歩きをしてきただけに、お茶の潤いが喉に沁みた。
こういうときのお茶は、渋いねえ・・・さすがに上司殿も、苦笑を隠しきれない。
キミだけじゃないんだよ。
そういいたくて、この人はわざわざ家にあげてくれたのか。

やがて、奥から足音が聞こえてきた。
「まあ、まあ・・・いらっしゃい。」
奥さんが戸惑ったような声をあげる。
「あなたもまあ、部下のかたをお連れになるんだったら、前もって言って下さればよろしいのに。」
器用にも、こちらに申し訳なさそうな目色を使いながら、同時に夫に対して口を尖らせていた。
もっとも、自分の身なりにまでは、手が回らなかったらしい。
寝乱れた黒髪やはだけたブラウス、太い裂け目の浮いた黒のストッキング――上司夫人のそうしたものから目を逸らすのは、オトナの配慮というものだろう。

遅れて出てきたのは、墓村さんだった。
墓村さんは還暦過ぎになる村の長老の一人だった。
白髪の後退した禿げ頭が、好色そうに赤らんで、てかてかと光っている。
人妻喰いで名が通っていて、うちの社員の奥さんも何人となく、布団に引きずり込まれているといううわさだった。
うわさがほんとうであることを、今日見てしまったけれど。
この人が・・・今夜、実家から呼び寄せた母を犯すことになっていた。

居合わせたわたしに気を使うように、
準備運動を、ちょっとね。
墓村さんの照れ笑いは、罪がなくって、憎めない。
弟と二人、母の相手に選んだのは、そんな人柄からもあったけれど。
母の写真をひと目見て、「不覚にもこの齢で、ひと目惚れした・・・」と言ってきたのは、ほかならぬ墓村さんでもあったのだ。
まあ、両想いということにしておこう。
それと、忘れちゃいませんか?
準備運動は弟の彼女やうちの妻ともやりましたよね?
姑さんを堕とすまえに、嫁ふたりをモノにするんじゃ・・・とかなんとか言いながら。

墓村さんと妻とのセックスに対してこうもあっさりできるのは、年齢差だろうか。
さっきの車の持ち主は、わたしより年上だったけど、まだ十歳ほどしか離れてないようにみえる。

そうそう、夕べね。
墓村さんは、上司夫婦の前でも構わず、にんまりとした。
お母さんのこと、味見しちゃったよ。
えっ。
予想できたことだった。夕べから、両親は街はずれのお寺に泊まっている。
でもね、セックスはしていないから。血を吸っただけ。
そういう問題じゃなくて・・・
私が言いかけると。

お母さんの血は、美味しいね。いや、きみからもらった血でなんとなく、予想してたけど。
そういうことだけじゃなくって、あれはご主人しか知らなくて身ぎれいに暮らしていた証拠だ。
嫁入り前の生娘のような、楚々とした味わいだった。

墓村さんは、母の生き血の味を褒めちぎってやまない。
上司さん夫婦も「よかったじゃないか」と言って下さるし・・・こういうときにどういう顔つきをしていれば良いのか、まだわきまえがついていない。

そういうわけで。お父さんもわかってくれたから。
今夜の法事は、なにも気遣いしないで愉しむように。

ああ、それが言いたかったんですね・・・

上司宅を辞去しぎわ、奥さんはラベンダー色のスカートを脱いでしまって、
ご主人に、まだヌラヌラしている粘液を見せつけながら「クリーニングに出すわね」なんて言っているし。
あいまいに頷くご主人を尻目に、墓村さんは破けたパンスト一枚になった奥さんのことを引き倒しにかかるし。
いつか都会から来たばかりのご夫婦に、我が家もこんな風景を見せつけることがあるのだろうか?
ちょっぴり複雑な気分になって、外に出る。
外はまだ、眩しいばかりの晴天・・・
妻はいまごろどこで、「主人のヤツよりおっきいわあ」なんて、のたまわっているのだろう?
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