淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
特定の彼氏を迎え入れる場合。~法事の夜~
2015年02月06日(Fri) 07:11:20
今夜、わしがこれ以上のことをしなかったのを、あんたは憶えているべきですよ。
男の不思議な言葉を耳にして、一昼夜が経ちました。
夜からの法事というのは妙なものだな・・・と思ってはいたのですが。
夕べ体験してしまったことで、法事のほんとうの意味を知ってしまった私たち夫婦は、
むしろ淡々として、席に臨みました。
集まった男女は、数十人。
街の人が大勢集まる大事な集い・・・という息子の誘い文句に、嘘はなかったようです。
その息子は夫婦連れで、私たちよりもだいぶ遅れて到着し、かなり離れたところに席を択びました。
下の息子も彼女を連れて、兄夫婦のすぐ隣に席を取ります。
息子ふたりがよそよそしく、きまり悪げに目を逸らしがちにするのに対して。
嫁たちのほうは悪びれもせず、尋常に目であいさつを投げてきました。
こういうときには、女のほうがしっかりするものでしょうか。
愚妻もまた、私の隣でそれらの目線に、丁寧に応えてゆきます。
そういえば。
黒一色の喪服のスーツで装うときの愚妻の様子は、
どことなく、娼婦が派手な服に袖を通すときの風情と相通じるものがあったようです。
そう。
法事の夜、女たちの喪服は、獣どもの劣情にまみれてゆくことになるのですから・・・
型通りの読経のあと。
僧侶が退出すると、席が一斉にざわつきました。
街のご夫婦連れらしいひと組の奥さんのほうに、隣の男性が抱きつきます。
あらかじめ目をつけて、わざと隣に座ったのでしょうか。
咬みつかれた首すじからほとび出る真っ赤な血が、黒のブラウスの襟首に滑り込んでいくのが見えました。
ご主人のほうは奥さんをかばおうともせずに、べつの女性の足許に這いつくばって、黒のストッキングの脚を唇で吸い始めています。
そんな光景が、あちらこちらに・・・
みると、息子たち夫婦は互いに相手を交換し合って、唇を合わせているではありませんか。
「あなた、こちらへ」
愚妻の声でわれに返ったわたしは、障子を押しあけて本堂を出、廊下に逃れました。
数歩と歩かないうちに――はち合わせた人影に、愚妻は深々と頭を下げました。
夕べのあの方が、いらしたのです。
どうやって示し合わせたのか、いまとなってもわかりません。
愚妻は自らの意思であの方を今夜のお相手に選んで、本堂の外の廊下で・・・と、約束を交わしていたのです。
墓村さんと仰るそのかたは、私たち夫婦を、本堂に隣接した小部屋へと促します。
いざなわれるままに入ったその部屋は、四畳半ほどの狭いところでした。
まずご主人から。
熱い吐息が否応なく迫り、首のつけ根にあの鈍痛が走ります。
じゅう~っ・・・
一瞬のあいだに、どれほどの量を喪ったものか。
私は意気地なくも、その場にぺたりと尻もちをついてしまいました。
謝罪するような眼差しに応えるように、私はうわ言のように、口走っていました――
家内をどうか、お願いします。ふつつか者ですが、ぞんぶんに愉しまれますよう・・・
承知しました。
墓村さんはそう仰ると、両手で顔を覆って恥じらう愚妻の両肩を掴まえ、首すじをがぶり!とやってしまいます。
赤黒い血潮が、喪服の肩先にほとび散って・・・でもそんなことはお構いなしに、墓村さんは愚妻の生き血をゴクゴクと喉を鳴らして飲み耽っていかれました・・・
いちど血を吸われた人妻は、その場で犯される――
そんな通り相場を身をもって知らされたのは、そのときのことでした。
そう。身をもって。たっぷりと――
わし一人に奥さんをくれるかね?それとも、みんなと分け合うかね?
息子夫婦に投げられたのと同じ問いを投げられたとき。
美枝さんはこたえたそうです。「特定の相手を作るつもりなんか、ありません」と。
まだあのときは、純だったんですね――あとからその話題を振ったら、美枝さんは照れていましたっけ・・・
私はとっさに、愚妻と目を合わせました。
愚妻はうなずき返してきて、私はこたえていました。
どうぞ、貴男ひとりのものになさってください。
それが夫婦別れを意味することではないと知った上での答えでしたが。
妻の血を吸ったり犯したりすることをする権利を持つのは、貴男だけです。
そう告げた・・・ということは。
永年連れ添った最愛の妻を、相手の男の自由にされてしまう。
そんな所有権に似たものを、夫として認めてしまうことにほかなりませんでした。
墓村さんは、私の応えに満足がいったようでした。
「・・・ということは、奥さんとは末永い交際を願えるということですかね?」
服従の意思を、ぞんぶんに私の口から引き出したいのだ。
そして、愚妻もそれを聞きたがっている――なぜかそう直感できた私は・・・問答を続けてしまいました。
想いのことごとくを吐き尽そうとするかのように。
「はい、ふつつか者ですが、長年連れ添った最愛の妻です。あまり多くの恥を見させたくはありません。お察しください」
「そうですね。素晴らしい奥さんですね。だんな以外の身体は、識らなかったようだ」
男は愚妻の首すじから流れ出る血をひと舐めふた舐めしながら、言いました。
「いただいた血の味で、そうとわかったですよ。こりゃあ上玉だってね。守り通した操をいただけるなんて、人妻喰い冥利に尽きるってもんですよ。ご主人としては、無念でしょうけどねえ」
言葉のひとつひとつが、胸の奥に突き刺さり、ササラのように掻きまわすのが・・・不可思議な歓びとなって、稲妻のように閃きます。
昏い閃きの一閃二閃が、私の理性をかき乱し、心の奥を塗り替えてゆくのを、どうすることもできませんでした。
「初枝、良いね?これからはこのかたに、私にしたのと同じようにお尽しなさい」
「は、はい・・・っ」
愚妻は新婚初夜の花嫁のようにカチカチになりながら、それでも墓村さんに応えていこうとしました。
強引に迫ってくる唇のまえに、自分の唇をおずおずと、開いていったのでした。
墓村さんは愚妻の頭を掴まえると、ディープ・キッスを強要しました。
私の目のまえで・・・ねっとりと・・・いやらしく・・・それはそれは、しつように・・・
くり返される口づけは、せめぎ合うように交わり合って。
いつしか愚妻も、積極的に応えはじめていったのです。
それが、初枝の支配された瞬間だと、私は直感しました。
理性もろとも生き血を吸い取られていったときでもなく、
強いられたセックスに激しく応えてしまったときでもなく、
わたしの前でのディープ・キッスには、それだけの意味があったのです。
愚妻は身体の力を抜いて、はだけたブラウスもそのままに、むき出しのおっぱいを震わせながら・・・ふたたびおおいかぶさってくる墓村さんにh、すべてをゆだねていったのでした。
だいじょうぶ。だいじょうぶ。だいじにしますよ。奥さんのこと。もちろん、あんたのこともね・・・
墓村さんは愚妻の身体をすみずみまでいつくしみながら、そんなことを口走っていました。
私を大事にする、ということは。世間体を守ってやるということなのだと。
それなりの地位を築いている私を慮っての言い草だったのでしょうけれど。
都会の大会社の重役夫人を犯す・・・という、その趣きを大切にしたいという下心も、あったに違いありません。
世間体を守りたい、という下心。
貴婦人をレディのまま辱め抜きたい、という下心。
下心には下心・・・そんなことわざは、聞いたことがありませんが。
墓村さんは、ほんとうに愚妻のことを気に入ってくれたようでした。
それからも。
紅葉を見せてやる、とか、封切られたばかりの映画を観に行こう、とか、お誘いはひっきりなしに舞い込みます。
そのたびに愚妻は、よそ行きのワンピースやスーツを淑やかに装いながら、いそいそと出かけてゆきましたし、
私もにこやかに、送り出してやりました。
映画や観劇で愚妻を愉しませた後には、決まって彼自身のお愉しみがあります。
純情な奥さんですね・・・
たまに私までつきあわされて、二人の情事を見せつけられたとき。
なぜか私のまえで肌をさらすことを羞じらう妻を、面白がって。
墓村さんはいつも以上にねっちりと、恥辱まみれにされてゆくのです。
夫である私自身も愉しんでしまっている・・・
口に出さなくとも、三人が三人とも、すでに察してしまっていることでした。
連れ込み宿で失神した愚妻をふたりして病院に担ぎ込んだことも、二度や三度ではありません。
それは失血のせいでもありましたし、刺激の強い濃厚なセックスを強いられた末のことでもあったようです。
吸血鬼に妻を犯された男性は、見返りに他の女性を襲うことが黙認されていました。
墓村さんはなん度か私にそういう誘いを投げても来ましたし、具体的な相手をさりげなく引き合わせることさえありました。
そのなかには墓村さんご自身のお嬢さんや姪御さんも含まれていましたし、
じつは息子たちの嫁さえ先方も納得づくでの話があったのですが・・・
とうとう今に至るまで、愚妻以外のご婦人と交渉を持つことはありませんでした。
そこがあんたのえらいところだね。
墓村さんはそういって、私の純情を決して小馬鹿にはなさいませんでしたが。
愚妻への情愛は一層増したらしいのが、目に見えてそれと分かりました。
それほどの奥さんをいただけるということは、人妻食い冥利につきるのだよ。
のしかかるその身の下で愚妻のことをヒーヒー言わせながら、彼は余裕綽々と片目をつぶって見せるのです。
墓村さんが愚妻を誘うのは、私が勤めに出ている真っ昼間がほとんどでした。
夜は夫婦でお過ごしなさい、という配慮でした。
配慮をされた私が、どうしてそのままでいられるでしょうか?
「夜でもどうしても初枝が欲しくなったら、遠慮せずに訪ねてきなさい」
口走ってしまった私は、しばらくのあいだ、後悔することになります。
―――彼の訪問は、毎晩のように続きましたから。
そんな相性のよい二人(墓村さんと愚妻ですよ)ですが、ひとつだけ破られた約束があります。
彼一人のものにしてほしいと願った愚妻の操が、他の男たちにも分け与えられたことです。
半年ほどの間は、愚妻は彼一人のものでした。
それは、この街では異例な長さなのだと――教えてくれたのは、嫁でした。
やがて墓村さんは、昼間の法事に愚妻を連れ歩くようになり、愚妻はそこで初めての――乱交を体験したのです。
ふた晩、愚妻は家に戻ってきませんでした。
事情のすべてを私に告げた墓村さんは、奥さんの機嫌を取り結びたいのでという言い草で、二泊三日、愚妻をひたすら食い物にしたのです。
帰宅した愚妻は、サバサバとしていました。
「ごめんなさい。わたし、娼婦になってしまいました」
離婚してくださる・・・?とまで、彼女は言いました。
もちろん言うまでもなく、初枝はいまでもちゃんと私の苗字を名乗っています。
いろんな男性を経験して。
墓村さん抜きで逢う男性も、なん人か作りながらも。
それでも愚妻のなかで唯一”愛人”といえるのは、やはり彼一人のようでした。
初めて愚妻が他の男のものになった夜。
私は妻を犯した男性に、「貴男ひとりのものにしてください」と願いました。
やっぱりあなたの仰る通りになったわね。
愚妻は私の傍らで、ひっそりと笑います。
そういうきみも、自分で言った通りの女でいられたね。
私は心のなかで、応じています。
――一生、あなたの妻として添い遂げます。
遠い昔初夜の床で私に誓った言葉を、最愛の妻である初枝は、いまでもきっと憶えているはずですから・・・
あとがき
2月になってから本作まで、一連の続き物になっています。
それぞれが独立したお話なので、単独でも愉しめるように描いたつもりですが。(^^ゞ
吸血鬼の棲む街に、長男が妻を伴って赴任して、夫婦ながらやられてしまう。
兄嫁を兄貴公認でモノにしている弟くんが、婚約者を連れて来て、処女を喰われてしまう。
息子ふたりが示し合わせて母親の血を吸わせようとして、父親の理解のもと欲望成就。
妻の日常的な不倫を許容しながらもフクザツナ長男を、うちも一緒だとたしなめる上司。
永年連れ添った妻に向けられた老吸血鬼の慕情を理解して、乱交に応じるようになった妻を許しつづける夫。
要約すると、こんな展開でしょうか。
若い二組の夫婦について。
兄嫁を公認でモノにしている・・という設定は、第二話のさいごのくだりを描いている時に思いつきました。
弟の婚約者は結婚後犯される設定にしようかと思っていたのですが、
そんなえぐいところのある弟ですんで、話の流れで処女を奪うのは吸血鬼氏にしてしまいました。
いや、愛妻を弟にプレゼントしたお人好しお兄さんが二番目の男で・・・
弟くん、花嫁にとっては三番め以降の男になり果ててしまいました。^^;
この二組の夫婦は息が合うようでして、母親のための法事のさいにも相手を取り換えっこして乱れ合ってしまっております。
初老のご夫婦について。
息子たちが示し合わせて、奥さんを襲われてしまうのですが。
「裏切られた感」はほとんど、ありませんね。
50になる前に吸わせてやろうよ、とたくらむ息子たちのくわだてを。
40代にぎりぎり間に合ってよかったと感じるお父さん。
この親にして・・・という感じもなきにしもあらずですが。
永年連れ添った奥さんを奪われるご主人への老吸血鬼の気遣い。
奥さんに寄せる慕情に対して一定の理解を与え夫人との交際を認める夫。
三者三様の気遣いかたは、やはり年配者のそれなのかと。^^
まあ、例によってそんなイカレたことを考えながら、愉しく描かせてもらいました。
(^^)
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